BESSが選ばれる理由:感性マーケティングと体験価値で創造した住宅市場の新たなカテゴリー - 勝手にマーケティング分析
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BESSが選ばれる理由:感性マーケティングと体験価値で創造した住宅市場の新たなカテゴリー

ログハウスメーカーBESSのWho/What/How戦略 商品を勝手に分析
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多くのマーケターや事業開発担当者が直面する課題のひとつに、「なぜ消費者は特定のブランドを選ぶのか」という問いがあります。消費者の選択理由を深く理解することは、自社製品やサービスが市場で選ばれる確率を高めるための重要な鍵となります。

本記事では、日本の住宅市場で独自のポジションを確立しているBESS(ベス)を例に、このブランドが消費者から選ばれる理由を多角的に分析していきます。この分析を通じて、以下のメリットを得ることができます:

  1. 感性に訴えかけるマーケティング戦略の実践方法を学べる
  2. 体験価値を核とした顧客エンゲージメント手法を理解できる
  3. ニッチ市場で強固なブランドロイヤルティを構築するための具体的な施策を発見できる

「住むより楽しむ」をコンセプトに掲げるBESSの成功要因を紐解きながら、あなたのビジネスにも応用できる実践的な知見を提供していきます。

1. BESSの基本情報

BESSは、株式会社アールシーコアが展開する住宅ブランドです。1986年に事業を開始し、「衣」「食」に続く「住」の市場においても感性で選ぶ時代が到来するという先見的な視点から、「住むより楽しむ」をコンセプトに、従来の住宅とは異なる個性的な木の家を提供してきました。

企業情報

  • 企業名:株式会社アールシーコア(BESS事業を展開)
  • 設立:1985年9月12日
  • 本社所在地:東京都世田谷区岡本2-5-14
  • 代表取締役:壽松木 康晴
  • 従業員数:339名(2024年)
  • 資本金:6億7,185万円(2024年)
  • URL:https://www.bess.jp/

製品ラインナップ

BESSは、多様なライフスタイルに対応する複数のシリーズを展開しています:

  • ログハウス:自然の温もりを感じられる本格的なログハウス
  • WONDER DEVICE:都市での暮らしを提案する機能的で遊び心あるデザイン
  • 間貫(まぬき)けのハコ:シンプルでコンパクトな国産杉の家
  • 程々の家:日本の伝統的な家屋の良さを活かしたデザイン
  • BESSドーム:個性的なドーム型の住まい
  • LOGの小屋 IMAGO:多目的に使えるコンパクト小屋

業績データ

運営会社のアールシーコアの2024年3月期の売上高は約121億円で、そのほとんどがBESS事業によるものと推測されます。ログハウス業界では国内シェアNo.1(5割以上)を誇り、特に木造住宅市場の中では独自のカテゴリーを確立しています。

2024年3月期の業績はこちらです。

  • 売上:121億円
  • 営業利益:△ 約5億円
  • 契約数:438件

2020年からの売上、営業利益の推移を見てみるとともに減少傾向であることがわかります。

また、展示場への来場者数はここ2年ほどで増えていますが、契約数は22年と比較すると半分程度に減っていることがわかります。(ここ2年では回復傾向)

Screenshot

これらのデータから、現在も一定の数は選ばれているものの、新型コロナウィルスの環境の影響で需要が増えた2020ー2022の売上と比較するとそこまでの需要が発生していないと想像できます。コロナ以前の需要と売上に現在は戻ってきていると考えられます。

2. 市場環境分析

次に、BESSが戦うカテゴリーの分析をしていきましょう。

市場定義:消費者のジョブ(Jobs to be Done)

BESSが所属するカテゴリーである個性的な木造住宅市場は、消費者の以下のようなジョブを解決しています:

  1. 自分らしさを表現する住まいを手に入れたい(自己表現のニーズ)
  2. 自然と共存する暮らしを実現したい(本能的環境調和のニーズ)
  3. DIYやカスタマイズを通じて家づくりに参加したい(創造と所有のニーズ)
  4. 非日常的な体験を日常に取り入れたい(感覚的充足のニーズ)
  5. 共感できる価値観を持つコミュニティに属したい(帰属のニーズ)

これらのジョブの中でも特に「自分らしさの表現」と「自然との共存」は、BESSの顧客にとって優先度が高く、強い情緒的満足をもたらします。

競合状況

木造住宅市場における主要プレイヤーとBESSの位置づけ:

  • ハウスメーカー:積水ハウス、住友林業、三井ホームなど
  • 工務店:地域密着型の中小工務店
  • ログハウスメーカー:BESS、スウェーデンハウス、エースホームなど

BESSは「住むより楽しむ」という独自のコンセプトで住宅をライフスタイル製品としてポジショニングし、感性マーケティングを用いて消費者の情緒的ニーズに訴えかけています。

POP/POD/POF分析

まず、このカテゴリーで戦って勝っていくために必要な要素を整理していきましょう。

POP(Points of Parity:業界標準として必須の要素)

  • 構造的な安全性と耐久性
  • 基本的な居住性(水回り、電気、断熱など)
  • 法令遵守(建築基準法など)
  • 基本的なアフターサービス
  • 施工品質の確保

POD(Points of Difference:差別化要素)

  • 感性に訴える商品設計:「好き」という感情を入り口にした住宅選び
  • 体験型展示場「LOGWAY」:実際の暮らしを体験できる場の提供
  • ユーザーコミュニティの形成:オーナー同士の交流機会の創出
  • DIYや経年変化を楽しむ住まい:完成時が最高ではなく育てる住まい
  • ライフスタイル提案:住宅そのものより暮らし方を提案する姿勢
  • 自然素材の活用:木材の質感、香りなど五感に訴える素材感

POF(Points of Failure:市場参入の失敗要因)

  • メンテナンスの負担と費用が高い
  • 断熱性能や気密性の課題
  • 標準的な間取りや設備の制限
  • 都市部での立地制約
  • 融資や保険面での課題
  • プライバシー(防音など)の確保

PESTEL分析

続いて、このカテゴリーは各視点で見たときに追い風なのか、向かい風なのかを見ていきましょう。

政治的要因(Political)

  • 機会:木材利用促進法による国産材活用の政策支援
  • 脅威:住宅ローン減税の変更や住宅政策の転換リスク

経済的要因(Economic)

  • 機会:コロナ後のライフスタイル変化による郊外・地方移住需要
  • 脅威:建材価格の高騰、住宅ローン金利上昇、少子化による住宅市場縮小

社会的要因(Social)

  • 機会
    • 個性的な生き方・暮らし方への価値観シフト
    • テレワークの普及による住まい方の多様化
    • 本物志向・自然志向の高まり
  • 脅威
    • 少子高齢化による住宅需要の減少
    • 都市集中化による郊外立地の不利化

技術的要因(Technological)

  • 機会:CLT(直交集成板)などの新たな木造建築技術の発展
  • 脅威:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など環境性能要求の高度化

環境的要因(Environmental)

  • 機会
    • 環境意識の高まりによる自然素材住宅のニーズ増加
    • カーボンニュートラルへの関心から木造住宅への注目
  • 脅威
    • 異常気象や災害リスクの増大
    • エネルギー効率基準の厳格化

法的要因(Legal)

  • 機会:国産材活用への補助金や税制優遇
  • 脅威:建築基準法の改正や住宅性能表示制度の厳格化

この分析から、BESSは社会的要因や環境的要因における追い風を最大限に活用し、経済的要因や技術的要因における向かい風に対応する戦略が求められていることがわかります。特に、個性的な生き方への志向や環境意識の高まりといった社会トレンドは、BESSのビジネスモデルと親和性が高いといえます。

3. ブランド競争力分析

続いて、BESSの強み、弱みは何で、それらが今の外部環境の中でどう活かしていけるのか、どう向き合うべきなのかを見ていきましょう。

SWOT分析

強み(Strengths)

  • 明確なブランドコンセプト「住むより楽しむ」による差別化
  • 体験型展示場LOGWAYを通じた実体験提供力
  • ログハウス業界でのNo.1シェアとブランド認知
  • 熱狂的なファンコミュニティの存在
  • オリジナリティの高い商品デザインと多様なラインナップ
  • 国産木材活用による安定した品質と供給体制
  • アフターサービスとメンテナンスサポートの充実

弱み(Weaknesses)

  • メンテナンスに手間とコストがかかる住宅特性
  • 一般的な住宅と比較して断熱性や気密性の課題
  • 標準仕様の自由度限界(カスタマイズの制約)
  • 都市部での立地制約(近隣環境との調和)
  • 住宅価格の上昇傾向(原材料高騰の影響)
  • 住宅ローンや保険面での課題

機会(Opportunities)

  • コロナ後の価値観変化による自然志向・本物志向の高まり
  • テレワーク普及による二拠点居住や地方移住需要の増加
  • SNSでの住まい共有トレンド(#ログログや#BESSの家など)
  • 環境意識の高まりによる木造住宅への関心増大
  • DIY人気の継続的な高まり
  • 中古住宅・リノベーション市場への展開可能性

脅威(Threats)

  • 住宅市場全体の縮小(人口減少・少子高齢化)
  • 新素材・新工法を用いた競合の参入
  • 原材料価格の高騰によるコスト増加
  • 金利上昇による住宅ローン負担増
  • 環境性能基準の厳格化
  • 若年層の住宅所有に対する価値観の変化

クロスSWOT戦略

SO戦略(強みを活かして機会を最大化)

  • SNSを活用したコミュニティ育成とユーザー体験の共有促進
  • テレワーク対応住宅としての魅力を強化(書斎空間、通信環境など)
  • 環境配慮型住宅としてのポジショニング強化(国産材活用をアピール)
  • DIYワークショップやイベントの拡充によるコミュニティ形成の強化

WO戦略(弱みを克服して機会を活用)

  • メンテナンスをDIY文化の一部として再定義(課題をコミュニティ形成の機会に転換)
  • 断熱性・省エネ性能向上のための新技術導入
  • 二拠点居住に適したコンパクトモデルの強化(維持コストの低減)
  • 中古BESS住宅の流通・リノベーション市場の創出

ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)

  • ブランドロイヤルティを活用した競合との差別化強化
  • 国産材活用によるサプライチェーンの安定化
  • アフターサービスの充実による長期的な顧客関係の構築
  • 住宅のサブスクリプションモデルなど新たな所有形態の模索

WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)

  • メンテナンスコストを含めた総所有コストの透明化と最適化
  • 環境性能向上技術への投資(断熱性・気密性の改善)
  • 都市部向け商品ラインの強化(コンパクト化、近隣調和)
  • 若年層向けの小規模スターターモデルの開発(初期コスト低減)

これらの分析から、BESSは強固なブランドアイデンティティと独自の顧客体験を強みに、環境志向やライフスタイル多様化という社会トレンドを追い風として活用できる立場にあることがわかります。一方で、住宅市場縮小や性能要求の高度化といった脅威に対応するためには、メンテナンスや断熱性などの弱みを克服する必要があります。

4. 消費者心理と購買意思決定プロセス

続いて、BESSの顧客はなぜこのブランドを選ぶのか、その購買行動の構造を複数パターンで見ていきましょう。

オルタネイトモデル分析

パターン1:DIY好きの都市生活者の場合

  • 行動:都市部近郊にワンダーデバイスを購入し、休日はDIYを楽しみながら理想の空間を作り上げる
  • きっかけ:SNSや雑誌で見かけたBESSの個性的な空間デザイン、友人宅訪問での体験
  • 欲求:自分らしい空間で創造性を発揮したい、都会の中でも自然を感じられる家で暮らしたい
  • 抑圧:一般的な住宅は画一的で個性が表現しにくい、DIYの自由度が低い、自然素材が少ない
  • 報酬:DIYの達成感、友人を招いた際の反応、日常の中での非日常体験、自分だけの空間の確立

このパターンでは、個性表現と創造性発揮のニーズがBESSの「がらんどう空間」という設計思想と合致し、自分の手で家を創り上げる喜びという報酬が得られることが購買の大きな動機となっています。

パターン2:自然志向の家族世帯の場合

  • 行動:郊外や地方にログハウスを建て、薪ストーブのある暮らしを家族で楽しむ
  • きっかけ:自然の中での週末体験、LOGWAY訪問での実際の暮らし体験
  • 欲求:自然と調和した環境で子育てをしたい、家族との時間を豊かに過ごしたい
  • 抑圧:日常の忙しさやデジタル環境からの解放、都市生活でのストレス
  • 報酬:子どもの自然体験、家族の絆の強化、五感を満たす暮らし、季節の変化を感じる喜び

このパターンでは、家族の絆強化と自然との調和というニーズがBESSの自然素材の家と共鳴し、日々の暮らしの中で得られる感覚的な満足が継続的な報酬となっています。

パターン3:セカンドライフを模索する熟年層の場合

  • 行動:退職後の移住先や週末の別荘として程々の家やログハウスを選択
  • きっかけ:仕事一筋の生活からの価値観の転換、第二の人生の模索
  • 欲求:これまでとは異なる豊かな時間を過ごしたい、趣味や創作に没頭できる場所が欲しい
  • 抑圧:社会的役割からの解放と自己実現、都会の利便性への依存
  • 報酬:自分のペースでの暮らし、趣味やDIYに没頭する喜び、新たなコミュニティとの交流

このパターンでは、第二の人生という人生の転換期に新たな自己実現と充実感を得たいという欲求が、BESSの「住むより楽しむ」というコンセプトと共鳴しています。

本能的動機分析

消費者の購買行動を本能的な動機から分析すると、BESSは以下のような本能に訴求していることがわかります:

1. 生存本能に関連する訴求

  • シェルター機能:安全で快適な住環境の提供
  • 自然との調和:進化的に人間が安心を感じる木の空間
  • 季節の変化への適応:薪ストーブや縁側など季節を感じる設計

2. 繁殖・家族本能に関連する訴求

  • 子孫繁栄の場:子育てに適した空間の提供
  • 家族の絆強化:共同体験を促す空間設計
  • 社会的地位の表現:個性的な住まいによる差別化

3. ドーパミン回路を刺激する要素

  • DIYによる達成感:自分で作り上げる喜びと報酬
  • 新しい体験の発見:季節ごとの住まいの変化を楽しむ予測不可能性
  • コミュニティでの承認:SNSやオーナーイベントでの共有と評価

これらの本能的動機に訴求することで、BESSは消費者の深層心理に訴え、単なる理性的判断を超えた感情的なつながりを構築しています。特に「自分の手で創る」というDIY体験は、進化心理学的に人間が本能的に求める「制作」の喜びと直結しており、強力なドーパミン報酬をもたらします。

graph TD A[消費者の内的動機] --> B[生存本能] A --> C[繁殖・家族本能] A --> D[社会的承認欲求] B --> E[安全な住環境] B --> F[自然との調和] C --> G[家族の絆強化] C --> H[子育て環境の整備] D --> I[個性の表現] D --> J[コミュニティへの帰属] E --> K[BESSの家を選択] F --> K G --> K H --> K I --> K J --> K

この図から、BESSの家を選択する意思決定には、消費者の複数の内的動機が複雑に絡み合っていることがわかります。単に住宅としての機能を提供するだけでなく、安全性、自然との調和、家族の絆強化、個性表現、コミュニティ帰属など、複数の心理的ニーズを同時に満たすことができるからこそ、強い選好が生まれるのです。

5. ブランド戦略の解剖

これまで整理した情報をもとに、BESSはどういう人のどういうジョブに対して、なぜ選ばれているのか、そしてどうその価値を届けているのかをまとめていきます。

Who/What/How分析

パターン1:DIY好きの都市生活者向け戦略

要素内容
Who(誰に)30〜40代の都市部に住むクリエイティブ志向の個人・夫婦
Who(JOB)自分らしさを表現できる個性的な住空間で創造性を発揮したい
What(便益)自由度の高い空間設計、DIYの楽しさ、都会にいながら感じる自然素材の温もり
What(独自性)「がらんどう空間」の設計自由度、木の素材感、成長する住まいという考え方
What(RTB)実際のオーナーの暮らしぶり、LOGWAY体験、確立されたDIYコミュニティ
How(プロダクト)ワンダーデバイスを中心としたライナップ、自由度の高い空間設計
How(コミュニケーション)SNS、デザイン系雑誌、オーナーのDIY事例共有、LOGWAY体験
How(場所)都市近郊のLOGWAY、SNS、インテリア系メディア
How(価格)プレミアム価格帯(一般住宅より若干高め)、価値体験重視の価格設定

パターン2:自然志向の家族世帯向け戦略

要素内容
Who(誰に)30〜40代の子育て世代の家族、自然志向のライフスタイル重視層
Who(JOB)自然と共存する環境で家族との絆を深め、子どもに豊かな経験を提供したい
What(便益)家族の絆を深める共有体験、子どもの感性を育む自然環境、季節を感じる暮らし
What(独自性)薪ストーブのある暮らし、自然素材の本物感、家族で育てる家という考え方
What(RTB)先輩オーナーの家族での体験談、LOGWAYでの実際の暮らし体験
How(プロダクト)ログハウスや間貫けのハコ、程々の家などの自然素材を活かしたラインナップ
How(コミュニケーション)家族向け雑誌、親子向けイベント、先輩オーナーの体験談共有
How(場所)郊外・地方のLOGWAY、家族向けイベント、ライフスタイル系メディア
How(価格)長期的な価値を重視した総合的コストの提示、家族の思い出の価値化

パターン3:セカンドライフを模索する熟年層向け戦略

要素内容
Who(誰に)50〜60代の退職前後の夫婦、セカンドライフを充実させたい層
Who(JOB)第二の人生を自分らしく豊かに過ごす場所と時間を確保したい
What(便益)新たな趣味や創作活動の場、余暇の充実、自分のペースでの暮らし
What(独自性)日本の伝統と現代を融合した空間、メンテナンスも含めた趣味としての住まい
What(RTB)同世代オーナーの充実した暮らしぶり、自然環境での健康的な生活
How(プロダクト)程々の家、コンパクトなログハウスなど維持管理がしやすいラインナップ
How(コミュニケーション)シニア向け雑誌、セミナー、退職後の暮らし方提案
How(場所)地方のLOGWAY、移住フェア、リタイアメント系メディア
How(価格)資産価値としての説明、ライフサイクルコストの透明化、維持費の明確化

成功要因の分解

ブランドポジショニングの特徴

  • 「住むより楽しむ」という明確なメッセージ:住宅の本質を「機能」から「体験価値」へと再定義
  • 感性プレミアムブランド:合理性や機能性よりも感性や好みを優先させる価値観の提示
  • 成長する住まい:購入時が最高ではなく、住み手と共に育つ家という時間軸の価値観

コミュニケーション戦略の特徴

  • 体験型マーケティング:LOGWAYでの実体験を通じて魅力を直接訴求
  • ストーリーテリング:オーナーの暮らしぶりや変化を物語として共有
  • コミュニティマーケティング:先輩オーナーとの交流、LOGWAYコーチャーを通じた信頼構築
  • SNSの活用:#ログログなどのハッシュタグでユーザー発信コンテンツを促進

価格戦略と価値提案の整合性

  • 価値ベースの価格設定:機能や性能ではなく、体験価値や感性価値に基づく価格設定
  • 長期的価値の提示:初期費用だけでなく、成長する家としての長期的な価値を訴求
  • 透明なコスト提示:メンテナンスなども含めた総所有コストの説明による信頼構築

カスタマージャーニー上の差別化ポイント

  • 認知段階:一般的住宅とは異なる「感性訴求」のコミュニケーション
  • 検討段階:LOGWAYでの体験を通じた情緒的つながりの構築
  • 購買段階:顧客参加型の家づくりプロセスによる満足度向上
  • 利用段階:DIYサポート、メンテナンス指導による継続的な関係構築
  • 推奨段階:コミュニティ形成による口コミ促進と帰属意識の強化

顧客体験(CX)設計の特徴

  • 五感への訴求:視覚(デザイン)、触覚(木の質感)、嗅覚(木の香り)、聴覚(自然音)など複合的な感覚体験
  • 共創体験:住み手とともに創り上げる家という参加型体験設計
  • 季節変化の演出:薪ストーブや縁側など季節を感じる設計要素による体験の変化
  • コミュニティ体験:オーナー同士の交流イベント、DIYワークショップなどの共有体験
graph LR A[BESS体験価値の構成要素] --> B[空間体験] A --> C[時間体験] A --> D[関係体験] A --> E[創造体験] B --> F[自然素材の質感] B --> G[開放的空間設計] C --> H[季節の変化] C --> I[経年変化の魅力] D --> J[家族の絆] D --> K[コミュニティ] E --> L[DIY] E --> M[カスタマイズ] F --> N[顧客ロイヤルティ] G --> N H --> N I --> N J --> N K --> N L --> N M --> N

この図からわかるように、BESSの顧客体験は単一の要素ではなく、空間体験、時間体験、関係体験、創造体験という複合的な要素で構成されています。これらの体験価値が組み合わさることで、強い顧客ロイヤルティが生まれています。

見えてきた課題

外部環境からくる課題と対策

  • 住宅市場の縮小
    • 対策:既存オーナー向けのリノベーション・メンテナンスサービス強化
    • 対策:海外市場への展開検討
  • 環境性能要求の高度化
    • 対策:伝統的デザインを維持しながらの断熱性能向上技術の開発
    • 対策:省エネ技術との融合による「エコログハウス」のコンセプト強化
  • 原材料価格の高騰
    • 対策:国産材の安定調達ネットワーク強化
    • 対策:プレミアム価格戦略の強化(価値訴求による価格弾力性の低減)

内部環境からくる課題と対策

  • メンテナンスの負担感
    • 対策:メンテナンスをDIY文化の一部として再定義するコミュニケーション強化
    • 対策:IoT技術活用による予防的メンテナンスシステムの開発
  • 都市部での展開制約
    • 対策:コンパクトモデルの強化
    • 対策:都市型ショールームの展開(LOGWAY体験の簡易版)
  • 若年層へのリーチ拡大
    • 対策:入門モデルとしての小型ユニットの開発
    • 対策:シェアハウスやコミュニティハウスなど新たな所有形態の提案

これらの課題を克服することが、BESSの持続的成長と競争優位性維持の鍵となります。

6. 結論:選ばれる理由の統合的理解

総合的に見て、競合や代替手段がある中でBESSが選ばれる理由を以下に整理します。

消費者にとっての選択理由

機能的側面

  • 独自の空間設計:柱のない開放的な空間、がらんどう設計による自由度の高さ
  • 自然素材の質感:木材の温もりや香り、五感に訴える素材感
  • DIYの容易さ:住み手が手を入れやすい設計思想と素材選択
  • 充実したアフターケア:長期保証やメンテナンスサポートによる安心感

感情的側面

  • 感性に響くデザイン:「好き」という主観的判断を重視した選択の容認
  • 成長する喜び:時間とともに味わいが増す経年変化の美しさ
  • 創造的達成感:DIYやカスタマイズを通じた自己表現と創造の喜び
  • 記憶と物語性:家族の思い出が刻まれる場所としての情緒的価値

社会的側面

  • コミュニティ帰属感:BESSオーナーという特別なコミュニティへの所属意識
  • 価値観の表明:自然志向、個性重視といった価値観の対外的表現
  • アイデンティティの確立:「BESSに住む自分」という自己認識の強化
  • 社会的承認:SNSでの共有や人を招いた際の反応による満足感

市場構造におけるブランドの独自ポジション

BESSは住宅市場において以下のようなユニークなポジションを確立しています:

  1. 機能性住宅と趣味的空間の中間:一般的な住宅の機能性と趣味的空間(ログハウス・別荘)の魅力を融合
  2. ハードとソフトの融合:物理的な家(ハード)とライフスタイル(ソフト)を一体として提供
  3. 住宅からライフスタイル製品へ:住宅という商品カテゴリーを「暮らし方」を含めた体験価値として再定義
  4. 消費財と生産財の境界線上:完成品としての価値と、DIYによる創造の場としての二面性を持つ

このような独自のポジショニングにより、BESSは従来の住宅メーカーとの直接競合を避け、独自の市場を創造することに成功しています。

競合との明確な差別化要素

BESSと競合他社を比較した際の主な差別化要素は以下の通りです:

差別化要素BESS従来の住宅メーカー
購入動機感性(好き・感覚)理性(機能・性能)
顧客視点楽しさ優先住まい機能優先
時間軸の価値経年変化を楽しむ劣化を防ぐ
環境との関係自然と調和自然を制御
顧客参加共創・DIY奨励専門家による完成品提供
ブランド体験LOGWAY体験型マーケティングスペック・性能表示型マーケティング
提案する価値ライフスタイル住宅機能

これらの差別化要素により、BESSは「住宅」というカテゴリーにおいて全く異なる価値基準を提案し、従来の選択基準では評価しきれない新たな市場を創造しています。

持続的な競争優位性の源泉

BESSの持続的な競争優位性は、以下の要素によって支えられています:

  1. 体験価値の先行性:LOGWAYを中心とした体験マーケティングの長年の蓄積
  2. コミュニティの厚み:熱心なオーナーコミュニティによる自発的な推奨と支持
  3. ブランドの一貫性:「住むより楽しむ」というコンセプトを貫く姿勢
  4. 感性訴求の洗練:感性に訴えるコミュニケーションノウハウの蓄積
  5. 先駆者利益:ログハウス市場における先駆者としてのブランド認知
  6. 顧客との共創関係:顧客とともに価値を創り上げる関係性の構築

これらの要素は短期間では模倣困難であり、長年の取り組みによって培われたBESSならではの競争優位性となっています。

graph TD A[BESSが選ばれる理由] --> B[感性価値の重視] A --> C[体験型マーケティング] A --> D[コミュニティ形成] A --> E[自己表現の場] A --> F[自然との調和] B --> G[持続的な競争優位性] C --> G D --> G E --> G F --> G

この図は、BESSが選ばれる主要な理由と、それらが組み合わさることで持続的な競争優位性につながっていることを示しています。感性価値の重視、体験型マーケティング、コミュニティ形成、自己表現の場の提供、自然との調和という要素が相互に強化し合うことで、模倣困難な優位性を生み出しています。

7. マーケターへの示唆

再現可能な成功パターン

BESSの成功事例から、他業界のマーケターも応用できる成功パターンを抽出できます。

1. 「機能」から「体験」へのシフト戦略

  • 製品の体験価値の再定義:機能性や性能ではなく、使用体験や感性的価値を中心にした製品設計
  • 実践方法
    • 顧客の製品使用シーンの詳細な観察と分析
    • 五感に訴える要素の意図的な設計
    • 時間軸での体験変化(経年変化)の価値化

2. コミュニティ基盤のブランド構築

  • 顧客同士のつながりを核としたブランド育成:単なる顧客関係ではなく、共通の価値観を持つコミュニティの形成
  • 実践方法
    • 先輩ユーザーの活用(メンター化)
    • ユーザー間交流イベントの定期開催
    • SNSなど顧客発信の場の提供と支援

3. 「好き」を入り口にした感性マーケティング

  • 理性的判断より感性的反応を優先した訴求:「なぜ良いのか」より「好きか嫌いか」という直感的判断を重視
  • 実践方法
    • 感性に直接訴えかける視覚・触覚体験の設計
    • 論理的説明より感覚的体験を優先したコミュニケーション
    • 「正解」より「自分らしさ」を支持する価値観の提示

4. 共創型の顧客関係構築

  • 顧客との長期的関係を通じた価値共創:完成品の提供ではなく、顧客と共に成長する関係性の構築
  • 実践方法
    • 顧客のカスタマイズやパーソナライズを促進
    • アフターサポートの充実と継続的な関係維持
    • ユーザーフィードバックを取り入れた製品進化

業界・カテゴリーを超えて応用できる原則

BESSの事例から抽出できる、業種を問わず応用可能な普遍的原則は以下の通りです:

1. 顧客体験設計の重要性

  • 製品やサービスそのものより、それを通じて得られる体験全体をデザインする
  • 応用例
    • 小売業:商品陳列だけでなく、来店から購入後まで含めた体験設計
    • 飲食業:料理だけでなく、空間、接客、物語性を含めた総合体験の提供
    • IT業界:機能性だけでなく、使用感や情緒的満足を含めたUX設計

2. 感性価値と物語性の活用

  • 機能や性能だけでなく、感性に訴える要素や製品の物語性を強化する
  • 応用例
    • 食品業界:栄養素や成分だけでなく、生産者のストーリーや食体験の演出
    • アパレル業界:機能性だけでなく、着用時の感触や着こなしの楽しさの訴求
    • 家電業界:スペックだけでなく、生活を豊かにする体験の提案

3. コミュニティ基盤のマーケティング

  • 顧客同士のつながりを促進し、コミュニティによる自発的な推奨を育む
  • 応用例
    • スポーツ用品:ユーザー同士の交流イベント開催やSNSコミュニティ支援
    • 教育サービス:受講生同士の学び合いの場の創出
    • 趣味用品:同じ趣味を持つ人々の交流促進と情報共有の場の提供

4. 長期的関係性の構築

  • 一度きりの取引ではなく、顧客との長期的な関係構築を重視する
  • 応用例
    • サブスクリプションモデル:継続的な価値提供と関係維持
    • アフターサービスの強化:購入後のサポートや追加価値の提供
    • 顧客参加型の商品開発:ユーザーの意見を取り入れた継続的な製品改良

5. 体験型マーケティングの展開

  • 商品説明より実体験を通じた訴求を重視する
  • 応用例
    • 小売業:試用・体験コーナーの充実
    • サービス業:無料体験期間や限定体験の提供
    • メーカー:ポップアップストアやイベントでの体験機会の創出
graph TD A[BESSの成功要素] --> B[業界横断的に応用可能な原則] B --> C[顧客体験設計] B --> D[感性価値と物語性] B --> E[コミュニティ基盤] B --> F[長期的関係性] B --> G[体験型マーケティング] C --> H[実践例: 小売業・飲食業・IT業界など] D --> H E --> H F --> H G --> H

この図は、BESSの成功要素から抽出された業界横断的に応用可能な原則と、それらを様々な業界で実践するイメージを示しています。

まとめ

BESSが消費者から選ばれる理由を分析した結果、以下のキーポイントが明らかになりました:

  1. BESSは「住むより楽しむ」という明確なコンセプトを掲げ、住宅を機能性の観点からではなく、感性や体験価値の観点から再定義することで独自の市場を創造している
  2. 体験型展示場「LOGWAY」を通じた実体験の提供が、消費者の感性に直接訴えかけ、理性的判断を超えた情緒的なつながりを生み出している
  3. DIYやカスタマイズを促進する設計思想が、顧客の創造欲求や達成感を満たし、単なる消費ではなく共創関係を構築している
  4. 先輩オーナーとのコミュニティ形成やSNSでの交流促進が、ブランドを中心とした価値観の共有と帰属意識を強化している
  5. 自然素材の活用と経年変化を楽しむ姿勢が、環境意識の高まりや本質志向といった社会トレンドと合致している
  6. 「好き」という感情を入り口にした感性マーケティングが、理性的な機能比較を超えた独自の選択基準を確立している
  7. 住宅という「モノ」ではなく、そこでの暮らし方という「コト」に焦点を当てることで、製品そのものではなく体験全体の価値を訴求している

これらの要素が複合的に作用することで、BESSは住宅市場において独自のポジションを確立し、熱心なファンを獲得することに成功しています。

この事例から、マーケターは製品の機能的価値だけでなく、感性的価値や体験価値を重視し、顧客との共創関係構築を通じてブランドロイヤルティを高める戦略の重要性を学ぶことができます。また、体験型マーケティングやコミュニティ形成が、従来の市場カテゴリーを超えた新たな価値創造につながる可能性も示唆されています。

BESSの事例は、「何を売るか」ではなく「どのような体験を提供するか」という視点がこれからのマーケティングにとって不可欠であることを示す好例といえるでしょう。

出典:https://www.bess.jp/

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

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