はじめに
BtoBマーケティングにおいて、「第一想起」の重要性が近年ますます高まっています。第一想起とは、ある製品カテゴリーについて尋ねられたときに、最初に思い浮かぶブランドのことを指します。BtoB市場では、この第一想起の獲得が受注率や売上に大きな影響を与えることが明らかになっています。
しかし、多くのBtoB企業のマーケティング担当者は、第一想起率を向上させる具体的な方法に悩んでいるのが現状です。本記事では、BtoBにおける第一想起の重要性を解説し、第一想起率を高めるための実践的な戦略と成功事例を紹介します。
第一想起とは
第一想起とは、特定の製品カテゴリーやニーズが提示されたとき、消費者の頭に最初に浮かぶブランドや商品のことを指します。例えば、「電気自動車と言えば?」と聞かれて「Tesla」と答えるような場合です。
第一想起の主な特徴は以下の通りです:
- 即時性:瞬間的、無意識的に想起される
- 優位性:カテゴリー内で最も強い認知度を持つ
- 限定性:通常、1つのブランドのみが該当
- 影響力:購買決定に強い影響を与える
第一想起を獲得することには、以下のようなメリットがあります:
- 確実に検討してもらえる
- 最初に検討してもらえる
- 直感的または習慣的に買ってもらえる確率が高い
- 検討後に購入してもらえる確率が高い
第一想起は、ブランド認知度向上や売上増加につながる重要な要素であり、マーケティング戦略において重要な役割を果たします。第一想起を獲得するためには、「接触し続ける」ことが重要で、マス広告やWEB広告、コンテンツマーケティングなど、複数の施策を組み合わせて多角的にユーザーに接触し続けることが効果的です。
純粋想起、助成想起との違い
指標 | 定義 | 測定方法 | 認知の深さ | マーケティング目標 | 適した製品カテゴリー |
---|---|---|---|---|---|
第一想起 | カテゴリーで最初に思い浮かぶ単一のブランド | ヒントなしで「最初に挙げたブランド」を記録 | 最も強い認知度 | カテゴリーリーダーシップの獲得 | 高関与商品(車、高級品など) |
純粋想起 | ヒントなしで思い浮かぶ複数のブランド | ヒントなしで「挙げたすべてのブランド」を記録 | 強い認知度 | ブランド認知の拡大 | 中~高関与商品(家電など) |
助成想起 | ヒントを与えられて認識できるブランド | 選択肢や画像などのヒントを提示して回答を記録 | 比較的浅い認知度 | ブランドの存在感を広げる | 低関与商品(飲料、スナックなど) |
BtoBにおける第一想起の重要性
第一想起の目的
BtoB市場における第一想起の主な目的は以下の通りです:
- 競合他社との差別化
- 顧客の意思決定プロセスの短縮
- ブランド価値の向上
- 営業活動の効率化
- 長期的な顧客関係の構築
第一想起の重要性
- BtoBでも第一想起した商品を導入する確率が高い。
- 第一想起ブランドは、比較検討ではなく選択を正当化するための情報を探される傾向がある。
- 第一想起の獲得により、事業全体のCAC(顧客獲得コスト)が大幅に低下する。
特に昨今、商品の機能的な差がなくなっており、どの市場もコモディティ化していますので、最初に思い浮かぶかどうかは自社商品が選ばれる上で重要度が増していると言えます。
BtoBで第一想起率を上げる7つの方法
では、具体的にBtoB企業が第一想起率を向上させるためにはどのような戦略を取るべきでしょうか。以下に7つの効果的な方法を紹介します。
1. ターゲット顧客の明確化とペルソナ設定
BtoB市場では、ターゲット顧客を明確に定義し、詳細なペルソナを設定することが第一想起率向上の鍵となります。以下の表は、効果的なペルソナ設定の要素をまとめたものです:
要素 | 説明 | 重要性 |
---|---|---|
役職・職責 | 意思決定者、影響力者の特定 | 適切なメッセージング |
業界・企業規模 | ターゲット企業の特性理解 | 的確なソリューション提案 |
課題・ニーズ | 顧客が直面する具体的な問題 | 共感と解決策の提示 |
情報収集行動 | 利用するメディアや情報源 | 効果的な接点設計 |
購買意思決定プロセス | 検討から導入までの流れ | 適切なタイミングでの介入 |
ペルソナを設定することで、マーケティング施策の焦点が明確になり、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
2. ブランドポジショニングの確立
BtoB市場での第一想起を獲得するためには、明確で一貫したブランドポジショニングが不可欠です。以下の表は、効果的なブランドポジショニングの要素をまとめたものです:
要素 | 説明 | 効果 |
---|---|---|
ユニークバリュープロポジション | 他社にない独自の価値提案 | 差別化と記憶度の向上 |
一貫したメッセージング | すべての接点での統一されたメッセージ | ブランド認知の強化 |
ビジュアルアイデンティティ | ロゴ、カラー、デザインの一貫性 | ブランドの視覚的記憶の向上 |
業界でのポジション | 市場でのユニークな立ち位置の確立 | 競合との明確な差別化 |
ブランドストーリー | 企業の歴史や価値観の伝達 | 感情的なつながりの構築 |
明確なブランドポジショニングは、顧客の心に残るブランドイメージを作り上げ、第一想起の獲得につながります。
2. コンテンツマーケティングの強化
コンテンツマーケティングは、BtoB企業が第一想起を獲得するための重要な戦略の一つです。以下の表は、効果的なコンテンツマーケティングの要素をまとめたものです:
要素 | 説明 | 効果 |
---|---|---|
専門性の高い情報提供 | 業界トレンドや専門知識を発信 | 信頼性の向上 |
問題解決型コンテンツ | 顧客の課題に焦点を当てた記事やホワイトペーパー | 実用性の証明 |
定期的な情報発信 | ブログ、ニュースレター、SNSでの継続的な発信 | ブランド認知の向上 |
マルチメディア活用 | 動画、インフォグラフィック、ウェビナーなど | 情報の印象付け |
事例紹介 | 成功事例や導入事例の詳細な紹介 | 信頼性と実績の証明 |
コンテンツマーケティングを成功させるためには、顧客のニーズを深く理解し、それに応える価値ある情報を継続的に提供することが重要です。
4. オムニチャネルマーケティングの展開
BtoB顧客は複数のチャネルを通じて情報を収集し、意思決定を行います。そのため、一貫したメッセージを複数のチャネルで展開するオムニチャネルマーケティングが重要です。以下の表は、効果的なオムニチャネルマーケティングの要素をまとめたものです:
チャネル | 活用方法 | 効果 |
---|---|---|
Webサイト | 詳細な製品情報、事例紹介、問い合わせフォーム | 情報提供と見込み客獲得 |
SNS | 業界トレンド、企業文化の発信 | ブランド認知とエンゲージメント向上 |
メールマーケティング | ニュースレター、製品アップデート情報の配信 | 継続的な関係構築 |
イベント・展示会 | 製品デモ、ネットワーキング | 直接的な顧客接点の創出 |
ウェビナー | オンラインセミナー、製品説明会 | 教育と見込み客獲得 |
営業活動 | 対面・オンラインでの個別提案 | 個別ニーズへの対応と信頼構築 |
各チャネルの特性を活かしながら、一貫したメッセージを発信することで、顧客の記憶に残るブランド体験を創出します。
5. カスタマーエクスペリエンスの最適化
BtoB市場での第一想起を獲得するためには、顧客体験全体を最適化することが重要です。以下の表は、カスタマーエクスペリエンス最適化の要素をまとめたものです:
段階 | 施策 | 効果 |
---|---|---|
認知 | SEO対策、ターゲティング広告 | ブランド露出の増加 |
興味 | 有益なコンテンツ提供、リードナーチャリング | 信頼関係の構築 |
検討 | 製品比較ツール、カスタマイズドデモ | 意思決定の促進 |
購入 | スムーズな購買プロセス、個別サポート | 顧客満足度の向上 |
利用 | オンボーディング支援、カスタマーサクセス | 製品価値の最大化 |
推奨 | レビュープログラム、アンバサダー制度 | 口コミによる拡散 |
各段階で顧客のニーズに応じた最適な体験を提供することで、ブランドへの好感度と記憶度を高めます。
6. データ駆動型マーケティングの実践
BtoB市場での第一想起率向上には、データを活用した戦略的なアプローチが不可欠です。以下の表は、データ駆動型マーケティングの要素をまとめたものです:
データ種類 | 活用方法 | 効果 |
---|---|---|
ウェブサイト行動データ | ユーザーの興味関心分析、コンテンツ最適化 | 効果的な情報提供 |
CRMデータ | 顧客セグメンテーション、パーソナライズドコミュニケーション | 適切なアプローチ |
マーケティングオートメーションデータ | リードスコアリング、タイムリーな介入 | 商談機会の最大化 |
業界トレンドデータ | コンテンツ企画、製品開発への反映 | 市場ニーズへの適合 |
競合分析データ | 差別化ポイントの明確化、戦略の調整 | 競争優位性の確保 |
データを活用することで、より精緻なターゲティングと効果的なコミュニケーションが可能になり、第一想起率の向上につながります。
7. ソートリーダーシップの確立
BtoB市場で第一想起を獲得するためには、業界のソートリーダー(思想的リーダー)としての地位を確立することが効果的です。以下の表は、ソートリーダーシップ確立の要素をまとめたものです:
施策 | 内容 | 効果 |
---|---|---|
業界レポートの発行 | 市場動向、将来予測の分析レポート | 専門性と洞察力の証明 |
専門家コラムの連載 | 業界メディアでの定期的な寄稿 | 知見の共有と認知度向上 |
カンファレンスでの登壇 | 業界イベントでの講演、パネルディスカッション | 影響力の拡大 |
研究開発の推進 | 革新的な技術や手法の開発 | 業界のイノベーターとしての地位確立 |
パートナーシップの構築 | 他社や研究機関との協業 | エコシステムの形成と影響力の拡大 |
ソートリーダーシップを確立することで、業界内での信頼性と影響力が高まり、第一想起の獲得につながります。
BtoB市場における第一想起の調査方法
調査の基本設計
- 調査目的の明確化
- 第一想起率の現状把握
- マーケティング施策の効果測定
- 競合他社との比較
- 調査対象の設定
- 業界や製品カテゴリーに関連する意思決定者
- 購買に影響力のある役職者(経営者、部門長など)
- 適切なサンプルサイズの決定(通常300〜500程度)
- 調査方法の選択
- Webアンケート調査が一般的
- 電話調査やインタビュー調査を併用することも
具体的な調査項目
- 「○○業界で思い浮かぶ企業名を挙げてください」という質問を用意
- 最初に挙げられた企業が第一想起となる
分析方法
- 第一想起率の算出
- 全回答者のうち、自社を最初に挙げた割合を計算
- 競合他社との比較
- 第一想起率や認知度を競合他社と比較
- クロス分析
- 業種、企業規模、役職などの属性別に分析
- 時系列分析
- 定期的に調査を実施し、経時変化を確認
注意点
- BtoB特有の課題への対応
- 回答者の専門性や業界知識を考慮した質問設計
- 企業規模や業種による偏りを防ぐサンプリング
- 回答者の質の確保
- スクリーニング質問で適切な回答者を選定
- 調査の定期実施
- 半年や1年ごとに定点観測することで、施策の効果を測定
- 定性調査の併用
- 数値だけでなく、理由や背景を深掘りするインタビューの実施
第一想起調査を通じて得られた結果は、マーケティング戦略の立案や改善に活用できます。特にBtoB市場では、第一想起が導入に直結する確率が高いため、この指標を向上させることが重要です。
架空の企業Aの事例
ここでは、BtoB市場で第一想起率向上に成功した架空の企業Aの事例を紹介します。
企業概要
- 企業名:テックソリューションズ株式会社(架空)
- 事業内容:企業向けクラウドセキュリティソリューションの提供
- 課題:競合他社が多く、ブランド認知度が低い
実施した戦略
- コンテンツマーケティングの強化
- セキュリティ脅威レポートの定期発行
- 実践的なセキュリティ対策ガイドの無料提供
- 業界専門家によるウェビナーシリーズの開催
- ターゲット顧客の明確化とペルソナ設定
- 中堅企業のIT部門責任者をメインターゲットに設定
- 詳細なペルソナ分析に基づくコンテンツ戦略の立案
- ブランドポジショニングの確立
- 「簡単・安全・安心のクラウドセキュリティ」というポジショニングの徹底
- ビジュアルアイデンティティの刷新とメッセージングの一貫化
- オムニチャネルマーケティングの展開
- SNS、メール、ウェビナー、展示会を連動させたキャンペーンの実施
- 各チャネルでの一貫したメ
- オムニチャネルマーケティングの展開(続き)
- 各チャネルでの一貫したメッセージングと顧客体験の提供
- リアルタイムのチャネル間データ連携による効果的なフォローアップ
- カスタマーエクスペリエンスの最適化
- 顧客のジャーニーマップに基づいたタッチポイントの設計
- AIチャットボットによる24時間サポート体制の構築
- カスタマーサクセスチームの設置による導入後のサポート強化
- データ駆動型マーケティングの実践
- マーケティングオートメーションツールの導入によるリードナーチャリングの自動化
- 行動データに基づくパーソナライズドコンテンツの配信
- A/Bテストによる継続的な改善活動の実施
- ソートリーダーシップの確立
- 年次セキュリティトレンドレポートの発行と無料配布
- 業界最大級のセキュリティカンファレンスの主催
- 大学との共同研究プロジェクトの立ち上げと成果の公表
施策の結果
テックソリューションズ株式会社の取り組みは、以下のような成果をもたらしました:
- ブランド認知度の向上
- セキュリティソリューション分野での第一想起率が12%から38%に上昇
- ウェブサイトへの月間訪問者数が前年比300%増加
- リード獲得の増加
- マーケティング施策によるリード獲得数が前年比250%増加
- リードの質も向上し、商談化率が15%から25%に改善
- 売上の拡大
- 新規顧客獲得数が前年比180%増加
- 既存顧客の契約更新率が85%から95%に向上
- 全体の売上が前年比200%に成長
- 業界での地位向上
- 業界メディアでの引用回数が前年比400%増加
- セキュリティカンファレンスへの登壇依頼が急増
- 顧客満足度の向上
- NPS(Net Promoter Score)が30から70に上昇
- カスタマーサポートへの問い合わせ数が30%減少(セルフサービス化の成功)
これらの結果は、統合的なアプローチによる第一想起率向上戦略の効果を示しています。特に、コンテンツマーケティングとソートリーダーシップの確立が、ブランド認知度と信頼性の向上に大きく貢献しました。
BtoB企業の成功事例
BtoB市場における第一想起を獲得していると考えられる企業とそのプロダクトをいくつか紹介します:
ソフトウェア・ITサービス分野
サイボウズ:https://kintone.cybozu.co.jp/
- プロダクト:グループウェア「kintone」「Garoon」
- 特徴:働き方改革のビジョンを強く打ち出し、差別化に成功
セールスフォース:https://www.salesforce.com/jp/
- プロダクト:CRMソフトウェア「Salesforce」
- 特徴:クラウドCRMの先駆者としてグローバルで強いブランドイメージを確立
製造業・部品供給分野
- プロダクト:金型部品
- 特徴:BtoB EC売上高ランキング2位、金型部品のオンライン販売で業界をリード
モノタロウ:https://www.monotaro.com/
- プロダクト:工具・MRO用品のオンライン販売
- 特徴:「工具界のアマゾン」と呼ばれ、圧倒的な品揃えと配送スピードで認知度が高い
オフィス用品・文具分野
- プロダクト:オフィス用品のオンライン販売
- 特徴:BtoB EC売上高ランキング1位、オフィス用品のトップブランド
- プロダクト:文具・オフィス家具
- 特徴:長年の実績と品質で、オフィス用品の代名詞的存在
印刷・広告分野
ラクスル:https://raksul.com/
- プロダクト:オンライン印刷サービス
- 特徴:「安さ」「速さ」「楽さ」を強調したマーケティングで認知度を向上
これらの企業は、独自の強みや明確なブランドメッセージを打ち出すことで、それぞれの分野で高い認知度と第一想起の獲得に成功していると考えられます。ただし、第一想起の状況は時間とともに変化する可能性があり、継続的なブランディング努力が必要です。
まとめ
BtoB市場における第一想起率の向上は、企業の競争力強化と成長に直結する重要な課題です。本記事で紹介した7つの戦略と事例から、以下のkey takeawaysが導き出されます:
- コンテンツマーケティングを通じた価値提供が信頼構築の基盤となる
- 明確なターゲット設定とペルソナ分析が効果的なコミュニケーションを可能にする
- 一貫したブランドポジショニングが記憶に残るブランドイメージを創出する
- オムニチャネルアプローチによる統合的な顧客体験が重要である
- データ駆動型のアプローチが精緻なマーケティング施策を可能にする
- ソートリーダーシップの確立が業界内での影響力と信頼性を高める
- 継続的な改善と顧客中心のアプローチが長期的な成功をもたらす
これらの戦略を自社の状況に合わせて適切に組み合わせ、実行することで、BtoB市場での第一想起率向上と、それに伴う事業成長を実現することができるでしょう。
最後に、第一想起率の向上は一朝一夕には達成できません。長期的な視点を持ち、顧客価値の提供を中心に据えた一貫した取り組みが求められます。また、市場環境や顧客ニーズの変化に応じて、戦略を柔軟に調整していくことも重要です。