はじめに:検索されない商品が直面する現実的課題
現代のマーケティング担当者の多くが同じ課題を抱えています。「自社の商品やサービスがまだ検索されない」という問題です。特に新規カテゴリの商品や革新的なサービスでは、ユーザーがまだその存在を知らないため、検索行動自体が発生しません。
この現象は決して珍しいことではありません。実際に、マーケティング担当者の53.1%が指名検索数を増やせていないことに課題を感じており、従来のSEOやリスティング広告では効果が見込めない商品が数多く存在しています。(出典:キーマケ Lab 指名検索に対する課題や悩みに関する調査結果)
本記事では、このような「検索されない商品」を抱えるマーケターが直面する課題を解決するための実践的な戦略を、豊富な成功事例とデータに基づいて詳しく解説します。
検索されない商品の3つの特徴と市場の現実
新規市場・新規カテゴリが直面する構造的問題
新規カテゴリの商品が検索されない背景には、検索エンジンマーケティングの構造的限界があります。検索行動が成立するためには、以下の3つの前提条件が必要です:
- ユーザーが問題を認識している
- 解決方法をある程度イメージできている
- 検索語として言語化できている
しかし、新規カテゴリ商品では、これら3つの条件がすべて満たされていない状態が一般的です。たとえば、ドローン市場初期(2010年代前半)では、「ドローン」という言葉自体の認知度が低く、商用ドローンの検索ボリュームはほぼゼロの状態でした。
SEO・リスティング広告が効きにくい商品の4つのタイプ
主に以下の4つのタイプの商品では、従来の検索エンジンマーケティングが効果的に機能しないと言われています。
タイプ1:ブランド認知度が低い新商品
- 検索される商品名・カテゴリ名が確立していない
- 月間検索ボリュームが100未満
タイプ2:BtoB専門商品
- 検索ユーザー数が限定的
- 決裁者と実際の検索者が異なる
タイプ3:高価格・長期検討商品
- 検索から購入まで時間がかかる
- 直接的なコンバージョン測定が困難
タイプ4:感情・体験価値重視商品
- 機能的価値よりも感情的価値が重要
- 検索行動に結びつきにくい
指名検索の重要性と現状データ
一方で、指名検索は極めて高い収益性を示しています。指名検索のコンバージョン率は一般検索の約12倍の効果を発揮します。
しかし、新興ブランドや中小企業では指名検索自体が発生しにくく、膨大で継続した認知施策投資が必要な場合が多いという現実があります。
従来手法を超えた7つの効果的マーケティング戦略
では、まだ検索がされないカテゴリや商品のマーケティングはどうすれば良いのでしょうか。7つの方法を解説いたします。
戦略1:コンテンツマーケティングによる市場教育
コンテンツマーケティングは、価値のある情報提供を通じてブランド認知度を高める手法として、2025年現在も重要性が増しています。サイバー・バズ社の調査によるとソーシャルメディア市場は1兆3,732億円に成長し、その中でコンテンツマーケティングが重要な位置を占めています。
実行ステップ:
- 戦略設計段階:カスタマージャーニーマップ作成、ペルソナ設定
- コンテンツ制作段階:ブログ記事・ウェビナー・動画・SNS投稿の複合アプローチ
成功事例:freee株式会社 「経営ハッカー」というオウンドメディアを通じて、「開業届」等のターゲットキーワードでGoogle検索1位を獲得。経営層向けに会計・税務・起業関連の有益情報を発信し、SEO戦略とコンテンツマーケティングの連携で新規顧客獲得を実現しています。
戦略2:インフルエンサーマーケティングの戦略的活用
日本のインフルエンサーマーケティング市場は急速に拡大しており、2025年:1,021億円、2027年:1,302億円の規模に達すると予測されています。(出典:サイバー・バズ社調査)
プラットフォーム別活用法:
YouTube(市場シェア最大)
- 長尺コンテンツによる詳細な商品説明
- 幅広い年代へのリーチが可能
Instagram(2位)
- ビジュアル重視の商品PR
- ストーリーズ・リール機能による拡散効果
TikTok(急成長中)
- 若年層への強いリーチ力
- ハッシュタグチャレンジによるバイラル施策
インフルエンサータイプ別予算と効果:
- ナノインフルエンサー(1千〜1万):5万〜20万円、高エンゲージメント
- マイクロインフルエンサー(1万〜10万):10万〜50万円、専門分野での影響力
- メガインフルエンサー(10万〜100万):50万〜300万円、幅広いリーチ
戦略3:戦略PRによる認知拡大
戦略PRは社会的テーマと自社商品・サービスを結びつけ、SNS時代に共感を生み出すPR手法として注目されています。
実行ステップ:
- 企画段階:目的の明確化、ターゲットメディア特定
- 実施段階:プレスリリース配信、メディアリレーション構築
成功事例:資生堂「メーク女子高生のヒミツ」 Web動画プロジェクトで1,000万回以上再生を記録し、メイクを楽しむというメッセージを若年層に効果的に伝達。特設サイトとSNS連携による拡散効果を実現しました。
戦略4:カテゴリ創造マーケティング
カテゴリ創造マーケティングは、既存の競争市場で戦うのではなく、全く新しい市場カテゴリを創造し、そこで主導的地位を築く戦略手法です。成功すれば市場の76%という圧倒的シェアを獲得できます。(出典:Play Bigger)
カテゴリ創造の成功事例:
HubSpot(インバウンドマーケティング)
- 2006年設立時に「インバウンドマーケティング」概念を創造
- 2023年売上:$1.98B(約2,000億円)
- 全世界100,000社以上の顧客を獲得
Tesla(高級電気自動車)
- 「環境に優しいが性能が劣る」から「高性能かつ持続可能」への転換
- 2023年売上:$96.8B(約14兆円)
- 世界電気自動車市場シェア:約20%
日本事例:メルカリ(フリマアプリ)
- 「捨てる」から「売る」への行動変容促進
- 2023年売上:¥172B(約1,700億円)
- 月間アクティブユーザー:2,200万人
戦略5:イベントマーケティング
直接的な顧客接点を創造し、購買意欲の高い見込み客との接触を実現します。特に複数企業と共催にて開催するイベントにより、普段アプローチできない顧客層にアプローチができ、カテゴリーと自社商品の認知とその必要性を広めることができます。
実行ステップ:
- 目的設定(新規リード獲得・ブランド認知・既存顧客関係強化)
- ターゲット設定とイベント形式選定
- 集客施策の実施
- 当日運営とフォローアップ
戦略6:口コミマーケティング
重要統計:SNS経由で購入・来店した人の約50%が再度口コミを投稿し、特に10-20代でその傾向が顕著です。SNS国内利用率は**78.7%**に達しています。

実行方法:
- 口コミが生まれやすい商品・サービス設計
- SNS投稿インセンティブの設計
- UGC(User Generated Content)の活用
出典:[AMN調査リリース] SNSのクチコミが 生活者の購入・来店に与える影響を調査
戦略7:オムニチャネル統合戦略
全ての顧客接点を統合し、一貫した顧客体験を提供する戦略です。
成功事例:無印良品「MUJI passport」

- 独自マイルサービスによる顧客囲い込み
- 店舗・EC・アプリ横断での購買履歴管理
- 誕生日特典・クーポン配信による継続利用促進
予算規模別の実践的アプローチ方法
小予算(月額10万円以下)の戦略
優先施策:
- SNSマーケティング(無料アカウント運用)
- コンテンツマーケティング(ブログ・記事作成)
- 口コミマーケティング
- ナノインフルエンサー活用
期待効果:継続的なブランド認知向上、オーガニック流入の増加
中予算(月額10万円〜100万円)の戦略
追加施策:
- マイクロインフルエンサー起用
- ウェビナー・オンラインイベント開催
- PR会社との連携
- 動画コンテンツ制作
期待効果:リード獲得数の大幅増加、売上への直接的貢献
大予算(月額100万円以上)の戦略
大規模施策:
- メガインフルエンサー起用
- 大型イベント・展示会開催
- オムニチャネル戦略の本格実装
- マス広告との連携
期待効果:市場におけるブランドポジション確立、大幅な売上向上
効果測定方法と期待値設定
効果測定KPIの設定
フェーズ別KPI設計:
- プレローンチ期:ブランド認知度、ウェブサイトトラフィック
- ローンチ期:コンバージョン率、顧客獲得コスト(CAC)
- ポストローンチ期:顧客生涯価値(CLV)、リテンション率
チャネル別ROI期待値:
- Eメールマーケティング:3,800% ROI
- SEO:2,200% ROI(6ヶ月後効果発現)
- PPC:400% ROI(即効性あり)
- ソーシャルメディア:100-300% ROI
業界別ROI基準値
- B2B企業:5:1(優秀:10:1以上)
- B2C企業:4:1(優秀:8:1以上)
- Eコマース:4:1(優秀:6:1以上)
避けるべき5つの致命的失敗パターン
失敗パターン1:文化的無配慮
事例:Pepsi(ケンダル・ジェンナー広告、2017年) 抗議活動を軽視した広告で社会問題を商業利用し、大規模な社会的批判を受けて広告撤回に追い込まれました。
対策:多様性チーム編成、地域専門家レビューの実施
失敗パターン2:プロダクト・マーケットフィット誤判断

事例:Microsoft Vista(2007年) 高いシステム要求と互換性問題により、ユーザー離れを招きました。
対策:十分なテスト実施、ユーザーフィードバックの重視
失敗パターン3:過度な資金投入

事例:Quibi(2020年) 17億ドル投資したにも関わらず市場ニーズを誤解し、1年で事業停止となりました。
対策:段階的テスト、小規模→中規模→全面展開のアプローチ
失敗パターン4:ブランドアイデンティティとの不整合
事例:McDonald's Arch Deluxe(1996年) 大人向けプレミアム商品として位置づけたが、既存ブランドイメージとの不整合で失敗しました。
対策:既存ブランドイメージとの整合性確認
出典:The Arch Deluxe Was a Hell of a Burger. It Was Also McDonald’s Most Expensive Flop.
失敗パターン5:市場タイミングの誤判断
多くの企業が市場の準備ができていない段階で商品を投入し、失敗しています。
対策:市場調査の徹底、段階的市場投入
まとめ:新時代のマーケティング成功への道筋
新規カテゴリ商品や検索されない商品のマーケティングは、従来のSEO・リスティング広告中心のアプローチから大きく転換する必要があります。成功のためには以下の5つのKey Takeawaysを意識することが重要です:
1. 長期視点の戦略設計 カテゴリ創造には3-5年の長期戦略が必要。短期的ROIに惑わされない忍耐力が成功の鍵
2. 多角的マーケティングアプローチ 検索エンジンマーケティングだけに依存せず、コンテンツ・PR・インフルエンサー・イベント等の統合戦略を構築
3. 段階的な市場投入 小規模テスト→中規模展開→全面展開の段階的アプローチでリスクを最小化
4. データドリブンな継続改善 感覚的判断ではなく、明確なKPIに基づく事実的な意思決定を徹底
5. 顧客価値中心の思考 自社都合ではなく、真の顧客価値を創造し続けることが持続的競争優位の源泉
これらの戦略を適切に実行することで、検索されない商品であっても市場で成功を収めることは十分可能です。重要なのは、従来手法の限界を認識し、新時代に適応したマーケティング戦略を構築することです。
成功企業の事例が示すように、真の顧客価値を創造し、継続的な市場教育を通じてカテゴリを育てることで、持続的競争優位を築くことができます。若手マーケターにとって、これは極めて挑戦的でありながら、成功時のインパクトが大きい戦略選択肢です。
データに基づく継続的改善を通じて、新しい市場の創造に挑戦していくことが、現代マーケティングの新たなスタンダードとなるでしょう。