はじめに|なぜ今、パルス消費が注目されるのか?
従来のマーケティング戦略は「計画された購買行動」が前提でした。テレビCMや検索連動広告などは、消費者がすでに何かを「買いたい」と思ったときに接触することを目指していました。
しかしスマホの浸透により、消費行動は大きく変化しています。今や多くの人が1日のうち何度もSNSを開き、動画を見て、アプリを切り替えています。このような「なんとなくスマホを見ている瞬間」に、突如として「これ欲しい!」という衝動が生まれ、そのまま購入につながる──これが「パルス消費(パルス型消費)」です。
Googleは2018年にこの行動を「情報探索や購買意思決定が極めて短時間で行われる、非計画的な消費」と定義しています。
スマホ時代における消費者の「気分」や「瞬間の刺激」による購買行動を捉えることが、今後のマーケティング成功の鍵となるのです。
パルス型消費とは何か?
項目 | 内容 |
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定義 | スマホ利用中に「瞬間的に買いたい気持ちが湧き、即購入する行動」 |
特徴 | 認知・検討を飛ばし、SNSや動画視聴中の“なんとなく”な状態で商品を見つけてその場で購入 |
きっかけ | スマホの普及、マイクロモーメントの増加、EC・SNSの進化 |
消費スタイルとの違い
比較対象 | パルス消費との違い |
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ジャーニー型(AIDMA/AISAS) | ステップを踏む計画型購買に対し、パルス消費は非連続で即決 |
衝動買い | 高額な非日常商品に多く、後悔しやすい。一方パルス消費は日常品中心で後悔が少ない |
これまでの購買モデルでは「Attention(注意)」→「Interest(興味)」→「Desire(欲求)」→「Memory(記憶)」→「Action(行動)」という段階を経るとされてきましたが、パルス消費では「Interest」や「Desire」をすっ飛ばしていきなり「Action」に至るケースも増えています。
パルス消費が増加している理由
背景要因 | 解説 |
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スマホ依存の加速 | 若年層を中心に、日常生活の隙間時間すべてがスマホ時間に変わりつつある |
SNSの動画シフト | TikTokやInstagramリールなど、視覚的に直感を刺激するメディアが主流に |
マイクロモーメントの連続 | 検索・視聴・比較・購買が数秒単位で同時並行的に起こる状況が当たり前に |
キャッシュレス&即買環境 | Apple PayやAmazonの1-Click購入など、購入の手間が大きく削減 |
ソーシャルコマースの進化 | 投稿やライブ配信からその場で商品ページに遷移・購入できるUXの浸透 |
さらに「安価で日常的な商品(スナック菓子やコスメ、日用品など)」は、よりこのパルス型の消費行動と親和性が高く、「自分ごと」や「今の気分」にピンとくるコンテンツと組み合わされると、非常に高い購買率を示すようになっています。
マーケターが注意すべきは、「もはや消費者は買う気満々の時だけでなく、むしろ“買う気ゼロ”のタイミングでも購買する」という前提で設計する必要があるという点です。
企業の活用事例|カカクコム「求人ボックス」

Googleは「TrueViewアクション広告」によってパルス消費の成果を測定しています。カカクコムが展開する求人検索サービス「求人ボックス」はその好例です。
企業名 | 施策内容 |
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カカクコム | TrueViewアクション広告を活用し、YouTube動画視聴中に表示されるCTA(今すぐ応募)で即時行動を促進。直感的で手間のない応募体験が可能に |
成功のポイントは「ユーザーが求人を探していないタイミングで接点をつくり、気づきと行動をセットで生み出す設計」にあります。情報取得から応募までがワンタップで完了する導線が、パルス型行動と親和性を持っています。
出典:パルス型消費行動に注目、認知と獲得を一瞬でカバーする施策で成果を拡大したカカクコム「求人ボックス」
パルス消費に対応するマーケティング戦略
パルス消費を捉えるには、マーケティングプロセス全体を「非計画購買」を前提に再設計する必要があります。
戦略カテゴリ | 具体施策 |
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マルチチャネル展開 | SNS広告、検索広告、YouTubeなど複数の接点を持ち、どこからでも瞬時に商品へアクセス可能に |
SNS購買機能の活用 | InstagramのShopNow、TikTok LIVEコマースなど、視聴体験と購入行動をシームレスに連動させる |
直感センサー訴求 | 「お得感」「驚き」「新しさ」「自己投影」など、瞬間的に感情に訴える訴求軸をクリエイティブやコピーに反映 |
非線形プロセス対応 | 通常のマーケティングファネル(認知→興味→検討→購入)ではなく、情報接触から即購入というショートカット導線を前提にした構成 |
継続的トレンドウォッチ | 新しい購買体験(例:AR試着、ボイスコマース、ライブ配信+チャット接客)を積極的にテストし、トレンドに乗り遅れない柔軟性を保つ |
マーケターが注目すべきポイント
パルス消費時代に成果を出すために、マーケターが押さえておくべき重要ポイントを以下に整理します。
注目項目 | 解説 |
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デジタル技術・キャッシュレスの進展 | 購入までの「手間のなさ」が最優先される時代。UI/UXの改善や決済システムの最適化が重要 |
AI・データ活用 | リアルタイムに関心を捉えて広告出稿できるターゲティングエンジン(例:Google AdsのSmart Bidding)を活用 |
想定外のトリガー設計 | 花粉症対策コンテンツから沖縄旅行の訴求に至るような、予測不能な思考ジャンプを前提にしたクリエイティブ設計が重要 |
「買う気ゼロ」からの設計視点 | 買う気のないユーザーにこそ、瞬時にスイッチを入れる施策を設計(例:限定・時限性、感情訴求、共感ストーリー) |
まとめ|Key Takeaways
パルス消費とは、計画性を持たず、スマホ操作中に「なんとなく買う」非連続な購買行動です。このような行動は以下のような戦略転換をマーケターに迫っています:
- 購入導線は「検索→EC」ではなく「動画→ワンタップ決済」へ
- 「買いたくなる瞬間をつくる」ではなく「買う気がない時でもスイッチが入る導線」へ
- 従来のペルソナ設計やファネル型マーケティングだけでは不十分。瞬間的な感情や状況にもとづいた即時対応力が必要
- 情報提供→検討促進ではなく、いきなり行動を起こさせる直感刺激が鍵
マーケティング設計の常識を「パルス化」することが、新たな競争優位の源泉になるでしょう。ぜひ試してみてください。