マーケティング担当者として、あなたは「なぜ消費者は数あるスキンケアブランドの中からAesopを選ぶのか」という疑問を持ったことはありませんか?高価格でありながら世界中で熱狂的な支持を得るAesopの成功には、単なる製品の良さを超えた戦略的な仕組みがあります。
本記事を読むことで、以下の3つの具体的なメリットを得ることができます:
- プレミアムブランドの価値創造メカニズムを理解し、自社の高付加価値戦略に応用できる
- 体験型マーケティングの実践手法を学び、顧客との深い絆を築く方法を習得できる
- 一貫したブランド哲学の威力を知り、持続的な競争優位性の構築法を発見できる
それでは、オーストラリア発のプレミアムスキンケアブランドAesopが、なぜこれほど多くの消費者に愛され続けているのか、その秘密を多角的に解明していきましょう。
1. Aesopの基本情報

ブランド概要
Aesop(イソップ)は、1987年にオーストラリア・メルボルンで創業されたプレミアムスキンケアブランドです。創業者のデニス・パフィティス(Dennis Paphitis)が「肌の手入れを含めた人生の豊かさの追求」というビジョンを掲げ、ヘアサロンから始まった同ブランドは、現在では世界的な高級美容ブランドとして確固たる地位を築いています。
企業データ
項目 | 詳細 |
---|---|
企業名 | Aesop Pty Ltd(日本法人:イソップ・ジャパン株式会社) |
設立年 | 1987年(日本進出:2006年) |
創業者 | デニス・パフィティス(Dennis Paphitis) |
本社所在地 | オーストラリア・メルボルン |
日本オフィス | 東京都渋谷区神宮前2-2-22 青山熊野神社ビル3F |
従業員数 | 約1,236人(グローバル) |
親会社 | ロレアル・リュクス事業部(2023年より) |
URL | https://www.aesop.co.jp/ |
主要製品・サービスラインナップ
Aesopは、スキンケア、ヘアケア、ボディケア、フレグランスの4つのカテゴリーで70種類以上の製品を展開しています。代表的な製品には、フェイシャルクレンジングオイル、レスレクション ハンドバーム、ボディバーム 08などがあり、いずれも植物由来成分と科学的配合を融合した独自のレシピが特徴です。

業績データ
2023年にロレアルが約3,300億円(25億3,000万ドル)で買収したAesopは、近年驚異的な成長を遂げています。2022年の売上高は5億3,700万ドル(約700億円)で前年比21%増を記録し、2012年の売上2,800万ドルと比較すると約19倍の成長を達成しています。特徴的なのは店舗での売上が6割を占めていることです。店舗体験に重きを置いているこのブランドはブレない軸を持っていると言えます。
また、今後世界約400店舗を展開し、ロレアルは同ブランドを「ビリオネアブランドクラブ」(売上10億ドル超)へ押し上げることを目標としています。
これほどまでにAesopが選ばれ続ける理由について、以下で詳しく解明していきましょう。
2. 市場環境分析
まずは、Aesopが所属しているプレミアムスキンケア市場が、顧客のどのような課題を解決しているのかを考えてみましょう。
市場定義:顧客のジョブ(Jobs to be Done)
プレミアムスキンケア市場が解決する主要な顧客のジョブは以下の通りです:
ジョブカテゴリー | 具体的内容 | 優先度・量 |
---|---|---|
機能的ジョブ | 肌の健康維持、エイジングケア、肌トラブルの解決 | 高・大 |
感情的ジョブ | 自分への投資による満足感、リラックス・癒し体験の獲得 | 高・中 |
社会的ジョブ | 洗練されたライフスタイルの表現、美意識の高さのアピール | 中・中 |
象徴的ジョブ | 自分らしさの表現、価値観(環境・品質重視)の体現 | 高・小 |
近年の美容意識の高まりと可処分所得の増加により、これらのジョブの優先度は全般的に上昇傾向にあります。
競合状況
プレミアムスキンケア市場における主要プレイヤーとその特徴は以下の通りです:
ブランド | 価格帯 | 特徴・強み |
---|---|---|
SK-II | 超高級 | 独自成分ピテラ、アジア発祥の権威性 |
キールズ | 高級 | 薬学的バックグラウンド、カスタマイズ体験 |
Le Labo | 高級 | 香水主力、カスタマイズ調香体験 |
ロクシタン | 中高級 | プロヴァンス的世界観、手頃なライン展開 |
SHIRO | 中高級 | 日本発、国内嗜好に根ざした香り展開 |
この中でAesopは、「体験型プレミアム」という独自のポジションを確立しています。
POP/POD/POF分析
次に、このカテゴリーで戦って勝っていくために必要な要素を整理していきましょう。
Points of Parity(業界標準として必須の要素)
- 高品質な成分と安全性の保証
- 効果的なスキンケア機能
- ブランドストーリーと世界観の構築
- 高級感のあるパッケージデザイン
- 専門的な接客・カウンセリング
- オンライン・オフライン両方での販売展開
Points of Difference(差別化要素)

- 店舗そのものを芸術空間とする体験設計
- 各店舗独自のオリジナルデザイン
- 植物由来成分の年ごとの変化という自然性
- ユニセックス展開による性別を超えた訴求
- 格言入りパッケージによる知的好奇心の刺激
- 「逆張り」マーケティング(広告を最小限に抑制)
Points of Failure(市場参入の失敗要因)
- 一貫性のないブランド体験
- 高価格に見合わない品質・効果
- スタッフの商品知識・接客スキル不足
- 店舗デザインの独自性欠如
- 環境・倫理配慮の不足
Aesopは、これらのPOPを確実に満たしながら、特に「体験価値」という独自のPODを最大限に活用することで市場での優位性を築いていることがわかります。
PESTEL分析
次に、プレミアムスキンケア市場が各視点で見たときに追い風なのか、向かい風なのかを見ていきましょう。
要因 | 機会/脅威 | 具体的内容 |
---|---|---|
Political(政治) | 機会 | 化粧品規制の国際標準化、自由貿易協定による関税削減 |
Economic(経済) | 機会 | 富裕層の増加、美容への支出増加、中国市場の拡大 |
Social(社会) | 機会 | 美容意識の高まり、ジェンダーレス志向、体験消費重視 |
Technological(技術) | 機会/脅威 | デジタル接客技術、パーソナライゼーション vs ECシフト |
Environmental(環境) | 機会/脅威 | サステナビリティ需要 vs 環境規制強化 |
Legal(法的) | 脅威 | 化粧品成分規制の厳格化、動物実験禁止の拡大 |
総合的に見ると、プレミアムスキンケア市場は追い風環境にあり、特に体験価値と環境配慮を重視するAesopにとって有利な環境が整っていると言えるでしょう。
3. ブランド競争力分析
続いて、Aesop自体の強み、弱みは何で、それらが今の外部環境の中でどう活かしていけるのか、いくべきなのかを見ていきましょう。
SWOT分析
Strengths(強み)
- 37年間一貫したブランド哲学と美意識
- 世界最大手ロレアルによる資本・流通力
- 各店舗がアート作品級の独自デザイン
- 植物由来と科学の融合による高品質製品
- クルエルティフリー・ヴィーガン対応の倫理性
- ユニセックス展開による幅広いターゲット訴求
Weaknesses(弱み)
- 高価格による限定的な顧客層
- 店舗中心のビジネスモデルの拡張性限界
- ブランド認知度の地域格差
- ECチャネルでの体験価値再現の困難
- 競合他社と比較した商品ラインナップの狭さ
Opportunities(機会)
- アジア市場(特に中国)での高成長ポテンシャル
- ジェンダーレス美容トレンドの拡大
- サステナビリティ意識の高まり
- ロレアルのグローバル流通網の活用
- デジタル技術を活用した新しい体験価値の創出
Threats(脅威)
- ECシフトによる実店舗価値の相対的低下
- プレミアム市場での競争激化
- 原材料価格の上昇圧力
- 若年層の価格感度の高まり
- パンデミック等による店舗営業への影響
クロスSWOT戦略
SO戦略(強みを活かして機会を最大化)
- ロレアルの流通網を活用したアジア市場での攻勢的展開
- ユニセックス特性を活かしたジェンダーレス市場の開拓
- サステナビリティ強化による差別化拡大
WO戦略(弱みを克服して機会を活用)
- デジタル技術を活用した新しい体験価値でECチャネル強化
- アジア市場向けの価格戦略・商品ラインの多様化
ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)
- 独自の店舗体験価値でECシフトに対抗
- ロレアルの規模を活かした原材料調達の安定化
WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)
- オンライン体験の充実によるパンデミック等への耐性向上
- エントリーライン導入による顧客層拡大の検討
この分析から、Aesopは独自の体験価値という強みを活かしながら、デジタル化への対応と市場拡大という方向性で弱みを克服していくことが重要だと考えられます。
4. 消費者心理と購買意思決定プロセス
続いて、Aesopの顧客はなぜこのブランドを選ぶのか、その購買行動の構造を複数パターンで見ていきましょう。
オルタネイトモデル分析
パターン1:都市部在住の洗練志向ビジネスパーソン
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 銀座や表参道の直営店で月1回程度、スキンケア製品を購入 |
きっかけ | 仕事のストレス、肌の調子の変化、同僚からの推薦 |
欲求 | 忙しい日常の中で上質なセルフケア時間を確保したい |
抑圧 | 高価格への躊躇、「本当に効果があるのか」という不安 |
報酬 | 洗練された空間での非日常体験、肌質の改善実感、知的好奇心の満足 |
パターン2:美意識の高いクリエイティブ職従事者
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 新製品発売時やギフト需要時に、珍しい製品を探して購入 |
きっかけ | SNSでの話題、店舗の美しいデザインとの偶然の出会い |
欲求 | 他とは違う個性的な選択で自分らしさを表現したい |
抑圧 | 「高いものを買っている」という周囲の目、効果への疑問 |
報酬 | 独特のデザイン・香りによる創作意欲の刺激、「センスの良い選択」という自己満足 |
パターン3:環境・倫理志向の若年富裕層
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | オンラインで成分を詳しく調べてから、実店舗で体験購入 |
きっかけ | 動物実験フリー・ヴィーガン製品への関心、サステナビリティへの意識 |
欲求 | 自分の価値観に合致する製品で美容ケアをしたい |
抑圧 | 本当に環境に良いのかという疑問、他の選択肢との比較 |
報酬 | 価値観の体現による自己一致感、品質への納得、長期的安心感 |
このオルタネイトモデル分析から分かることは、Aesopの顧客は単に「良いスキンケア」を求めているのではなく、「自分の価値観やライフスタイルを体現できる体験」を求めているということです。
本能的動機
続いて、このブランドが人間のどの本能に刺さっているのかも整理していきます。
Aesopは特に以下の本能と欲望に訴求しています:
生存本能への訴求
- 安全確保:厳選された天然成分による肌の健康維持
- 品質保証:クルエルティフリー・ヴィーガン対応による安心感
- 長期的利益:投資に値する高品質製品による将来の肌状態への投資
生殖本能(社会的魅力)への訴求
- 魅力向上:上質なスキンケアによる肌質改善と自信獲得
- 社会的地位:プレミアムブランドの選択による洗練された印象
- 差別化:他とは違う選択による個性的魅力の演出
8つの欲望との関連
欲望 | Aesopでの具現化 | 顧客体験での現れ方 |
---|---|---|
有する | 高品質製品の所有による安心感と満足感 | 琥珀色ボトルのコレクション欲求 |
高める | 洗練されたブランド選択による自己価値向上 | 「センスの良い人」という自己認識 |
属する | 美意識の高いコミュニティへの帰属感 | Aesop愛用者同士の共感と絆 |
決する | 自分なりの美容哲学に基づく主体的選択 | 情報収集した上での確信的購入 |
伝える | 製品体験や発見の喜びの共有欲求 | SNSでのブランド体験シェア |
結論として、Aesopが刺さるのは主に「有する」「高める」「属する」という欲望であり、これらは生存と生殖の両方の本能に関連する社会的成功と自己実現の欲求に深く根ざしていると考えられます。
5. ブランド戦略の解剖
これまで整理した情報をもとに、結局Aesopはどういう人のどういうジョブに対して、なぜ選ばれているのか、そしてどうその価値を届けているのかをまとめていきます。
Who/What/How分析
パターン1:プレミアム体験志向層向け戦略
Who(誰に):美意識が高く可処分所得に余裕のある都市部在住者(25-45歳)
Who(JOB):忙しい日常の中で上質なセルフケア時間と非日常的な癒し体験を得たい
What(便益):五感すべてに訴える洗練された美容体験と確実なスキンケア効果
What(独自性):店舗そのものがアート空間である唯一無二の体験価値
What(RTB):37年間一貫したブランド哲学、世界的建築家との協業、厳選された植物由来成分
How(プロダクト):植物由来成分と科学の融合による高機能スキンケア製品
How(コミュニケーション):広告を最小限に抑え、店舗体験と口コミに集中
How(場所):各地の文化を反映した独自デザインの直営店舗
How(価格):プレミアム価格帯(3,000円〜10,000円以上)による品質保証の明示
この戦略は、「モノ消費からコト消費へ」のトレンドを先取りし、製品購入を超えた体験価値の提供を核としています。
パターン2:価値観表現志向層向け戦略
Who(誰に):サステナビリティ・倫理性を重視する知識層(20-40歳)
Who(JOB):自分の価値観に合致する製品選択で自己一致感を得たい
What(便益):クルエルティフリー・ヴィーガン・環境配慮による良心の平安
What(独自性):美容効果と倫理性を高次元で両立させた希少なポジション
What(RTB):PETA認証、リサイクル可能パッケージ、透明性の高い成分開示
How(プロダクト):動物由来成分完全不使用、環境配慮型包装材
How(コミュニケーション):哲学的メッセージと知的好奇心を刺激するコンテンツ
How(場所):価値観の合致する顧客が集まるライフスタイル提案型店舗
How(価格):価値に見合う適正価格という透明性のある価格設定
成功要因の分解
このブランドが成功する要因を整理します。
競合や代替手段がある中での独自性 Aesopの最大の独自性は「プロダクトではなくブランド体験そのものを売る」ことにあります。店舗設計からBGM・香り・接客・パッケージに至るまで一貫した世界観で顧客を包み込み、「ただ良い化粧品を買った」以上の価値を提供しています。これは模倣困難かつ顧客に求められ、明確なトレードオフ(高コスト)を伴う真の差別化要素です。
コミュニケーション戦略の特徴 Aesopは「逆張りマーケティング」という独特の手法を採用しています。テレビCMや大規模広告を避け、製品品質と店舗体験で顧客を惹きつけ、自然な口コミ拡散を促進します。また、インフルエンサーマーケティングも敢えて行わず、ブランド世界観の純粋性を保持しています。
価格戦略と価値提案の整合性 高価格設定に対して「なぜ高いのか」の明確な説明(直接仕入れ、厳選素材、アートレベルの店舗等)を提供し、「安かろう悪かろう」の不安を払拭しています。価格が品質と体験の証明として機能する価格戦略です。
カスタマージャーニー上の差別化ポイント
段階 | 差別化ポイント | 具体的施策 |
---|---|---|
認知 | 高級ホテルアメニティとの提携による体験型認知 | リッツ・カールトン等での製品展開 |
検討 | 店舗の美的魅力による偶然の遭遇演出 | 建築雑誌にも掲載される店舗デザイン |
購入 | 丁寧なカウンセリングによる最適製品選択 | 「家にお客様を招く」ような接客方針 |
使用 | 格言入りラベルによる知的刺激の提供 | パッケージに記された哲学的メッセージ |
共有 | SNS映えする製品デザインでの自然な拡散 | 琥珀色ボトルの統一された美しさ |
顧客体験(CX)設計の特徴 Aesopの顧客体験は「知的好奇心を持つ都市生活者の隠れ家」というコンセプトで一貫しています。店舗に足を踏み入れた瞬間から製品を使い終わるまで、すべてのタッチポイントで「Aesopらしさ」を感じられる設計となっています。
見えてきた課題
同時に、外的内的要因からくる課題も見えてきます。
外部環境からくる課題と対策
- ECシフトの加速:店舗体験価値の核心部分をデジタルでどう再現するか
- 対策:VR技術活用、オンライン限定体験コンテンツの開発
- 競合のキャッチアップ:他ブランドによる体験価値戦略の模倣
- 対策:独自性のさらなる深化、新たな体験領域の開拓
内部環境からくる課題と対策
- スケーラビリティの限界:個別設計店舗による拡張性の制約
- 対策:コアエッセンスを保持しつつ効率化できる店舗フォーマット開発
- 価格感度の高い顧客層へのアプローチ:高価格による顧客層の限定
- 対策:エントリーライン導入の慎重な検討、体験価値の明確化
成功要因と課題のまとめとして、Aesopは「体験価値」という新しい競争軸を確立した先駆者であり、その独自性を保持しながら時代変化に適応していくことが持続的成長の鍵と言えるでしょう。
6. 結論:選ばれる理由の総合的理解
総合的に見て、競合や代替手段がある中でAesopはなぜ選ばれるのでしょうか。
消費者にとっての選択理由
機能的側面
- 植物由来成分と科学的配合の融合による確実なスキンケア効果
- クルエルティフリー・ヴィーガン対応による安全性と倫理性
- 年ごとに微妙に異なる香りや色という自然の変化を楽しめる独自性
- ユニセックス展開による性別を問わない使いやすさ
感情的側面
- 五感すべてに訴える洗練された店舗空間での非日常体験
- 格言入りパッケージによる知的好奇心の刺激と満足
- 「発見」と「選択」の喜びを味わえる宝探し的な買い物体験
- 投資に値する高品質製品への確信による安心感と満足感
社会的側面
- 「センスの良い人」「美意識の高い人」というアイデンティティの獲得
- 環境・動物愛護への配慮という価値観の体現
- Aesop愛用者というクリエイティブ・知的コミュニティへの帰属感
- SNSでの情報共有による社会的承認の獲得
市場でのブランドの独自ポジション
Aesopは、プレミアムスキンケア市場において以下のような独自のポジションを確立しています:
- 「プロダクト販売」から「体験提供」への転換:従来の製品中心からブランド体験中心への市場構造変革
- 「機能性」と「感性」の両立:科学的根拠と美的感性を高次元で融合
- 「グローバル」と「ローカル」の調和:統一されたブランド哲学と各地域文化への適応
- 「高級」と「親しみやすさ」の共存:プレミアム品質と「家にお客様を招く」ような温かい接客
競合との明確な独自性
Aesopの独自性は以下の3つの要素で構成され、これらすべてが顧客に求められ、トレードオフを伴い、模倣困難な真の競争優位性となっています:
- 体験アーキテクチャの独自性:店舗デザインから接客、パッケージまでの一貫した世界観設計
- 価値観の体現性:サステナビリティと品質の両立による顧客の価値観実現
- 知的刺激の提供:格言、芸術、哲学を通じた知的好奇心の満足
持続的な競争優位性の源泉
Aesopの持続的競争優位性は以下の要素から生まれています:
- 37年間培った一貫したブランド哲学:創業から変わらない判断基準による信頼性
- ロレアルの資本力とグローバル流通網:規模の経済と範囲の経済の活用
- 体験価値の模倣困難性:単一要素ではなく総合的体験設計の複雑性
- 顧客主導の口コミマーケティングサイクル:低コスト高効果の自己増殖型マーケティング
- 「逆張り」戦略による差別化:業界常識に反する戦略による独自ポジション確立
7. マーケターへの示唆
我々マーケターはAesopの成功例から何を学べるのでしょうか。
再現可能な成功パターン
1. 「体験価値」を核とした差別化戦略 製品機能だけでなく、購買プロセス全体を通じた顧客体験の設計に注力することで、競合との明確な差別化を実現できます。Aesopの事例では、店舗空間、接客方法、パッケージデザイン、さらには哲学的メッセージまでが一体となって独自の世界観を構築しています。
2. 「逆張り」マーケティングの効果的活用 業界の常識に敢えて逆らうことで、独自のポジションを確立できます。Aesopが大規模広告やインフルエンサーマーケティングを避け、製品品質と体験価値に集中したように、従来手法に頼らない戦略が強い差別化を生む可能性があります。
3. 一貫したブランド哲学の威力 創業から37年間ブレない判断基準を持つことで、顧客の深い信頼と愛着を獲得できます。短期的な売上よりもブランドの長期的価値を重視する姿勢が、結果的に持続的な成長をもたらしています。
業界・カテゴリーを超えて応用できる原則
1. 「なぜ高いのか」の透明な説明責任 プレミアム価格戦略を取る場合、その理由を明確に説明することで顧客の納得感を獲得できます。Aesopの「直接仕入れ」「厳選素材」「アートレベルの店舗」といった具体的根拠の提示は、どの業界でも応用可能です。
2. 顧客の「価値観実現」支援 製品・サービスの購入を通じて顧客が自分の価値観を表現・実現できる設計は、深いブランドロイヤルティを生み出します。環境配慮、倫理性、美意識といった価値観の体現支援は業界を問わず有効です。
3. 「モノからコト」の体験設計 物理的な製品販売から、その製品を中心とした体験価値の提供へのシフトは、デジタル化時代において特に重要な差別化軸となります。
筆者が当ブランドのマーケターだったらやること
もし筆者がAesopのマーケターであれば、以下の施策を検討します:
1. デジタル体験価値の創造 VR/AR技術を活用し、オンラインでも店舗体験に近い感覚を提供できるプラットフォームを開発します。香りや触感をデジタルで表現する技術の導入により、ECチャネルでも差別化を図ります。
2. サブスクリプションモデルの慎重な導入 Aesopの世界観を損なわない形で、定期配送サービスを検討します。季節ごとの特別な体験や、パーソナライズされたカウンセリング付きの上級会員制度などで、継続的な顧客関係を構築します。
3. アートプロジェクトとの協業拡大 現在も実施しているアート分野との協業をさらに発展させ、「Aesop×現代アート」の企画展示や限定製品の開発を通じて、ブランドの文化的価値をより一層高めます。
4. 次世代向けエデュケーションプログラム 若年層向けに、美容と哲学、環境と科学を学ぶワークショップを開催し、ブランドの価値観を体験的に理解してもらう機会を創出します。
これらの施策は、Aesopの核となる体験価値と一貫したブランド哲学を保持しながら、時代の変化に適応していく戦略として有効だと筆者は考えます。
8. まとめ
Aesopが世界中で選ばれ続ける理由は、単なる「高品質なスキンケア製品」を超えた、統合的なブランド体験の提供にあります。本記事の分析から得られるキーポイントは以下の通りです:
• 体験価値の革新:製品販売から体験提供への転換により、模倣困難な独自性を確立
• 一貫したブランド哲学:37年間ブレない判断基準が顧客の深い信頼と愛着を獲得
• 「逆張り」マーケティング:業界常識に逆らう戦略で独自ポジションを確立
• 価値観の体現支援:顧客の美意識や環境意識を製品選択を通じて実現可能にする設計
• 五感統合的アプローチ:視覚、嗅覚、触覚、聴覚すべてに訴える店舗空間の創造
• 知的刺激の提供:格言入りパッケージや哲学的メッセージで知的好奇心を満足させる仕組み
• 持続的投資思考:短期的売上より長期的ブランド価値を重視する経営姿勢
読者の皆様が次にとるべきアクションとして、まずは自社の製品・サービスが顧客に提供している「体験価値」を棚卸しし、その独自性と一貫性を検証することから始めることをお勧めします。Aesopの成功は特別な才能や莫大な資金によるものではなく、顧客の本質的なニーズを深く理解し、それに対して一貫したブランド体験を提供し続けたことにあります。どの業界・企業でも応用可能な普遍的な原則を、ぜひ自社の戦略に活かしてください。
出典:
- ロレアル公式サイト:買収関連プレスリリース https://www.loreal.com/ja-jp/japan/press-releases/group/
- Aesop公式サイト:企業情報・ブランド理念 https://www.aesop.com/jp/r/about/