イオンは、日本最大の小売業グループであり、総合スーパー、専門店、金融サービスなど多岐にわたる事業を展開しています。本記事では、イオンの小売事業に着目してなぜ顧客から選ばれるのかを探っていきます。
イオンとは

基本情報
- 社名:イオン株式会社
- 創業:1758年(源流)、1969年にジャスコ株式会社として設立
- 本社:千葉県千葉市美浜区
- 業態:総合小売業、純粋持株会社
事業展開
主な事業領域
- 小売業
- ディベロッパー事業
- 金融サービス
- 国際事業
特徴的な戦略
ブランド戦略
- 「トップバリュ」プライベートブランドの展開
- 多様な業態(総合スーパー、ディスカウントストア、専門店)
- グローバル展開(アジア190カ国以上)
経営数値
売上・規模(2024年2月期)
- 連結営業収益:約9.5兆円
- グループ企業数:309社
- 従業員数:約16万人
歴史的変遷
- 1758年:岡田屋創業
- 1969年:ジャスコ株式会社設立
- 1989年:イオングループに名称変更
- 2001年:イオン株式会社に社名変更
- 2008年:純粋持株会社体制に移行
経営理念
基本理念
「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」
イオンが戦う小売市場の概要
市場規模と成長性

市場規模
- 2022年:133兆8,000億円
- 2030年予測:114兆9,770億円(2022年比約14%減)
出典元:矢野経済研究所
小売市場のPLESTE分析
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的(Political) | ・地方創生政策による出店機会 ・インバウンド需要の回復 | ・規制強化(大型店舗の出店規制など) |
法的(Legal) | ・キャッシュレス決済の推進 ・食品ロス削減法による差別化 | ・労働法改正による人件費増加 |
経済的(Economic) | ・EC市場の拡大 ・プレミアム商品需要の増加 | ・景気後退による消費低迷 ・円安によるコスト増 |
社会的(Social) | ・健康志向の高まり ・シニア市場の拡大 | ・少子高齢化による市場縮小 ・都市部への人口集中 |
技術的(Technological) | ・AI・IoT活用による効率化 ・オムニチャネル化の進展 | ・サイバーセキュリティリスク ・新技術導入コストの増大 |
環境的(Environmental) | ・サステナブル商品の需要増 ・再生可能エネルギーの活用 | ・環境規制の強化 ・気候変動による調達リスク |
小売市場のPOP/POD/POF分析
Points of Parity (POP)
業界標準として求められる基本要素
要素 | 説明 |
---|---|
多様な商品ラインナップ | 顧客ニーズに応える幅広い品揃え |
価格競争力 | 競合他社と比較して妥当な価格設定 |
店舗の利便性 | アクセスの良さ、駐車場、営業時間 |
基本的な顧客サービス | 返品対応、接客、レジ対応 |
Points of Difference (POD)
小売業における独自の競争優位性
要素 | 説明 |
---|---|
プライベートブランド | オリジナル商品の開発と展開 |
デジタル技術の活用 | オムニチャネル戦略、デジタル決済 |
顧客体験のパーソナライズ | データ分析に基づく個別化サービス |
サステナビリティへの取り組み | 環境配慮型の商品・サービス |
Points of Failure (POF)
小売業における潜在的なリスク
要素 | 潜在的影響 |
---|---|
人口減少 | 市場規模の縮小 |
デジタル対応の遅れ | 顧客離れ、競争力低下 |
人件費・原材料費の高騰 | 収益性の圧迫 |
在庫管理の非効率 | 過剰在庫、機会損失 |
小売市場は2030年に向けて人口減少に伴い規模の減少が予想されています。その中で成功するためには:
- デジタル技術の積極的な導入
- パーソナライズされた顧客体験の提供
- サステナビリティへのコミットメント
- 柔軟な事業モデルの構築
が重要となります。
イオンを選ぶ顧客の合理(オルタネイトモデル分析)
きっかけ
質問 | 内容 |
---|---|
何をしている時か(What) | 日常の買い物、週末のまとめ買い、家族との買い物 |
どこか(Where) | ショッピングモール、スーパーマーケット、駅前店舗 |
誰といるか(Who) | 家族、友人、一人で |
どんな時間(When) | 週末、夕方、給料日後 |
欲求
機能的課題 | 情緒的課題 | 社会的課題 |
---|---|---|
多様な商品を一箇所で購入したい | 買い物を楽しみたい | 地域コミュニティに貢献したい |
価格が安い商品を買いたい | ストレス解消したい | 環境に配慮した消費をしたい |
便利に買い物をしたい | 新しい体験をしたい | 地産地消を実践したい |
品質の良い商品を選びたい | 家族との時間を楽しみたい | 健康的な生活を送りたい |
抑圧
抑圧の種類 | 具体的内容 |
---|---|
物理的抑圧 | 時間の制約、予算の限界 |
心理的抑圧 | 選択肢の多さによる決定困難 |
社会的抑圧 | 家族の要望、節約への圧力 |
報酬
報酬の種類 | 具体的内容 |
---|---|
ポジティブ報酬 | トップバリュによる高品質な商品 |
ネガティブ報酬 | 無駄な出費の回避、効率的な買い物 |
イオンは、顧客の日常的な買い物ニーズに対して、コストパフォーマンスと利便性を兼ね備えた、総合的な買い物体験を提供することで選ばれています。
イオンの自社分析:総合小売業としての強みと課題
SWOT分析
強み(Strengths)
- 多様な業態を持つ総合小売グループ
- 全国に広がる店舗網(約21,000店舗)
- 強力なプライベートブランド「トップバリュ」
- 金融事業(イオン銀行、クレジットカード)との相乗効果
- 環境・社会貢献活動への積極的な取り組み
- デジタル化への積極投資(イオンデジタル)
- グローバル展開(特にアジア地域)
弱み(Weaknesses)
- 総合スーパー事業の収益性低下
- 地域によって異なるブランドイメージ
- EC事業の遅れ
- 複雑な組織構造による意思決定の遅さ
- 人材育成・確保の課題
- 店舗オペレーションの効率化の遅れ
- 一部事業の不採算性
機会(Opportunities)
- オムニチャネル戦略の強化
- 健康志向・環境配慮型商品の需要増
- シニア市場の拡大
- デジタル技術を活用した新サービス開発
- 海外市場(特にアジア)での成長
- M&Aによる新規事業領域の拡大
- 地方創生への貢献による地域との連携強化
脅威(Threats)
- EC市場の急速な拡大
- 少子高齢化による市場縮小
- 競合他社との価格競争激化
- 人手不足と人件費の上昇
- 消費者の購買行動の変化
- 自然災害・パンデミックによる事業中断リスク
- 規制強化(環境規制、労働規制など)
戦略提案
SO戦略(強みを活かして機会を最大限に活用する戦略)
- デジタルとリアル店舗を融合したオムニチャネル戦略の強化
- 健康・環境配慮型のプライベートブランド商品の拡充
- シニア向けサービス(宅配、介護サポートなど)の展開
- アジア市場での多様な業態展開の加速
WO戦略(弱みを克服して機会を活かす戦略)
- EC事業の強化とデジタルマーケティングの推進
- 地域特性に合わせた店舗ブランディングの最適化
- AI・IoTを活用した店舗オペレーションの効率化
- 若手人材の育成と登用によるイノベーション促進
ST戦略(強みを活かして脅威に対抗する戦略)
- 多様な業態を活かした顧客ニーズへの柔軟な対応
- プライベートブランド強化による価格競争力の向上
- 金融サービスとの連携によるロイヤルティプログラムの強化
- 環境・社会貢献活動を通じたブランド価値の向上
WT戦略(弱みと脅威の最小化を図る戦略)
- 不採算事業の見直しと経営資源の最適配分
- 組織構造の簡素化による意思決定の迅速化
- デジタル人材の積極採用と既存従業員のスキルアップ
- リスク管理体制の強化(BCP策定、サイバーセキュリティ対策)
イオンのWho/What/How分析
パターン1:ファミリー層向け
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 30-50代の子育て世帯 |
Who(JOB) | 家族の多様なニーズに一度に応える、週末のレジャー |
What(便益) | ワンストップショッピング、家族で楽しめる空間 |
What(独自性) | 多様な業態の複合施設、イオンモールの体験型コンテンツ |
What(RTB) | 全国展開の大型商業施設、多様なテナントミックス |
How(プロダクト) | 総合スーパー、専門店、シネマ、フードコートなど |
How(コミュニケーション) | テレビCM、チラシ、ファミリー向けイベント |
How(場所) | 郊外の大型ショッピングモール |
How(価格) | 中価格帯、お買い得感のある価格設定 |
一言で言うと:「家族の週末を彩る総合エンターテインメント」
パターン2:シニア層向け
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 60代以上のアクティブシニア |
Who(JOB) | 健康的な生活、地域コミュニティとの交流 |
What(便益) | 健康・美容関連商品、地域密着型サービス |
What(独自性) | シニア向け専門サービス、地域イベントの開催 |
What(RTB) | 地域に根ざした店舗網、健康・美容関連の品揃え |
How(プロダクト) | 食品スーパー、ドラッグストア、カルチャー教室 |
How(コミュニケーション) | 地域情報誌、健康セミナー、SNS |
How(場所) | 住宅地近くの中小型店舗 |
How(価格) | 品質重視の適正価格、ポイント還元 |
一言で言うと:「シニアの健康的で豊かな生活をサポート」
パターン3:都市部の若年層向け
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 20-30代の都市部在住者 |
Who(JOB) | トレンド商品の購入、時短・便利なサービス |
What(便益) | 最新トレンド商品、デジタルサービスの充実 |
What(独自性) | オムニチャネル戦略、デジタル決済の推進 |
What(RTB) | イオンデジタルの技術力、専門店との提携 |
How(プロダクト) | 都市型スーパー、ファッション専門店、EC |
How(コミュニケーション) | SNS広告、インフルエンサーマーケティング |
How(場所) | 都心部の小型店舗、オンラインストア |
How(価格) | トレンド商品は適正価格、日用品は低価格 |
一言で言うと:「都市生活者のデジタルライフをサポート」
イオンが顧客から選ばれる5つの理由
1. 圧倒的な利便性の提供
特徴
- 大量仕入れによる低価格販売
- 好立地な店舗配置
- 商品配置の分かりやすさ
- 気軽に通える店舗設計
2. 顧客囲い込み戦略
ポイントシステムの徹底活用
- WAON/イオンカードによる顧客ロイヤルティ構築
- キャッシュレス決済比率70%
- 毎月の特典日(20日・30日は5%OFF)
- ポイント還元による顧客満足度向上
3. 規模の経済性
競合他社との差別化
- 大量仕入れによるコストリーダーシップ
- プライベートブランド「トップバリュ」の展開
- グループ全体での相互送客
- 多様な事業領域でのシナジー効果
4. 総合的な顧客体験
多角的なサービス提供
- 小売以外の金融サービス
- デジタルとリアルの融合
- 地域密着型のサービス
- 環境・社会貢献活動
5. フレキシブルな事業展開
市場変化への適応
- 多様な業態(GMS、SM、ドラッグストア)
- アジア・都市・シニア・デジタルシフト戦略
- 顧客セグメントに応じた柔軟な対応
マーケターが学ぶべき戦略的示唆
- セグメンテーションの重要性
- 顧客層に応じた最適な価値提案
- 柔軟な戦略立案
- 顧客体験の総合的設計
- デジタルとリアルの融合
- 継続的な顧客価値の創造
- データ活用とパーソナライゼーション
- 顧客データに基づく意思決定
- 個別最適化されたサービス設計
- イノベーションへの継続投資
- 技術・サービスへの積極的投資
- 市場変化への迅速な対応
- ブランドの一貫性と柔軟性
- コアバリューの維持
- 環境変化に応じた戦略調整
まとめ
イオンの成功は、顧客理解と柔軟な戦略展開にあります。マーケターは、顧客の潜在的ニーズを徹底的に理解し、テクノロジーと人間洞察を融合させることで、持続的な競争優位を生み出すことができるのです。ぜひ成功企業から学んでいきましょう。