「天下一品」首都圏大量閉店から読み解く:老舗ブランドが陥った落とし穴とマーケティング教訓 - 勝手にマーケティング分析
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「天下一品」首都圏大量閉店から読み解く:老舗ブランドが陥った落とし穴とマーケティング教訓

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はじめに:あの「こってり」が消える衝撃

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あなたも一度は食べたことがあるかもしれない、あの濃厚でドロドロした「こってり」スープで有名な天下一品。2025年6月末、首都圏の主要10店舗が一斉に閉店することが発表され、SNS上では「天一ロス」という言葉がトレンド入りしました。昨年も複数店舗が閉店になっており、天下一品はどうなっているのでしょうか。

この出来事は、単なる不採算店舗の整理を超えて、マーケティング戦略における重要な教訓を私たちに提示しています。なぜなら、天下一品は単に「経営が悪化した企業」ではなく、むしろラーメン業界全体が直面する構造的課題と、カテゴリーのコモディティ化を象徴する事例だからです。

マーケターの皆さんには、この天下一品の事例を通じて以下のポイントを理解していただきたいと思います:

  • 業界全体のトレンドが問題がブランド戦略に与える影響
  • カテゴリー内のコモディティ化が与える経営への打撃

これらは、どの業界であっても、どんな規模の企業であっても共通する課題です。天下一品の事例を深掘りすることで、あなたが担当するブランドや商品の戦略立案に活かせる知見を得ていきましょう。

閉店の事実と規模:データで見る撤退の深刻さ

2025年6月末閉店の衝撃的な規模

まず、今回の閉店がどれほど大規模なものかを数字で確認してみましょう。

閉店店舗所在地特徴
渋谷店東京都若者の街の象徴的立地
新宿西口店東京都ビジネス街の好立地
池袋西口店東京都繁華街の中心部
田町店東京都オフィス街の需要拠点
目黒店東京都住宅・商業混在エリア
吉祥寺店東京都人気の街の代表店舗
蒲田店東京都交通の要衝
川崎店神奈川県工業都市の主要店
大船店神奈川県神奈川の重要拠点
大宮東口店埼玉県埼玉県の代表的店舗

この10店舗は、首都圏全34店舗の約3割に相当します。しかも、これは2024年6月末の6店舗閉店に続く2年連続の大規模撤退です。

過去最盛期との比較で見える縮小ぶり

天下一品のピーク時の展開規模と現在を比較すると、その変化の大きさが分かります:

時期全国店舗数首都圏店舗数備考
ピーク時230〜240店舗約40店舗(推定)全国300店舗を目指していた
2025年6月210店舗34店舗公式サイト記載
2025年7月(予測)約200店舗24店舗閉店後の推定値

これは、ピーク時から約2割の店舗数減少を意味しており、特に首都圏では約4割の店舗が短期間で失われることになります。

立地の特殊性が示す戦略的判断

注目すべきは、閉店対象が「人が多く集まる街の好立地の店舗が中心」であることです。通常、好立地店舗は集客力が高く、ブランドの顔となる重要な拠点です。これらを閉鎖するということは:

  1. 高コスト立地・高コスト人件費での事業継続が困難になっている可能性
  2. 競合店舗が増えやすい環境の中で、天下一品を選ぶ理由が希薄化している可能性

いずれにしても、単純な不採算店舗の整理を超えた、ブランド全体の価値の低下が起因している可能性が高いのではないでしょうか。

業界全体が直面する構造的課題

天下一品の大量閉店の背景を理解するためには、ラーメン業界全体が置かれている厳しい状況も把握する必要があります。これは個別企業の問題ではなく、業界全体のトレンドなのです。

「1000円の壁」という価格設定の呪縛

ラーメン業界には「1000円の壁」と呼ばれる特有の事情があります。これは、消費者が1杯1,000円を超えるラーメンに抵抗を持つ傾向があるため、他業界に比べて値上げが極めて困難という構造的な課題です。

graph TD A[原材料費・人件費の高騰] --> B[コスト増加圧力] B --> C[値上げの必要性] C --> D{消費者の価格感度} D -->|1000円超は抵抗| E[値上げ困難] D -->|他業界は転嫁可能| F[価格転嫁可能] E --> G[利益率圧迫] G --> H[経営悪化] H --> I[閉店・倒産]

帝国データバンクの調査によると、ラーメン原価は2年前から1割増と試算されています。しかし、この「1000円の壁」により、コスト増を価格に転嫁できないことが、利益率を圧迫する主要因となっています。

倒産件数の過去最多更新という業界の現実

数字で見ると、業界の厳しさは一層明確になります:

ラーメン店倒産件数特徴
2023年53件前年から増加傾向
2024年72件(過去最多)今後、年間100件到達の可能性

この背景には以下の要因があります:

市場の飽和と新規参入の継続

  • 国内に2万店以上のラーメン店が存在(参考
  • 毎年約3,000店舗以上の新規開業が続く
  • 限られたパイの奪い合いが激化

消費者ニーズの多様化

  • 健康志向の高まり(ヴィーガンラーメンの登場)
  • 新ジャンルの台頭(マーラータン、ちゃん系ラーメン)
  • レディースメニューへの需要

人手不足の深刻化

飲食業界全体で人手不足が深刻化していますが、ラーメン業界は特に影響を受けています。

人手不足の連鎖的影響:

  1. 営業時間の短縮 → 売上機会の減少
  2. サービス品質の低下 → 顧客満足度の低下
  3. 人件費の高騰 → 収益性の悪化
  4. 既存従業員の負担増 → 離職率の上昇

これらの要因が複合的に作用し、天下一品のような老舗チェーンであっても、業界全体の逆風から逃れることができない状況が生まれています。

天下一品の固有の問題

次に、天下一品固有の原因を考えてみましょう。

マーケティングの世界では、「第一想起率(Top of Mind)」という概念があります。これは、特定のカテゴリーや特徴を聞いた時に、自社ブランドが最初に思い浮かぶ確率のことです。ブランド運営において最重要な指標の1つとして認識されています。

天下一品は長年にわたり、「こってり」というキーワードで絶対的な想起力を持っていました。まるで「検索エンジン=Google」「コピー機=ゼロックス」のように、「こってり=天下一品」は消費者の頭の中で強固に結びついていたのです。実際に筆者もそうでした。

最近の閉店ラッシュは、「こってり=天下一品」の方程式が消費者の中で薄れてきていることが根本原因と筆者は考えています。

さらに原因を深掘りするために、「こってり」というカテゴリーで何が起きたかを段階的に分析する必要があります。これはマーケティングにおけるカテゴリー競争の典型的な事例です。

ステップ1:天下一品の独占的地位の確立(1970年代〜2000年代前半)

天下一品は1971年の創業以来、「こってり」という独特なカテゴリーを創造し、長期間にわたって独占的地位を築いていました。

この時代の消費者の認知構造は非常にシンプルでした。「こってり=天下一品」という等式が成立しており、競合他社は存在しないか、あっても認知度が極めて低い状況でした。

マーケティング理論で言えば、これは「ファーストムーバーアドバンテージ(先行者利益)」の典型例です。新しいカテゴリーを創造した企業が、そのカテゴリーの代名詞となることで、圧倒的な競争優位性を獲得していたのです。

ステップ2:競合他社の参入と選択肢の増加(2000年代後半〜2010年代)

しかし時代が進むにつれて、「こってり」系ラーメンを提供する店舗が急速に増加しました。個人経営店から大手チェーンまで、様々な事業者がこの市場に参入してきたのです。

ここで重要な変化が起きました。消費者の認知構造が「こってり=天下一品」から「こってり=複数の選択肢」に変化したのです。

この変化を分かりやすく例えるならば、「携帯電話=NTTドコモ」だった時代から、「携帯電話=ドコモ、au、ソフトバンク、楽天」になったような変化です。市場の成熟とともに、独占的地位が複占・寡占状態に移行したのです。しかし、古くからこってりブランドを作ってきた天下一品はまだ多くの消費者の選択肢に入っていたように思えます。

ステップ3:差別化要素の標準化と価格競争の激化(2010年代後半〜現在)

この時期の深刻な問題は、「こってり」という特徴自体が標準化されてしまったことです。多くの店舗が似たような濃厚スープを提供するようになり、消費者にとって「こってり」は特別な体験ではなく、当たり前の選択肢の一つになってしまいました。特に家系ラーメン店の出店が多くみられ、消費者の選択肢を奪うようになったと言えます。

つまり、「コモディティ化」したと言えます。かつて差別化要素だった特徴が、業界標準になってしまうことで、ブランド間の違いが見えにくくなる現象です。

競合環境変化の構造分析

この変化を図式化すると、以下のような構造になります。

graph TD A[1970年代: こってり=天下一品] --> B[2000年代: こってり市場への新規参入増加] B --> C[2010年代: 選択肢の多様化] C --> D[現在: こってり特徴の標準化] D --> E[天下一品の想起力低下] E --> F[価格・立地・サービスでの競争激化] F --> G[フランチャイジーの収益性悪化] G --> H[業態転換・閉店の選択]

想起力低下が収益に与える直接的影響

想起力の低下は、具体的に以下のような収益への影響をもたらします。

顧客獲得コストの増加: かつては「こってりが食べたい」という需要が自動的に天下一品への来店につながっていました。しかし現在では、他の選択肢と比較検討されるため、広告やプロモーションによる積極的な集客が必要になりました。

客単価向上の困難: 独占的地位にある時は、ある程度の価格設定の自由度がありました。しかし競合が増えた現在では、価格競争に巻き込まれやすく、客単価の向上が困難になっています。

リピート率の低下: 顧客は様々な「こってり」系ラーメンを試すようになり、天下一品に固定される理由が薄れました。これにより、リピート率が低下し、安定した収益確保が困難になっています。

フランチャイジーから見た天下一品ブランドの価値変化

この根本原因である想起力の低下は、直接的にフランチャイジーの事業環境に影響します。ここでは、フランチャイジーの視点から天下一品ブランドの価値がどのように変化したかを分析してみましょう。

フランチャイズビジネスの基本構造の理解

まず、フランチャイズビジネスの基本的な仕組みを確認しましょう。フランチャイジーは、ブランド使用料(ロイヤリティ)を支払う代わりに、以下の価値を得ることを期待しています。

ブランド力による集客効果: 消費者がそのブランドを選ぶ理由があること。
運営ノウハウの提供: 効率的な店舗運営のための知識やシステム。
仕入れ・物流の優位性: スケールメリットによるコスト削減。
マーケティング支援: 本部による広告宣伝やプロモーション活動。

この中でも特に重要なのが「ブランド力による集客効果」です。これこそが、フランチャイジーが独立して同じ業態を行うのではなく、フランチャイズに加盟する最大の理由だからです。

天下一品ブランド価値の変遷

天下一品の場合、ブランド価値の変化を時系列で整理すると以下のようになります。

黄金期(1990年代〜2000年代前半): 「こってり=天下一品」の想起力により、店舗を開けば一定の集客が見込めた時代。フランチャイジーにとってブランド価値は極めて高く、投資回収も比較的容易でした。

転換期(2000年代後半〜2010年代前半): 競合の増加により選択肢が多様化しましたが、まだ天下一品の認知度とブランド力は有効でした。ただし、以前ほど「自動的な集客」は期待できなくなりました。

衰退期(2010年代後半〜現在): 「こってり」の標準化により、天下一品を選ぶ積極的理由が希薄化。むしろブランド名による制約(メニューの自由度、価格設定の制限など)がデメリットとして意識されるようになりました。

池袋東口店の業態転換に見る合理的判断

池袋東口店のフランチャイジーが三田製麺所に業態転換した判断は、この文脈で理解すると極めて合理的です。このような判断をするフランチャイジーが増えていることで天下一品ブランドの価値がさらに低下していきます。

比較検討の要素分析:

集客力の比較: 天下一品ブランドでは、もはや「自動的な集客」は期待できません。一方、つけ麺という業態であれば、独自の差別化やマーケティングにより、より効果的な集客が可能です。

収益性の比較: フランチャイズロイヤリティを支払い続けながら競争の激しい環境で戦うよりも、独自ブランドで柔軟な価格設定と差別化を行う方が収益性が高いと判断されました。

将来性の比較: 「こってり」市場の成熟と競争激化が続く中で、天下一品ブランドの将来性に疑問を感じた一方、つけ麺市場にはまだ成長余地があると判断されました。

フランチャイジー離脱の加速要因

このような事例が示すように、今後フランチャイジーの離脱は加速する可能性があります。その理由を経済学的に分析してみましょう。

機会費用(Opportunity Cost)の増大: 天下一品を継続することの機会費用が高まっています。同じリソースを別の業態に投入した方が、より高いリターンが期待できる状況になっています。

サンクコスト(Sunk Cost)の合理的判断: 過去に天下一品に投資した資金や時間にとらわれず、将来の収益性のみで判断する合理的なフランチャイジーが増えています。

リスク分散の必要性: 単一ブランドに依存するリスクを回避し、より安定した収益基盤を求める動きが強まっています。

想起力低下がもたらす経営への具体的影響

想起力の低下は、抽象的な概念ではありません。天下一品の経営に対して、具体的で測定可能な影響を与えています。これらの影響を数値化して理解することで、問題の深刻さがより明確になります。

顧客獲得コストの増加

過去と現在の集客構造の比較:

想起力が高かった時代の天下一品では、顧客獲得のプロセスは非常にシンプルでした。顧客が「こってりラーメンが食べたい」と思った瞬間に、自動的に天下一品が想起され、来店につながっていました。「プル型マーケティング」と呼ばれる状況です。

しかし現在では、プッシュ型マーケティングが必要になっています。積極的な広告宣伝、SNSでの情報発信、クーポンやキャンペーンなどの販促活動により、顧客に触れる機会や想起するきっかけを与え、「天下一品を選ぶ理由」を自らが提示する必要があります。

この変化を数値化すると、顧客獲得単価(Customer Acquisition Cost: CAC)が大幅に上昇していると推測されます。かつては立地費用と基本的な運営費のみで集客できていたものが、現在では追加的なマーケティング投資が不可欠になっています。

客単価と利益率への影響

想起力の低下は、客単価にも深刻な影響を与えています。

価格設定における制約の増加: 独占的地位にある企業は、価格決定権(Price Setting Power)を持っています。しかし競合が増加し、顧客の選択肢が多様化すると、この価格決定権は大幅に制限されます。

天下一品の場合、「こってり」という特徴が標準化されたことで、価格プレミアムを維持することが困難になりました。顧客は類似の商品を提供する他店と価格を比較するようになり、天下一品だけが高価格を維持することができなくなったのです。

リピート率の低下と顧客生涯価値への影響

想起力の低下は、顧客のリピート行動にも変化をもたらします。

顧客の行動パターンの変化: かつての天下一品の顧客は、「こってりラーメンならば天下一品」という固定的な選択パターンを持っていました。しかし現在では、「今日はどのこってり系ラーメンを試そうか」という探索的な行動パターンに変化しています。また同時に健康志向の流れも重なり、こってりラーメンが選ばれにくくなっているかもしれません。

この変化により、顧客生涯価値(Customer Lifetime Value: CLV)が大幅に低下していると考えられます。同じ顧客が生涯にわたって天下一品を利用する回数と金額が減少しているからです。

フランチャイジーの収益性への直接的影響

これらの影響は、最終的にフランチャイジーの収益性に集約されます。

収益構造の悪化: 売上の減少(客数減少、客単価低下、リピート率低下)と費用の増加(マーケティング費用、人件費、原材料費)が同時に進行することで、フランチャイジーの利益率は大幅に圧迫されています。

投資回収期間の延長: 新規出店時の投資回収期間が延長され、フランチャイズ事業の魅力度が低下しています。これにより、新規加盟者の獲得も困難になり、既存加盟者の継続意欲も低下しています。

業態転換の経済的合理性: このような状況下では、フランチャイジーにとって業態転換は極めて合理的な選択となります。同じ投資とリソースを使って、より収益性の高い事業を行うことができるからです。

池袋東口店の三田製麺所への転換は、まさにこの経済的合理性に基づいた判断だったと考えられます。

今後の戦略的提言:想起力回復への道筋

天下一品が直面している想起力低下の問題は深刻ですが、適切な戦略により回復の可能性は残されています。ここでは、マーケティング理論に基づいた実践的な提言を行います。

提言1:カテゴリー再定義による差別化戦略

現状の課題認識: 「こってり」というカテゴリーが標準化されてしまったため、このカテゴリー内での競争では勝利が困難になっています。

戦略の方向性: 「こってり」から一歩進んだ、新しいカテゴリーを創造し、そのカテゴリーでの第一想起を獲得する戦略です。これは、マーケティング理論で「カテゴリー創造戦略」と呼ばれるアプローチです。

具体的な実行プラン:

まず、天下一品独自の価値提案を再定義する必要があります。単に「こってり」ではなく、「伝統的な職人技法による本格こってり」「47年の歴史に裏打ちされた唯一無二のこってり」など、歴史と伝統という競合が容易に模倣できない要素を前面に押し出します。

次に、商品開発においても新しいカテゴリーの創造を目指します。例えば、「プレミアムこってり」「職人こってり」「元祖こってり」など、格上感を演出するサブカテゴリーを確立し、そこでの第一想起を獲得するのです。

提言2:体験価値の向上による差別化

現状の課題認識: 商品そのものでの差別化が困難な場合、顧客体験全体での差別化が重要になります。

戦略の方向性: 単なるラーメン店ではなく、「天下一品でしか得られない特別な体験」を提供する戦略です。

具体的な実行プラン:

店舗の雰囲気づくりから始めて、天下一品の歴史やこだわりを感じられる空間デザインを実現します。例えば、創業時の写真や歴代の商品開発ストーリーを展示し、「天下一品ミュージアム」的な要素を取り入れます。

サービス面では、「こってり」の作り方や歴史について説明できるスタッフの育成を行います。単に注文を取るだけでなく、天下一品の価値を顧客に伝える「ブランドアンバサダー」としての役割を担ってもらいます。

さらに、限定メニューやシーズナルメニューを通じて、「今しか、ここでしか食べられない」という特別感を演出します。

提言3:デジタルマーケティングによる想起力強化

現状の課題認識: 現代の消費者は、実際の来店前にデジタル媒体で情報収集を行います。デジタル空間での想起力強化が不可欠です。

戦略の方向性: SNS、YouTube、公式アプリなどを活用し、「こってりといえば天下一品」という認知を再構築する戦略です。

具体的な実行プラン:

まず、コンテンツマーケティングに力を入れます。天下一品の「こってり」がどのように作られているのか、他店との違いは何なのかを、動画や記事で分かりやすく発信します。特に、創業者の想いや職人の技術など、ストーリー性のあるコンテンツを制作します。

SNSでは、インフルエンサーとのコラボレーションを積極的に行います。ただし、単に商品を紹介してもらうだけでなく、天下一品の歴史や価値観に共感してくれるインフルエンサーを選定し、authentic(本物の)な発信を心がけます。

公式アプリでは、来店回数に応じて天下一品の歴史や秘話が解放される「コレクション機能」や、自分だけの「こってりレベル」を設定できる機能など、ゲーミフィケーション要素を取り入れます。

提言4:フランチャイズモデルの抜本的改革

現状の課題認識: ブランド価値の低下により、フランチャイジーにとってのメリットが減少しています。新しい価値提案が必要です。

戦略の方向性: 単なるブランド使用権の提供ではなく、成功のためのトータルソリューションを提供する戦略です。

具体的な実行プラン:

まず、データ分析支援を強化します。各店舗の売上データ、顧客データ、競合店情報などを統合的に分析し、個別店舗に最適化された経営アドバイスを提供します。これにより、フランチャイジーの収益性向上を具体的に支援します。

次に、マーケティング支援を充実させます。本部が制作した広告素材の提供だけでなく、各店舗の商圏特性に応じたカスタマイズされたマーケティングの支援を行います。

さらに、技術支援も強化します。調理技術の向上のための研修プログラムや、効率的な店舗運営のためのシステム導入支援などを通じて、フランチャイジーの競争力向上を支援します。

提言5:長期的ブランド再構築戦略

現状の課題認識: 想起力の回復は短期間では実現できません。長期的な視点でのブランド再構築が必要です。

戦略の方向性: 次の世代に向けて、天下一品ブランドの価値を再定義し、持続可能な競争優位性を構築する戦略です。

具体的な実行プラン:

まず、ブランドヘリテージ(遺産)の活用を進めます。47年の歴史の中で培われた技術、レシピ、ストーリーを体系的に整理し、現代の顧客に響く形で再パッケージングします。

次に、次世代顧客の獲得に向けた取り組みを強化します。健康志向の高まりに対応した商品開発や、環境配慮の取り組みなど、現代の価値観に合致した企業活動を推進します。

最後に、海外展開の可能性も検討します。日本の「こってり」文化を海外に発信することで、新たな市場での第一想起獲得を目指します。

まとめ:想起力の重要性とマーケティングの教訓

天下一品の首都圏大量閉店という出来事は、マーケティングにおける想起率(Top of Mind)の重要性を改めて浮き彫りにしました。どんなに優れた商品や長い歴史を持つブランドであっても、消費者の頭の中での地位を失えば、ビジネス全体が深刻な影響を受けることが明確になりました。

Key Takeaways

✅ 想起力は競争優位性の源泉

  • 「こってり=天下一品」という等式が成立していた時代は、自動的な集客が可能だった
  • 想起力の喪失は、顧客獲得コストの増加、客単価の低下、リピート率の減少を招く
  • 競合環境の変化により想起力は容易に失われる可能性がある

✅ カテゴリーの標準化は既存ブランドにとって脅威

  • 差別化要素が業界標準になると、先行者利益は急速に失われる
  • 新規参入者でも同等の商品を提供できるようになると、ブランド価値は相対的に低下する
  • 継続的な差別化要素の創造と進化が不可欠

✅ フランチャイズビジネスにおけるブランド価値の重要性

  • フランチャイジーにとって、ブランド力による集客効果は加盟する最大の理由
  • ブランド価値の低下は、フランチャイジーの離脱や業態転換を促進する
  • 池袋東口店の事例は、合理的な経営判断としての業態転換を示している

✅ 業界トレンドとブランド固有の問題の相互作用

  • 外部環境の変化(市場飽和、価格競争激化)とブランド固有の課題が相乗的に作用
  • 個別企業の努力だけでは解決困難な構造的問題の存在
  • 業界全体のトレンドを理解した上での戦略立案の重要性

✅ 想起力回復のための多面的アプローチの必要性

  • カテゴリーの再定義、体験価値の向上、デジタルマーケティング活用など複数の施策が必要
  • 短期的な対症療法ではなく、長期的なブランド再構築の視点が重要
  • フランチャイズパートナーへの新たな価値提供も含めた包括的な改革が必要

マーケターへの教訓

天下一品の事例は、マーケティングの仕事の本質的な重要性を教えてくれます。私たちマーケターの役割は、単に広告を作ったり、キャンペーンを実施したりすることではありません。消費者の頭の中でのブランドの地位を築き、維持し、強化することなのです。

特に注目していただきたいのは、想起力の変化が段階的に進行することです。ある日突然「こってり=天下一品」でなくなったわけではありません。競合の参入、選択肢の増加、特徴の標準化という段階を経て、徐々に想起力が低下していったのです。

これは、普段から市場環境の変化を注意深く観察し、自社ブランドの地位の変化を敏感に察知することの重要性を示しています。想起力の低下に気づいた時には、すでに大きな影響が出ている可能性があります。

この事例は決して「失敗例」として終わるものではありません。天下一品には47年の歴史と、多くの熱心なファンがいます。適切な戦略により、想起力を回復し、新たな成長を実現する可能性は十分に残されています。

私たちマーケターにとって重要なのは、このような事例から学び、自社のブランドマネジメントに活かすことです。想起力の重要性を理解し、継続的にブランド価値を向上させる努力を続けることで、持続可能な競争優位性を築いていきましょう。


参考文献・データソース:

この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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