カルビーポテトチップスが選ばれる理由:日本を代表するスナック菓子ブランドから学ぶマーケティング戦略 - 勝手にマーケティング分析
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カルビーポテトチップスが選ばれる理由:日本を代表するスナック菓子ブランドから学ぶマーケティング戦略

カルビーポテトチップスが選ばれる理由: 日本を代表するスナック菓子ブランドから学ぶマーケティング戦略 商品を勝手に分析
この記事は約21分で読めます。

マーケティング担当者や事業開発リーダーの皆さんは、「なぜ特定のブランドが市場で選ばれ続けるのか」という問いと日々向き合っているのではないでしょうか。消費者の選択理由を深く理解することは、自社製品やサービスが選ばれる確率を高めるための重要な鍵となります。

本記事では、日本のスナック菓子市場で圧倒的シェアを保持し続けるカルビーのポテトチップスを例に、このブランドが消費者から選ばれる理由を多角的に分析していきます。この分析を通じて、以下のメリットを得ることができるでしょう:

  1. 持続的な人気を維持する製品開発の方法論を学べる
  2. 顧客の深層心理に訴求する効果的なブランディング戦略を理解できる
  3. 既存市場でのポジショニングを強化するための具体的な施策を発見できる

老若男女に愛されるポテトチップスの成功要因を紐解きながら、あなたのビジネスにも応用できる実践的な知見を提供していきます。

1. カルビーポテトチップスの基本情報

Screenshot

カルビーポテトチップスは、株式会社カルビーが製造・販売する日本を代表するスナック菓子ブランドです。1975年に発売を開始して以来、「うすしお味」を中心とした定番商品から季節限定商品まで、幅広いラインナップで日本のスナック菓子市場をリードしています。

企業情報

  • 企業名:株式会社カルビー
  • 設立年:1949年(創業は1955年)
  • 本社所在地:東京都千代田区丸の内一丁目8番3号
  • 従業員数:約4,300名(連結、2023年3月時点)
  • 年間売上高:約2,950億円(2023年3月期)
  • URL:https://www.calbee.co.jp/

主要製品ラインナップ

  • ポテトチップス(うすしお、コンソメパンチ、しょうゆマヨなど)
  • ポテトチップスクリスプ
  • ポテトチップス濃厚キングシリーズ
  • 地域限定・季節限定商品

業績データ

カルビーのスナック・シリアル食品事業の中でもポテトチップスは主力製品であり、国内スナック菓子市場の売上で約51%という圧倒的シェアを誇ります。ポテトチップス単体の売上高は2024年度で983億円で、昨年比8.1%増で成長しています。直近では、健康志向商品や濃厚な味わいの製品など、新たな顧客層の獲得に向けた商品展開を進めています。

また、平均単価200円だとした場合、年間に約5億個が売れていると推定できます。

出典:カルビー IR

なぜこれほどカルビーのポテトチップスは選ばれるのでしょうか。その理由を明らかにしていきます。

2. 市場環境分析

まずはポテトチップスが戦う市場について理解していきましょう。

市場定義:消費者のジョブ(Jobs to be Done)

ポテトチップスが解決する主な消費者ジョブは以下の通りです:

  • 「ちょっとした小腹を手軽に満たしたい」(機能的ジョブ)
  • 「日常の小さな楽しみや贅沢を感じたい」(感情的ジョブ)
  • 「家族や友人との団らんの場を演出したい」(社会的ジョブ)
  • 「気分転換やストレス発散をしたい」(感情的ジョブ)

これらのジョブの量は、日常生活で頻繁に発生するものであり、特に「小腹を満たす」「ちょっとした贅沢を楽しむ」というジョブは、多くの消費者にとって優先度が高いと考えられます。

競合状況

国内ポテトチップス市場における主要競合は以下の通りです:

  • 湖池屋(プライドポテト、ポテトチップスなど)
  • フリトレー(ドリトス、チートスなど)
  • ヤマザキビスケット(ポテトチップスなど)
  • 各小売企業のプライベートブランド商品

POP/POD/POF分析

続いて、ポテトチップス市場で戦って勝っていくために必要な要素を整理していきます。

Points of Parity(業界標準として必須の要素)

  • 適切な価格設定(100〜300円程度)
  • 手軽に購入できる流通網(コンビニ、スーパー等での入手性)
  • 基本的な味の満足度(塩味の適切さ)
  • 適度なサクサク感と食感
  • 衛生管理と品質の安定性

Points of Difference(差別化要素)

  • 国産じゃがいも使用による安心感と品質イメージ
  • ロングセラー商品(うすしお等)の親しみやすさと信頼感
  • 豊富なフレーバーバリエーション
  • 食感の絶妙なバランス(厚さ、油分、サクサク感)
  • 季節・地域限定商品による話題性
  • 堅牢なサプライチェーン管理による品質の一貫性

Points of Failure(市場参入の失敗要因)

  • 食感の不安定さ(油っぽすぎる、湿気やすい等)
  • 不十分な流通網と店舗展開
  • 原料調達の不安定性(特に国内じゃがいも)
  • 商品の鮮度管理や賞味期限の短さ
  • 価格競争による収益性の低下
  • 健康志向の高まりへの対応不足

PESTEL分析

続いて、ポテトチップス市場を各視点で見たときの追い風・向かい風を分析します。

Political(政治的要因)

  • 機会:日本産農産物の保護政策によるイメージ向上
  • 脅威:食品添加物への規制強化

Economic(経済的要因)

  • 機会:インフレ環境下での「小さな贅沢」需要の増加
  • 脅威:原材料(じゃがいも、油脂)価格の上昇

Social(社会的要因)

  • 機会:巣ごもり消費の定着化
  • 脅威:健康志向、低糖質志向の高まり

Technological(技術的要因)

  • 機会:AIを活用した商品開発の効率化
  • 脅威:代替食品(植物由来スナックなど)の技術発展

Environmental(環境的要因)

  • 機会:環境配慮型パッケージへの移行によるブランドイメージ向上
  • 脅威:気候変動による原料調達の不安定化

Legal(法的要因)

  • 機会:食品表示の透明性向上による信頼性の差別化
  • 脅威:塩分・糖分表示の厳格化による商品イメージへの影響

日本のスナック菓子市場全体の規模は、2023年時点で約5,300億円であり、前年比11.2%増と成長を続けています。今後も、新たな食のスタイルやニーズに合わせた商品開発が進むことで、市場は緩やかに拡大していくと予測されています。

出典:菓子市場の実情

3. ブランド競争力分析

続いて、カルビーポテトチップス自体の強み、弱みは何で、それらが今の外部環境の中でどう活かしていけるのか、いくべきなのかを見ていきましょう。

SWOT分析

Strengths(強み)

  • ポテトチップス市場で50%以上という圧倒的シェア
  • 「うすしお」などのロングセラー商品による高いブランド認知と信頼
  • 多様な年齢層に愛される幅広い商品ラインナップ
  • 国産じゃがいもの安定調達網と品質管理体制
  • 強力な流通ネットワークと販売力
  • 40年以上の歴史による商品開発のノウハウ蓄積

Weaknesses(弱み)

  • 主力商品(ポテトチップス)への依存度の高さ
  • 健康志向商品のラインナップ不足
  • 原材料価格変動によるコスト構造の不安定さ
  • 若年層の嗜好変化への対応スピードの遅さ
  • グローバル市場での知名度の低さ
  • デジタルマーケティングの活用度の相対的な低さ

Opportunities(機会)

  • 健康志向に対応した新製品開発(低塩、無添加等)
  • 海外市場、特にアジア圏への展開強化
  • SNSを活用した若年層へのアプローチ強化
  • 環境配慮型パッケージの導入によるブランドイメージ向上
  • AIを活用した商品開発の効率化
  • 地域別・季節別の限定商品による話題性の創出

Threats(脅威)

  • 競合他社(湖池屋等)の市場シェア拡大戦略
  • PB(プライベートブランド)商品の品質向上と低価格攻勢
  • じゃがいも等の原材料価格の上昇
  • 消費者の健康志向による従来型スナック離れ
  • 食の多様化による競合商品(ナッツ類、豆系スナック等)の増加
  • 若年層のスナック消費習慣の変化

クロスSWOT戦略

SO戦略(強みを活かして機会を最大化)

  • 高いブランド力と開発力を活かした健康志向新商品の開発と市場投入
  • 強固な流通網を活用したアジア市場への積極展開
  • ロングセラー商品の信頼性を活かした環境配慮型パッケージへの移行

WO戦略(弱みを克服して機会を活用)

  • 若年層向けのSNSマーケティング強化による新規顧客獲得
  • 健康志向商品ラインの拡充による商品ポートフォリオの多様化
  • デジタルマーケティングとAIの積極活用による商品開発スピードの向上

ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)

  • 国産じゃがいもの品質訴求による競合・PB商品との差別化強化
  • 安定調達網を活かした原料価格変動リスクの低減
  • ブランド力を活かした高付加価値商品の展開による価格競争回避

WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)

  • 健康志向スナックの開発・投入による商品依存度の分散
  • 製造プロセスの効率化によるコスト競争力の向上
  • デジタル技術を活用した若年層嗜好の分析と迅速な商品開発
quadrantChart title カルビーポテトチップスのSWOT分析マトリックス x-axis "弱み --> 強み" y-axis "脅威 --> 機会" quadrant-1 "SO: 健康志向商品、アジア展開" quadrant-2 "WO: SNSマーケ、健康商品拡充" quadrant-3 "WT: 健康商品開発、製造効率化" quadrant-4 "ST: 国産訴求、高付加価値商品"

4. 消費者心理と購買意思決定プロセス

続いて、カルビーポテトチップスの顧客はなぜブランドを選ぶのか、その購買行動の構造を複数パターンで見ていきましょう。

オルタネイトモデル分析

パターン1:日常的なおやつ購入

  • 行動:スーパーやコンビニでポテトチップスを購入する
  • きっかけ:夕食前の小腹が空いた状態、テレビを見ながら何か食べたい気分
  • 欲求:手軽に小腹を満たしたい、おいしいものを食べて気分転換したい
  • 抑圧:健康への罪悪感、カロリー摂取への不安
  • 報酬:空腹感の解消、塩味と食感による満足感、手軽に楽しめる小さな贅沢感

パターン2:家族や友人との共有消費

  • 行動:スーパーでファミリーサイズのポテトチップスを購入する
  • きっかけ:家族との団らん時間、友人が集まる機会
  • 欲求:みんなで楽しめる共有体験を作りたい、場を盛り上げたい
  • 抑圧:健康的でない食べ物という認識、過剰摂取への懸念
  • 報酬:共有による一体感、会話のきっかけ作り、みんなが知っている安心感

パターン3:新商品・限定品の探索

  • 行動:期間限定や地域限定のポテトチップスを見つけて購入する
  • きっかけ:広告やSNSでの新商品情報との遭遇
  • 欲求:新しい味や体験を試してみたい、希少なものを手に入れたい
  • 抑圧:無駄な出費への後ろめたさ、期待はずれの可能性
  • 報酬:新鮮な体験による刺激、トレンドへの参加感、SNSでの共有価値

本能的動機

カルビーポテトチップスが刺激する本能的動機を分析します。

生存本能に訴求する要素

  • 塩分と炭水化物による即時的なエネルギー補給
  • 「国産じゃがいも」「厳選素材」といった安全・安心感の訴求
  • 保存性の高さによる「いつでも食べられる」安心感

繁殖本能に訴求する要素

  • 家族や友人と共有できる社会的結合の促進
  • 「みんなに愛される味」という社会的帰属感の提供
  • 限定品やコレクション性のある商品による収集・競争意識の刺激

8つの欲望への訴求

  1. 安らぐ:おなじみの味による安心感と懐かしさ、リラックスタイムの演出
  2. 進める:新しいフレーバーやコンセプトを次々と体験する成長感
  3. 決する:多様なフレーバーから自分の好みを選び取る自己決定感
  4. 有する:限定商品やコレクション性のある商品を所有する満足感
  5. 属する:みんなが知っている国民的スナックを楽しむ共感・帰属感
  6. 高める:話題の新商品を率先して試す先進性、SNSでシェアする承認欲求
  7. 伝える:商品体験を他者と共有し、会話のきっかけにする交流促進
  8. 物語る:長年親しまれてきた「うすしお」などの歴史や成り立ちへの共感

特に「安らぐ」「属する」「伝える」の3つの欲望に強く訴求しており、これがカルビーポテトチップスの強みとなっています。長年の歴史を持つブランドとして消費者に安心感を与え、多くの日本人が共有する食体験として帰属感を醸成し、家族や友人との共有を通じたコミュニケーションを促進しています。

flowchart TD A[カルビーポテトチップス] --> B[生存本能] A --> C[繁殖本能] B --> D[塩分・炭水化物の即時補給] B --> E[国産原料による安全感] C --> F[共有体験の促進] C --> G[社会的帰属感の提供] A --> H[主要訴求欲望] H --> I[安らぐ] H --> J[属する] H --> K[伝える] I --> L[おなじみの味による安心感] J --> M[国民的スナックとしての帰属感] K --> N[食体験の共有によるコミュニケーション]

5. ブランド戦略の解剖

これまで整理した情報をもとに、カルビーポテトチップスはどういう人のどういうジョブに対して、なぜ選ばれているのか、そしてどうその価値を届けているのかをまとめていきます。

Who/What/How分析

パターン1:日常おやつ需要の子育て世代

  • Who:30〜40代の子育て家庭の主婦・主夫
  • What
    • 便益:家族全員が満足する、安心・安全で親しみやすいおやつの提供
    • 独自性:国産じゃがいも使用、子どもから大人まで楽しめる味のバランス
    • RTB:長年の実績と信頼、「カルビー品質」としての安心感
  • How
    • プロダクト:適切なサイズバリエーション(個包装からファミリーサイズまで)
    • 価格:手頃な価格帯(100〜300円)で日常的に購入しやすい設定
    • コミュニケーション:テレビCMでの家族団らんシーン、安心・安全の訴求
    • チャネル:スーパーマーケットでの展開強化、ファミリー向け売り場づくり

このセグメントでは、カルビーポテトチップスは「家族みんなが安心して楽しめる定番おやつ」としてポジショニングされています。子どもには親しみやすい味わい、親には安心・安全という価値を同時に提供することで、家庭内での定番購入アイテムとしての地位を確立しています。

パターン2:新体験探求型の若年層

  • Who:10代後半〜20代前半の学生・若手社会人
  • What
    • 便益:新しい味わい体験や話題性の提供
    • 独自性:期間限定・地域限定の豊富なバリエーション
    • RTB:SNSでの話題性、友人との共有価値
  • How
    • プロダクト:季節限定商品、コラボレーション商品の定期的投入
    • 価格:やや高めの価格設定(150〜300円)で特別感を演出
    • コミュニケーション:SNSを活用した情報発信、インフルエンサーとの協働
    • チャネル:コンビニエンスストアでの展開強化、目立つPOP展開

このセグメントでは、カルビーポテトチップスは「常に新しい体験を提供するトレンド発信源」としてポジショニングされています。限定品の発売サイクルを早め、SNSで共有したくなるような話題性のある商品を継続的に投入することで、新しい体験を求める若年層の興味を引き続けています。

パターン3:懐かしさを求める中高年層

  • Who:40〜60代の、若い頃からポテトチップスに親しんできた層
  • What
    • 便益:変わらない味と品質による安心感と懐かしさ
    • 独自性:長年続く「うすしお」などの定番品の味わいの一貫性
    • RTB:40年以上の歴史、変わらない品質へのこだわり
  • How
    • プロダクト:ロングセラー商品の味わいの維持、適度なリニューアル
    • 価格:安定した価格帯の維持による信頼感の醸成
    • コミュニケーション:ブランドの歴史や伝統を強調するメッセージ
    • チャネル:スーパーマーケットを中心とした広範な流通

このセグメントでは、カルビーポテトチップスは「変わらない安心感と品質を提供する定番ブランド」としてポジショニングされています。長年親しんできた味わいを維持することで、懐かしさと信頼感を求める中高年層の支持を獲得しています。

成功要因の分解

ブランドのポジショニングと独自価値

  • 「国民的スナック」としての幅広い認知と受容性
  • 「国産じゃがいも」という安心感と品質イメージ
  • 「定番と革新」を両立させる商品開発戦略
  • 老若男女に対応する幅広い顧客層とターゲティング

コミュニケーション戦略の特徴

  • テレビCMとデジタルマーケティングのバランスの良い展開
  • 世代別に異なるメッセージング(家族向け安心訴求、若年層向け新規性訴求など)
  • 季節や地域に合わせたコミュニケーション施策
  • パッケージデザインを通じた視覚的アピール

価格戦略と価値提案の整合性

  • 手頃な価格帯での定番商品展開(100〜200円)
  • 特別感を演出する限定品での適度な価格プレミアム(150〜300円)
  • 量販店向けの大容量パックなどバリエーション展開
  • 価格帯と提供価値の明確な対応関係

カスタマージャーニー上の差別化ポイント

  • 認知段階:テレビCMでの高い到達率と認知度
  • 検討段階:店頭での豊富な品揃えとわかりやすいパッケージ
  • 購入段階:コンビニ、スーパーなど幅広い販路での入手のしやすさ
  • 使用段階:開封時の香りと食感によるブランド体験の一貫性
  • 推奨段階:SNSでシェアしやすい話題性と共有価値

顧客体験(CX)設計の特徴

  • 五感への訴求(視覚的なパッケージ、香り、食感、味わい)の統合
  • 共有体験としての価値提供(家族や友人との分け合い)
  • マルチチャネル展開による接点の最大化
  • 定期的な新商品投入によるブランド体験の鮮度維持
flowchart TD A[カルビーポテトチップスの価値提供プロセス] --> B[ターゲット顧客の特定] B --> C[子育て世代] B --> D[新体験探求型若年層] B --> E[懐かしさ求める中高年層] A --> F[価値提案の構築] F --> G[安心・安全と親しみやすさ] F --> H[新体験と話題性] F --> I[変わらぬ味と懐かしさ] A --> J[価値提供手段] J --> K[多様な商品ラインナップ] J --> L[適切な価格帯設定] J --> M[ターゲット別コミュニケーション] J --> N[最適化された流通網]

見えてきた課題

外部環境からくる課題と対策

  1. 健康志向の高まりへの対応
    • 対策:減塩・低カロリー・無添加商品の開発強化、野菜素材の活用
  2. 原材料価格の上昇への対応
    • 対策:農家との長期契約強化、製造工程の効率化によるコスト削減
  3. 若年層のスナック消費習慣の変化
    • 対策:デジタルマーケティング強化、SNS活用した新たな消費体験の提案

内部環境からくる課題と対策

  1. 主力商品への依存度の高さ
    • 対策:健康志向新商品の開発加速、新カテゴリー(穀物系スナックなど)への展開
  2. 海外市場での競争力の弱さ
    • 対策:現地の嗜好に合わせた商品開発、日本食ブームを活かした拡販
  3. デジタル技術活用の遅れ
    • 対策:AI活用の商品開発推進、データ分析による消費者理解の深化

6. 結論:選ばれる理由の統合的理解

総合的に見て、競合や代替手段がある中でカルビーポテトチップスはなぜ選ばれるのでしょうか。

消費者にとっての選択理由

機能的側面

  • 安定した味と品質:ポテトチップスの基本である塩味のバランスや食感が絶妙
  • 幅広い商品ラインナップ:定番から限定品まで多様なニーズに対応
  • 国産じゃがいも使用による安心感:食の安全に対する信頼感
  • 入手のしやすさ:圧倒的な流通網による高い入手性

感情的側面

  • 懐かしさと安心感:長年親しまれてきた「うすしお」などによる情緒的価値
  • 小さな贅沢感:日常の中で手軽に楽しめる贅沢としての位置づけ
  • 発見の喜び:期間限定・地域限定商品によるワクワク感
  • ストレス発散:食べる行為による気分転換と満足感

社会的側面

  • 共有価値:家族や友人と分け合う文化的コンテクスト
  • 国民的ブランド:誰もが知る商品としての共通認識と会話価値
  • 話題性:新商品や限定品がもたらすSNS等での共有価値
  • 安心の選択:「みんなが選ぶ」という社会的証明

市場構造におけるブランドの独自ポジション

カルビーポテトチップスは、「国民的スナック」としての普遍性と「常に新しい体験を提供し続ける革新性」を両立させた独自のポジションを確立しています。スナック菓子市場において、低価格のPB商品と高級志向の専門ブランドの間に位置し、「適正な価格で最大の満足を提供する中核ブランド」として確固たる地位を築いています。特に「誰もが知っている」「誰もが楽しめる」という包括性と、「そこそこの贅沢」という適度なプレミアム感のバランスが絶妙です。

競合や代替手段との明確な差別化要素

  • 歴史に裏打ちされた信頼性:40年以上の歴史による消費者との信頼関係
  • 製造ノウハウの蓄積:長年培われた食感と味わいのバランスへのこだわり
  • 圧倒的な流通力:コンビニからスーパー、量販店まであらゆる販路をカバー
  • 国産じゃがいも調達網:安定した原料調達による品質の一貫性
  • 季節・地域に応じた商品開発力:消費者の飽きを防ぐ継続的な新商品投入
  • 「カルビー」ブランドの保証効果:商品ブランドと企業ブランドの相乗効果

持続的な競争優位性の源泉

カルビーポテトチップスの持続的競争優位性は、単一の要素ではなく、複数の要素が組み合わさった複合的な優位性です。具体的には以下の要素が相互に補強し合っています。

  1. 垂直統合型サプライチェーン:原料調達から製造、販売までの一貫したコントロール
  2. 規模の経済:市場シェア70%がもたらす製造・流通・広告面でのスケールメリット
  3. 顧客インサイトの蓄積:長年にわたる消費者理解と商品開発へのフィードバック
  4. ブランド資産:認知度、信頼感、愛着などの情緒的価値の蓄積
  5. イノベーション文化:定番維持と革新の適切なバランス
graph TD A[カルビーポテトチップスが選ばれる理由] --> B[機能的価値] A --> C[感情的価値] A --> D[社会的価値] B --> E[安定した品質] B --> F[多様な商品展開] B --> G[高い入手性] C --> H[懐かしさと安心感] C --> I[小さな贅沢感] C --> J[発見の喜び] D --> K[共有体験] D --> L[国民的認知] D --> M[話題性] A --> N[競合との差別化] N --> O[歴史と信頼性] N --> P[国産原料調達力] N --> Q[流通ネットワーク]

7. マーケターへの示唆

ご紹介したカルビーポテトチップスの成功事例から、我々マーケターは何を学ぶことができるでしょうか。

再現可能な成功パターン

1. 「ブレない核」と「変わる周辺」の両立戦略 カルビーポテトチップスは、「うすしお」などの定番商品で一貫した品質を維持しながら、周辺では季節限定・地域限定商品で常に新鮮さを提供しています。核となる価値を守りつつ、周辺で顧客の関心を刺激し続けるこの戦略は、多くの商品カテゴリーに応用可能です。

実践ステップ

  • 自社商品・サービスの「変えてはいけない核」を特定する
  • 定期的に刷新可能な「周辺要素」を明確にする
  • 核と周辺の適切なバランスを見極める仕組みを構築する

2. 世代を超えた顧客育成サイクルの構築 カルビーポテトチップスは、子どもの頃から親しんだ商品が大人になっても愛され、さらに次の世代に伝えられるという世代循環型の顧客育成を実現しています。

実践ステップ

  • 顧客のライフステージに応じた商品・サービス体験を設計する
  • 世代間での共有体験を促進する仕掛けを組み込む
  • 顧客の成長に合わせた適切なコミュニケーション戦略を展開する

3. 「専門性」と「普遍性」の絶妙なバランス カルビーポテトチップスは、「ポテトチップス専門メーカー」としての専門性を訴求しつつ、「誰もが楽しめる」普遍的な価値も同時に提供しています。

実践ステップ

  • 自社の専門性や独自技術を明確に定義する
  • その専門性が多くの顧客に価値を提供できる接点を特定する
  • 専門性を感じさせつつも敷居を低く設定したコミュニケーションを設計する

業界・カテゴリーを超えて応用できる原則

1. 「利便性」と「特別感」の両立 カルビーポテトチップスは、いつでもどこでも手に入る利便性と、時折提供される限定商品による特別感を両立させています。この原則は、幅広い業種で応用可能です。

応用例

  • 飲食業:定番メニューと季節限定メニューの組み合わせ
  • ファッション:ベーシックラインと限定コレクションの展開
  • サブスクリプションサービス:基本機能と特別コンテンツの提供

2. 複数の時間軸での顧客価値設計 カルビーポテトチップスは、「今すぐの満足」「トレンド体験」「長年の安心感」といった異なる時間軸の価値を同時に提供しています。

応用例

  • 短期:即時的な問題解決や満足提供
  • 中期:トレンドへの適応や変化する価値観への対応
  • 長期:持続的な信頼関係構築や安心感の醸成

3. 「親しみやすさ」と「品質保証」の融合 カルビーポテトチップスは、気軽に手に取れる親しみやすさと、「カルビー品質」という保証を融合させています。この原則は、様々な業種のブランディングに適用できます。

応用例

  • B2C:専門的な品質を持ちながらも親しみやすいブランド構築
  • B2B:高度な専門性と親密な顧客関係の両立
  • サービス業:専門知識と親近感の融合

まとめ

カルビーポテトチップスの成功事例から学べる主要なポイントは以下の通りです:

  1. 消費者の本能的欲求理解が成功の鍵:生存・生殖本能から派生する「安らぐ」「属する」「伝える」といった欲望に訴求することで、深い消費者理解に基づいた製品開発とマーケティングが可能になる
  2. 「変わらないもの」と「変わるもの」の明確な区別:定番商品の一貫した品質維持と、限定商品による新鮮さ提供を両立させることで、安心感と新規性の両方を提供できる
  3. 世代を超えた情緒的絆の構築:単に機能的価値だけでなく、世代間で共有される情緒的・社会的価値を提供することで、長期的なブランド忠誠度を獲得できる
  4. 複数セグメントへの同時訴求:異なる顧客層の異なるニーズに対応しつつも、一貫したブランドアイデンティティを維持することで、多様なセグメントを効率的にカバーできる
  5. サプライチェーン全体の最適化:原料調達から製造、流通までの一貫したコントロールにより、品質の安定と柔軟な商品展開を両立できる
  6. 市場環境変化への適応と対応:健康志向や消費行動の変化といった外部環境の変化に対して、革新的な商品開発と柔軟なマーケティング戦略で積極的に対応することの重要性
  7. ブランド資産の戦略的活用:長年培ってきたブランド認知と信頼を新商品開発や新市場展開に活用することで、持続的な成長を実現できる

カルビーポテトチップスの事例は、単なる商品の成功ではなく、消費者の深層心理を理解し、時代の変化に適応しながらも一貫した価値を提供し続けることの重要性を教えてくれます。この学びは、業界や製品カテゴリーを問わず、あらゆるマーケターにとって価値ある示唆といえるでしょう。

出典:https://www.calbee.co.jp/

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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