なぜ60%の新規事業は失敗するのか?本質的な7つの要因と成功への道筋 - 勝手にマーケティング分析
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なぜ60%の新規事業は失敗するのか?本質的な7つの要因と成功への道筋

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はじめに

多くの企業が新たな成長機会を求めて新規事業に挑戦していますが、その成功率は決して高くないのが現実です。統計によると、新規事業の失敗率は60%とも言われており、多くのマーケターや事業責任者が「なぜ新規事業は失敗するのか」という課題に直面しています。

あなたも以下のような悩みを抱えていませんか?

  • せっかく立ち上げた新規事業がなかなか軌道に乗らない
  • ユーザーニーズがあるはずなのに、なぜか商品・サービスが売れない
  • 事業計画と現実のギャップが大きく、修正が追いつかない
  • 社内の既存事業との軋轢で前に進めない

本記事では、新規事業が失敗する本質的な要因を整理し、それらを克服するための具体的な対策をご紹介します。新規事業に関わるマーケター、事業責任者、経営者の方々に、失敗の本質を理解し、成功確率を高めるためのヒントとなれば幸いです。

新規事業の失敗率と現状

新規事業の失敗率は非常に高いことが様々な調査で示されています。この現実を直視することから始めましょう。

新規事業の厳しい現実

調査元失敗率備考
アビームコンサルティングの2018年調査約55%新規事業の半分以上が立ち上がらずに終了
中小企業庁 2017年版「中小企業白書」第2部/第3章約71%新規事業の3分の2が3年以内に撤退

特に日本企業における新規事業の成功率は決して高くなく、多くの企業が苦戦している状況が伺えます。では、なぜこれほど多くの新規事業が失敗するのでしょうか?

新規事業が失敗する本質的な7つの要因

新規事業が失敗する要因は多岐にわたりますが、特に本質的な7つの要因に分類することができます。これらを理解することで、失敗のパターンを事前に察知し、対策を講じることが可能になります。

1. 顧客ニーズとの不一致

新規事業失敗の最も根本的な原因は、顧客が本当に求めているものを提供できていないことです。

失敗の具体例解説
「自分たちが良いと思う」製品開発顧客視点ではなく、自社視点での開発が行われている
市場調査の形骸化アンケート等で表面的なニーズしか捉えられていない
ペインポイントの見誤り顧客が本当に解決したい課題を捉えきれていない

多くの企業が陥りがちなのは、「プロダクトアウト」の発想です。自社の技術や強みから出発して事業を考えるため、顧客が本当に欲しいものとのミスマッチが生じてしまいます。

例えば、ソニーのBetamaxは技術的には優れていましたが、録画時間が短いという顧客ニーズに応えられず、VHSに敗れました。技術的優位性よりも、顧客が求める価値を提供できるかが重要だったのです。

2. ビジネスモデルの不備

優れた製品やサービスがあっても、収益化の仕組みが機能しなければ事業として成立しません。

失敗の具体例解説
収益源の不明確さ「とりあえず無料で始めて、後で収益化」の罠
単価設定の誤り顧客が支払える価格と提供コストのバランスが合わない
スケール時の収益構造破綻小規模では成立したが、拡大するとコスト構造が悪化

多くのスタートアップやベンチャー企業が陥る罠として、「とりあえずユーザー数を増やす」「収益化は後回し」という戦略が挙げられます。これは特にIT産業で顕著でしたが、近年は投資家も単なるユーザー数ではなく、持続可能な収益モデルを重視する傾向にあります。

例えば、2000年代初頭のドットコムバブル期には、収益モデルが不明確なまま多くのインターネット企業が誕生しましたが、最終的にほとんどが破綻しました。

3. 市場規模と成長性の過大評価

事業計画段階で市場規模や成長性を過大に見積もってしまうことも、失敗の大きな要因です。

失敗の具体例解説
TAM(全体市場)だけを見る罠理論上の市場規模ではなく実際に獲得可能な市場(SAM、SOM)を見誤る
技術革新の速度を読み誤る技術の普及や受容に必要な時間を過小評価する
市場の飽和状況の無視すでに競合が多く、差別化が難しい市場に参入

新規事業の計画段階では「バラ色の未来」を描きがちですが、冷静に市場を分析することが重要です。特に企業内での新規事業立案では、予算獲得のために意図的に市場を過大評価してしまうケースも少なくありません。

4. リソース配分の不適切さ

新規事業に対する人材、資金、時間などのリソース配分が不適切なケースも多く見られます。

失敗の具体例解説
兼任体制による推進既存業務と兼任で新規事業を担当し、集中できない
短期的な成果を求め過ぎる新規事業の成長に必要な時間を与えない
必要な投資が途中で滞る初期投資は行うが、軌道に乗るまでの資金が不足

多くの企業では、新規事業にリソースを投入することに慎重になりがちです。特に大企業では、既存事業が安定している場合、新規事業への投資は「余剰」と見なされ、必要なリソースが適切に配分されないことがあります。

クレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」で指摘されているように、既存の成功体験が新規事業への適切な投資判断を妨げることがあります。

5. 組織文化と既存事業との軋轢

新規事業と既存組織の文化やプロセスとの不適合も、失敗の大きな要因となります。

失敗の具体例解説
意思決定プロセスの重さ既存事業向けの承認プロセスが新規事業の機動性を奪う
カニバリゼーションへの恐れ既存事業を侵食する恐れから新規事業を制限する
「失敗」を許容しない文化トライアル&エラーが許されない企業風土

特に大企業での新規事業開発において、この問題は顕著です。既存のルールや文化は、安定した事業運営には適していても、不確実性の高い新規事業には適さないことが多いのです。

富士フイルムの事例は、この課題を克服した好例です。デジタルカメラの台頭によりフィルム事業が危機に瀕した際、経営陣は危機感を全社で共有し、化粧品や医薬品など異分野への進出を積極的に推進しました。この際、既存事業の技術や知見を活かしつつも、新規事業に適した評価基準や意思決定プロセスを構築したことが成功の一因とされています。

6. 実行力と適応力の不足

計画よりも実行力が重要だという認識の欠如も、失敗の大きな要因です。

失敗の具体例解説
過度な計画依存詳細な事業計画の策定に時間を費やし、実行が遅れる
市場の反応への適応不足顧客からのフィードバックに基づく軌道修正ができない
スピード感の欠如意思決定の遅さにより市場機会を逃す

新規事業では、当初の計画通りに進むことはほとんどありません。重要なのは、市場からの反応を素早く取り入れて軌道修正できる「適応力」です。

リーン・スタートアップの提唱者であるエリック・リース氏は「構築-計測-学習」のサイクルを素早く回すことの重要性を説いています。最小限の製品(MVP: Minimum Viable Product)で市場の反応を確認し、そこから学びながら製品を発展させていくアプローチが有効です。

7. 過度なリスク回避と失敗忌避

新規事業には不確実性がつきものですが、過度にリスクを回避しようとすることが失敗につながるケースも多くあります。

失敗の具体例解説
完璧主義100%の完成度を求め、市場に出すタイミングを逃す
前例踏襲「前例がない」ことを理由に新しい挑戦を避ける
小さな失敗の否定「失敗」を学びの機会ではなく否定的に捉える企業文化

日本企業に特に多いのが、「失敗を許容しない文化」です。これが新規事業の挑戦を阻害する大きな要因となっています。

アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは「アマゾンは世界一の失敗をする企業である」と述べ、失敗を恐れずに挑戦することの重要性を強調しています。小さな失敗を重ねながら学習し、大きな成功につなげるという考え方が、イノベーションを生み出す土壌となっています。

新規事業失敗の本質に迫る根本原因分析

ここまで見てきた7つの失敗要因にはさらに深い根本原因があります。この根本原因を理解することで、より効果的な対策を講じることができます。

「外部環境」と「内部能力」のギャップ

新規事業失敗の本質は、「外部環境(市場のニーズや変化)」と「内部能力(企業の強みや文化)」のギャップにあります。

graph TD A[外部環境] -->|ギャップ| B[内部能力] C[市場ニーズ] --> A D[競合状況] --> A E[技術トレンド] --> A F[社会変化] --> A G[組織能力] --> B H[企業文化] --> B I[リソース] --> B J[意思決定プロセス] --> B

このギャップを埋めるためには、以下の4つの視点が重要です:

  1. 市場理解の深化:表面的なニーズではなく、本質的な顧客の課題を理解する
  2. 組織の適応力向上:新規事業に適した組織体制や評価基準の構築
  3. 実験文化の醸成:小さく始めて学習するプロセスを組織に根付かせる
  4. 長期視点の確保:短期的な成果に囚われない評価と投資の仕組み

「認知バイアス」という落とし穴

新規事業の失敗には、私たちの思考に潜む「認知バイアス」も大きく影響しています。

認知バイアス新規事業開発における影響
確証バイアス自分たちの仮説を支持する情報ばかりを集めてしまう
過度の楽観主義成功確率や市場規模を過大に見積もる
サンクコスト効果投資してきたからという理由で撤退判断が遅れる
権威バイアス役職の高い人の意見が批判されず、誤った方向に進む

これらのバイアスは誰もが持っているものですが、その存在を認識し、客観的な視点を持つことで影響を最小化することができます。

例えば、米国の投資銀行ベア・スターンズは2008年の金融危機で破綻しましたが、その原因の一つとして経営陣の「過度の楽観主義」が指摘されています。不動産市場の下落リスクを過小評価し、適切な対策を講じられなかったのです。

新規事業の成功確率を高める対策

これまで見てきた失敗要因を踏まえ、新規事業の成功確率を高めるための具体的な対策を見ていきましょう。

1. 顧客起点の事業開発プロセス

顧客ニーズとの不一致を解消するためには、徹底した顧客理解から始めることが重要です。

対策具体的手法
ジョブ理論の活用顧客が「雇う」本質的な仕事(Job)を理解する
カスタマージャーニーマッピング顧客体験の全体像を可視化し、真の課題を発見する
リーンスタートアップ手法最小限の製品で市場反応を確認し、学習する

クレイトン・クリステンセン教授が提唱する「ジョブ理論」は、顧客が製品やサービスを「雇う(hire)」という視点で考える手法です。例えば、「ミルクシェイクを買う人は何のためにそれを雇っているのか?」という問いから、朝の通勤時間を退屈せずに過ごすためという「ジョブ」が発見され、製品改良につながった事例があります。

2. 持続可能なビジネスモデル設計

収益化の仕組みを明確にし、持続可能なビジネスモデルを設計することが重要です。

対策具体的手法
ビジネスモデルキャンバス9つの要素で事業の全体像を可視化する
単位経済分析1顧客あたりの収益構造を詳細に分析する
バリュープロポジションデザイン顧客に提供する価値と対価のバランスを設計する

アレックス・オスターワルダーの「ビジネスモデルキャンバス」は、事業の9つの構成要素(顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、パートナー、コスト構造)を一枚のキャンバスで可視化するツールです。これにより、ビジネスモデルの整合性を確認し、課題を発見することができます。

3. 市場機会の適切な評価

過大評価を避け、市場機会を適切に評価するための手法です。

対策具体的手法
TAM-SAM-SOM分析市場規模を段階的に現実的に評価する
競合分析と差別化要因の明確化競合状況を正確に把握し、自社の優位性を明確にする
アドプションカーブの理解技術や製品の普及に必要な時間を考慮する

市場規模の評価について、一般的には以下のように段階的に考えることを推奨しています:

  • TAM(Total Addressable Market):理論上の最大市場規模
  • SAM(Serviceable Available Market):自社が提供可能な市場規模
  • SOM(Serviceable Obtainable Market):実際に獲得可能な市場規模

この3段階で考えることで、より現実的な市場評価が可能になります。

4. 適切なリソース配分と組織設計

新規事業に適したリソース配分と組織設計を行うための手法です。

対策具体的手法
専任チームの設置既存事業から独立した専任チームで推進する
ステージゲート法段階ごとの評価基準を明確にし、継続的に投資判断を行う
両利きの経営既存事業の「深化」と新規事業の「探索」のバランスを取る

「両利きの経営(Ambidextrous Organization)」は、ハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授らが提唱した概念で、既存事業の効率化(Exploitation)と新規事業の探索(Exploration)を両立させる経営手法です。組織構造や評価制度、リーダーシップスタイルを、既存事業と新規事業で差別化することが重要とされています。

出典:チャールズ・オライリー&マイケル・タッシュマン「両利きの経営」

5. 実験と学習のサイクル構築

計画よりも実行と学習を重視するアプローチです。

対策具体的手法
MVP(Minimum Viable Product)開発最小限の機能で市場反応を確認する
仮説検証サイクル仮説→実験→検証→改善のサイクルを高速で回す
OKR(Objectives and Key Results)目標と成果指標を明確にし、柔軟に修正する

Google等で採用されているOKR(Objectives and Key Results)は、「何を達成したいのか(Objectives)」と「どうやって測定するのか(Key Results)」を明確にする目標設定フレームワークです。新規事業において重要なのは、単なる売上や利益ではなく、学習や顧客理解の深化といった指標も含めた多面的な評価です。

出典:ジョン・ドーア「OKR」

6. 失敗から学ぶ文化の醸成

小さな失敗を経験として積み重ね、学びに変える文化を作ることが重要です。

対策具体的手法
心理的安全性の確保失敗を責めるのではなく学びに変える環境づくり
「賢い失敗」の奨励計画的な実験を推奨し、学びを組織で共有する
フェイルフォワード失敗を次のステップに活かす思考法の浸透

GoogleのAmy Edmondson氏による「心理的安全性(Psychological Safety)」の概念は、チームメンバーが意見を述べたり、間違いを指摘したり、新しいアイデアを提案したりすることを恐れない環境を指します。この環境があると、メンバーは失敗を隠さず、早期に問題を発見し、解決策を模索することができます。

出典:Amy Edmondson「恐れのない組織」

成功事例から学ぶ新規事業開発のポイント

最後に、成功した新規事業の事例から、私たちが学べるポイントを見ていきましょう。

富士フイルムの事業転換

デジタルカメラの台頭によりフィルム需要が激減する中、富士フイルムは化粧品や医薬品など異分野への進出に成功しました。

成功要因詳細
危機感の共有「このままではいずれ会社が立ち行かなくなる」という危機感を全社で共有
既存技術の活用フィルム技術の知見(コラーゲン研究等)を化粧品開発に転用
長期的視点での投資短期的な収益にこだわらず、将来を見据えた大胆な投資判断

富士フイルムの成功は、単なる多角化ではなく、自社の技術的強みを活かした「関連多角化」であり、さらに市場ニーズに沿った方向性だったことが重要でした。古森重隆氏(元社長・会長)のリーダーシップの下、危機感を原動力に変えた好例と言えます。

メルカリの中古品マーケットプレイス

CtoC(個人間取引)の中古品マーケットプレイス「メルカリ」は、既存のフリーマーケットやオークションの課題を解決し、大きな成功を収めました。

成功要因詳細
顧客の潜在ニーズ発掘「手軽に不用品を売りたい」というニーズに着目
UI/UXへのこだわり誰でも簡単に使えるインターフェースを追求
課金モデルの明確さ「売れたら10%」というシンプルな手数料設定

メルカリは、既存の個人間取引の面倒さ(価格交渉、対面取引など)を解消し、スマートフォンで完結する手軽さを提供したことで急成長しました。顧客視点での課題解決と、徹底したUI/UXの改善が成功要因と言えます。

出典:「メルカリの歴史」

ソニーのPLAYSTATION事業

1994年に発売された初代プレイステーションは、ソニーの新規事業として大成功を収めました。

成功要因詳細
顧客中心の製品設計開発者ではなくゲームプレイヤーの視点に立った設計
パートナーシップ構築サードパーティのゲームデベロッパーとの関係構築
組織の自律性既存事業の制約を受けない、独立した事業部として運営

プレイステーション事業は、当初ソニー内部でも懐疑的な見方がありましたが、久夛良木健氏を中心とするチームが粘り強く推進しました。既存の音楽・映画事業とのシナジーを活かしつつも、新規事業として自律性を確保したことが成功の鍵でした。

出典:「ソニー公式 プレイステーション 30年間の「遊び」の数々」

まとめ:新規事業成功のためのキーポイント

新規事業の失敗要因と成功のためのポイントを整理します。

Key Takeaways

  • 新規事業の失敗には、顧客ニーズとの不一致、ビジネスモデルの不備、市場規模の過大評価など7つの本質的要因がある
  • 失敗の根本には「外部環境と内部能力のギャップ」や「認知バイアス」がある
  • 成功確率を高めるには、顧客起点の事業開発、持続可能なビジネスモデル設計、適切な市場評価が重要
  • 組織面では、専任チームの設置、実験と学習のサイクル構築、失敗から学ぶ文化の醸成が鍵となる
  • 富士フイルム、メルカリ、ソニーの事例からは、危機感の共有、顧客視点の徹底、長期的視点での投資といった成功要因が学べる
  • 新規事業は計画通りに進まないのが当然であり、学習と適応の姿勢が最も重要である

新規事業の開発は不確実性との闘いです。完璧な計画を立てることよりも、小さく始めて市場の反応を確認しながら軌道修正していく姿勢が重要です。失敗を恐れるのではなく、失敗から学び、次のステップに活かす「フェイルフォワード」の考え方を組織に浸透させることが、新規事業成功への道となるでしょう。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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