はじめに|「世界と日本は違う」ことに気づいているか?
「日本ではウケたのに海外では全く売れない…」
そんな悩みを持つ日系企業にとって、本質的な打ち手は「世界の消費者の価値観の違い」を理解することです。
なぜ日本の商品が世界で響かないのか。その理由は、単なる言語や文化の違いではなく、価値観の前提そのものが異なるからです。
日本市場では「高品質・安心・コスパ」といった価値が評価されがちですが、海外では「見せびらかせる」「共感される」「語れる」といった、情緒的で社会的な価値が購買動機になることも少なくありません。
本記事では、野村総合研究所(NRI)が世界20都市・1万人の消費者を対象に実施した調査結果をもとに、日系企業がグローバルで成功するためのマーケティング戦略を徹底解説します。
特に、「世界のどこで・誰に・どう届けるべきか」というマーケティングの根幹を再設計する上で、再現性ある消費者理解の枠組みとして活用いただけるはずです。
NRIレポートの全体像

本レポートは、野村総合研究所(NRI)が実施した世界20都市・計1万人への大規模消費者調査を基に、日本企業がグローバル市場で成功するための戦略的示唆を提供する内容です。
特に以下の4つの問いに対し、定量的・定性的な分析を通じて解答しています:
- 世界の消費者は、何を重視して商品を選んでいるのか?
- 日本人消費者と世界の消費者の価値観の違いとは?
- グローバル市場で拡散力のある層(トレンドセグメント)は誰か?
- 日系企業がとるべきマーケティング戦略の方向性は?
特に本レポートで強調されているのは以下の3点です:
- 日本人の感覚はグローバル市場では少数派であること(情報発信が少なく、価格重視、保守的)
- 拡散力のある「トレンドシーカー層」を起点としたマーケティングが必要であること
- 国・地域・カテゴリによってKBF(購買決定要因)は全く異なること
これにより、「商品開発・コンセプト設計・マーケティング施策」に至るまで、全方位的に戦略の再設計が求められることを示唆しています。
また、アニメや漫画といった日本独自の文化資産を活用することで、購買動機の接点(Brand Entry Point)を創出できることも実証的に示されており、単なる商品訴求だけでなく、文化×ブランドの融合による共感形成が次のフェーズに入っているといえます。
この調査レポートは、グローバル展開を目指すすべての日本企業にとって「今何を知り、どう行動を変えるべきか」を可視化する指針となります。本記事ではその一部分を要約してお伝えいたします。
世界の消費者の「価値観と行動」はこんなに違う!
NRIの調査では、以下の2軸により消費者タイプを明確に分類しました:
- 消費価値観(Premium Consumers):価格よりも価値や品質を重視するか否か
- 情報感度・発信性(Influential Consumers):自ら情報を収集し発信するか否か
この軸に基づいて、以下のように8つのタイプが抽出されています:

タイプ名 | 特徴 | 地域傾向 |
---|---|---|
顕示的消費(Ostentatious) | ブランド品を誇示し、SNSなどで発信する消費 | インド、タイ都市部 |
品質重視消費(Quality-oriented) | 値段より品質を最重視。良いものを長く使いたいスタイル | 日本、韓国、インドネシア |
安さ追求消費(Price-conscious) | とにかく安いものを優先。新商品より定番志向 | フィリピン、タイ郊外 |
固執的消費(Persistent) | 決まったブランド、決まった店舗を繰り返し利用 | 東京、ソウル |
トレンドシーカー(Trend Seeker) | 常に新しいものを試し、SNSで発信する。影響力が高い | インド主要都市 |
トレンドライダー(Trend Rider) | 周囲の反応を見てから、流行に乗るタイプ | タイ都市部など |
マイブーマー(Individualist) | 新しいものは好きだが、発信や他人との共有はしない | 中国、アメリカ |
コンサバ(Conservatives) | 情報発信はせず、買い物にも慎重。価格と実利を重視 | 東京、ソウル |
この分析から重要な点が1つ浮かび上がります。
日本(特に東京)の消費者像は、世界の消費者像と著しく異なる特殊な存在である。
日本は「情報を発信せず、価格に敏感で、決まったものしか買わない」という行動傾向が強く、グローバル展開のモデルケースにはなりにくいというのが事実です。
つまり、日本で成功したモデルをそのまま海外に持っていくと失敗する。成功の再現には、まずグローバルな消費者像の構造理解が欠かせません。
成功の鍵は「トレンドシーカー」にあり
では、どのタイプを最初に狙うべきか?答えは明快です。
「トレンドシーカー」層に尖った商品を当てること。
この層は、以下のような特徴を持っています:
- 新しもの好き:機能性よりも「新しさ」や「話題性」に反応する
- 発信性が高い:SNS等で自ら情報発信を行う
- 影響力が大きい:周囲の購入判断に大きな影響を与える
この「トレンドシーカー層」に商品が刺さると、彼らの発信を起点に、次のような波及が生まれます:
情報波及の構造(拡散モデル)
この構造から分かるのは:
- 最初のトリガー層は“広く浅く”ではなく、“狭く深く”であることが効果的
- 特定の層に熱狂的に刺さることで、周囲に影響を与えやすい
したがって、グローバル戦略を立てる際は、まず「どこで」「誰に」「どんな体験として」届けるかを、トレンドシーカーを起点に設計すべきです。
そして彼らに届いたメッセージが、トレンドライダーへ、さらには大衆層へと伝播していく。
これは、もはや「口コミ」や「バズ」の偶然を待つのではなく、設計された拡散構造として捉えるべきフェーズにあるのです。
トレンドシーカー層にこそ、尖ったコンセプトや体験価値をぶつけるべきであり、全方位的な設計や汎用性の高すぎる商品では、逆に情報波及の起点を失いかねません。
アニメ・漫画が日本ブランドの扉を開く:文化資産としての活用戦略
文化資産としての「アニメ・漫画」は、もはやサブカルチャーの枠を超えた“国際的ブランド構築装置”といっても過言ではありません。NRIの調査によると、アニメファンは日本製品に対し、以下のような認知バイアスを持ちやすいことがわかっています:
- 信頼できる(Trustworthy)
- 丁寧でこだわりがある(Craftsmanship)
- 高品質で長持ち(Durable Quality)
とりわけ注目すべき事例が、インド・デリーで開催されたアニメイベント「MELA! MELA! ANIME JAPAN!!(MMAJ)」です。たった2日間で47,200人を動員し、来場者の日本製品に対する興味と購買意向を大幅に引き上げる結果となりました。
項目 | イベント前 | イベント後 |
---|---|---|
日本コンテンツへの興味 | 8.5点 | 9.6点 |
日本製品への購入意欲 | 7.4点 | 8.3点 |
この結果は、エンタメ体験を通じてブランド価値が想起され、製品への好意や期待が高まることを裏付けています。つまり、アニメ・漫画は「BtoC商品の理解促進」だけでなく、「BtoBブランドの親近感形成」においても有効な導線となり得るのです。
地域別消費者像と戦略的示唆
NRIの都市別分析では、以下のような明確な消費者傾向の違いが見られ、それぞれに適した戦略設計が求められます。
地域 | 傾向 | 戦略的示唆 |
---|---|---|
東京・ソウル | ロイヤルティ高いが新規参入への反応が鈍く、情報発信も消極的 | 価格・品質訴求を徹底し、粘り強い認知戦略が必要 |
ムンバイ・デリー | SNS活用が活発、見た目・話題性重視 | 「SNS映え」×「ストーリー」の設計で初速を狙う |
ASEAN諸国(バンコク、ホーチミン等) | 慎重で模倣性が高く、他人の評価を重視 | トレンドフォロー戦略が有効。第三者推薦の活用を |
アメリカ・イギリス | 合理性とブランド重視が同居 | 差別化ポイントと社会的意義の同時訴求が求められる |
このように、国ごとの「KBF(Key Buying Factor:購買決定要因)」と消費者心理を把握することが、戦略立案の再現性を高めます。
国別に異なるKBF(購買決定要因)を理解せよ
同じ製品カテゴリでも、国によってKBFは大きく異なります。ここでは2つの例を紹介します。
自動車カテゴリ(タイ市場)
- ブランドの持つ「社会的評価」や「見栄え」が重視される
- 推薦者の存在(インフルエンサー)やSNSでの共有性がKBFに直結
- 実際の性能や耐久性よりも、“見られること”を意識した設計が効果的
加工食品・飲料カテゴリ
- インド・タイ:パッケージの鮮度、見た目の新しさ、ブランドストーリーが評価されやすい
- 日本:圧倒的に「味」重視。広告で味が伝わらないため、体験や試食が販促手段として有効
このように、商品は変えずとも“伝え方”を変えるだけで反応が劇的に変わるという点に留意する必要があります。
まとめ|Key Takeaways
学びの視点 | 解説 |
---|---|
日本市場の特殊性を理解せよ | 日本人の消費スタイルはグローバルで見れば例外。内需依存の思考を捨てるべき |
トレンドセグメントを起点に拡散を設計せよ | 情報感度の高い層に尖った商品をぶつけ、波及構造を前提とした設計が必須 |
商品を“語れる体験”に仕立てよ | 新しさ、共感性、SNS映えを備えた商品体験が武器になる |
国・地域ごとのKBFを前提にローカライズせよ | 訴求軸を国ごとにチューニング。調査と仮説検証をセットで行うこと |
アニメ・漫画などの文化資産を戦略的に活用せよ | 無形資産をフックにして、非購買層にもリーチし、ブランド認知の扉を開く |
このレポートは、「日本企業がグローバルに戦うための実践的示唆」を豊富に含んでいます。最も重要なのは、日本の成功モデルを“そのまま輸出しない”勇気と、ローカル適応にかける戦略眼を持つことです。
“尖らせて”“文化を使って”“トレンドから拡げる”。これが、これからの海外市場攻略の黄金ルールです。詳しくはDLをしてぜひご一読ください。