はじめに:マーケターの新たな転換点
あなたは今、マーケティング業界の大きな転換点に立っています。AIツールが日常業務に深く浸透し、従来のマーケティング手法が根本から変化している中で、本当に効果的な戦略は何なのでしょうか?この疑問に答えてくれるのが、世界的なマーケティング企業HubSpotが2025年1月に発表した調査レポート「The State of Marketing 2025」です。
このレポートは、2025年のマーケティング戦略の全体像を明らかにしています。今回は、このレポートから読み取れる重要なトレンドと実践的な戦略について、マーケティング担当者の皆さんが明日からでも使える形で詳しく解説していきます。
調査レポートはどなたでもダウンロードいただけますので、詳細を知りたい方はこちら。
レポート概要解説

HubSpotが2025年1月に発表したこのレポートは、現代マーケティングの転換点を捉えた重要な調査であると筆者は感じました。調査は、北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアの1,200人のマーケティングリーダーを対象とし、2024年10月に実施されました。調査対象は広告・マーケティング、IT、金融、ヘルスケア、小売など23の業界にわたり、業界横断的なトレンドを明らかにしています。
レポートの核心は「AIファーストなビジネス環境におけるマーケターへのガイド」です。単なる技術活用法ではなく、AI時代におけるマーケティングの根本的変化と対応戦略を示すことに重点を置いています。特に注目すべきは、テクノロジーの進歩と人間中心のマーケティングアプローチの融合を強調している点です。
時代背景とレポートの実践的価値
レポートが全体として捉えているのは、ChatGPT登場からわずか2年で劇的に変化したマーケティング環境です。マーケターは急速にAIツールの使用と最適化を求められるようになり、データ品質管理やプロンプトエンジニアリングなど新しいスキルセットの習得が必要になっています。
同時に、デジタルネイティブなミレニアル・Z世代が主要な意思決定者となり、ブランドの価値観と社会的責任を重視する傾向が強まっています。レポートの最大の価値は、こうした複雑な変化を包括的に捉え、理論と実践の両方から具体的な指針を提供している点にあります。各トレンドについて背景説明から実装方法まで示し、実際の企業事例も豊富に含まれているため、マーケターが明日から実践できる戦略ガイドとして機能しているでしょう。
では調査レポートの重要箇所をかいつまんで解説して参ります。
AI時代に求められるマーケティングの根本的変化
「トラフィック獲得」から「注目獲得」への転換

従来のマーケティングは「スケーリング・トラフィック(トラフィック拡大)」に重点を置いていました。しかし、2025年のマーケティングは「スケーリング・アテンション(注目の拡大)」へと大きく転換していると述べています。この変化の背景には、以下のような構造的な変化があります。
アテンション・エコノミーの台頭
現代の消費者は、かつてないほど多くの情報とコンテンツに囲まれています。単純にウェブサイトへのトラフィックを増やすだけでは、真の顧客エンゲージメントは獲得できません。重要なのは、顧客の「注意」と「関心」を引きつけ、維持することです。
マーケティングの新しい構造図
従来のアプローチ | 2025年のアプローチ |
---|---|
トラフィック重視 | 注目度重視 |
直接的な成果測定 | 間接的な影響評価 |
量的拡大 | 質的向上 |
一方向のコミュニケーション | 双方向のエンゲージメント |
AI活用の現実と可能性
調査によると、マーケターの92%がAIが自分の役割に影響を与えていると回答しており、そのうち3分の1以上が「非常に大きな影響」を感じています。しかし、同時に課題も明らかになっています。
AI活用の現状と課題
- 47%のマーケターが「AIをマーケティング戦略に活用する方法を明確に理解している」
- 47%のマーケターが「AIの影響を測定する方法を明確に理解している」
- 54%のマーケターが「AIツールの実装に圧倒されている」と感じている
この数字から読み取れるのは、AIツールの普及は進んでいるものの、戦略的な活用や効果測定においては、まだ多くのマーケターが学習段階にあるということです。今後、あって当然のスキルになりつつあるAIは日々学んでスキル化していく必要があると言えます。
2025年のマーケティング戦略5つの重要トレンド
トレンド1:ターゲット世代の大幅な変化
ミレニアル世代とZ世代が最優先ターゲットに
- B2Bマーケター:73%がミレニアル世代、33%がZ世代をターゲットとしている
- B2Cマーケター:74%がミレニアル世代、39%がZ世代をターゲットとしている
この変化が持つ意味は単なる年齢層の変更以上に深刻です。これらの世代は「デジタルネイティブ」として育っており、従来のマーケティング手法では効果的にアプローチできません。
新世代の特徴と対応策
これらの世代の特徴を理解することで、より効果的なマーケティング戦略を構築できます。
- 価値観重視:Deloitteの調査によると、Z世代の64%、ミレニアル世代の63%が環境に配慮した製品により多くの費用を支払う意向がある
- 真正性の追求:表面的なメッセージではなく、ブランドの本質的な価値を重視
- マルチチャネル利用:Z世代はTikTok、Instagram、YouTubeを、ミレニアル世代はYouTube、Facebook、Instagramを主に利用
トレンド2:ブランド主導のマーケティングへの回帰
ブランド認知度投資の大幅増加
調査結果によると、92%のマーケターが2025年にブランド認知度への投資を維持または増加すると回答しています。さらに注目すべきは、13%のマーケターが初めてブランド認知度に投資するということです。
ブランド価値の重要性の高まり
現代の消費者は、製品やサービスの機能的価値だけでなく、ブランドが体現する価値観や社会的責任にも注目しています。
- 社会的責任コンテンツの効果:65%のマーケターが、2024年にマーケティングキャンペーンで社会問題を取り上げることが効果的だったと報告
- 価値観の一致:4分の1のマーケターが「ブランドの価値観を反映するコンテンツ作成」を積極的に探求している
トレンド3:データドリブン戦略の必須化
データ活用の優先順位の変化
マーケティング業界の変化を調査した結果、上位5つの変化のうち2つがデータ関連であることが判明しています。これは、データドリブンなアプローチがもはや「あれば良い」ものではなく、「必須」のものになったことを意味します。
データドリブン戦略の具体的メリット
- ターゲットオーディエンスへのより効果的なリーチ(35%)
- マーケティング活動のROI向上(34%)
- メディアミックスのより効果的な計画(32%)
データ品質の課題と解決策
しかし、データドリブン戦略の実装には課題もあります。主な課題として、消費者の個人データ共有への抵抗、データ品質の低下、サードパーティークッキーの段階的廃止などのプライバシー規制の強化が挙げられます。
トレンド4:コンテンツリッチな未来の構築
採用予定の上位5つのマーケティング職種
順位 | 職種 | 割合 |
---|---|---|
1 | ソーシャルメディアコーディネーター | 16% |
2 | コンテンツクリエイター | 16% |
3 | ソーシャルメディアストラテジスト | 15% |
4 | クリエイティブディレクター | 14% |
5 | マーケティングデータアナリスト | 13% |
この採用傾向から明らかなのは、企業がコンテンツとソーシャルメディアに重点を置いたマーケティング戦略を構築しようとしていることです。
トレンド5:パーソナライゼーションの収益効果
圧倒的な成果を示すパーソナライゼーション
調査の最も印象的な結果の一つは、96%のマーケターがパーソナライズされた体験が売上増加をもたらしていると報告していることです。
パーソナライゼーションの売上への影響
- 44%:売上が大幅に増加
- 44%:売上が中程度増加
- 8%:売上がわずかに増加
- 4%:売上への影響なし

AI活用の3つの主要領域
具体的にマーケターがAIをどの領域で活用すればよいのかについて、詳しく述べています。
領域1:コンテンツ作成と効率化
AIがマーケターを支援する主な用途
現在、マーケターがAIを最も活用している分野は以下の通りです。
- コンテンツ作成:テキスト生成、画像作成
- 調査・データ分析:市場調査、データパターンの発見
- アイデア創出:ブレインストーミングの支援
- 学習支援:新しいスキルの習得、コード作成の補助
2025年の新たなAI活用計画
- 4分の1のマーケターがテキストをマルチモーダルキャンペーンに変換するAI活用を計画
- 5分の1のマーケターがマーケティング戦略から実行までを自動化するAIエージェントの活用を探求
領域2:検索行動の変化への対応
AI検索の影響と対応
- B2Bマーケターの47%、B2Cマーケターの45%が、消費者のAI活用による検索がウェブトラフィックを増加させたと報告
- 19%のマーケターが2025年に生成AI検索向けのSEO戦略を構築予定
- 31%のZ世代が情報収集に最もよくAIプラットフォームやチャットボットを使用
領域3:学習と適応の課題
AIマーケティングの学習曲線
ChatGPTの登場からわずか2年余りで、マーケターはAIツールの使用と最適化を期待されるようになりました。この急速な変化により、多くのマーケターが以下の課題に直面しています。
- データ品質管理
- プロンプトエンジニアリング
- データプライバシー
- AI生成コンテンツの編集
コンテンツ戦略の新時代
次に、ベストなコンテンツの形式やコンテンツを投稿する媒体、インフルエンサーの規模について、傾向を述べています。
ビジュアルストーリーテリングの優位性
最も効果的なコンテンツ形式(ROI順)
- ショートフォーム動画(21%)
- 画像(19%)
- ライブストリーミング動画(16%)
この結果は、現代の消費者が視覚的で即座に消費できるコンテンツを好むことを明確に示しています。
プラットフォーム戦略の重点
2025年の投資予定の主要ソーシャルメディアチャネル
プラットフォーム | B2B投資割合 | B2C投資割合 |
---|---|---|
15% | 18% | |
18% | 19% | |
YouTube | 11% | 11% |
14% | 7% | |
TikTok | 8% | 10% |
インフルエンサーマーケティングの進化
効果的なインフルエンサーサイズ
- マイクロインフルエンサー(1万〜10万フォロワー):B2Bで43%、B2Cで44%が最も効果的
- ナノインフルエンサー(1,000〜9,999フォロワー):B2Bで23%、B2Cで22%が効果的
この傾向は、真正性と親しみやすさを重視する現代の消費者のニーズを反映しています。
B2B、B2Cにおける実践的な戦略提案
B2Bマーケティングの5つの重点戦略
戦略1:テキストからマルチモーダルキャンペーンへのAI活用
具体的な実装方法
B2Bマーケターは、製品デモ、ウォークスルー、プレゼンテーション、ポッドキャストの作成に生成AIを活用できます。
実装ステップ
- 既存のテキストベースコンテンツの棚卸し
- 動画、音声、インタラクティブ要素への変換可能性の評価
- AIツールを使用した効率的な変換プロセスの構築
- 品質管理とブランド一貫性の確保
戦略2:AI駆動のレポートツールによるROI評価
マーケターはAIデータ分析ツールと組み込みチャットボットAIを使用して、どの活動とチャネルが収益を推進しているかを理解できます。
戦略3:AIによるマーケティング戦略と実行の自動化
Claude、Gemini、ChatGPTなどの生成AIツールとAIエージェントが、B2Bマーケターのソーシャルカレンダー計画、ケーススタディ作成、コンテンツブリーフ作成を支援できます。
戦略4:ブランド価値を反映するコンテンツ作成
B2Bブランドは、社会的責任コンテンツへの投資を増やし、自社のミッション、ビジョン、コア価値について大胆に発信しています。
戦略5:パーソナリティ主導のコンテンツと真正なエンゲージメント
真正性はB2B分野でトップの優先事項であり、ブランドはクリエイターや従業員の個人的な声を共有し、コンテンツに個性を注入することでこれを達成する計画です。
B2Cマーケティングの5つの重点戦略
戦略1:ユーザー生成コンテンツ(UGC)
真正性が優先事項であるため、B2Cブランドはより多くのユーザー生成コンテンツの調達と共有に関心を持っています。
戦略2:ブランド価値を反映するコンテンツ作成
消費者は自分の価値観と社会的責任へのコミットメントを共有するブランドを求めています。B2Cブランドは自分たちを差別化するものを示したいと考えています。
戦略3:AIを活用したマルチモーダルキャンペーン
B2Bブランドと同様に、B2CブランドはAIを使用してコンテンツを動画、音声、ソーシャルなど異なる形式やチャネル用に変換したいと考えています。
戦略4:ソーシャルメディアDMでのカスタマーサービス
B2Cマーケターにとって、ソーシャルメディアマーケティングとカスタマーサービスの間にはオーバーラップがあります。ブランドはカスタマーエクスペリエンスを向上させるためにソーシャルサービスを合理化したいと考えています。
戦略5:AI駆動のレポートツールによるキャンペーンROI評価
B2Bマーケターと同様に、B2Cマーケターはデータ分析の重労働を取り除き、AIツールを使用してマーケティングおよび広告キャンペーンのROIを分析したいと考えています。
今日から始められる実践的アクション
即座に実装可能な3つのステップ
ステップ1:AIツールによるコンテンツ効率化
具体的な方法
現代のマーケティングクリエイター、Modern Millieが提案するAIを使ったSNS投稿コンテンツの作成方法を参考にしましょう。
- ターゲットオーディエンスの課題、目標、好みを既存の顧客データで整理
- ChatGPTなどの会話型AIツールを使用して、業界とターゲットペルソナに関連するX上の引用やtipsのリストを生成
- それらをCSVファイルにエクスポート
- Canvaでソーシャルメディア文書のテンプレートを選んでブランドに合わせてスタイリングをカスタマイズ
- Canvaの一括アップロード機能にCSVの引用をアップロードして調整
- 動画テンプレートを選択し、ヒントを動画に一括アップロードして編集
- エクスポートして共有
詳しくはこちらの動画で解説をしています。
ステップ2:パーソナライゼーション戦略の強化
5つの主要領域での実装
- メール:顧客詳細を収集し、マーケティングメール送信前にLLM(大規模言語モデル)に情報を入力
- ソートリーダーシップ:AIの支援を受けたソーシャルリスニングストリームを設定して、自社のスペースでのジャーナリストの要請などのソートリーダーシップの機会を見つける
- チャットボット:ウェブサイトでよりパーソナライズな体験を提供するチャットボットを設定
- ランディングページ:数十または数百のペルソナ向けランディングページの構築は障壁となりうるが、AIを使用すればニッチなランディングページを大規模に生成可能
- ローカライゼーションと翻訳:本社からのコンテンツを追加オーディエンスや新興セールス地域向けにローカライズ
ステップ3:データドリブン意思決定プロセスの構築
7段階のプロセス
- 目的の定義
- 内部データベース、調査、顧客フィードバック、市場調査、製品などの関連ソースからデータを収集・準備
- 一回限りのレポートとリアルタイムダッシュボードを使用してデータを分析
- 目標と目的に対して発見を解釈
- コストベネフィット分析や決定木などの意思決定オプションを評価
- 決定を下す
- 結果を監視し、学習し、反復する
データプライバシーと顧客理解の課題解決
これまで解説した戦略、戦術を取る際にデータプライバシーの課題は切っても切り離せません。我々は3つの課題が発生すると述べていますl。
主要な3つの課題と解決策
課題1:消費者の個人データ共有への抵抗
解決策
企業はデータの使用方法についてより透明性を高め、すべてのツールとシステムでのサイバーセキュリティを優先する必要があります。AIが支援でき、HubSpotのようなツールがHIPAAコンプライアンスと機密データ管理をサポートしています。
課題2:データ品質の低下
解決策
企業がAIにより多く依存するほど、データ品質と管理の重要性が高まります。マーケティングチームはデータ品質とクリーニングワークフローへの投資が必要になります。
課題3:第三者クッキーの廃止による個人データアクセスの制限
解決策
ファーストパーティデータは、第三者クッキーが段階的に廃止される中でブランドにとってより価値あるものになっています。プライバシー規制がより厳格になる中で、パーソナライズされたコンテンツには所有データが必要になります。
今後の展望:マーケティングの未来
2025年以降の重要な変化
AI技術の更なる進化
予想される発展
- より高度なパーソナライゼーション:個々の顧客の行動予測がより精密になる
- リアルタイム最適化:キャンペーンのリアルタイム調整が標準になる
- 予測的マーケティング:将来のトレンドや顧客行動の予測精度が向上
消費者期待の変化
注目すべき傾向
- 即時性の重視:より迅速なレスポンスと解決策への期待
- 体験の質の向上:機能だけでなく、感情的な満足度への注目
- 価値観の一致:ブランドと個人の価値観の整合性がより重要に
組織構造の変化
新しいマーケティング組織の特徴
- データサイエンティストとマーケターの協働
- クリエイティブとテクノロジーの融合
- 顧客体験設計の専門化
まとめ:成功への行動指針
重要なポイントの総括
2025年のマーケティングは、AI技術と人間の創造性の融合によって定義されます。成功するマーケターは、技術を活用しながらも、真正な人間的つながりと価値ある体験の創造に焦点を当てる必要があります。
今すぐ実践すべき5つの行動
- AIツールの戦略的活用:単なる効率化ツールではなく、戦略パートナーとしてAIを位置づける
- ターゲット世代の理解深化:ミレニアル世代とZ世代の価値観と行動パターンを深く理解する
- データドリブン文化の構築:組織全体でデータに基づく意思決定を習慣化する
- ブランド価値の明確化:自社のコアバリューを明確にし、一貫したメッセージを発信する
- 継続的学習の体制確立:急速に変化する環境に適応するための学習機会を組織的に提供する
最終的なメッセージ
HubSpotのSVP of Marketing、Kieran Flanaganの言葉が示すように、「マーケターとして、私たちはより賢く、より効率的で、より人間的なオーディエンスとのつながりを築く前例のない機会を持っています。ツールは揃っており、創造性の可能性は無限です。」
2025年は、マーケティングがテクノロジーと人間性を融合させる新時代の始まりです。この変化を恐れるのではなく、新たな機会として捉え、顧客との真の価値ある関係構築に焦点を当てることが、持続可能な成長への鍵となるでしょう。