ビジネス、マーケティングの領域でABMというワードが出てきてかなり経ちますが、みなさんはABMをきちんと理解した上で適切に実行できていますでしょうか?本記事ではABMの全体像から、その中で活躍するマーケティング組織の作り方をお話ししていきます。
筆者の体験に基づく正攻法をお話します!
ABMとは
ABMとはAccount Based Marketingの略語で、アカウントと言われる企業や顧客を決めて、戦略的にアプローチするマーケティング、営業手法のことです。日本では大体2016年頃から注目されるようになり、どの企業も一度は試したり、触れてみたことは多いのではないでしょうか。基本的には特定セグメント向けの商品を扱っているBtoB企業が活用していることが多いですが、BtoC企業でも富裕層をターゲットしたビジネスなどでは活用している手法になります。
通常のマーケティングや営業手法との違い
ABMの対義語、つまり通常のマーケティング手法はLBM(Lead Based Marketing)などと言われたりしますが、このワードはABMと対比する時のみ使われるイメージです。LBMは基本的に不特定多数のリードを獲得し、提案をしていくマーケティング、営業手法です。一方ABMは特定のアカウントに対してアプローチをしかけていく形です。表にするとこんな比較になります。
ABM(Account Based Marketing) | LBM(Lead Based Marketing) | |
ターゲットの広さ | 狭い | 広い |
1ターゲットから得られる収益の高さ | 高い | 低-中 |
ターゲットの解像度 | 高い | 低い |
リードタイム | 長い | 短い |
メリット
ABMのメリットはLBMでは攻略しずらい層にアプローチができる点です。具体的には幅広いマスマーケティングやデジタルマーケティングでは全く反応をしてくれない企業や個人に対して、手法を絞って、そのターゲット向けにカスタマイズして訴求やコンテンツを届けられます。またABMで狙うターゲットは、関係性を築いてしまえばそのターゲットから獲得できる収益がLBMよりも高いことが多いため、特定ターゲットに対してリソースを投下しても、多くのリターンが得られることになります。ただし逆に言うと、通常よりも収益が高いと見込めないターゲットの場合はABMアプローチをしかけていくべきかはLBMの場合と比較して検討してみてください。
デメリット
ABMにはもちろんデメリットもあります。デメリットはリードタイムの長さとアプローチ手法が限定されることがあります。
リードタイムに関しては、ABM手法で狙うターゲット層にもよりますが、BtoBでは基本的にはエンタープライズ企業(大企業)を狙う時に活用されますので、その場合はSME(中小企業)を狙うと比べると断然にリードタイムは長くなります。また、よくあるのが銀行や官公庁などを狙う際にも同様なことが言えます。リードタイムが長いということは、マーケティングや営業のリソースも長期間かけ続けることになります。その工数や工期に対してリターンが望めなければそもそもビジネスとして狙うべきターゲットではないのです。
次のデメリットとしてアプローチの手法が限定される点です。これもターゲット層によりますが、基本的にABMアプローチを取るということは、幅広いマスマーケティングやデジタルマーケティングなどでは接触できない層になりますので、検索広告やディスプレイ広告、SNS広告などの広告媒体はほとんど効かない場合が多いです(一部ターゲッティングの設定によっては薄く活用するケースもあり)。そのため、ターゲットが普段どこで情報を収集していて、どんなメディアや媒体に触れて、どんなデバイスでどんな行動をしているのかなど行動特性を把握する必要があります。そして、大抵の場合、その業界特有の媒体や専門的な外部業者が存在していますので、そういった媒体、業者と組んで効率的なアプローチ方法を構築していく必要があります。その時によく取られる具体的な手法はメルマガ広告、イベント開催、手紙、DM、アウトバウンドコール、紹介などがよく候補にあがります。
まずは、このメリット、デメリットを理解し、メリットがデメリットを上回るように施策の改善していかなければなりません。つまりリードタイムは長く、手法は限られるけど、収益性が高いターゲットに対しての限定したアプローチにリソースを集中することで全体のROIが良いという絵を描けるようになることが求められます。その想定ができて初めて社としてトライしてみようとなるはずです。
続いて、ABM戦略をとった企業の中で、マーケティング組織は主にどういう役割を持ち、何をすることが事業成長につながるのかを説明していきます。
ABM戦略の中でのマーケティング組織
マーケティング組織がよく落ち入る状況
まず、ABM戦略の中でマーケティング組織を運営し始めると、最初は下記のような状況に落ち入りやすいと言われています。
- マス広告、デジタル広告、SEOなどの手法ではターゲットにアプローチできず、事業への貢献ができない。
- それに応じて人がやめていく。
なぜこれらが起きるのかというと、上記の通り通常のLBMで大活躍をしていたマーケティング手法のほとんどが効かなくなる、もしくは一部しか機能しなくなります。なぜならターゲットはそれらの手法上で情報を集めることが少ないためです。そして事業への貢献ができず、手法を絞っていくと、マス広告、広告運用、SEOなどプロフェッショナル人材は他に活躍の場所を見出していきますので基本離職をしていきます。
そのため、マーケティング組織自体の転換、そして個人のスキルと意識の転換の両方が必要だと考えています。つまり会社としてABM戦略をとると決めた以上は、マーケティング組織もそれに応じた変化をつけなければ上記のような状態に落ち入ってしまいます。
マーケティング組織のあるべき姿
では、ABM戦略の中でマーケティング組織はどうあるべきなのでしょうか。重要な点は大きく2点です。
- 一般的なデジタルマーケティングが効かないビジネスでも、マーケティング組織の活動が事業貢献につながっており、なくてはならないチームになっている状態
- マーケティング組織が事業貢献、そして自己成長を感じ、チーム全員がこのチームにいることがメリットであると感じている状態
そのために具体的にやるべきことはこちらになります。
Who、Whatの観点
- ターゲット企業へ接触した時にマーケティングインタビューを欠かさず実施し、ターゲット企業の課題、キーパーソンや組織構成、企業や組織のミッション、行動特性などの解像度を上げ続けること
- 常にターゲットリストが最新に更新されており、どの人のリードが足りないか、ぞれぞれどういう状況かが、マーケティング組織もセールス組織も明確にわかる状態を作ること
Howの観点
- ターゲットが触れる情報メディアや媒体、イベントが見つけること
- アウトバウンドアプローチである手紙やDM、コールの仕組みを作ること
例えば私はある企業にて下記のようなことを実施しました。
例)顧客の状態ごとにやるべきマーケティングのHow
顧客の状態 | マーケティング組織がやるべきこと | 推奨する訴求 | 推奨コンテンツ | 推奨デリバリー |
---|---|---|---|---|
認知 | ターゲット層が見る媒体への継続的な掲載 | 事例、目指す世界観 | 記事、動画 | 業界メディア、手紙、DM、紹介 |
見込み獲得 | ABMアプローチでターゲット企業のリードの獲得 | 事例、提供価値 | 事例紹介のウェビナー、ebook | 業界メディア、手紙、DM、紹介 |
見込み育成 | インサイドセールスと連携してメールとコールで見込みを育成 | 事例、提供価値、世界観 | 事例紹介のウェビナー、ebook、記事 | メール、コール |
商談獲得 | 商談獲得につながる訴求が載ったコンテンツを作成し、インサイドセールスにデリバリーしてもらう | 事例、提供価値、ソリューション | 汎用提案資料 | コール、メール |
受注 | 受注につながる訴求が載ったコンテンツを作成し、インサイドセールスにデリバリーしてもらう | 事例、提供価値、ソリューション、費用対効果 | カスタマイズ提案資料 | コール、メール、訪問、オンライン提案 |
これ自体は一例でしかなく、それぞれ誰でも回る仕組みを作ることが重要です。適切なコンテンツを誰でも作れる仕組み、適切な手紙デリバリーが誰でもできる仕組み、誰がみてもどこで歩留まりが起きているのかわかる仕組みなど。再現性のある施策を構築できるかどうかが事業成長の肝ですので、ぜひ取り組んでいただければと思います。
ABMのマーケティング組織の作り方
ここまでで具体的にやるべきことについて触れてきましたが、最後にABM戦略の中で活躍するマーケティング組織の作り方についてまとめていきます。ポイントは事業貢献と自己成長です。
事業貢献
マーケティング組織が活動したことにより発生したコストに対して生み出したリターンがどれくらいあり、社全体のROIやUE(ユニットエコノミクス)から適正値にいるかどうかを常にウォッチする必要があります。限られたアプローチ手法、かつ他組織と連携して価値を届けていくため、ここを曖昧にしていると日々のやりがいや達成感が薄れていってしまいます。マーケティング組織はいくらかけて、リターンはいくらだと明確に費用対効果の算出をして、マーケティング組織の存在証明をし続ける必要があります。ここがABM戦略をとると曖昧になりがちなので要注意です。
自己成長
事業への貢献と同時に、自身のキャリアや成長につながっているかどうかも、持続的に成果の出せる組織作りには非常に重要です。なぜなら今やっていることが今後役に立たず、価値を見出せないものと感じてしまったらモチベーションの低下、そして成果に直結してしまうからです。日々組織、個人として何ができるようになって、これは市場で求められる、価値のあるスキルなのかを実感していく必要があります。
どちらもマーケティング組織の責任者が担う重要な点です。この2点を意識しながら、さらに具体的に施策方針、KGI・KPI、予算、体制、会議体、スケジュールなどを決めていく必要があります。細かくお話ししていると長くなってしまうので簡易的に例をまとめています。
決めるべき項目 | 具体的例 |
---|---|
施策方針 | 特定のターゲットの解像度を上げつつ、刺さる提供価値を、UEやROIが合う適切な届け方をしていくこと |
KGI・KPI | KGI:事業計画 KPI:ターゲットリード数、商談数、またはそのCPA |
予算 | UEやROIが合う形で必要な予算を算出 |
体制 | ・ターゲットへの解像度を高めリストの作成、更新するチーム ・ターゲットに対して刺さるコンテンツと、効率的に届けられるデリバリー手段の仕組みを構築するチーム |
会議体 | ・ターゲットの情報やターゲットリストへのアプローチ状況、事業への貢献度合いを共有、相談するMTG ・コンテンツとデリバリーの内容を決めて進捗の確認、軌道修正をしていくMTG ・スキルの向上に関しての共有、相談MTG |
スケジュール | 最もUEやROIが高いと見込める手法を優先的に実行してPDCAを回していく |
これはあくまでも一例になりますので、自社のABM戦略に沿った形でマーケティング組織がどうあることが正解なのかをぜひ熟考してみてください。ここに時間を使うかどうかで成果や組織の持続性は変わってきます。
まとめ
今回は、ABM戦略の中でどうしたらマーケティング組織が活躍できるのかをまとめてみました。どの企業も幅広いターゲットを狙うフェーズの時もあれば、特定の大手企業を狙おうとするフェーズの時にもあるかと思います。よって大半の企業は一度はチャレンジする戦略がABMであると言えます。そして、その中で活躍するマーケティング組織を作れているかどうかは、事業を大きく伸ばすエンジンを作れているかどうかに大きく直結します。
まだABM戦略を徹底してやったことがない、もしくはまだ成果が出ていないという企業がいたらぜひ本記事を参考にトライいただければと思います。