はじめに
現代のマーケティング担当者が直面する大きな課題の一つは、新たなアイデアや施策を「どうやって生み出すか」という点ではないでしょうか。多くの企業では「売上を伸ばすために新サービスを作ろう」「既存顧客の満足度をもっと上げよう」と日々試行錯誤しています。しかし、「何をきっかけに」「どんな課題を」「どのように解決すべきか」が明確でないまま、なんとなくの施策を打ってしまうケースも少なくありません。
本記事では「ビジネスとは『不』の解決である」という観点から、消費者や企業が感じるさまざまな「不(ふ)」に注目し、その解決方法や具体的な事例を交えながら、マーケティング担当者が自社ビジネスを改善するためのヒントを提供します。専門用語は可能な限りかみ砕いて説明しますので、マーケティング経験が浅い方でも読み進めやすい内容となっています。
ビジネスとは「不」の解決である
「不」とは何か
まず、「不」とは不満、不便、不安、不足など、人や企業が抱えるネガティブな感情や状態を指します。ビジネスにおいては、この「不」を発見し、それを解決する商品やサービスを提供することが大きな価値となります。
- 不満:何かに納得できていない状態(価格が高すぎる、品質が低い、使いにくい など)
- 不便:時間や労力がかかりすぎる、場所が遠い、手続きが煩雑などの障壁
- 不安:安全性や信用、先行き、費用対効果などに疑問や恐れを感じる状態
- 不足:資源や機能、情報、スタッフ、スキルなどが十分でない状態
多くの企業は、「不」を解決することで売上や顧客満足度を向上させ、事業拡大を実現してきました。極端にいえば、すべてのビジネスは「不」を取り除く活動そのものであるといっても過言ではありません。
消費者が抱える様々な不
消費者が感じる「不」は非常に多様です。たとえば以下のようなケースが代表例です。
不の種類 | 具体例 | 解決の方向性 |
---|---|---|
不満 | ・製品の品質が期待以下 ・サービス対応が冷たい | ・品質改善 ・顧客サポートの強化 |
不便 | ・店舗が遠い ・購入/契約手続きが複雑 | ・オンライン購入システムの構築 ・手続きの簡略化 |
不安 | ・個人情報が守られるか不明 ・初めての商品なので品質がわからない | ・セキュリティ対策の明示 ・レビューや評価システムの充実 |
不足 | ・在庫が不足して購入できない ・情報が足りず選べない | ・在庫管理システムの強化 ・情報提供コンテンツの拡充 |
たとえば、スマートフォンの普及に伴って消費者は「いつでも・どこでも」商品を探したいというニーズを持つようになりました。これは「店舗が遠い」「営業時間が合わない」などの不便(不)をなくすための要望といえます。こうした不便をオンラインストアやモバイルアプリが解消し、消費者の購買行動は大きく変化しました。
企業が抱える様々な不
ビジネスの主役は消費者だけではありません。商品やサービスを提供する企業サイドにも「不」は存在します。特に、中小企業から大企業まで、組織規模や業種を問わず多くの企業が以下のような課題を抱えています。
不の種類 | 具体例 | 解決の方向性 |
---|---|---|
不満 | ・必要な部品や原材料が高コスト ・業務効率化ツールが使いにくい | ・コスト削減策の導入 ・使いやすい業務システムへのリプレイス |
不便 | ・店舗や支店への配達網が不足 ・アナログ業務が多く時間がかかる | ・物流サービスの外部委託や拡充 ・システム化/自動化による効率向上 |
不安 | ・法改正によるリスク ・技術革新のスピードについていけない | ・最新情報の収集と研修の実施 ・研究開発への投資やパートナー企業との提携 |
不足 | ・専門人材の確保が難しい ・売上に直結する情報が不足している | ・リクルート戦略/人材育成の強化 ・データ分析や顧客管理システムの導入 |
このように、企業自身も「コスト」「作業時間」「技術・人材不足」といった「不」を抱えており、それを解決してくれるサービスや企業を求めています。たとえば経理・会計処理を自動化するクラウド型システム(会計ソフトなど)が登場し、手動での入力や書類管理という「不便」を解消しているケースは、その代表例といえるでしょう。
実際に企業が解決している不
ここでは、実際に「不」を解決している企業の例をいくつか挙げます。
フリマアプリ(メルカリなど)
- 消費者の「使わなくなったモノがある」「捨てるのがもったいない」という不満や「不要品が家にある」という不足スペースの問題を解決。出品と購入のどちらもスマートフォン一つでできるため、「不便」も解消している。オークションと違い簡単・スピーディな仕組みが「不安(面倒そう、手続きが複雑そう)」を払拭。
クラウド型会計ソフト
- 企業が抱える「経理・会計業務が煩雑で時間がかかる」という不便を解消。自動仕訳機能やレポート作成機能で担当者の作業時間を削減し、「人材不足」の問題にも対応。データはクラウド上で管理されるため、セキュリティ対策も手厚く「不安」を低減。
宅配フードサービス
- 「家から出るのが面倒」「料理を作る時間がない」といった消費者の不便や不満を解決。コロナ禍での外出制限時にも活用され、「食事が確保できるか」という不安を解消。
これらの事例は、いずれも消費者や企業が感じる「不」を起点にビジネスを構築・拡大している点が共通しています。
不を見つけるためには
では、こうした「不」をどのように発見し、ビジネスへとつなげればいいのでしょうか。一般的には、以下のような手法があります。
手法 | 概要 | 期待できる効果 |
---|---|---|
アンケート調査 | 既存顧客や市場に対して、紙やオンラインでアンケートを実施 | 定量的なデータが集めやすい |
ヒアリング / インタビュー | 実際の顧客や社内関係者などに直接話を聞き、課題や要望を深堀りする | 定性的なインサイトの獲得が可能 |
SNS・口コミ分析 | TwitterやInstagramなどSNS上の声、オンラインレビューを収集・分析 | 顕在化していない不満・要望の発見 |
カスタマージャーニーの作成 | 顧客が商品やサービスを認知・購入・利用するまでの一連の行動を可視化 | 消費者がどのプロセスで不を感じているかを把握 |
この流れが示すように、最初に「不」を見つけることがビジネスの入り口となります。次に情報収集を行い、そこから得られたインサイトを元に商品・サービスを開発・改善します。そして、最終的に消費者が求めていたことを満たすことで満足度が向上し、企業には継続的な売上や口コミ効果による新規顧客獲得がもたらされるというわけです。
まとめ
- ビジネスは「不(不満・不便・不安・不足など)」を解決することで成り立つ
- 消費者だけでなく、企業も多くの「不」を抱えている
- 「不」を発見するには、アンケート調査やSNS分析、ヒアリングなど多角的な手段を活用すると効果的
- 「不」を解消する具体的なサービス(フリマアプリ、クラウド型会計ソフト、宅配フードなど)が市場で成功している
- 「不」を解決できれば、ビジネスチャンスをつかむだけでなく、顧客の満足度向上にもつながる
本記事では、消費者や企業が抱える「不」を軸にビジネスを考える方法と事例を紹介しました。マーケティング担当として、新たなアイデアを模索する際には、まずどんな「不」があるのかを丁寧に調べてみてください。そうすることで本当に必要とされる商品・サービスを開発し、効果的に売上や顧客満足度を伸ばすことができるはずです。今後の施策立案や改善活動の参考にしていただければ幸いです。