自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解することは、多くのマーケターにとって永遠の課題です。本記事では、移住先として注目を集める茅ヶ崎市を事例に、地域、製品やサービスが選ばれる要因を体系的に分析していきます。
茅ヶ崎市の概要と特徴
茅ヶ崎市は神奈川県湘南地域の中心に位置し、以下の特徴を持つ都市です。
- 南部は相模湾に面し、北部には里山が広がる自然豊かな環境
- 気候は温暖で、夏は涼しく冬は暖かい
- 市域は東西6.9km、南北7.6kmのコンパクトな街
- 人口約24.5万人の中規模都市
移住先としての人気な地域
2021年の転入実績
- 全国の転入超過数ランキングで19位(前年35位から大幅上昇)
- 東京23区からの転出者増加率が44.0%で1位
- 転入超過者の86.4%が年少世代と子育て世代
2023年の転入実績
転入超過の状況
- 転入者数:10,135人
- 転出者数:7,615人
- 転入超過数:2,520人(前年比960人増)
全国ランキング
- 全市区町村中:9位
- 一般市区町村(東京都特別区部・政令指定都市を除く):1位
年齢層別の特徴
- 0〜14歳(子ども世代):全市区町村中3位
- 30〜44歳(子育て世代):全市区町村中3位
経年変化
- コロナ禍以降、転入超過数が顕著に増加
- 特に30〜44歳の増加が著しく、2019年比で840人増
- 0〜14歳も2019年比で455人増
このデータから、茅ヶ崎市は引き続き子育て世代とその子ども世代に強く支持されており、その傾向は年々強まっていることがわかります。
出典:https://rarea.events/event/222555
茅ヶ崎市のSWOT分析
続いて、何が人々から魅力に思われているのかをSWOT分析で分析してみましょう。
強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) |
---|---|
・温暖な気候(年間平均気温16.2度) | ・観光インフラの不足 |
・都心へのアクセス(東京駅まで約1時間) | ・宿泊施設の少なさ |
・自然環境の豊かさ(海と山の両方を有する) | ・住宅価格の高騰 |
・コンパクトな市域(移動が便利) | ・駐車場の不足 |
・サーフィンなどマリンスポーツが盛ん | ・医療施設の不足 |
機会(Opportunities) | 脅威(Threats) |
---|---|
・テレワークの普及による移住需要増加 | ・人口減少・高齢化の進展 |
・子育て世代の地方移住ニーズの高まり | ・近隣都市との競争激化 |
・インバウンド需要の回復 | ・自然災害のリスク(津波など) |
・湘南ブランドの価値向上 | ・地価の上昇による人口流出リスク |
・企業のサテライトオフィス需要 | ・インフラの老朽化 |
この分析から、茅ヶ崎市は自然環境と利便性を兼ね備えた強みを持つ一方で、インフラ整備面での課題があることがわかります。また、テレワークの普及という機会を活かしつつ、近隣都市との差別化が重要な課題となっています。
オルタネイトモデルによる移住者心理分析
続いて、オルタネイトモデルを用いて、移住者の合理を見ていきます。
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 茅ヶ崎市への移住を決断 |
きっかけ | コロナ禍でのテレワーク普及、都心の生活コスト上昇 |
欲求 | 自然豊かな環境での子育てしながら、キャリアも前進させたい |
抑圧 | ・都心での生活コスト ・通勤時間の不安 ・子育て環境への不安 |
報酬 | ワークライフバランスの実現 |
働き盛りの世代でもあるが、それだけの生活では物足りないと思う方がワークライフバランスの実現を目指して移住してきていることが想像できます。
茅ヶ崎市のWho/What/How分析
最後に茅ヶ崎に移住する方のWho/What/Howをまとめていきましょう。
Who(ターゲット)の詳細
ターゲット像
- 年齢:25〜44歳
- 家族構成:子育て世代(0〜14歳の子どもを持つ)
- 居住地:東京23区在住
- 職業:テレワーク可能な会社員
- 価値観:ワークライフバランスを重視
JOB(欲求)
- きっかけ:コロナ禍でのテレワーク普及、都心の生活コスト高騰
- 欲求:自然豊かな環境で子育てをしながら、キャリアも継続したい
- 抑圧:通勤時間への不安、子育て環境の変化への懸念
- 報酬:理想的な子育て環境の実現と仕事の両立
What(価値提案)の詳細
提供できる便益
- 機能的便益:都心へのアクセスの良さ(約1時間)
- 情緒的便益:海と山に囲まれた開放的な環境
- 社会的便益:子育て支援施設の充実
独自性
- 自然環境と都市機能の両立
- コンパクトな市域による利便性
- サーフィンなどのマリンスポーツ文化
RTB(根拠)
- 転入超過数ランキング全国9位(2023年)
- 子育て世代の転入率が高い(0-14歳と30-44歳が全国3位)
- 年間平均気温16.2度の温暖な気候
How(提供方法)の詳細
コミュニケーション
- 子育て支援施設の情報発信
- 移住者向けポータルサイトの運営
- 移住相談会の実施
プロダクト
- 充実した公共施設
- 子育て支援サービス
- コミュニティ形成支援
場所
- オンライン:移住情報ポータル
- オフライン:移住相談窓口
- 体験:移住体験ツアー
価格
- 都心と比較して手頃な住宅価格
- 子育て支援施策による経済的支援
- 生活コストの最適化
このWho/What/How分析から、茅ヶ崎市は子育て世代の「自然豊かな環境での子育てと仕事の両立」という本質的なニーズに応える価値提案を行い、具体的な支援策を通じてそれを実現していることがわかります。
選ばれる理由の総括
茅ヶ崎市が選ばれる主な理由は以下の3点に集約されます:
- 自然環境と都市機能の両立
- 子育てに適した環境整備
- 都心へのアクセスの良さ
これらの要素が、特に子育て世代のニーズと完璧にマッチしていることが、高い移住率の要因となっています。
まとめ:茅ヶ崎市の選ばれる理由から学ぶマーケティング戦略
主要な成功要因
1. 明確なターゲティング
- 25〜44歳の子育て世代に特化
- テレワーク可能な都心在住者という具体的なペルソナ設定
- ターゲットの本質的なニーズ(子育てと仕事の両立)への深い理解
2. 独自の価値提案
- 自然環境と都市機能の両立という明確な独自性
- 具体的な数値(都心まで1時間、年間平均気温16.2度)による信頼性の確保
- 転入実績(全国9位)という社会的証明
3. 効果的な提供方法
- オンライン・オフライン双方での情報提供
- 移住体験ツアーによる実体験機会の創出
- 子育て支援施策による経済的バリアの低減
ビジネスへの応用ポイント
商品開発における示唆
- ターゲットの本質的なニーズを満たす製品設計
- トレードオフを恐れない独自性の確立
- 数値による裏付けの重要性
マーケティング戦略への活用
- 明確なターゲット設定の重要性
- 独自の価値提案の具体化
- 複数チャネルでの接点作り
最後に
茅ヶ崎市の事例は、製品やサービスが市場で選ばれるために必要な要素を明確に示しています。特に重要なのは:
- ターゲットの明確化とそのニーズの深い理解
- 具体的な数値による価値提案の裏付け
- 独自性のある価値提案
- 効果的な提供方法の確立
これらの要素を自社のビジネスに応用することで、市場での競争優位性を確立することが可能となります。ぜひ自社ビジネスや地域戦略の参考にしてみてください。