BYDが選ばれる理由:世界No.1電気自動車販売台数を実現した戦略 - 勝手にマーケティング分析
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BYDが選ばれる理由:世界No.1電気自動車販売台数を実現した戦略

BYDは誰からなぜ 選ばれているのか 商品を勝手に分析
この記事は約14分で読めます。

はじめに

多くのマーケターやビジネスパーソンが直面する課題の一つに、自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解し、その成功を再現することがあります。本記事では、世界No.1の電気自動車メーカーであるBYDの事例を通じて、製品が市場で選ばれる理由を分析し、ビジネスの成長に役立つヒントを提供します。

BYDの成功戦略を詳細に分析することで、以下のような疑問に答えていきます:

  • BYDはどのようにして世界No.1の電気自動車メーカーになったのか?
  • BYDの製品が選ばれる理由は何か?
  • BYDの成功から学べるビジネス戦略とは?

これらの問いに答えることで、自社製品やサービスの競争力を高めるためのヒントを得ることができるでしょう。

BYDとは

Screenshot

BYD(比亜迪)は、中国の深圳に本社を置く多国籍企業で、主に電気自動車、バッテリー、エレクトロニクス製品の製造を行っています。

  • 設立:1995年
  • 創業者:王傳福(ワン・チュアンフー)
  • 主要事業:電気自動車、ITエレクトロニクス、新エネルギー、鉄道輸送
  • 従業員数:約22万人(2023年時点)
  • 公式サイト:https://byd.co.jp/

BYDは「技術革新を通じてより良い生活を」というビジョンのもと、持続可能なエネルギーソリューションの提供に注力しています。特に電気自動車事業では、2023年に世界販売台数No.1を達成し、グローバル市場での存在感を急速に高めています。

出典:https://byd.co.jp/e-life/brand/

BYDの売上分析

BYDの通期売上高の推移は以下の通りです:

2023年: 6023億1535万元(約12兆4680億円)
2022年: 4240億6064万元(約8兆7780億円)
2021年: 3369億8100万元(約6兆9760億円)
2020年: 2178億4900万元(約4兆5100億円)
2019年: 3326億1190万元(約6兆8850億円)

BYDの売上高は、2020年に一時的な落ち込みがあったものの、その後急速に回復し、特に2021年以降は大幅な成長を続けています。2023年の売上高は2019年の約1.8倍に達しており、電気自動車市場での同社の急速な成長を反映しています。

この成長の主な要因として、以下が挙げられます:

  1. 新エネルギー車(NEV)販売の急増
  2. 海外市場での販売拡大
  3. 製品ラインナップの拡充
  4. 政府の環境政策による後押し

続いて、BYDの2023年の売上約12兆4千億円について詳細を分析してみましょう。

売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価

各パラメーターの推定値と理由:

  • 人口: 14億人
    • 中国の人口を基準としています。BYDは中国市場が主力ですが、海外展開も進めているため、やや多めに設定しています。
  • 認知率: 80%
    • BYDは中国で最大のEVメーカーであり、国内での認知度は非常に高いと考えられます。
  • 配荷率: 60%
    • BYDは中国全土で販売網を持っていますが、すべての地域をカバーしているわけではありません。
  • 該当カテゴリーの過去購入率: 15%
    • 自動車の購入は大きな決断であり、過去に購入経験がある人の割合はそれほど高くないと考えられます。
  • エボークトセットに入る率: 40%
    • BYDは中国のEV市場でトップシェアを持っており、購入検討時に候補に入る確率は高いと思われます。
  • 年間購入率: 10%
    • 自動車の購入サイクルは比較的長いため、年間で購入を決定する割合は低めに設定しています。
  • 1回あたりの購入個数: 1台
    • 通常、自動車は1回の購入で1台を買うことが一般的です。
  • 年間購入頻度: 1回
    • 自動車は高額商品であり、年に複数回購入することは稀です。
  • 購入単価: 300,000元(約620万円)
    • BYDの製品ラインナップの平均価格を考慮しています。高級モデルから大衆向けモデルまで幅広く展開しているため、この程度の平均単価と推定しました。

数値だけの式:
14000000000 × 0.8 × 0.6 × 0.15 × 0.4 × 0.1 × 1 × 1 × 300000 = 6048000000000
※実際の売上高である約12兆4680億円にかなり近い値となります。

ここから、BYDは国内の高い認知度とエボークドセットに入る率の高さを武器に市場を席巻していると想像できます。

BYDが戦う市場のPOP/POD/POF

次に、BYDが競争する電気自動車市場におけるPOP(Point of Parity)、POD(Point of Difference)、POF(Point of Failure)を分析します。

要素内容
POP(業界標準)- 基本的な走行性能
- 充電インフラへのアクセス
- 安全基準の遵守
POD(差別化要因)- 高性能・長寿命バッテリー技術
- 垂直統合による低コスト生産
- 幅広い車種ラインナップ
POF(失敗要因)- ブランド認知度の低さ(特に海外市場)
- アフターサービス網の不足
- デザインの独自性不足

BYDの強みは、特にバッテリー技術と生産コストの面にあります。「ブレードバッテリー」と呼ばれる独自のバッテリー技術は、安全性と性能の両面で優れており、これがBYDの大きな差別化要因となっています。

一方で、特に海外市場におけるブランド認知度の低さやアフターサービス網の不足は、BYDが克服すべき課題となっています。

BYDが戦う市場のPESTEL分析

電気自動車市場におけるBYDの機会と脅威をPESTEL分析を用いて考察します。

要因機会脅威
Political(政治的)- 各国政府のEV推進政策
- 補助金制度
- 米中貿易摩擦
- 保護主義的政策
Economic(経済的)- 新興国市場の成長
- バッテリーコストの低下
- 世界的な景気後退
- 原材料価格の変動
Social(社会的)- 環境意識の高まり
- シェアリングエコノミーの普及
- 充電インフラへの不安
- 従来車への愛着
Technological(技術的)- バッテリー技術の進化
- 自動運転技術の発展
- 競合他社の技術革新
- サイバーセキュリティリスク
Environmental(環境的)- CO2排出規制の強化
- 再生可能エネルギーの普及
- バッテリー製造の環境負荷
- 電力源の問題
Legal(法的)- EV優遇税制
- 排出ガス規制の強化
- 知的財産権の問題
- 製造物責任法の厳格化

BYDにとって、各国政府のEV推進政策や環境規制の強化は大きな追い風となっています。一方で、米中貿易摩擦や世界的な景気後退、競合他社の技術革新などは脅威となる可能性があります。

BYDのSWOT分析と取るべき戦略

続いて、BYDのSWOT分析を行い、それに基づく戦略を考察します。

強み(S)弱み(W)
- 高性能バッテリー技術
- 垂直統合による低コスト生産
- 幅広い製品ラインナップ
- 海外でのブランド認知度不足
- アフターサービス網の不足
- デザインの独自性不足
機会(O)SO戦略WO戦略
- EV市場の急成長
- 環境規制の強化
- 新興国市場の拡大
- バッテリー技術を活かした製品開発
- 低コスト生産を活かした新興国市場攻略
- グローバルブランディング強化
- 海外サービス網の拡充
脅威(T)ST戦略WT戦略
- 競合他社の技術革新
- 貿易摩擦
- 景気後退
- 継続的な技術革新投資
- 地産地消型の生産体制構築
- デザイン力の強化
- 他社とのアライアンス検討

BYDは、バッテリー技術と低コスト生産という強みを活かしつつ、海外でのブランド認知度向上やアフターサービス網の拡充に注力する必要があります。また、継続的な技術革新投資や地産地消型の生産体制構築により、外部環境の変化にも柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。

BYDの購入者の合理(オルタネイトモデル)

続いて、BYDの電気自動車購入者の行動パターンを、オルタネイトモデルを用いて分析します。

パターン1:環境意識の高い消費者

  • 行動:BYDの電気自動車を購入
  • きっかけ:環境問題に関するニュースや報道
  • 欲求:環境に配慮した生活をしたい
  • 抑圧:高価格、充電の手間
  • 報酬:環境への貢献感、先進的なイメージ

パターン2:コスト重視の実用的消費者

  • 行動:BYDの電気自動車を購入
  • きっかけ:ガソリン価格の高騰、EVの維持費の低さを知る
  • 欲求:長期的なコスト削減
  • 抑圧:初期投資の高さ、充電インフラへの不安
  • 報酬:燃料費・維持費の削減、税制優遇

パターン3:テクノロジー愛好家

  • 行動:BYDの最新モデルを購入
  • きっかけ:BYDの技術革新に関する記事や口コミ
  • 欲求:最新技術を体験したい
  • 抑圧:高価格、周囲の反応への不安
  • 報酬:先進的な運転体験、周囲からの注目

これらのパターンから、BYDの購入者は環境意識、コスト意識、技術への関心など、様々な動機を持っていることがわかります。BYDはこれらの異なるニーズに応える製品ラインナップと訴求ポイントを用意することで、幅広い顧客層を獲得しています。

BYDのWho/What/How

最後に、BYDの顧客セグメントごとのWho(誰に)、What(提供価値を)、How(どのように提供しているか)を分析します。

パターン1: 環境意識の高い都市部の若手専門職

Who

  • 対象: 25-40歳の都市部に住む専門職
  • JOB:
    • きっかけ: 環境問題に関するニュースや報道
    • 欲求: 環境に配慮した生活をしたい
    • 抑圧: 高価格、充電の手間
    • 報酬: 環境への貢献感、先進的なイメージ

What

  • 便益: クリーンで持続可能なモビリティソリューション
  • 独自性: 最先端のバッテリー技術による長距離走行と高性能
  • RTB: ゼロエミッション技術、リサイクル可能な材料使用

How

  • コミュニケーション: SNSやオンラインメディアを通じた環境貢献度のアピール
  • プロダクト: 高性能電気自動車モデル(例:Han EV)
  • 場所: オンラインショールーム、都市部の直営店
  • 価格: プレミアム価格帯

パターン2: コスト意識の高い家族層

Who

  • 対象: 30-50歳の郊外居住の家族
  • JOB:
    • きっかけ: ガソリン価格の高騰、EVの維持費の低さを知る
    • 欲求: 長期的なコスト削減
    • 抑圧: 初期投資の高さ、充電インフラへの不安
    • 報酬: 燃料費・維持費の削減、税制優遇

What

  • 便益: 低維持費で信頼性の高い日常の足
  • 独自性: 垂直統合による低コスト生産体制
  • RTB: 長寿命バッテリー、充実した保証プログラム

How

  • コミュニケーション: テレビCM、家族向け雑誌での広告
  • プロダクト: 実用的な電気自動車モデル(例:Dolphin)
  • 場所: 郊外のディーラー、オンライン予約システム
  • 価格: 中価格帯、リース・サブスクリプションオプション

パターン3: 技術革新を求める企業経営者

Who

  • 対象: 40-60歳の企業経営者
  • JOB:
    • きっかけ: BYDの技術革新に関する記事や口コミ
    • 欲求: 最新技術を体験したい
    • 抑圧: 高価格、周囲の反応への不安
    • 報酬: 先進的な運転体験、周囲からの注目

What

  • 便益: 革新的技術を搭載した高性能電気自動車
  • 独自性: 最先端の自動運転機能と高級感のあるデザイン
  • RTB: 継続的な技術革新、高い安全性能評価

How

  • コミュニケーション: ビジネス誌での広告、テクノロジーイベントでのプレゼンテーション
  • プロダクト: 高級電気自動車モデル(例:Tang EV)
  • 場所: VIP向け専用ショールーム、カスタマイズオーダー
  • 価格: 高価格帯、プレミアムサービス付き

これらのWho/What/How分析により、BYDは異なる顧客セグメントに対して、それぞれのニーズと価値観に合わせた製品とマーケティング戦略を展開していることがわかります。

Teslaとの比較をしてみた

BYDとTeslaのユーザー層や選ばれる理由を比較してみました。

比較項目BYDTesla
主なユーザー層- 実用性や経済性重視層
- 世帯年収600万円以上
- 40代、50代、60代中心
- 男性が多数(92%)
- 環境意識の高い消費者
- テクノロジー愛好家
- ステータス志向の消費者
- 年収800万円以上
- 経営者、専門職、ITエンジニア
選ばれる理由1. 経済性(低価格と燃費)
2. 実用性(乗りやすさ)
3. 技術力(高性能バッテリー)
4. コスト競争力
5. 製品多様性
1. 環境への配慮
2. 先進技術
3. ブランド価値
4. パフォーマンス
5. ユーザー体験
共通点- 環境に配慮した電気自動車
- 高い技術力
- 高収入層をターゲット
- 環境に配慮した電気自動車
- 高い技術力
- 高収入層をターゲット
相違点- 幅広い層をターゲット
- 実用性と経済性重視
- 中国市場中心
- より高所得層をターゲット
- 先進技術とステータス性重視
- グローバル市場で強い存在感

この比較から、両社が電気自動車市場でリーダーシップを発揮しつつも、異なるターゲット層や訴求ポイントを持ち、独自の市場ポジションを確立していることがわかります。

結論:BYDは誰になぜ選ばれるのか

BYDが選ばれる理由を総合的に分析すると、以下のポイントが浮かび上がります:

  1. 技術力:高性能バッテリー技術を核とした優れた電気自動車性能
  2. コスト競争力:垂直統合による低コスト生産体制
  3. 製品多様性:幅広い顧客ニーズに対応する豊富な製品ラインナップ
  4. 環境適合性:厳格化する環境規制に適合した製品群
  5. 市場適応力:各国の政策や市場ニーズに柔軟に対応する戦略
  6. イノベーション:継続的な技術革新と新製品開発

これらの要因により、BYDは以下のような顧客層から特に選ばれています:

  1. 環境意識の高い消費者:
    • BYDの電気自動車は、ゼロエミッション技術や環境に配慮した製造プロセスにより、環境負荷の低減を重視する消費者から支持を得ています。
  2. コスト意識の高い実用的な消費者:
    • 低維持費と優れた経済性を提供するBYDの電気自動車は、長期的なコスト削減を求める消費者にアピールしています。
  3. 技術革新を求める先進的な消費者:
    • 最新のバッテリー技術や自動運転機能などの革新的な技術を搭載したBYDの製品は、テクノロジー愛好家や先進的なライフスタイルを求める消費者から選ばれています。
  4. 新興国市場の成長志向の消費者:
    • 比較的手頃な価格で高性能な電気自動車を提供するBYDは、経済成長とともにモビリティの質的向上を求める新興国の消費者から支持を得ています。
  5. 企業や政府機関:
    • BYDの電気バスや商用車は、環境規制の厳格化に対応しつつコスト効率の高い運用を求める企業や自治体から選ばれています。

BYDが選ばれる理由の核心は、「高性能な電気自動車を比較的手頃な価格で提供し、環境への配慮と経済性を両立させている点」にあります。この強みは、BYDの垂直統合型のビジネスモデルと継続的な技術革新によって支えられています。

さらに、BYDは各市場の特性に合わせて製品ラインナップや販売戦略を柔軟に調整しており、これが世界各地での急速な市場浸透を可能にしています。

まとめ

BYDの成功事例から、マーケターやビジネスパーソンが学べる重要なポイントは以下の通りです:

  1. 技術革新の重要性:
    • 核となる技術(BYDの場合はバッテリー技術)に継続的に投資し、競争優位性を確立する
    • 技術革新を製品の差別化要因として活用する
  2. 顧客セグメンテーションと製品戦略:
    • 多様な顧客ニーズを理解し、それぞれに適した製品やサービスを提供する
    • 環境意識、コスト意識、技術志向など、異なる価値観を持つ顧客層にアプローチする
  3. コスト競争力の確保:
    • 垂直統合や効率的な生産体制により、コスト競争力を獲得する
    • 価格と品質のバランスを最適化し、価値提案を明確にする
  4. 市場適応力の強化:
    • 各国の政策や規制、市場特性に柔軟に対応できる体制を構築する
    • ローカライズ戦略と標準化戦略のバランスを取る
  5. ブランディングとコミュニケーション:
    • 製品の技術的優位性や環境への貢献を効果的に訴求する
    • 異なる顧客セグメントに合わせたメッセージングを展開する
  6. 持続可能性への取り組み:
    • 環境問題や社会課題への取り組みを事業戦略の中核に据える
    • 持続可能性を競争優位性の源泉として活用する
  7. グローバル展開とローカル戦略の融合:
    • グローバルな視点を持ちつつ、各市場の特性に合わせた戦略を展開する
    • 新興市場と成熟市場それぞれに適したアプローチを取る
  8. イノベーションエコシステムの構築:
    • 自社の強みを活かしつつ、外部パートナーとの協力関係を構築する
    • オープンイノベーションを通じて、技術革新のスピードを加速させる
  9. 長期的視点と短期的成果のバランス:
    • 将来の市場変化を見据えた投資と、現在の収益性のバランスを取る
    • 技術開発、市場開拓、人材育成など、長期的な競争力強化に投資する
  10. 顧客体験の最適化:
    • 製品の品質だけでなく、購入前から購入後までの一貫した顧客体験を設計する
    • アフターサービスやカスタマーサポートの充実により、顧客満足度と忠誠度を高める

これらの要素を自社の状況に合わせて適用することで、BYDのような急成長と市場での選択を実現する可能性が高まります。重要なのは、自社の強みを明確に理解し、それを基盤としながら、市場のニーズと変化に柔軟に対応していくことです。

今回、BYDの成功戦略と電気自動車市場の動向を分析しました。マーケターやビジネスパーソンの皆様には、BYDの事例から学び、自社の戦略立案に活かしていただければ幸いです。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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