はじめに
マーケターの皆さん、自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に説明できますか?その理由が分からなければ、効果的なマーケティング戦略を立てることは困難です。本記事では、40年以上にわたり日本で愛され続けている「カロリーメイト」を例に、製品が選ばれる理由を多角的に分析します。これにより、あなたの製品やサービスの競争力を高めるヒントを得ることができるでしょう。
カロリーメイトとは
カロリーメイトは、大塚製薬が1983年に発売したバランス栄養食品です。5大栄養素(タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく含み、手軽に栄養補給ができる製品として知られています。
公式サイト:https://www.otsuka.co.jp/cmt/
製品ラインナップには、ブロックタイプ、ゼリータイプ、リキッドタイプがあり、様々な場面や好みに合わせて選択できます。
カロリーメイトの売上分析
カロリーメイト単体の正確な売上データは公開されていませんが、大塚製薬の2023年の決算資料のから推測してみましょう。
まずカロリーメイトが属する事業はN&S(ニュートラシューティカルズ)製品で、3,409億円でした。大半は主要ブランドのポカリスウェット類、オロナミンCだとして、その中で仮に10%がカロリーメイトの売り上げとし、340億円と推定します。
指標 | 推定値 | 根拠・計算方法 |
---|---|---|
売上高 | 約300億円 | 大塚製薬のニュートラシューティカルズ関連事業の売上高(3,409億円)の約10%と仮定 |
人口 | 1億2600万人 | 日本の総人口 |
認知率 | 95% | カロリーメイトの高い知名度から推定 |
配荷率 | 90% | コンビニエンスストアやスーパーマーケットでの高い取り扱い率から推定 |
カテゴリー過去購入率 | 80% | 栄養調整食品の普及率から推定 |
エボークトセットに入る率 | 60% | ブランド力の高さから推定 |
年間購入率 | 40% | 定期的な購入者と occasional な購入者を考慮 |
1回あたりの購入個数 | 2個 | 一般的な購買行動から推定 |
年間購入頻度 | 6回 | 月1回以下の購入頻度を想定 |
購入単価 | 200円 | 実際の小売価格から設定 |
これらの数値を方程式に当てはめると:
売上 = 1億2600万 × 0.95 × 0.9 × 0.8 × 0.6 × 0.4 × 2 × 6 × 200 = 約312億円
この推計から、カロリーメイトは非常に高い認知率と配荷率を持ち、多くの消費者のエボークトセット(考慮対象となる製品群)に入っていることが分かります。しかし、年間購入率や購入頻度にはまだ伸びしろがあると言えるでしょう。そのために新しいカテゴリーエントリーポイントの形成を作っていくことが重要だと筆者は考えます。
カロリーメイトが戦う市場のPOP/POD/POF
続いて、カロリーメイトが属するバランス栄養食品市場のPOP(Point of Parity)、POD(Point of Difference)、POF(Point of Failure)を分析します。
要素 | 内容 |
---|---|
POP(同質性) | - 栄養バランスの良さ - 手軽さ・携帯性 - 長期保存が可能 |
POD(差別化要素) | - ブランド認知度 - 豊富な製品ラインナップ - 独自の味わい - 「考える人の栄養食」というポジショニング |
POF(失敗要素) | - 高カロリー・高糖質 - 価格の高さ - 「代用食」というイメージ |
カロリーメイトは、POPを満たしつつ、強力なブランド力と独自のポジショニングによってPODを確立しています。一方で、健康志向の高まりによる高カロリー・高糖質への懸念や、価格の高さがPOFとなる可能性があります。
カロリーメイトが戦う市場のPESTEL分析
次に、バランス栄養食品市場のPESTEL分析を行い、カロリーメイトを取り巻く環境を考察します。
要素 | 内容 |
---|---|
Political(政治的要因) | - 食品表示法の厳格化 - 健康増進法による栄養表示の義務化 |
Economic(経済的要因) | - 景気変動による消費者の購買力の変化 - 原材料価格の変動 |
Social(社会的要因) | - 健康志向の高まり - 働き方改革による食生活の変化 - 高齢化社会の進行 |
Technological(技術的要因) | - 新しい栄養素の研究開発 - 製造技術の進歩による品質向上 |
Environmental(環境的要因) | - 環境に配慮したパッケージングへの要求 - 食品ロス削減の取り組み |
Legal(法的要因) | - 食品衛生法の改正 - 栄養機能食品制度の変更 |
この分析から、以下の機会と脅威が考えられます:
機会:
- 健康志向の高まりによる栄養バランスへの注目度上昇
- 働き方改革による時短ニーズの増加
- 高齢者向け栄養補助食品としての需要拡大
脅威:
- 健康意識の高まりによる低カロリー・低糖質製品への需要シフト
- 原材料価格の上昇による利益率の低下
- 環境配慮型パッケージングへの対応コスト
市場全体としては、健康志向の高まりや生活スタイルの変化により、緩やかな成長が見込まれます。
カロリーメイトのSWOT分析と取るべき戦略
次に、カロリーメイトのSWOT分析を行い、それに基づく戦略を考えます。
要素 | 内容 |
---|---|
Strengths(強み) | - 高いブランド認知度 - 豊富な製品ラインナップ - 独自の味わいと食感 - 強力な販売網 |
Weaknesses(弱み) | - 高カロリー・高糖質イメージ - 比較的高価格 - 若年層への訴求力不足 |
Opportunities(機会) | - 健康意識の高まり - 時短ニーズの増加 - 高齢者市場の拡大 |
Threats(脅威) | - 競合他社の参入 - 低カロリー志向 - 原材料価格の上昇 |
これらを踏まえた戦略案:
- SO戦略(強みを活かして機会を活用)
- ブランド力を活かした健康的なイメージ戦略の展開
- 多様な製品ラインナップを活かした時短ニーズへの対応
- WO戦略(弱みを克服して機会を活用)
- 低カロリー・低糖質版の開発
- 若年層向けの新製品やマーケティング施策の展開
- ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)
- ブランドロイヤリティを活用した価格戦略
- 独自の味わいや食感を強調した差別化
- WT戦略(弱みを克服して脅威を回避)
- 原材料の見直しによるコスト削減と栄養バランスの改善
- 若年層向けの新たなコミュニケーション戦略の構築
カロリーメイトの購入者の合理(オルタネイトモデル)
続いて、カロリーメイトの購入者心理を、オルタネイトモデルを用いて複数パターン分析します。
パターン1:忙しいビジネスパーソン
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | コンビニでカロリーメイトを購入し、移動中や仕事中に食べる |
きっかけ | 朝食を食べる時間がない、昼食の時間が取れない |
欲求 | 短時間で栄養を摂りたい、空腹を満たしたい |
抑圧 | 健康への不安、味の単調さへの懸念 |
報酬 | 手軽に栄養補給ができる安心感、時間の節約 |
パターン2:受験生
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 勉強中にカロリーメイトを食べる |
きっかけ | 長時間の勉強で疲れを感じる、小腹が空く |
欲求 | 集中力を維持したい、効率的に栄養を摂りたい |
抑圧 | 太ることへの不安、費用の負担 |
報酬 | 勉強時間の確保、栄養バランスの取れた食事感 |
パターン3:アウトドア愛好家
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | アウトドア活動時にカロリーメイトを持参し、適宜摂取する |
きっかけ | 長時間の活動で疲労を感じる、食事の準備が面倒 |
欲求 | 手軽に栄養補給したい、荷物を軽くしたい |
抑圧 | 自然の中で加工食品を食べることへの抵抗感 |
報酬 | 活動時間の確保、必要な栄養の摂取 |
カロリーメイトのWho/What/How
カロリーメイトのターゲット、提供価値、提供方法を複数パターンで分析します。
パターン1:忙しいビジネスパーソン
一言で言うと:「忙しい人の栄養サポーター」
Who(誰のどんなJOB)
- 誰:時間に追われる20〜40代のビジネスパーソン
- JOB:
- きっかけ:朝食を食べる時間がない、昼食の時間が取れない
- 欲求:短時間で栄養を摂りたい、空腹を満たしたい
- 抑圧:健康への不安、味の単調さへの懸念
- 報酬:手軽に栄養補給ができる安心感、時間の節約
What(便益と独自性)
- 便益:
- 短時間で必要な栄養を摂取できる
- 移動中や仕事中でも食べられる手軽さ
- 空腹感を素早く解消できる
- 独自性:
- 「考える人の栄養食」というポジショニング
- ビジネスパーソンの生活リズムに合わせた製品設計
- 長年の実績による信頼性
- RTB:
- 5大栄養素のバランス設計
- コンビニエンスストアでの高い認知度と入手性
- ビジネスパーソンをターゲットにした広告展開
How(提供方法)
- コミュニケーション:
- 電車内広告やオフィス街での屋外広告
- ビジネス雑誌やウェブサイトでのタイアップ記事
- SNSを活用した「忙しい朝」に関する共感マーケティング
- プロダクト:
- 持ち運びやすいサイズと形状
- オフィスでも食べやすいブロックタイプとリキッドタイプ
- ビジネスパーソン向けの味のバリエーション(例:コーヒー味)
- 場所:
- オフィス街のコンビニエンスストア
- 駅構内の売店
- オフィスビル内の自動販売機
- 価格:
- 日常的に購入しやすい価格帯(200円前後)
- まとめ買い割引の実施
パターン2:受験生
一言で言うと:「勉強を支える栄養パートナー」
Who(誰のどんなJOB)
- 誰:長時間の勉強や試験に備える中高生・大学受験生
- JOB:
- きっかけ:長時間の勉強で疲れを感じる、小腹が空く
- 欲求:集中力を維持したい、効率的に栄養を摂りたい
- 抑圧:太ることへの不安、費用の負担
- 報酬:勉強時間の確保、栄養バランスの取れた食事感
What(便益と独自性)
- 便益:
- 勉強中の集中力維持
- 効率的な栄養補給
- 食事準備の時間短縮
- 独自性:
- 「考える人の栄養食」という受験生に響くポジショニング
- 受験生の生活リズムに合わせた製品ラインナップ
- 受験生の親世代からの信頼
- RTB:
- 受験生の体験談や推薦コメント
- 栄養士や教育関係者からの推奨
- 受験生向けの特別キャンペーンの実施
How(提供方法)
- コミュニケーション:
- 受験生向け雑誌や参考書での広告
- 学習塾や予備校でのサンプリング
- 受験生の親をターゲットにしたWeb広告
- プロダクト:
- 長時間の勉強に適した持続性のあるエネルギー補給
- 受験生向けの栄養強化タイプ
- 勉強中でも食べやすいゼリータイプの展開
- 場所:
- 学校や塾の近くのコンビニエンスストア
- 受験生向け専門店や書店
- オンライン通販サイト(まとめ買い需要に対応)
- 価格:
- 受験生の予算に合わせた価格設定
- 受験シーズン限定の割引キャンペーン
パターン3:アウトドア愛好家
一言で言うと:「アウトドアでの栄養補給ソリューション」
Who(誰のどんなJOB)
- 誰:登山やキャンプを楽しむアクティブな人々
- JOB:
- きっかけ:長時間の活動で疲労を感じる、食事の準備が面倒
- 欲求:手軽に栄養補給したい、荷物を軽くしたい
- 抑圧:自然の中で加工食品を食べることへの抵抗感
- 報酬:活動時間の確保、必要な栄養の摂取
What(便益と独自性)
- 便益:
- 軽量で携帯しやすい栄養食
- アウトドア活動中の素早いエネルギー補給
- 長期保存が可能な非常食としての活用
- 独自性:
- アウトドア活動に適した耐久性のあるパッケージ
- 自然環境での使用を考慮した製品設計
- アウトドアブランドとのコラボレーション製品
- RTB:
- アウトドア専門家や有名アスリートからの推奨
- 過酷な環境下での製品テスト結果
- アウトドアイベントでの公式採用実績
How(提供方法)
- コミュニケーション:
- アウトドア専門誌やウェブサイトでの広告
- 登山やキャンプのイベントでのブース出展
- アウトドア愛好家のインフルエンサーを活用したSNSマーケティング
- プロダクト:
- 耐熱・耐寒性に優れたパッケージング
- アウトドア活動に適した高カロリー・高栄養タイプ
- 環境に配慮した生分解性パッケージの開発
- 場所:
- アウトドア用品店
- 山小屋や国立公園内の売店
- アウトドア専門のオンラインショップ
- 価格:
- アウトドア用品との比較で割安感のある価格設定
- アウトドアブランドとのコラボ商品による付加価値の創出
これらのパターン別Who/What/Howの分析により、カロリーメイトが異なるターゲットに対して、それぞれのニーズに合わせた効果的なマーケティング戦略を展開していることがわかります。各セグメントの特性を深く理解し、それに応じた製品開発とコミュニケーション戦略を実施することで、幅広い支持を獲得しているのです。
結論:カロリーメイトは誰になぜ選ばれるのか
カロリーメイトは、以下の理由で幅広い層に選ばれています:
- 高い認知度とブランド力:40年以上の歴史と継続的なマーケティング活動により、「バランス栄養食」の代名詞として認知されています。
- 多様なニーズへの対応:ブロック、ゼリー、リキッドと様々な形態で提供され、異なる状況や好みに対応できます。
- 便利さと手軽さ:どこでも簡単に栄養補給ができる点が、忙しい現代人のライフスタイルに合致しています。
- 栄養バランスへの信頼:5大栄養素をバランスよく含む点が、健康意識の高い消費者に評価されています。
- 明確なブランドポジショニング:「考える人の栄養食」というメッセージが、知的活動や集中力を必要とする人々に響いています。
- 多様な購買チャネル:コンビニエンスストアからスーパーマーケット、オンラインショップまで、幅広い販売網を持っています。
- 継続的な製品開発:時代のニーズに合わせた新製品の投入や既存製品の改良を行っています。
これらの要因が組み合わさることで、カロリーメイトは単なる食品ブランドを超えて、ライフスタイルや価値観を表現するブランドとして選ばれています。忙しいビジネスパーソン、受験生、アウトドア愛好家など、様々な層のニーズに応えることで、幅広い支持を獲得しているのです。
まとめ
カロリーメイトの成功から、マーケターが学べる重要なポイントを以下にまとめます:
- 明確なブランドポジショニング:
「考える人の栄養食」という独自のポジショニングにより、競合との差別化に成功しています。自社製品・サービスの独自性を明確に定義し、一貫したメッセージを発信することが重要です。 - ターゲットセグメントの多様化:
ビジネスパーソン、学生、アウトドア愛好家など、異なるセグメントに対して適切な製品とメッセージを提供しています。市場を細分化し、各セグメントのニーズに合わせた戦略を立てることで、市場シェアの拡大が可能となります。 - 製品ラインナップの拡充:
ブロック、ゼリー、リキッドと、異なる形態の製品を展開することで、多様なニーズや状況に対応しています。顧客のライフスタイルや使用シーンを深く理解し、それに合わせた製品開発を行うことが重要です。 - 長期的なブランド構築:
40年以上にわたる継続的なマーケティング活動により、強力なブランド認知を獲得しています。短期的な売上だけでなく、長期的なブランド価値の構築を意識したマーケティング戦略が必要です。 - 時代のニーズへの適応:
健康志向や時短ニーズなど、社会のトレンドに合わせて製品を進化させています。PESTEL分析などを通じて市場環境の変化を常に監視し、適切に対応することが重要です。 - 強みを活かした戦略立案:
SWOT分析で明らかになった強みを最大限に活用し、機会を捉えた戦略を立てています。自社の強みと市場機会を正確に把握し、それらを組み合わせた戦略を立案することが成功への鍵となります。 - 多角的な販売チャネル:
コンビニエンスストア、スーパーマーケット、オンラインショップなど、多様な販売チャネルを活用しています。顧客との接点を増やし、購買の利便性を高めることで、売上の拡大につながります。 - 顧客心理の深い理解:
オルタネイトモデルで示したように、顧客の行動、きっかけ、欲求、抑圧、報酬を深く理解しています。顧客インサイトに基づいたマーケティング施策を展開することで、より効果的なコミュニケーションが可能となります。 - ブランドの一貫性と進化のバランス:
コアとなるブランド価値を維持しつつ、時代のニーズに合わせて製品を進化させています。ブランドの一貫性を保ちながら、イノベーションを推進するバランスが重要です。 - データに基づく意思決定:
売上分析や市場分析を通じて、製品の強みや市場の機会を客観的に評価しています。データドリブンなアプローチを採用し、根拠に基づいた戦略立案を行うことが成功への近道となります。
これらのポイントを自社のマーケティング戦略に適用することで、カロリーメイトのような長期的な成功を目指すことができるでしょう。重要なのは、自社の強みを正確に把握し、顧客ニーズと市場トレンドに合わせて柔軟に戦略を調整していくことです。
マーケターとして、これらの学びを活かし、自社製品・サービスの競争力を高め、持続可能な成長を実現するための戦略を立案していきましょう。