はじめに
バイロンシャープの「ブランディングの科学」は、現代のマーケティングにおいて重要な指針となっています。本記事では、彼の提唱する11のマーケティング法則を解説し、それぞれの法則がどのようにマーケティング業務に活かせるかを紹介します。これにより、マーケターが理論を実践に移し、ブランドの成長を促進するための具体的な方法を学べることを目的としています。
バイロンシャープの11のマーケティング法則
No | 法則名 | 説明 | マーケティングへの活用法 |
---|---|---|---|
1 | ダブルジョパディの法則 | マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。 | マーケットシェアの拡大を目指す。広告キャンペーンで新規顧客を獲得し、ブランドの認知度を高める。 |
2 | リテンションダブルジョパディの法則 | 顧客を失わないブランドはない。その損失はマーケットシェアと比例する。大きいブランドほど多くの顧客を失うが、基盤全体と比較すると小さい。 | 顧客維持プログラムを強化。定期的な顧客満足度調査を実施し、フィードバックをもとに改善を行う。 |
3 | パレートの法則 (60/20) | ブランドの売り上げの半分強がそのブランドの上位20%の顧客によってもたらされ、残りの売り上げが下位80%の顧客によってもたらされる(通常のパレートの法則の80/20にはならない)。 | 上位20%の顧客に対する特別なロイヤリティプログラムを設計。全体の売り上げを増やすために幅広い顧客基盤の開拓を行う。 |
4 | 購買行動適正化の法則 | ある一定期間中にヘビーバイヤーだった消費者の購買量は、その後減少する。またライトバイヤーの購買量は増え、ノンバイヤーがバイヤーになることもある。この平均への回帰現象は、購買客の行動が実際に変化しなくても生じる。 | 定期的なプロモーションやセールを行い、ライトバイヤーやノンバイヤーを引きつける。ヘビーバイヤー向けに新製品や特別サービスを提供して興味を維持させる。 |
5 | 自然独占の法則 | マーケットシェアが大きいブランドほど、そのカテゴリー内の多くのライトバイヤーを引きつける。 | 広範な広告戦略を実行し、多くのライトバイヤーにリーチする。競合他社よりも広い認知度を確保するためのブランディング活動を強化。 |
6 | 顧客基盤が類似する | 競合ブランドの顧客基盤と自社ブランドの顧客基盤は非常に類似している。 | 競合他社のマーケティング戦略を分析し、自社ブランドの戦略に反映。顧客セグメンテーションを活用してターゲット市場を最適化。 |
7 | ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される | 消費者は、自分が使用しているブランドほど知識が豊富で多くを語るが、使用しないブランドについては考えることも語ることも非常に少ない。従って、ブランドに対する態度を評価する調査を実施すると、大きいブランドはロイヤルティの高いユーザーを多く含むので常にスコアが高い。 | ブランド認知度向上キャンペーンを展開。既存顧客のブランド知識を深めるための教育コンテンツを提供。 |
8 | ブランド使用体験が消費者の態度に影響を与える | ブランドは異なっても、それぞれの購買客がブランドに対して示す態度と認識は非常に類似している。 | 顧客体験を向上させるためのCX戦略を策定。顧客フィードバックを収集し、サービス改善に活用。 |
9 | プロトタイプの法則 | 製品カテゴリーを的確に説明するイメージ属性は、そうでない属性と比較して、評価が高い(ブランドとの関連性が高い)。 | ブランドメッセージングにおいて明確で強力なイメージ属性を使用。広告キャンペーンで製品の核心的価値を強調。 |
10 | 購買重複の法則 | ブランドの顧客基盤は、マーケットシェアに応じて競合ブランドの顧客基盤と重複する(大規模ブランドとの顧客共有率は高く、小規模ブランドとの顧客共有率は低い)。一定期間内にあるブランドの購買客の30%がブランドAも購入する。 | 競合ブランドと共有する顧客に対する差別化戦略を展開。共同マーケティングキャンペーンを実施し、顧客の購買重複を活用。 |
11 | NBDディリクレ | カテゴリー内の購買客の購買頻度や購入ブランドについて、その傾向にどのような差異が生じているかを明らかにする数理モデル。このモデルが前述の法則の多くを正しく解説し説明して、ディリクレはマーケティングの数少ない本物の科学的理論の1つ。 | 顧客購買データを分析し、購買行動のパターンを理解。数理モデルを活用してマーケティング戦略を最適化。 |
バイロンシャープの11の法則をマーケティングにどう活かすか
売上を伸ばすブランディング構築のための戦略的ガイドライン
やること | 説明 |
---|---|
1. できるだけ多くの人にリーチする | 製品カテゴリー内のすべての購買顧客に対し、流通とコミュニケーションの両面から継続的にリーチする。 |
2. 買い求めやすくする | 市場調査を実施し、ブランドを買い求めやすくする要因を理解して対策を講じる。特に「買わない理由」に注目。 |
3. 目立つ | 広告や販促活動で消費者にリーチするだけでなく、ブランドが認知されることが重要。知的で高感度なクリエイティブが必要。 |
4. 記憶構造を刷新、再構築 | 広告や販促活動でブランドが認知された後、消費者の記憶構造を刷新または再構築する。新しいメッセージを発信しなくても、既存のメッセージを強化することで効果がある。 |
5. ブランドの独自資産(セイリエンス)を構築 | ブランドの独自資産(セイリエンス:色、ロゴ、キャッチフレーズ、広告手法など)を構築する。これにより、消費者のブランドロイヤルティが向上し、ブランド理解が促進される。 |
6. 一貫性を維持しながらも新しさも忘れずに | 一貫性のない広告は消費者に関心を持たれず、結びつかない。一貫性を維持しつつも新しい要素を取り入れる。パッケージ変更はブランド購入頻度の低いユーザーに混乱を招くことがある。 |
7. 競合力を維持する(買わない理由を与えない) | フィジカルアベイラビリティ(購買機会の向上)とメンタルアベイラビリティ(ブランド想起の向上)を高め、多くの人にリーチする。買わない理由を与えないようにする。 |
この戦略的ガイドラインを実行することで、ブランドは消費者に広くリーチし、認知度と購買頻度を向上させることができます。また、消費者の記憶に残りやすくするために、一貫性のあるメッセージングと独自のブランド資産の構築が重要です。
独自資産(セイリエンス)の構築の仕方
ステップ | 説明 |
---|---|
賢明な選択 | - ブランドの歴史を振り返り、優れたものを再活用 - ブランド資産の強みを数値化して戦略を練る |
賢明な実行 | - 独自のブランド資産を持った上で、すべてのカテゴリーバイヤーにメッセージを届け、ブランド連想を構築する - ブランド名とブランド資産が共存する最高の瞬間を伝える - 一貫性を維持する(バラついてブランド資産構築が遅れるので) |
メンタルアベイラビリティの構築の仕方
メンタルアベイラビリティとは、「ブランド想起のされやすさ」または「ブランドが浮かび上がる能力」を指します。具体的には:
メンタルアベイラビリティの重要性
- ブランド成長の鍵: バイロン・シャープ教授の研究によると、ブランドの成長には主にメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティが重要
- 購買決定への影響: 消費者が購入を検討する際、頭に浮かびやすいブランドが選ばれやすい
- 競争優位性: 競合ブランドとの差別化において重要な要素
メンタルアベイラビリティの構築方法
ポイント | 説明 |
---|---|
カテゴリーエントリーポイント(CEP)の刷新 | シェアを維持するためには、カテゴリーエントリーポイントの刷新が必要。そのカテゴリーの購買客が遭遇する様々な状況でブランドがどれほど想起されやすいかというきっかけとのリンクの幅と強さが必要。 |
広告メッセージのコツ | - ブランドに着目させる独自資産を構築する - どのCEPに反応したかを確認し、なるべく広いCEPを選択 - カテゴリーのライトバイヤーにもブランドのライトバイヤーにも明快か - 最後に利用したCEPと別のものを検討すると良い効果がもたらされる可能性 - 生産国を利用して有益なら利用すればいいし不利益だったら遠ざける - ターゲットを絞りすぎず、できるだけ多くの人たちに意味ある魅力的な広告や商品を提供 - 消費者の共通点(CEP)を探し、消費者の文脈の最大公約数を攻める |

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フィジカルアベイラビリティの構築の仕方
フィジカルアベイラビリティとは、消費者が商品やブランドを物理的に入手しやすい状態を指す概念です。具体的には以下のような要素が含まれます。
- 消費者が「商品が欲しい」と思ったときに、すぐに購入できる状態
- ブランドの存在感が高まり、多くの消費者に幅広い購入機会が提供されている状態
フィジカルアベイラビリティの主な要素
- 流通範囲:
- 商品が販売されている店舗数や地理的範囲
- オンラインでの利用可能性
- 在庫状況:
- 各販売チャネルにおける製品の在庫レベル
- 店頭での露出:
- 棚位置、フェース数、山積み展開など
- オンラインでの可視性:
- ECサイトでの検索順位
- スマートフォン画面での配置
- 時間的利用可能性:
- 営業時間など、顧客が必要な時にサービスを利用できる状態
フィジカルアベイラビリティの重要性
- 競合ブランドよりも購入されやすい状態を作り出す
- マーケットシェアの拡大につながる
- メンタルアベイラビリティと合わせて、ブランドの成長に不可欠
フィジカルアベイラビリティを高める方法
要素 | 説明 |
---|---|
プレゼンス | - 流通ルートや小売店の選択などブランド配下に係る判断に影響を与える - 購買が起きる場所と時間に適切に対処する - ブランドに合わせて販売チャネルを考える(伝統的なチャネルと現代的なチャネル、両方考える) |
レレバンス | - ポートフォリオ選択の判断に影響を与える - 製品の選択肢が豊富であること - 人口が増えつつある地域では競合に勝つための製品選択肢を増やす - 市場の成長に伴い、主要なサブマーケットでの製品選択肢を増やす - 顧客基盤が小さい高価格帯の製品を作る時は、過度の集中とカニバリを防ぐ - 購買を妨げている原因を取り除く(品揃え、価格帯、支払い方法) |
プロミネンス | - 購買環境の中でブランドの存在感を高める - 独自のブランド資産(強いビジュアルデザインなど)で目につきやすくする |
まとめ
バイロンシャープの11のマーケティング法則は、ブランドの成長と維持に不可欠な知見を提供します。これらの法則を理解し、実践に取り入れることで、マーケターはより効果的で科学的なマーケティング戦略を展開することができます。現代の競争激しい市場環境において、これらの法則を活用することがブランドの成功への鍵となるでしょう。
マーケターの皆さん、ぜひこの知見を活かして、ブランドの成長を加速させましょう。
ぜひ著書もご覧ください。