バルミューダはなぜ高くても買われるのか分析してみた - 勝手にマーケティング分析
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バルミューダはなぜ高くても買われるのか分析してみた

バルミューダ 企業を勝手に分析
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みなさんはバルミューダの商品を持っていますか?バルミューダは家電を中心に販売している会社ですが、2021年にスマートフォンを販売し、非常に話題になりました。バルミューダはこれまでオーブンレンジやトースター、扇風機、スマートフォンを作って販売しており、自宅をおしゃれにしたいという人なら1つはバルミューダのプロダクトを持っているのではないでしょうか。今回そんなバルミューダがなぜ売れるのかを勝手に分析していきます。

tomihey
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私もケトルやオーブンレンジを持っています。

バルミューダとは?

社名バルミューダ株式会社
本社〒180-0023 東京都武蔵野市境南町5-1-21
代表者代表取締役社長 寺尾 玄
設立2003年3月
資本金1,407,583,060円(2021年12月末現在)
売上高18,379百万円(2021年12月期実績 連結)
決算期12月
従業員数147名(2021年12月末現在)

バルミューダは生活家電やIT機器を販売している会社で、商品を購入されている方も多いのではないでしょうか。もともと代表の寺尾さんはロッグバンドを目指していましたが、その夢を諦め、自分でプロダクトデザインを学び2003年に前身の会社を起業しました。そこから7年ほどは鳴かず飛ばずで、倒産寸前だったと言われています。

転機は2010年に発売した「GreenFan」という扇風機がヒットし、そこから空気清浄機、トースター、ケトル、炊飯器、ライトなど様々な生活家電を生み出してきました。2020年には東証マザーズに上場をしています。そんなバルミューダが2021年にスマートフォンの市場に進出し非常に話題になりました。

続いてバルミューダのビジョン、ミッションを見ていきましょう。

ビジョン・ミッション

引用元:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08246/78701189/4588/4899/9311/84d429fd4327/140120220210585911.pdf

卓越した創意工夫、最良の科学技術を使って新しい価値を生み出すという文章ですが、私はバルミューダがこの言葉を忠実に実現していると思いました。

なぜなら、パナソニック、日立、東芝などの大手の競合がひしめく家電やIT機器の市場カテゴリに参入し、今までなかった視点でのプロダクトを生み出していて、一定の支持を得ているからです。

ビジネスをやる上で、戦う市場で非常に強い競合がいるケースは多いかと思います。そういった市場での戦い方のヒントを示してくれるケースとして、バルミューダはマーケターの良い教材になる企業と考えています。

さて、続いて業績を見ていきましょう。

業績

引用元:https://corp.balmuda.com/management/
引用元:https://corp.balmuda.com/management/

2021年度で売上183億円、粗利15億円、純利益10億円の業績で、最高益を出しており、増収増益を続けています。147人の従業員でこれだけの売上、利益を稼いでいるので非常に優秀な企業といえます。ちなみに2021年の人件費は12.8億円でしたので、平均800−900万円くらいの平均年収ではないかと予想できます。(割と高いですね)

では、どのような商品がどの地域で売れているのでしょうか。

引用元:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08246/78701189/4588/4899/9311/84d429fd4327/140120220210585911.pdf

キッチン家電が半分を占め、残りが空調関連、携帯端末関連、その他で売上を構成しています。キッチン家電で有名なのはケトルやトースター、オーブンレンジなどです。

また地域別の売上を見て見ましょう。

引用元:https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08246/78701189/4588/4899/9311/84d429fd4327/140120220210585911.pdf

日本が135億円と全体の70%強を占めますが、海外も50億円弱と全体の30%弱の売上を叩き出しています。決算資料によると、2022年度は海外比率が向上していますので、海外への展開を強めていく傾向と見て取れます。

続いて、生活家電市場、IT機器(スマートフォン)市場で具体的にどのような評価を得られているのかを見ていきます。

どれくらいヒットしているのか

人気と言われるバルミューダのプロダクトのカテゴリを価格ドットコムの2022年8月売れ筋ランキングで見てみました。

■トースター

1位Aladdin グラファイト トースター 2019年モデルAladdin
2位BALMUDA The Toaster K05ABALUMUDA
3位こんがり倶楽部 EQ-AA22象印
引用元:https://kakaku.com/kaden/toaster/ranking_2116/

■オーブンレンジ

1位石窯ドーム ER-XD3000東芝
2位HMR-FT183日立
3位ヘルシーシェフ MRO-S7Z日立
13位BALMUDA The Range K04ABALUMUDA
引用元:https://kakaku.com/kaden/microwave-oven/ranking_2115/

■ケトル

1位ティファール xジャスティン プラス 1.2L KO490ティファール
2位タイガー魔法瓶 5SAFE+ PCM-A080タイガー
3位ティファール ディスプレイ コントロール 1L KO8548JPティファール
9位BALMUDA The Pot K07A 8位BALUMUDA
引用元:https://kakaku.com/kaden/electric-kettle/ranking_2126/

■扇風機

1位アイリスオーヤマ PCF-SDC15Tアイリスオーヤマ
2位Dyson Pure Hot + Cool HP00ISNDyson
3位シャープ PJ-N3DSシャープ
37位バルミューダ The GreenFan EGF-1700-WK [ホワイトxブラック]BALUMUDA
引用元:https://kakaku.com/kaden/fan/ranking_2152/

これを見る限りでは、各カテゴリでトップを走っているほど爆発的に売れているわけではなさそうです。当たり前といえば当たり前ですが、バルミューダは万人に受けるプロダクトではなく、一定の層に受けるプロダクトを作っていると言えます。

ではどのような人をターゲットとしているのでしょうか。ここからはマーケティングのフレームワークで有名なWho,What,Howに沿って見ていきたいと思います。

誰のどのような課題を解決できるか(Who)

市場カテゴリ

市場カテゴリとは、各プロダクトがどういった市場で戦っているかですが、バルミューダの有名プロダクトが属しているカテゴリはこちらになります。

  • 電子ケトル市場
  • 扇風機市場
  • オーブントースター市場
  • オーブンレンジ市場
  • スマートフォン市場

ここで重要なのは、バルミューダは各市場でシェアNo1を目指しているわけではないということです。つまり、電子ケトル市場であれば、その中でティファールを買う層と、バルミューダを買う層は性質や特徴が異なります。バルミューダを買う層の中で最大のシェアを取っていく想定をしているはずです。

では、バルミューダを買う方について深ぼりしていきます。

まずバルミューダ自体の値段から考えていきます。基本的に相場よりも高い価格設定がされておりますので、ある程度家電にお金をかけられる方じゃないと購入の検討まで至らないかと思います。

また、デザイン性が優れていることから他家電より高くても、保有することで実生活が便利かつ気持ちの面でも優越感を感じさせるプロダクトだと思っています。

よって、こんな方々がターゲットなのではないかと想像できます。

  • 夫婦共働きの30代、年齢的にもお金にも余裕が出てきたタイミングで住宅を購入し、さらに自分たちが求める生活を創造している方々
  • 夫婦のどちらか、もしくは双方がデザイン関係の仕事についており、世帯年収は高いわけではないが、少し無理をしてでも自分たちが気に入ったものを手に入れたい方々
  • 大学生、社会人なりたての娘や息子に少し良いものを持たせたいと思っている50代、60代の世帯年収1000万円強以上の夫婦

基本的には全世帯の平均所得金額の平均値、中央値は超えていて、生活にある程度余裕のある世帯に求められていると考えます。

引用元:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf

では、その方々は日常生活でどのような不や課題を感じ、バルミューダを購入するのでしょうか。

どのような不、課題

  • 平日の仕事が終わった後や休日の生活に癒やしやときめきが足りない。より便利で楽しいと思えるようにしたい
  • 家にこだわりを持ちたいが、今使っている生活家電が家の雰囲気を壊してしまっている。おしゃれで家の雰囲気にあう家電がほしい

基本的に、日常生活に致命的な不を感じ、それを解決するためにバルミューダを買うというものではありません。どちらかというと、よりよい生活にするために機能的に、情緒的に自分たちが満足がするプロダクトを少し高くても購入し、保有したいという欲を叶えてくれるのがバルミューダだと言えます。

どれくらいの人がターゲットで、どれくらい売れているのか

では、上記のような人は市場にどれくらいいるのか、そして想定の年間売上を計算してみましょう。ここではオーブンレンジを例に出してみます。

ここで使う年間売上を算出する計算式はシンプルです。

年間購入数=
(ターゲット人口数×認知率×配下率×過去購入率×エボークトセット率×年間購入率)×総購入回数×平均購入金額

この式は元P&Gのマーケター森岡毅さんが書かれた名著「確率思考の戦略論」の中で出てくる有名な式になります。

それぞれに数字を当てはめていきましょう。ここではあくまでも確からしい数字を入れ込み、売上を想像していきます。

売上=ターゲット総人数×購入割合×総購入回数×平均購入金額

  購入割合=認知率×配下率×M

   M=過去購入率×エボークトセットに入る率×年間購入率

指標名定義コントロール可否
ターゲット市場の人数約3,000万世帯25歳〜50歳の世帯数 ※政府の統計数字などから算出
認知数1,500万世帯50%上記世帯数のうち認知している数と率
配下数1,350万世帯90%家電量販店やECショップで購入できる数と率ある程度可
過去そのカテゴリの商品の購入数1215万世帯90%過去にそのカテゴリの商品を購入した数と率ある程度可
エボークトセット数60万世帯5%3−5つのブランド検討候補に入る数と率
年間購入数(ユニーク)18万世帯30%年間で購入される数と率
年間購入回数0.2回-1人の人がそのカテゴリの商品が年間に買われる数
平均購入単価50,000円-その商品の平均単価
年間想定売上18億円-その商品の年間想定売上

現状数字が特に公表されていないのであくまでも私の体感になりますが、年間想定売上18億円はおそらく大きくは外れてはいないのではないかと思います。市場全体を見ると約3000億円ほどの規模がある市場と見て取れるので、シェアはまだまだ伸ばす余地はありそうです。

またバルミューダは大体、10億円ー30億円のレンジで各プロダクトが売上を作っているのではないでしょうか。

続いて、ターゲットに対してどのような価値を提供しているのかをまとめていきます。ここの価値がどういうものかによって、市場でどれくらいの人を魅了できるのか、またどれくらい深く魅了できるのかが変わってきます。(つまり認知や配荷、過去そのカテゴリの商品の購入、エポークトセットなどの率が変わってきます)

どのような価値を提供しているのか(What)

特に公式サイトに乗っているわけではないので、こちらもいちユーザーとして想像していきます。

コアバリュー

  • 生活の利便性と心の豊かさの向上

機能的価値

  • 本当に必要な機能だけに絞ったプロダクトのため、シンプルで余計な思考を使わない
  • 直感的なUIUX

情緒的価値

  • 黒や白、ベージュを基調としたシンプルなカラー、かつ洗練されたデザインでインテリアとしても保有したくなる
  • 周りに見せたくなる、言いたくなる優越感や承認欲求を満たしてくれる

社会、環境的価値

  • 特になし

基本的にバルミューダはAppleに近しいポジションをとっているかと思われます。つまり、UIUXが洗練されていて見た目や形状の美しさやおしゃれさを売りにしていることから、保有している姿を皆に見られたいなどの自己の承認欲求を満たしてくれる商品と言えます。

この価値が競合や代替手段と比較したときに差別化ができており、唯一無二のポジショニングをとっているかどうかがビジネスの成果を大きく変えます。

競合プロダクトや代替品と比べて独自の価値になっているかは、配下数・過去そのカテゴリの商品の購入数・エボークトセット数・購入数などが変わってきます。

そして独自の価値を提供するためには、ブランド・エクイティの強化、製品パフォーマンス(機能)の強化、最適な価格の設定が必要と言われています。

ブランド・エクイティ:ブランドが持っている差別化され、独自のポジショニングがとれている資産

製品パフォーマンス:機能的価値。つまりユーザーの課題を機能的に解決できるプロダクトか

最適な価格設定:競合よりも高くでも消費者に支持される価格設定

バルミューダはどちらかというと製品パフォーマンスよりも、ブランド・エクイティの方に寄ったプロダクトであり、そこが優れているため、相場よりも高い価格設定をしても売れるのだと考えています。

では最後にHowで4Pについても触れていきます。

どのように提供しているのか(How)

価値(Customer Value)と製品(Product)

先述の通り、機能性は最低限にし、情緒的価値に7割型よっているプロダクトが多いように思えます。これはバルミューダのポジショニングの戦略であり、これこそが選ばれる理由になっているはずです。

コスト(Cost)と価格(Price)

バルミューダの価格はカテゴリの相場よりも1.2〜1.5倍ほどの価格であることが多いですが、それでも情緒的価値が高い分、情緒的価値を求める方には購入されるプロダクトとなっています。

利便性(Convenience)と流通(Place)

配下は基本は家電量販店、そしてECを通じたこの2大チャネルが多いようです。

コミュニケーション(Communication)とプロモーション(Promotion)

SNSでの保有欲や承認欲求をうまく掻き立てるプロダクトであること、刺さるターゲットは限定的であることから、自らマス広告やデジタル広告などはほとんど活用していないでしょう。

基本的におしゃれな人がインスタで使っているの見た、私も買おう、それをまたSNSに乗せる、また誰かが見て買うなどのSNSのUGC(ユーザージェネレートコンテンツ)により購買連鎖が発生していると思います。

ここがすごいよバルミューダのマーケティング

改めてバルミューダのすごさをまとめていきます。

Appleのプロダクトのようなシンプルな見た目とUIで構成され、生活を邪魔しないデザインとカラーを用意していることから、非常に所有欲、承認欲求を掻き立てるプロダクトになっています。

ただ、ユーザーとして少し残念なのが、機能性が十分ではないプロダクトも散見されるため、保有欲で買ったものの、実際に温めが弱かったり、本来家電として必要な課題解決ができないケースも実感しています。

良い意味で、7割の情緒的価値、3割の機能的価値が感じられるプロダクトですので、市場の中ではかなり差別化されており、独自のポジショニングをとっていると言えるのではないでしょうか。

ただし、顧客が求める必須の機能性が損なわれているプロダクトはPOP(顧客に検討してもらうための必須条件)を満たさないことになるためかなり注意が必要です。

まとめ

今回は家電界の異端児、バルミューダを分析してみました。個人的にはバルミューダにきちんと機能性がつき、価格が現在のものから大きく変わらなければ、家電業界で圧倒的なシェアも取れるのではないかと思っています。ただし大きなシェアを獲得しようとすると、万人に求められる機能やデザイン、価格となっていき、最終的にバルミューダが目指している世界観とは異なるプロダクトになりかねません。よって、今のプロダクトに少し機能性を改善してもらえればさらに今のファンが継続してくれると思うので、バルミューダのさらなる進化を期待しています。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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