はじめに
多くのマーケターやビジネスパーソンが、自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解できていないという課題を抱えています。この記事では、日本の大手衣料品チェーンストア「しまむら」を例に、ブランドが選ばれる理由を分析し、ビジネスの成長につながるヒントを提供します。
しまむらの成功戦略を紐解くことで、以下のような疑問に答えていきます:
- なぜしまむらは多くの顧客に支持されているのか?
- しまむらのターゲット顧客は誰で、どのようなニーズを満たしているのか?
- しまむらの競争優位性はどこにあるのか?
この記事を読むことで、自社製品やサービスの市場での位置づけを再考し、顧客に選ばれる戦略を構築するためのインサイトを得ることができるでしょう。
しまむらとは
しまむらは、株式会社しまむらが運営する日本の大手衣料品チェーンストアです。1953年に埼玉県で創業し、現在では全国に1,400店舗以上を展開しています。
公式ウェブサイト:https://www.shimamura.gr.jp/shimamura/
しまむらの特徴:
- 低価格帯の衣料品を中心に販売
- 全国展開の大規模チェーンストア
- 幅広い年齢層をターゲットにした商品展開
- 「ファッションセンターしまむら」を主力業態とする
しまむらの売上規模と市場シェア
しまむらの売上規模を理解するために、しまむらグループの最新の決算データを見てみましょう。
2024年2月期の連結業績:
- 売上高:6,350億円(前期比3.1%増)
- 営業利益:553億円(前期比3.8%増)
- 経常利益:567億円(前期比4.3%増)
- 当期純利益:400億円(前期比5.4%増)
これらの数字から、しまむらが安定した成長を続けていることがわかります。
次はしまむら事業(23年2月期の売上4,769億円)の構成要素を分解して考えてみましょう:
売上 = 人口 × 認知率 × 購入率 × 購入個数 × 購入頻度 × 購入単価
- 人口:日本の総人口は約1億2500万人(2021年時点)
- 認知率:全国展開しているため、非常に高いと推測(90%以上)
- 購入率:低価格帯のため、比較的高いと推測(30%程度)
- 購入個数:1回の来店で複数点購入すると仮定(平均3点)
- 購入頻度:季節ごとに来店すると仮定(年4回)
- 購入単価:低価格帯のため、1点あたり1,000円程度と仮定
これらの数値を当てはめると:
125,000,000 × 0.9 × 0.3 × 3 × 4 × 1,000 = 4,050億円
この概算は実際の売上高と近い値となっており、しまむらの市場浸透度の高さを示しています。
しまむらが戦う市場のPOP/POD/POF
続いて、しまむらが競争する衣料品小売市場におけるPOP(Points of Parity)、POD(Points of Difference)、POF(Points of Failure)を分析してみましょう。
POP(Points of Parity):業界標準
項目 | 説明 |
---|---|
商品の品揃え | 幅広い年齢層向けの衣料品を取り扱う |
店舗の利便性 | 郊外型の大型店舗を展開 |
季節に応じた商品展開 | 四季に合わせた商品ラインナップの変更 |
基本的な返品・交換ポリシー | 一定期間内での返品・交換に対応 |
POD(Points of Difference):しまむらの強み
項目 | 説明 |
---|---|
低価格戦略 | 競合他社よりも安価な価格設定 |
豊富な店舗数 | 全国1,400店舗以上の展開による高い利便性 |
ファストファッション | トレンドを取り入れた商品の迅速な展開 |
プライベートブランド | 独自ブランドによる差別化と利益率の向上 |
POF(Points of Failure):改善が必要な点
項目 | 説明 |
---|---|
ブランドイメージ | 「安さ」が強調されすぎて品質の印象が低い |
店舗の雰囲気 | やや雑然とした印象で、高級感に欠ける |
オンライン展開 | Eコマースの遅れ |
接客サービス | セルフサービス中心で、きめ細かな接客が少ない |
しまむらはPOPを満たし、差別化要素を作って選ばれていますが、安かろう悪かろうのイメージ、ECサイトの遅れなどの弱みになる要素も存在することが想像できます。
次に、しまむらの購入者の行動パターンをオルタネイトモデルを使って分析してみましょう。
しまむらの購入者の合理(オルタネイトモデル)
オルタネイトモデルを使って、しまむらの典型的な顧客の購買行動を分析します。
行動
- しまむらの店舗に立ち寄り、衣料品を購入する
きっかけ
- 季節の変わり目
- 子供の成長による衣服のサイズアップの必要性
- 特売チラシを見た
- 近所にしまむらの新店舗がオープンした
欲求
- 手頃な価格で必要な衣料品を購入したい
- トレンドを取り入れたファッションを楽しみたい
- 家族全員の衣料品をまとめて購入したい
- 無駄な出費を抑えたい
抑圧
- 高価な衣料品への出費に対する罪悪感
- ファストファッションの品質に対する不安
- 他人の目(安物を買っているという印象)
- 時間をかけて買い物をする余裕がない
報酬
- 予算内で必要な衣料品を購入できた満足感
- トレンドアイテムを安く手に入れた喜び
- 家族全員の衣料品をワンストップで揃えられた効率性
- 節約できたことによる経済的な安心感
このモデルから、しまむらの顧客は「コストパフォーマンスの高さ」と「利便性」を重視していることがわかります。次に、これらの洞察を基に、しまむらのWho/What/Howを分析してみましょう。
しまむらのWho/What/How
しまむらのビジネスモデルをWho/What/Howの観点から整理します。
Who(ターゲット顧客)
- 主な顧客層:20代〜60代の女性とその家族で、比較的郊外に住んでいる
- 特徴:
- コストパフォーマンスを重視する
- 家族全員の衣料品をまとめて購入したい
- トレンドに興味はあるが、高額な出費は避けたい
What(提供価値)
- 便益:
- 低価格で幅広い衣料品を提供
- トレンドを取り入れたファストファッション
- 家族全員の衣料品をワンストップで購入可能
- 独自性:
- 全国展開による高い利便性
- プライベートブランドによる独自商品の展開
- 低価格と一定の品質のバランス
How(提供方法)
- コミュニケーション:
- チラシによる定期的な販促活動
- テレビCMによるブランド認知度の向上
- SNSを活用したトレンド情報の発信
- プロダクト:
- 幅広い年齢層向けの衣料品ラインナップ
- プライベートブランドの強化
- 季節に応じた商品展開
- 場所:
- 郊外型の大型店舗
- ショッピングモール内への出店
- オンラインストアの展開(近年強化中)
- 価格:
- 低価格戦略の維持
- 定期的なセールの実施
- ポイントカードによる顧客還元
この分析から、しまむらは「低価格」「利便性」「トレンド」の3つの要素をバランス良く提供することで、幅広い顧客層のニーズに応えていることがわかります。
結論:しまむらは誰になぜ選ばれるのか
以上の分析を踏まえ、しまむらが選ばれる理由を総括します。
- ターゲット顧客:
- コストパフォーマンスを重視する20代〜60代の女性とその家族
- 選ばれる主な理由:
- 低価格と一定の品質のバランス
- 全国展開による高い利便性
- トレンドを取り入れたファストファッション
- 家族全員の衣料品をワンストップで購入可能
- 競争優位性:
- 低価格だがトレンドをとらえている商品を提供
- 大規模チェーン展開による規模の経済
- プライベートブランドによる独自商品の開発
- 効率的な在庫管理システム
- 顧客ニーズへの対応:
- 予算内で必要な衣料品を購入したいという経済的ニーズ
- トレンドを取り入れたいというファッションニーズ
- 時間を効率的に使いたいという利便性ニーズ
しまむらは、これらの要素を巧みに組み合わせることで、「安くてトレンディで便利」というブランドイメージを確立し、多くの顧客から支持を得ています。特に、低価格でありながら一定の品質を維持し、さらにトレンドを取り入れた商品を提供することで、価格に敏感でありながらもファッションを楽しみたい顧客層の心を掴んでいます。
まとめ
- しまむらは、低価格戦略と全国展開による利便性で、幅広い顧客層から支持を得ている
- 主なターゲットは、コストパフォーマンスを重視する20代〜60代の女性とその家族
- 「低価格」「利便性」「トレンド」の3つの要素をバランス良く提供することが成功の鍵
- プライベートブランドの展開や効率的な在庫管理システムが競争優位性を支えている
- 顧客の経済的ニーズ、ファッションニーズ、利便性ニーズに的確に応えることで、継続的な成長を実現している
しまむらの事例から学べる点は、明確なターゲット設定と、そのターゲットのニーズに合わせた価値提供の重要性です。自社のビジネスにおいても、顧客のニーズを深く理解し、それに応える独自の価値提案を行うことが、市場での成功につながるでしょう。