筆者がBtoBマーケティング15年以上携わる中で、どのBtoB企業のマーケターや経営者が必ず押さえておくべきステップがあると考えています。本記事に示すステップを踏むことで適切なBtoBマーケティングが実施でき、企業の持続的な成長につながると確信しています。読者の企業のフェーズや課題によっては当たり前のことも多分に含まれると思いますが、全てのステップを網羅的に実行できている企業は少ないと感じているため、BtoBのマーケティング責任者、事業責任者、経営者はぜひ読んでいただきたい内容です。
全て踏めていたら持続的な成長をしている企業だと思います。
サマリー
BtoBマーケティングも、まずはマーケティングの基本である「誰に、どんな価値を、どのように届けるのか」について軸を通すことが必要です。その上でBtoBビジネスの歩留まりを把握し、マーケのROIを改善すべくPDCAを回していくことに尽きると考えています。このステップをきちんと踏んでいるかどうかがビジネス成長の肝であると認識し行動していくべきです。
3つのステップの紹介
早速、BtoBマーケティングで必ず踏んでほしい3ステップを紹介します。既にそのステップはできているというマーケターの方は途中のステップから実施するのもOKです。
ステップ①
who、whatの解像度をあげ、軸の通ったhowを各所で実行
ステップ②
BtoBビジネスプロセスの歩留まりを見える化する
ステップ③
各マーケ施策(how)のROIを見える化して選択と集中していく
なぜ3つのステップが必要なのか
なぜこのステップを踏むことが重要なのか、最初にその理由を説明します。
ステップ①がなぜ必要なのか。ステップ①は誰に、どういう価値を、どのように届けるのかを決めて実行していくフェーズです。ビジネスとして基本で、当たり前なフレームワークですが、多くの企業はwho、whatの解像度が低いまま、広告や営業活動などのhowにリソース、コストを投下しがちです。
しかしその状態では非常に効率の悪いhowになってしまいます。なぜならhowで営業活動をするにも誰にアプローチしたら刺さるのか、何を訴求したら刺さるのかそこが不明確なまま走り続けても無駄なリソースの消費になってしまうからです。例えるなら暗闇の中でスポットライトなしに車を運転するようなものです。だからビジネスの超基本の誰に、どんな価値を提供するのかという部分を解像度を上げてからhowでアプローチをしかける必要があります。
続いてステップ②がなぜ必要なのか。ステップ①で誰に、どんな価値を、どのように届けるかに軸が通ったら、ステップ②では実際にhowを実行し、BtoBビジネスとしてリード獲得増加、受注数増加を増やしていくフェーズになります。
見込み顧客、商談、受注などのプロセスごとの数字の見える化をすることで、どのプロセスに課題があるのかが明確になります。逆にこのステップを踏まないと、ビジネス全体としてクリティカルに改善すべき箇所がわからず、最小工数最大成果が出しにくくなります。だからビジネス全体のプロセスの見える化は重要なステップなのです。
最後にステップ③がなぜ必要なのか。ステップ②でビジネスプロセスの見える化をしても、日々のマーケ施策のROI(投資対効果)はまだ見えてきません。ステップ③は、マーケ施策のROIを見える化して、ROIが高い施策にリソースを集中させ最大効果を出していくために必要な取り組みです。これをやらないマーケ組織は、勘や経験をベースにリソースを使うことになり、持続的な成長が見込めません。だからステップ③を踏む必要があるのです。
さて、前段長くなりましたが、各ステップでやることを具体的に示していきます。基本的にステップは①から順番です。それぞれを詳細に紹介していきます。
ここから3ステップの紹介です!
ステップ① who、whatの解像度をあげ、軸の通ったhowを各所で実行
前段でお話しましたが、正直ここができていない企業がほとんどです。who、what、howをきちんと定義するとこちらです。
「誰のどういうJOBに対して、競合や代替手段がいるカテゴリの中で、どういう便益と独自性があり、それをどのように提供するのか」
ここに一本軸を通していない場合が多く、特にwho、whatの解像度が低いまま、howばかりにコストを投下している企業が多い状況です。
who、whatが不明確な状態でhowを実行すると、リード→商談→受注の歩留まりを悪くするので結果としては全体の効率は悪くなります。
本来はwho、whatの仮説をたてて、howで検証していく、そしてさらにwho、whatの解像度をあげた仮説をたて、howで検証していく、この繰り返しを行うべきです。who、what、howはセットで行うことで成果が出ます。改めてあなたの会社のプロダクトのターゲットは誰で、どんな課題を解決できるサービスなのか、それが代替手段と比べて独自の価値を提供できるかを社内で考え抜いみてください。
また、その時に1つ考慮しなければいけないのは、どの企業もターゲットのグループは1つではないということです。
例えば企業規模(大手企業か、中小企業)か、業種(不動産業か、製造業)か、課題の種類(コストがを下げたい、売上を上げたい)、顧客の状況(今検討している、中長期で検討している)などによってもグループは分かれることがあります。
切り方は各社によって異なりますが、1つのターゲットは同じ傾向を持ったグループにしていきます。まずはそのグループを今の仮説をもとに作成して、グループごとにHOWを変えて実行していくことが求められます。複数のターゲットグループが作られた場合、優先度はSAM、リーチのしやすさ、ハマり具合などの6Rの要素を使い優先度をつけて判断すべきです。
基本は最優先のターゲットへの便益と独自性の開発やそれによるシェアをある程度獲得したら次、クリアーしたら次という形で進めていきます。
なぜなら企業はベンチャーでも大手でもリソースや予算に限界はあるため、優先度をつけてどこかにフォーカスをするべきだからです。
また、もし切り口の解像度が低い場合は元顧客のデータを並べて傾向を見てみたり、情報が少ない場合は顧客にインタビューをすることで解像度があがってきます。
続いて、whatの仮説をたてる時もwhoと同様で、現顧客のデータやインタビューで、「なぜ自社のプロダクトを選んでくれたのか」、逆に解約、失注した顧客に「なぜ自社ではなく他社を選んだのか」などを深掘りすることで自社の独自の提供価値がわかってきます。
- なぜ商談になったのか、ならなかったのか
- なぜうちのプロダクトを選んでくれたのか、選んでくれなかったのか
- なぜリピートしてくれるのか、解約してしまったのか
上記の工程で現時点のwho、whatの仮説を立てたら、ターゲットごとにhowを企画して実行し、立てた仮説を検証していきます。検証する際に最も手っ取り早いのは、DMや手紙、アウトバウンドコールなどの直アプローチ施策、WEB広告やイベントの施策と考えています。
直アプローチ施策: 手紙やアウトバウンドコールは最も低コストで気軽にアプローチして反応が見れるため実施
WEB広告:ターゲットに対して届けられる広告があれば、即効性があるため実施
イベント:ターゲットに対して届けられる内外のイベントがあれば(作れれば)、即効性があるため実施
この一連の流れに軸を通してビジネスができているかどうかで生産性が全く変わってきます。
ここでぜひおすすめしたいのは、全社会議などの場で経営から全社に向けて言い続け、全社として共通認識をもっていくことです。これを毎日ライトに、毎月重めに言い続けていくことが非常に重要だと考えております。
続いて、ステップ②ではwho、what、howを定めて実行した時に必ず見ていく数字の話をしていきます。
ステップ② BtoBビジネスプロセスの歩留まりを見える化する
上記の流れでマーケティングをしていくと必ずスムーズにいかない箇所がでてきます。次はそれを把握して改善していくステップです。
まずやるべきことはプロセスの分解です。ここではBtoBのビジネスでは一般的に下記のようにプロセスが分けられます。
認知獲得 → 見込み顧客獲得 → 有望見込み顧客獲得 → 商談 → 受注 → 継続・リピート
まず見るべき点は受注から継続・リピートの箇所、つまりチャーンレートの改善です。なぜならここの歩留まりが悪いということは受注はできても顧客の課題解決につながっていないプロダクトである可能性が高いからです。この状態でいくら見込み顧客獲得やアポを増やしても、穴の空いたバケツに水を注いでいる状態ですのでビジネスは持続的な成長をしていきません。
よって、何よりも優先すべきはターゲットがサービスを導入したことで課題解決につながり、その後も継続して使い続けてくれるかどうか、そこの改善が最も優先度が高いです。
まだ契約期間を迎えている顧客がいなくてチャーンレートが測れないという場合は、PMFサーベイなどで顧客がプロダクトをどれだけ必要としているかを定量的に測ってみることもお勧めします。このプロセスの歩留まりが問題なければ、バケツの穴は小さいので水を足す、つまり前半のプロセス改善にフォーカスしていきましょう。
前半の認知〜受注までのプロセスを見える化、そして運用する時に抑えるべき点があります。
- 上記の各プロセスの定義を決め、全て数値化すること
- プロセスからプロセスに進む時やロストする時の理由をデータとして蓄積していくこと
- 場合によってはその顧客にインタビューをしかけていくこと
- この一連のプロセスを規模別、業種別、顧客の課題別、howの施策別などの切り口で見れるようにすること
簡略化すると下記のような見える化を行うイメージです。
プロセス名 | 認知獲得 | → | 見込み顧客獲得 | → | 有望見込み顧客獲得 | → | 商談 | → | 受注 | → | 継続・リピート |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
指標名 | サイトUU数 | - | リード獲得数 | - | ターゲットリード獲得数 | - | 商談数 | - | 受注数 | - | 継続顧客数 |
指標 | 5000 | - | 100 | - | 40 | - | 20 | - | 4 | - | 3 |
CVR | - | 2% | - | 40% | - | 50% | - | 20% | - | 80% | - |
この数字が見える化できたら次のステップでマーケ施策のROIを最適化していきます。
ステップ③ 各マーケ施策(how)のROIを見える化して選択と集中していく
最後の3ステップ目です。ここではステップ②で見える化した全体プロセスの歩留まり数字に対して、マーケティング部署が追うべき数字を定め、施策の調整をかけていくことが目的としています。
まずは社として全体で目指す数字から逆算して目指すCAC(顧客獲得単価)を出します。それからステップ②で見える化できた各プロセスの歩留まりの数字をもとに、何件の見込み顧客数、商談数、受注数をそれぞれいくらで獲得する必要があるのかを導き出します。その数字をもとにマーケティング施策で守るべきROIの出し、施策のコントロールをしていきます。
例)
■月間の全体目標
新規獲得MRR:500万円
受注数:25件
ユニットエコノミクス:3
平均顧客MRR:20万円
チャーンレート:3%
利益率:60%
1顧客のLTV:400万円
1顧客のCAC:133万円
を目指すとしたら、現状のビジネスプロセスの歩留まりから1商談、1見込み獲得にかけられるコストを計算すると下記のようになります。※あくまでも簡易な計算です。
1商談獲得にかけられるコスト:26万円(商談からの受注率:20%) ↓ 1有望見込み顧客獲得にかけられるコスト:13万円(有望見込み顧客獲得からの商談率:50%) ↓ 1見込み顧客獲得にかけられるコスト:5万円(見込み顧客獲得からの有望見込み顧客獲得率:40%)
つまり、上記の前提条件でユニットエコノミクス3を目指す際には、マーケ施策を実行してコスト5万円で見込み顧客、13万円で有望見込み顧客獲得、26万円で1商談獲得、133万円で1受注を獲得することが求められます。また、まずはプロセス全体の歩留まりを見た上で、その中で足を引っ張っているマーケ施策は何かをみていく必要があります。そのためにプロセスをマーケ施策ごとに、最終的にROI(投資対効果)で見て判断していく必要があります。
例)
- 施策A:リード100件→商談10件(10%)→受注2件(20%)、コスト500万円、ROI 96%
- 施策B:リード50件→商談10件(20%)→受注2件(20%)、コスト250万円、ROI 192%
この場合は、目先のリード数やリードCPAではなく、かかったコストに対して受注している数が優れている施策の方に選択と集中を行うべきという判断になります。よってROIの高いBの方が優秀な施策となります。
※もちろん施策の難易度、拡大や改善の余地、リードタイムなどの要素も考えて判断していく必要があります。
※ROI=利益÷コスト×100なので、施策Bの場合は192%=(800万円×60%)÷250万円×100の計算式になります。
このように、日々行なっているマーケティング施策のROIをウォッチできるようにしておくことで、どの施策にどれだけリソースを割いたらどれくらいのリターンが生まれるといった計画数字も経営に対して提示ができるようになります。
マーケティング責任者は全体プロセスの歩留まり、マーケ施策ごとのプロセスの歩留まり、そのROIを常に把握し、経営に対して適切な提言をおこなっていくことが本来の役割であると考えております。
まとめ
以上が3ステップの概要でした。もし自社で徹底できていないステップがありましたらぜひそのステップからアクションをとってみてください。また各ステップを進める上で、「こんな場合はどうするのか」「ここがいまいち進め方がわからない」などありましたが、ご質問がありましたらお気軽にTwitterにてDMなどいただければと思います。
Xはこちら @tomiheyhey
ステップ① who、whatの解像度をあげ、軸の通ったhowを各所で実行(最重要)
ステップ② ビジネスプロセスと歩留まりを見える化する
ステップ③ 各マーケ施策(how)のROIを見える化して選択と集中していく