はじめに
グローバル市場で勝ち残るブランドには、どのような特徴があるのでしょうか? インターブランドが発表する「Best Global Brands 2024」ランキングは、世界最大級のブランド価値評価として、グローバルビジネスにおけるブランド戦略の重要性を示す貴重な指標となっています。
世界で最も価値のあるブランドとして選ばれるためには、単に製品やサービスの品質が高いだけでなく、顧客との深い関係構築や社会への貢献、そして変化する環境への適応力が不可欠です。特に日本のマーケターにとって、世界で勝ち残るためのブランド戦略は重要な課題です。
本記事では、Best Global Brands 2024の結果を分析し、トップブランドに共通する成功要因と、日本ブランドが世界で存在感を高めるための方向性について考察します。グローバル競争が激化する中、自社ブランドをどう進化させるべきか、その答えのヒントがここにあります。
Best Global Brands 2024の概要

インターブランドの「Best Global Brands 2024」は、ブランドが持つ価値を金額に換算してランキング化したもので、今年で25回目の発表となります。2024年版のランキングには、以下のような特徴が見られます。
ランキングの主な特徴
項目 | 詳細 |
---|---|
総合価値 | Top100ブランドの総額は3兆4,261億ドル(約5%増加) |
首位 | Appleが12年連続でトップ(ただし価値は3%減少) |
最大成長率 | Ferrari(62位)が21%の成長率でトップ |
日本ブランド | Toyotaが6位(13%増)、Hondaが26位(9%増)、Sonyが34位(9%増)、Nissanが59位(10%増)、Nintendoが70位(9%増)、Panasonicが98位(-4%) |
新規参入 | Nvidia(36位)、Pandora(91位)、Range Rover(96位)、Jordan(99位) |
業界別の傾向
- 自動車業界: 明暗が分かれる結果に。Ferrari、Toyota、Kiaなどが大きく成長した一方、Tesla、Mercedes-Benzは減少。
- テクノロジー: 引き続き上位を独占。特にAI関連企業の躍進が目立つ。
- ラグジュアリー: 全体的に好調で、特にFerrari、Hermès、Pradaの成長が顕著。
トップブランドの共通点
Best Global Brands 2024で上位にランクインしたブランドを分析すると、いくつかの重要な共通点が浮かび上がります。
1. 「アリーナ思考」の実践
インターブランドが「アリーナ思考」と呼ぶアプローチが成功ブランドの特徴として挙げられています。これは企業視点・カテゴリー発想からではなく、「ブランドとしてどのように生活者の欲求に応えるか」という生活者視点・ニーズ発想への転換を意味します。
具体例:
- Ferrari(62位): 自動車の枠を超え、ファッション、eスポーツ、テーマパーク、レストランなど、強いブランドセンスを活かした多角的展開
- Apple(1位): 製品だけでなく、顧客体験を重視し、音楽、決済、健康管理など生活のさまざまな場面に価値を提供
2. エコシステムの構築
トップブランドは、単一の製品・サービスではなく、顧客を中心としたエコシステムを構築しています。
ブランド | エコシステム戦略 |
---|---|
Apple | iPhoneを核に、AppleMusic、ApplePay、AppStoreなど多様なサービスを展開し、顧客の囲い込みに成功 |
Amazon | プライム会員を軸に、ECだけでなく、動画・音楽配信、広告事業など多角的に収益源を創出 |
Microsoft | Azureを新たなAIオペレーティングシステムと位置づけ、開発者エコシステムを構築 |
3. 顧客との深い関係構築
ランキング上位のブランドは、単なる取引関係を超えた、顧客との深い情緒的な絆を構築しています。
重要な取り組み:
- パーソナライズされた体験の提供
- ブランドストーリーの共有
- コミュニティの形成
- デジタルタッチポイントの拡充
4. イノベーションと伝統のバランス
成功ブランドは、革新性を追求しながらも、ブランドの核となる価値観や伝統を守り続けています。
例:
- Toyota: 「すべての人に移動の自由を」という理念を守りながら、モビリティ企業への変革を推進
- Hermès: 1837年からの伝統と職人精神を守りながら、新たなライフスタイル提案(ヨガウェアなど)を展開
5. サステナビリティへの本格的取り組み
環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みが、単なるCSR活動から、ブランド戦略の中核に位置づけられています。
具体的な取り組み:
- Hermès: 新工房でエネルギー性能最高レベルのE4C2ラベルを取得
- Panasonic: "Panasonic GREEN IMPACT"を掲げ、CO2排出削減に取り組み
日本ブランドの躍進と課題
Best Global Brands 2024において、日本ブランドは全体的に好調な結果を示しました。特にToyota、Honda、Sony、Nissanなどの製造メーカーが価値を大きく向上させています。
日本ブランドの強み
1. 確固たる理念とブランドDNAの継承
日本のTop100入りブランドは、創業の理念やDNAを大切にしながら、時代に合わせた進化を遂げています。
例:
- Toyota: 「すべての人に移動の自由を」を理念に、モビリティ企業へと変革
- Sony: 「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeのもと、エンタテインメント事業を強化
- Nissan: 創業以来「他がやらぬことをやる」という精神でイノベーションを追求
2. グローバル市場での適応力
特に自動車ブランドは、グローバル市場、特にアジア・アフリカなどの新興市場への展開力が強みとなっています。
3. 高品質と技術力の信頼性
長年にわたって培われた品質と技術力への信頼は、日本ブランドの大きな強みとなっています。
日本ブランドの課題と可能性
課題
- 情緒的価値の訴求力
- 機能的価値に比べ、ブランドストーリーや情緒的な価値の発信が弱い傾向
- デジタルトランスフォーメーションのスピード
- デジタル技術を活用した顧客体験の革新やビジネスモデル変革のスピードが競合に比べて遅い場合がある
- グローバルコミュニケーション
- グローバル市場での一貫したブランドメッセージの発信と各市場に適応したローカライゼーションのバランス
未来の可能性
- 日本独自の価値観を活かしたブランディング
- 「おもてなし」「職人気質」「調和」など、日本独自の価値観をグローバルブランド戦略に組み込む
- テクノロジーと人間性の融合
- 先端技術と人間中心の思想を融合させた独自のブランド体験の創造
- アジア市場でのリーダーシップ
- 成長するアジア市場で日本企業の強みを活かしたブランド展開
成功事例から学ぶブランド戦略
Toyota: グローバルリーダーシップの維持と進化
Toyotaは6位にランクインし、21年連続で自動車ブランドの最高位を維持しています。その成功要因を分析します。
成功要因:
- ビジョンとビジネス戦略の一貫性: 「すべての人に移動の自由を」という理念と実際のビジネス戦略が密接に連動
- 顧客起点のイノベーション: バッテリー式電気自動車「KAYOIBAKO」などの新コンセプト
- 社会的価値の創造: パリオリンピック・パラリンピックでのアクセシブル・ピープルムーバー提供など
Ferrari: カテゴリーを超えたブランド拡張
最も成長率の高かったFerrariの戦略から学ぶポイントを検証します。
成功の鍵:
- ブランドDNAの徹底的な保持: レーシングスピリットから生まれた情熱と卓越性を守り抜く
- 戦略的なブランド拡張: ファッション、eスポーツ、エンターテイメントなど多方面への展開
- 社会変革への積極的関与: 多様性の推進(ルイス・ハミルトンの起用)、サステナビリティ(セーリング競技)など
Sony: エンタテインメントとテクノロジーの融合
Sonyのブランド価値向上戦略を分析します。
注目ポイント:
- 明確なパーパスとビジョン: 「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose
- グループシナジーの最大化: ゲーム、音楽、映画の3事業の相乗効果を創出
- 長期視点での投資と戦略: 10年後を見据えた「Creative Entertainment Vision」の策定
マーケターがすぐに取り組むべきアクション
Best Global Brands 2024の分析から、マーケターが自社のブランド強化のために取り組むべきアクションをまとめます。
1. 顧客視点へのシフト
- アリーナ思考の実践: 自社の製品・サービスではなく、顧客の生活における課題や欲求から発想
- 顧客インサイトの深掘り: データと直接対話の両面から顧客理解を深化
- ペルソナの再定義: 変化する顧客像を捉え直す
2. ブランドパーパスの明確化と体現
- ブランドの存在意義の再定義: なぜ存在するのか、社会にどのような価値を提供するのかを明確化
- パーパスの社内浸透: 従業員一人ひとりがパーパスを理解し、日々の業務に反映
- 一貫性のあるコミュニケーション: すべてのタッチポイントでパーパスを表現
3. デジタルとリアルの融合戦略
- シームレスな顧客体験の設計: オンラインとオフラインの境界を越えた体験の創出
- データ活用の高度化: 顧客データを活用したパーソナライズされた体験の提供
- デジタルエコシステムの構築: 顧客との複数の接点を連動させた価値提供
4. ESG要素の戦略的統合
- サステナビリティの事業戦略への組み込み: ESGを単なる社会貢献ではなく、事業成長の機会として捉える
- 透明性の確保: 取り組みの進捗を定量的に測定し、開示
- ステークホルダーとの協働: サプライヤー、顧客、地域社会との協働によるインパクト創出
我々ビジネスパーソンは成功企業の取り組みから学ぶことは尽きないでしょう
まとめ
Best Global Brands 2024の分析から明らかになった、グローバルで勝つブランドの法則と日本企業の可能性について、主なポイントをまとめます。
- 顧客中心の発想こそが成功の鍵: 企業視点からではなく、生活者視点で価値を創造するブランドが成長
- エコシステム構築による顧客との関係深化: 単一製品・サービスを超えた価値の連鎖を創出
- 伝統とイノベーションのバランス: 核となる価値観を守りながら、時代に合わせた革新を続ける
- 日本ブランドの強みを活かした差別化: 品質、技術力、独自の価値観を基盤としたブランド戦略
- デジタルとヒューマンの融合: テクノロジーを活用しながらも、人間的な温かさを忘れない
現代のブランド戦略は、製品やサービスを売るだけでなく、顧客が求める本質的な価値を提供し、社会的な意義を持つことが求められています。Best Global Brands 2024のトップブランドに共通する思考や行動様式を理解し、自社のブランド戦略に取り入れることで、グローバル市場での競争力を高めることができるでしょう。