はじめに
マーケティングの世界では、単にHow(どのように届けるか)を実行するだけでは不十分です。なぜなら、Howの手法は模倣されやすく、持続的な競争優位性にはならないからです。
商品が選ばれ続けるためには、市場の変化に適応しながら独自性を作り続けることが欠かせません。マーケターには、単なる販促や広告施策だけでなく、商品の根幹となる価値の開発・改善にも関与する役割が求められています。
本記事では、なぜ商品の独自性を作り続けなければならないのか、そしてマーケターがどのように取り組むべきなのかを詳しく解説します。
商品の独自性がなぜ重要なのか
競争環境の変化と模倣のリスク
現代の市場では、競合が常に新しい商品を開発し、優れたプロモーションを展開しています。
消費者から商品が多すぎてどれが自分に取って最適な商品なのかを判断しかねる状況が増えています。そんな中、以下のような状況が起こると簡単に淘汰されるリスクがあります。
- 技術の進化:デジタルツールの発達により、競合がすぐに模倣可能
- 広告のコモディティ化:広告のROIが低下し、Howだけでの差別化が難しくなる
- 消費者の目の肥え方:情報が溢れる中で、真に価値のある商品だけが生き残る
選ばれる確率を高める「プレファレンス」
森岡毅氏の「確率思考の戦略論」では、売上を決めるのは 認知率 × 配荷率 × プレファレンス(好意度) であると解説されています。このうち、認知率はいかに適切に知られるか、配荷率はいかに手に届く箇所で提供できているかである程度まではコントロール可能ですが、認知にも配荷にも限界があります。そこでプレファレンスが最重要な変数としてマーケターが最も注力すべき要素といわれています。
この「プレファレンス」を高めるためには、単にHowの工夫をするだけでは不十分で、競合にはない独自性を持った商品が必要です。
独自性の作り方:Whatの進化
Whoの理解を深め、Whatを最適化
商品の独自性を作るためには、Who(誰に)とWhat(どんな価値を提供するか)を定期的に見直し、進化させることが必要です。Whoが変われば求める便益も変わり、Whatの進化が求められます。
例えば、SpotifyはAIによる楽曲推薦機能を強化し続けることで、音楽ストリーミング市場での独自性を維持しています。
POP・POD・POFを分析
独自性を見つけるためのフレームワークとして、「POP・POD・POF」が有効です。
要素 | 説明 |
---|---|
POP(Points of Parity) | 競争市場で最低限必要な条件 |
POD(Points of Difference) | 競争優位性を生み出す独自性 |
POF(Points of Failure) | 顧客から見て不満や弱点となる部分 |
PODを強化し続けることで、競合にない価値を生み出し、プレファレンス(好意度)を高めることができます。
独自性を作るための具体的な方法
- 顧客インサイトを深掘りする
- 既存の顧客調査だけでなく、未顧客のインサイトを分析する
- 行動データを活用し、購買行動の背景を理解する
- 「競合にない価値」を作る
- 競合製品の分析を行い、未充足のニーズを特定する
- トレードオフを受け入れ、他社が真似しにくい独自の価値を生み出す
- 継続的なプロダクトのアップデートを実施
- MVP(Minimum Viable Product)で市場に投入し、ユーザーのフィードバックをもとに改善を重ねる
- 短期間でのテストを繰り返し、適応し続ける体制を作る
- ブランドストーリーを構築する
- ただの機能差別化ではなく、ブランドの理念やミッションと結びつけた価値提供を意識する
顧客にとって共感できるストーリーを作り、持続的なファンを獲得する
- ただの機能差別化ではなく、ブランドの理念やミッションと結びつけた価値提供を意識する
- 市場の変化を継続的に観察する
- PESTEL分析を活用し、政治・経済・社会・技術・環境・法律の変化を見極める
未来のトレンドを先読みし、ニーズが生まれる前に先手を打つ
- PESTEL分析を活用し、政治・経済・社会・技術・環境・法律の変化を見極める
Howの実行だけでなく、独自性を開発し続けるマーケターの役割
日本のマーケターは自身の業務を「Howの企画・実行」にとどまりがちですが、実際には新しいWhoの検証や開拓、そして独自性を磨き続けるWhatの開発にも積極的に関与すべきです。
Howだけに頼る危険性
How(広告・販促・価格戦略など)のみを改善し続けても、以下のような限界にぶつかります。
- 広告の効率が悪化(競争が激しく、費用対効果が低下)
- 短期的な売上改善はできても、中長期的な成長が難しい
- プロダクト自体に魅力がなければ、リピート率が下がる
マーケターが商品開発に関与するためのアプローチ
マーケターが独自性の開発に関与するために取るべき行動は以下の通りです。
- Whoの再定義
- 既存顧客だけでなく、新しい顧客層のニーズを探る
- PESTEL分析を活用し、市場の変化を捉える
- Whatのブラッシュアップ
- 便益の見直し(顧客インサイトを深掘り)
- 競合との差別化ポイントの特定(PODを強化)
- プロダクトチームとの連携
- マーケティングデータを商品開発に活用
- 市場調査をもとに、新機能や新サービスを提案
- エンジニアやデザイナーと協力し、ユーザー体験の最適化を進める
成功事例:セブンイレブンの独自性戦略
セブンイレブンは、PB商品「セブンプレミアム」の開発を強化し、競合との差別化を図っています。 これにより、同業他社がHowで競争している中でも、商品自体の独自性で選ばれる仕組みを作っています。
また、AppleはiPhoneの独自OSやエコシステムを強化することで、競合との差別化を図り続けています。このように、マーケターが商品開発にも深く関与することで、持続的な競争優位性を築くことができます。
まとめ:マーケターが取り組むべきこと
商品の独自性を作り続けることは、単なる「商品開発」ではなく、マーケティングの重要な役割でもあります。
Howの実行と並行しながら、Whatの進化にもコミットすることで、長期的に選ばれるブランドを作ることが可能です。
✔ マーケターがやるべきこと
✅ Whoを定期的に見直し、新たな市場機会を探る
✅ PODを強化し、競争優位性を作り続ける
✅ Howの改善だけでなく、Whatの開発に関与する
✅ プロダクトチームと連携し、商品戦略にデータを活かす
Howだけでなく、Whatの進化にマーケターが関与することが、持続的な競争力を生み出すカギなのです。