はじめに
「なぜあの商品は売れているのか?」「どんな戦略があったのか?」――マーケターなら誰もが知りたいこの問いに、企業の決算資料は多くのヒントを与えてくれます。でも、数字の羅列を見ているだけでは、その背景にある戦略は見えてきません。
アシックスが2025年8月に発表した中間決算は、単なる「好決算」ではありません。2026年に掲げていた中期経営計画の目標を1年前倒しで達成する見込みとなり、通期の業績予想を大幅に上方修正しました。売上高は8,000億円、営業利益は1,360億円、営業利益率は17.0%という数字の裏には、緻密なマーケティング戦略と市場対応があります。
この記事では、アシックスの決算資料を「マーケター目線」で読み解き、全カテゴリー・全地域で成長を実現した背景にある戦略のポイントを抽出します。数字を追うのではなく、「なぜ」を深掘りすることで、あなたのマーケティング業務に活かせるヒントを見つけていきましょう。
アシックスってどんな会社?企業概要をサクッと理解

記事の本題に入る前に、アシックスという企業の基本情報を押さえておきましょう。
企業の基本プロフィール
項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | 株式会社アシックス |
ブランドスローガン | Sound Mind, Sound Body(健全な身体に健全な精神があれかし) |
主要事業 | スポーツシューズ・アパレル・用品の製造販売 |
主要カテゴリー | パフォーマンスランニング(P.RUN)、スポーツスタイル(SPS)、オニツカタイガー(OT)など |
グローバル展開 | 日本、北米、欧州、中華圏、オセアニア、東南・南アジアなど世界各地 |
アシックスは、ランニングシューズをコアとしながらも、近年はライフスタイル・ファッション要素を取り入れた「スポーツスタイル」や、ヘリテージブランドの「オニツカタイガー」など、多様なカテゴリーでブランドを展開しています。つまり、「ガチのランナー」から「おしゃれにスニーカーを履きたい人」まで、幅広い顧客層にアプローチしているんですね。
2025年中間決算のハイライト:数字で見る全体像
まずは決算のサマリーを表で整理しましょう。ここでは「何が起きたのか」を数字で押さえます。
2025年12月期 第2四半期(1-6月)連結業績
指標 | 前年同期実績 | 今期実績 | 増減率 | 為替影響除く増減率 |
---|---|---|---|---|
売上高 | 3,421億円 | 4,027億円 | +17.7% | +20.7% |
粗利益率 | 55.5% | 56.7% | +1.2ppt | - |
営業利益 | 589億円 | 811億円 | +37.5% | +40.6% |
営業利益率 | 17.2% | 20.1% | +2.9ppt | - |
中間純利益 | 422億円 | 536億円 | +27.0% | +30.8% |
見ての通り、すべての指標が前年を大きく上回っています。特に営業利益は+37.5%と大幅な伸び。為替影響を除いても+40.6%という驚異的な成長です。
2025年通期予想(上方修正後)
指標 | 前回予想(2月発表) | 今回予想(8月発表) | 増減 |
---|---|---|---|
売上高 | 7,800億円 | 8,000億円 | +2.6% |
営業利益 | 1,200億円 | 1,360億円 | +13.3% |
営業利益率 | 15.4% | 17.0% | +1.6ppt |
通期予想も上方修正されており、特に営業利益は160億円も上積みされています。この背景には、「想定以上に売れた」だけでなく、「収益性が高まった」という構造的な変化があります。
なお、2018年から連続の右肩上がりで、今期は過去最高の売上、営業利益となっていて絶好調となっています。

マーケティング観点での注目ポイント①:全カテゴリー成長の「掛け算戦略」
アシックスの今回の決算で最も注目すべきは、全カテゴリーが揃って成長しているという点です。マーケティングでよくある「あるカテゴリーの成長が別のカテゴリーを食う」というカニバリゼーション(共食い)が起きていないんですね。
カテゴリー別売上高の推移(第2四半期累計)
カテゴリー | 前年同期 | 今期実績 | 増減額 | 増減率 |
---|---|---|---|---|
パフォーマンスランニング(P.RUN) | 1,709億円 | 1,849億円 | +140億円 | +8.2% |
コアパフォーマンススポーツ(CPS) | 420億円 | 441億円 | +21億円 | +4.8% |
スポーツスタイル(SPS) | 459億円 | 673億円 | +214億円 | +46.4% |
オニツカタイガー(OT) | 438億円 | 658億円 | +220億円 | +50.1% |
ここで重要なのは、それぞれのカテゴリーが異なる顧客層・異なる市場をターゲットにしているということです。
なぜ「全方位成長」が可能なのか?
アシックスは各カテゴリーを明確に差別化し、それぞれに異なるマーケティング戦略を展開しています。
カテゴリー別のポジショニング戦略

つまり、同じ「アシックス」というブランドの下でも、それぞれのカテゴリーが異なる市場を攻めているわけです。これは「ブランドポートフォリオ戦略」の好例といえます。
スポーツスタイルとオニツカタイガーの50%成長の秘密
特に目を引くのが、スポーツスタイルとオニツカタイガーの約50%という高成長です。この2つに共通するのは、「機能性」だけでなく「デザイン性」や「ストーリー」を前面に押し出している点です。
スポーツスタイルの戦略

スポーツスタイルは、2000年代のアーカイブをベースにした「VINTAGE TECH」シリーズや、「GEL-QUANTUM」「GEL-NYC」といった、機能とファッションを掛け合わせたモデルが好調です。
決算資料によれば、第2四半期の3ヶ月間(4-6月)の売上は前年同期比で+43.0%。これは単にスニーカーブームに乗っただけではなく、トレンドサイクルの早いスニーカー市場において、複数の商品群を持つことでリスクを分散していることが勝因です。
VINTAGE TECHが好調を維持しつつ、MODERNサイロのGEL-NYCやVIS-TECHのKINETIC FLUENTも売上構成比を高めています。つまり、「一発屋」ではなく、継続的にヒット商品を生み出す仕組みがあるということですね。
オニツカタイガーのインバウンド戦略

オニツカタイガーの成長の大きな要因は、日本国内でのインバウンド需要です。決算資料によれば、日本での第2四半期(3ヶ月間)のオニツカタイガー売上は前年同期比で約2倍(+104.3%)に達しました。
オニツカタイガーは、日本発のヘリテージブランドとして、海外観光客にとって「日本でしか買えない特別感」があります。さらに、ロンドンのコベントガーデンやパリのシャンゼリゼ通りといった観光地への出店を進めており、グローバルでブランド認知を高めつつ、日本への観光時に購入してもらうという循環を作り出しています。
また、従来のスニーカーだけでなく、「TIGER LOAFER」のようなローファータイプの新商品を投入するなど、商品カテゴリーの拡張にも取り組んでいます。これにより、顧客の購買機会を増やしているわけです。
マーケターが学べるポイント
- カテゴリーごとに明確なターゲット・価値提案を設定することで、カニバリゼーションを防ぎつつ全体の成長を実現できる
- トレンドサイクルが早い市場では、複数の商品ラインを持ち、リスクを分散する
- インバウンド需要は、グローバルでのブランド認知向上と連動させることで効果が高まる
- 既存カテゴリーの商品拡張(スニーカー→ローファー)により、顧客の購買機会を増やせる
マーケティング観点での注目ポイント②:地域別の「現地最適化」戦略
アシックスのもう一つの強みは、全地域で増収を達成していることです。グローバル展開において、「どこかの地域が好調だけど、どこかは不調」というのはよくあるパターンですが、アシックスは全地域でプラス成長を実現しています。
地域別売上高(第2四半期累計)
地域 | 前年同期 | 今期実績 | 増減額 | 増減率 | 為替影響除く増減率 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 798億円 | 992億円 | +194億円 | +24.3% | - |
うち、アシックスジャパン | 451億円 | 611億円 | +160億円 | +35.4% | - |
北米 | 677億円 | 739億円 | +62億円 | +9.1% | +12.6% |
欧州 | 915億円 | 1,137億円 | +222億円 | +24.2% | +25.9% |
中華圏 | 530億円 | 620億円 | +90億円 | +16.9% | +20.0% |
オセアニア | 206億円 | 214億円 | +8億円 | +3.8% | +10.7% |
東南・南アジア | 176億円 | 235億円 | +59億円 | +33.4% | +33.8% |
日本:インバウンド需要とEC強化で+35%成長

日本国内では、アシックスジャパンが前年同期比+35.4%という高成長を達成しました。その最大の要因は前述のオニツカタイガーのインバウンド需要ですが、それだけではありません。
アシックスジャパンは、パフォーマンスランニングでも好調を維持しています。特に注目すべきは、世界最軽量クラスのレーシングシューズ「METASPEED RAY」や「METASPEED TOKYO」シリーズです。2025年9月の東京2025世界陸上に向けて、積極的にマーケティング投資を行っており、約100名のアシックス契約選手が出場予定となっています。
さらに、日本国内ではスクール事業の縮小という逆風もありましたが、それを補って余りある成長を実現しているのは、EC(Eコマース)とリテール(実店舗)の両輪での戦略があるためです。
決算資料によれば、2025年第2四半期のEC売上高は758億円(前年同期比+12.9%)に達し、全社売上の18.8%を占めています。日本国内でもECは順調に拡大しており、特にASICSアプリのリリース(2024年末)により、顧客との直接的な接点を強化しています。
北米:専門店とリテール戦略の両立
北米市場は、為替影響を除くと+12.6%の成長を達成しました。ここで注目すべきは、ランニング専門店での売上成長と、自社リテールの収益性改善を同時に実現している点です。
北米では、ランニング専門店(Run Specialty Stores)のシェアNo.1を目指す戦略を継続しており、METASPEEDシリーズなどの高付加価値商品へのフォーカスが功を奏しています。決算資料では、「戦略的な絞り込みがあるものの、ランニング専門店における売上成長、スポーツスタイルの増収、リテールの収益性改善などにより、営業利益率13.9%と力強く伸長」と記載されています。
つまり、「売上を追う」だけでなく「利益率を高める」という視点で戦略を組み立てているわけです。これは、不採算店舗の閉鎖や、ECへのシフトなど、チャネルミックスの最適化を進めた結果でしょう。
また、2025年上半期には米国関税対策として早期出荷を実現しており、サプライチェーンの柔軟性も成長を支える要因となっています。
欧州:パフォーマンスランニングの堅調な成長
欧州は+25.9%(為替影響除く)という高成長を達成しました。欧州ではパフォーマンスランニングが堅調に成長しており、特にアシックスジャパン、欧州、東南・南アジアで大幅に成長したと記載されています。
欧州市場の特徴は、ランニング文化が根付いており、機能性へのこだわりが強い点です。アシックスは、欧州のランナーに対して、METASPEEDシリーズやSUPERBLAST、NOVABLASTといった高機能ランニングシューズを訴求しており、これが売上を牽引しています。
また、スポーツスタイルも欧州で大幅増収(+51.7%、為替影響除く)しており、VINTAGE TECHなどのトレンド商品がファッション感度の高い欧州の消費者に受け入れられています。
中華圏:ローカル需要を捉える商品開発
中華圏は+20.0%(為替影響除く)の成長を達成しました。ここで重要なのは、**「ローカル需要を捉える商品が引き続き好調に推移し、+20.0%と大幅な増収を継続」**という記載です。
中華圏では、グローバルブランドであるアシックスが、現地の消費者ニーズに合わせた商品を投入しています。たとえば、中国では都市部のランニング人口が急増しており、ランニングクラブ「RUN+」でのイベント開催や、Chengdu World Heritage Marathonのプレレース期間中にローカル異業種ストアとのポップアップイベントを実施するなど、コミュニティ形成とブランド体験に力を入れています。
また、中国ではDTC(Direct to Consumer)比率が高まっており、販売価格適正化やチャネルミックスの良化により、営業利益率も24.2%(前年同期比+1.7ppt)と改善しています。
マーケターが学べるポイント
- グローバル展開では、各地域の市場特性に合わせた「現地最適化」が重要
- インバウンド需要は、国内市場の成長ドライバーになり得る(特にヘリテージブランド)
- チャネルミックスの最適化(専門店・リテール・EC)により、売上と利益率の両方を改善できる
- 早期出荷などのサプライチェーンの柔軟性が、外部環境変化(関税など)への対応力を高める
- ローカル市場では、コミュニティ形成とブランド体験が重要な差別化要因になる
マーケティング観点での注目ポイント③:デジタル×リアルの統合戦略
アシックスの成長を支えるもう一つの重要な要素が、デジタルとリアルの統合戦略です。単なる「ECサイトの強化」ではなく、顧客体験全体を設計し直している点が特徴的です。
EC売上とOneASICS会員数の成長

決算資料によれば、2025年第2四半期のEC売上高は758億円で、前年同期比+12.9%の成長を達成しました。また、OneASICS会員数は2,077万人(前年同期比+33%)に達しています。
EC売上とOneASICS会員数の推移
指標 | 2023年Q2 | 2024年Q2 | 2025年Q2 | 前年比 |
---|---|---|---|---|
EC売上高 | 496億円 | 671億円 | 758億円 | +12.9% |
OneASICS会員数 | - | 1,562万人 | 2,077万人 | +33% |
ここで重要なのは、単にECで売るだけでなく、会員化して顧客との継続的な関係を構築している点です。OneASICS会員になると、以下のようなベネフィットがあります:
- 会員限定のイベントや体験型IR説明会への参加
- 新商品の先行販売
- パーソナライズされた商品レコメンド
- ランニングデータの記録・分析(Run Analyzerなど)
つまり、「買う」だけでなく「使う」「体験する」「コミュニティに参加する」というエンゲージメントを高める仕組みを作っているわけです。
東京2025世界陸上での体験型マーケティング
2025年9月に開催される東京2025世界陸上では、アシックスは大会のパートナーとして、大規模なマーケティング施策を展開しています。
東京2025世界陸上でのアシックスの取り組み
施策 | 内容 |
---|---|
Tokyo: Speed: Race(5月開催) | アスリートとともに新商品「METASPEED TOKYO Series」を試すレースを開催。36ヶ国、125名のトップアスリートが参加 |
丸の内エリア:ASICS MOVE STREETの開催 | 「Feel like an athlete」をコンセプトに、アスリートを身近に感じられるアクティベーションを実施 |
国立競技場周辺:ASICS HOUSEの開催 | アスリート向けホスピタリティーセンターを設置。日本オリンピックミュージアムを貸切り、アシックスのヒストリー展示などを予定 |
FAN ZONEでのブース出展 | METASPEED TOKYO Seriesの展示ブースを設置。来場者様にアシックスの最新テクノロジーに触れていただく機会を創出 |
これらの施策に共通するのは、「商品を見せる」だけでなく「体験させる」「アスリートとの接点を作る」という点です。特に、トップアスリートとの接点は、ブランドへの憧れや信頼感を高める上で非常に効果的です。
約100名のアシックス契約選手が世界陸上に出場予定であり、テレビ中継などでアシックスのシューズが映ることで、ブランド認知とパフォーマンスイメージの向上が期待できます。

DISCOVER. by ASICSでの新しい顧客体験
アシックスは、2025年6月から10月にかけて、アシックスグランフロント大阪で「DISCOVER. by ASICS」という体験型アクティビティを期間限定で開催しています。
これは、ブランドスローガン「Sound Mind, Sound Body」を感じるアクティビティで、アシックスの調査に基づき、心身にポジティブな影響を与える運動時間「15分9秒」を体験できるよう設計されています。
つまり、「商品を売る」のではなく「ブランドの世界観を体験してもらう」ことで、長期的なブランドロイヤルティを構築しようとしているわけです。これは、特に「健康意識識別」と位置づけた層(スポーツを日常的に行っていない層)に対して、ブランドメッセージを伝えるための施策といえます。
マーケターが学べるポイント
- ECは単なる販売チャネルではなく、顧客データを収集し、パーソナライズされた体験を提供する場として活用する
- 会員プログラムは、購買だけでなく「体験」「コミュニティ」「データ活用」を含む総合的な設計が重要
- 大型イベントは、ブランド認知だけでなく、顧客との直接的な接点を作る機会として活用する
- 「売る」のではなく「体験してもらう」ことで、長期的なブランドロイヤルティを構築できる
- ブランドの世界観を体験型コンテンツで表現することで、商品の機能を超えた価値を伝えられる
数字の背景にある「戦略転換」を読み解く
ここまで、カテゴリー別、地域別、デジタル施策という切り口でアシックスの戦略を見てきましたが、これらの施策の背景には、アシックス全体の戦略転換があります。
粗利益率の改善:高付加価値商品へのシフト
決算資料を見ると、粗利益率が前年同期比で+1.2ppt改善し、56.7%に達しています。これは単に「値上げした」わけではなく、高付加価値商品へのシフトとチャネルミックスの良化によるものです。
具体的には:
- METASPEEDシリーズなど、高価格帯のパフォーマンスランニングシューズの販売拡大
- VINTAGE TECHなど、ファッション性の高いスポーツスタイル商品の好調
- オニツカタイガーのインバウンド需要(値引きの少ない正価販売が中心)
- DTC(Direct to Consumer)比率の向上による卸マージンの削減
このように、「安く売る」のではなく「価値を高めて適正価格で売る」という方向に舵を切っているわけです。
販管費率の低減:効率化と戦略的投資
販管費率は前年同期比で△1.7pptと改善し、36.6%となりました。これは、増収に伴う売上連動コストの増加を抑えつつ、人的資本投資や広告宣伝費は積極的に投資していることを意味します。
具体的には:
- プロフィットシェア(人的資本投資の強化)による人件費の増加:+36億円
- デジタル施策やWS向け施策関連の広告宣伝費の増加:+72億円
- 売上連動コストの増加:+150億円
しかし、これらの増加を吸収して販管費率を下げられたのは、在庫管理の強化によるコスト最適化や、不採算店舗の閉鎖などの効率化施策を並行して進めたためです。
在庫効率の改善:DIO147日への短縮
決算資料によれば、連結のDIO(平均棚卸資産回転期間)は147日と、前年同期比で△11日短縮されています。これは、適切な在庫管理により、キャッシュフローと収益性を改善していることを示しています。
特に注目すべきは、相互関税対策として米国向け早期出荷を実現しつつ、在庫効率を改善している点です。これは、需要予測の精度向上やサプライチェーンの最適化が進んでいることを示唆しています。
株主還元の強化:配当性向の引き上げ
アシックスは、2025年の中間配当を12円(前回予想10円から+2円)、期末配当を16円(前回予想14円から+2円)に引き上げ、年間配当を28円(前回予想26円から+2円)としました。
さらに、2月に発表した200億円の自己株式取得に加え、今回は業績の上方修正もあり、年間配当予想の増額を発表しました。
これは、中期経営計画2026で掲げた株主還元方針(3年間で総還元性向50%)を、1年前倒しで達成する見込みとなったことを示しています。つまり、「稼ぐ力」が高まったことで、株主還元も積極化しているわけです。
マーケターが学べるポイント
- 粗利益率の改善は、高付加価値商品へのシフトとチャネルミックスの最適化で実現できる
- 販管費は「削減」ではなく「効率化」。戦略的な投資(人材・広告)は継続しつつ、無駄を省く
- 在庫効率の改善は、需要予測の精度向上とサプライチェーンの最適化がカギ
- 株主還元の強化は、企業の「稼ぐ力」の向上を示すシグナルであり、マーケティング投資の成果の表れ
まとめ:アシックスの決算から学ぶマーケティング戦略のKey Takeaways
アシックスの2025年中間決算を、マーケター目線で深掘りしてきました。最後に、今回の決算から学べるマーケティング戦略のポイントを整理しましょう。
学び | 具体的な施策 | あなたの業務への活かし方 |
---|---|---|
全方位成長のカテゴリー戦略 | カテゴリーごとに明確なターゲット・価値提案を設定し、カニバリゼーションを防ぐ | 自社の商品ラインナップを見直し、それぞれのターゲット顧客と提供価値を明確化する。重複する場合は、差別化要素を強化する |
地域別の現地最適化 | 各地域の市場特性に合わせた商品開発・マーケティング施策を展開 | グローバル展開時は、「グローバル戦略」と「ローカル戦略」のバランスを取る。現地のコミュニティ形成やブランド体験を重視する |
高付加価値商品へのシフト | 機能性とデザイン性を兼ね備えた高価格帯商品の投入 | 「安く売る」のではなく、顧客に提供する価値を高めて「適正価格で売る」戦略を検討する |
デジタル×リアルの統合 | ECと会員プログラムを連携させ、顧客データを活用したパーソナライズ体験を提供 | 自社のEC戦略を「販売チャネル」から「顧客体験プラットフォーム」へとアップデートする |
体験型マーケティングの強化 | 大型イベントやブランド体験施設を通じて、「商品を売る」のではなく「ブランドを体験してもらう」 | 商品説明だけでなく、ブランドの世界観やストーリーを体験できるコンテンツを設計する |
在庫効率とサプライチェーン最適化 | 需要予測の精度向上と早期出荷などの柔軟な対応 | 需要予測とサプライチェーンの連携を強化し、外部環境変化に柔軟に対応できる体制を構築する |
戦略的投資と効率化の両立 | 人材・広告には積極投資しつつ、不採算店舗閉鎖などで効率化 | 「コスト削減」ではなく「戦略的投資」と「無駄の排除」を区別し、メリハリのある予算配分を行う |
アシックスの決算資料から見えてきたのは、「全方位成長」を実現するための緻密な戦略設計です。単に「良い商品を作る」だけでなく、カテゴリー別・地域別の戦略を組み合わせ、デジタルとリアルを統合し、顧客体験全体を設計している点が、マーケターとして大いに参考になります。
特に重要なのは、「なぜ売れたのか?」という問いに対して、複数の要因を掛け算で考える視点です。オニツカタイガーの成長は、「インバウンド需要」だけでなく、「グローバルでのブランド認知向上」「商品カテゴリーの拡張」「体験型マーケティング」などが複合的に作用した結果です。次の決算も非常に楽しみな会社です。
あなたのマーケティング業務においても、単一の施策ではなく、複数の施策を組み合わせた「掛け算の戦略」を意識することで、より大きな成果につながるはずです。
今回の記事が、あなたのマーケティング戦略を考える上での一助となれば幸いです。次回の決算発表でも、ぜひ「マーケター目線」で読み解いてみてください!
参考資料