はじめに
マーケティング担当者の皆さん、日々の業務に追われる中で、新しいアイデアや戦略を模索するのは大変な作業ですよね。特に、消費者の興味を引き、長期的な関係を築くコンテンツ作りは、常に課題となっています。
そんな中、NHKの人気番組『あしたが変わるトリセツショー』が、私たちマーケターに多くのヒントを与えてくれています。この記事では、この番組の魅力を解き明かし、ビジネスに活かせる要素を探っていきます。
マーケターが人気のテレビ番組を研究する重要性
テレビ番組、特に長期にわたって高視聴率を維持している番組には、視聴者を惹きつける何かがあります。これは、顧客を惹きつけ、長期的な関係を築きたい商品を作りたいマーケターにとって、非常に参考になる要素です。
番組が視聴者にどう役立つのか、視聴後にどういう気持ちになるのか、たくさんあるテレビ番組の中でどういう独自性があるのかを研究することで人気の理由が見えてきます。
この取り組みは日々のビジネスの改善にも活用できますので、マーケターはただ面白いからテレビ番組を見るのではなく、どうして人気なのかを考えながら見てみましょう。
あしたが変わるトリセツショーとは
『あしたが変わるトリセツショー』は、NHK総合テレビジョンで2022年4月7日から放送されている生活情報・科学番組です。
この番組の特徴は以下の通りです。
- 毎回一つのテーマを選び、そのテーマの「トリセツ(取扱説明書)」をプレゼンし、最終的にPDFにてトリセツをダウンロードできるよう提供
- わかりやすいセットや美術品を使って現象を説明
- 大規模な実験や調査によって裏付けられた「真のお役立ち情報」の提供
番組の基本情報:
項目 | 内容 |
---|---|
放送チャンネル | NHK総合テレビジョン |
放送時間 | 木曜 19:57 - 20:42 |
放送分 | 45分 |
司会者 | 石原さとみ |
声の出演 | 濱田マリ、峯田茉優 |
ナレーター | 山路和弘 |
人気の回まとめ
『あしたが変わるトリセツショー』の人気回をいくつか紹介します。これらの回は、視聴者の関心を強く引いたテーマや内容を扱っています。
- 「高血圧」のトリセツ(2024年10月10日放送)
- 減塩と運動に関する新常識を紹介
- 「減らさずに増やす」楽しい減塩法
- 専門家おすすめの高コスパ血圧降下運動
- 「スキンケア」のトリセツ(2024年10月3日放送)
- ニキビ、肌荒れ、シミ、乾燥など様々な肌トラブルの解決法
- 「洗顔」はバキューム泡で洗う方法
- 「保湿」の塗りムラをなくすテクニック
- 「日焼け止め」の効果的な使用法
- 「胃」のトリセツ(2024年9月26日放送)
- 1000万人が抱える慢性胃不調症候群への対策
- 胃痛、胃もたれ、胸やけへのセルフケア術
- 95%の胃がんを防ぐ最新予防法
- 「お酢」のトリセツ(2024年9月5日放送)
- お酢の体質改善効果
- プロの秘技とコンビニ食材を使った美味しい料理法
- 万能コクうま調味料の作り方
- 「キムチ」のトリセツ(2024年7月4日放送)
- キムチのうまさを8倍にする黄金法則
- 韓国の洞窟に眠るキムチの秘密
- キムチの酸っぱさを瞬間で見分ける方法
- 「にんにく」のトリセツ(2024年6月20日放送)
- にんにくの新しい活用法
- ダシを減らしてもおいしく作る方法
- 高校にんにく部の絶品レシピ紹介
- 改訂版!「腸内細菌」のトリセツ(2024年6月13日放送)
- がん、動脈硬化、肥満、糖尿病、美肌に関わる腸内細菌の育て方
- 育菌カードの紹介
- 「耳」のトリセツ(2024年7月18日放送)
- 軽度難聴の最新対策
- 認知症との関連性
- 聴力を守るポイントと予防法
これらの回は、日常生活に密接に関わるテーマを取り上げ、視聴者の関心が高かったものと考えられます。健康、美容、食生活など、幅広いトピックスをカバーしており、実用的な情報と科学的な裏付けを組み合わせた内容が特徴となっています。
なぜトリセツショーは人気なのか
『あしたが変わるトリセツショー』の人気の理由を分析すると、以下のような要因が浮かび上がります。
- 実用性の高い情報提供
- 日常生活に直結するテーマを取り上げている
- 視聴者の悩みや疑問に対して、今日からすぐできる具体的な解決策を提示している
- 放映した内容は、WEBサイトから取扱説明書(トリセツ)として誰でもWEBサイトからダウンロードでき振り返られる
- 例:スキンケアのトリセツがこちらからダウンロード可能
- エンターテインメント性
- 人気タレントや専門家が出演し、わかりやすく楽しく情報を伝えている
- 大規模な実験や調査を通じて、視覚的にも楽しめる内容となっている
- 信頼性の高い情報源
- NHKという公共放送局の番組であることによる信頼性
- 専門家によるデータや大規模な実験による科学的根拠に基づいた情報提供
- 適切な放送時間帯
- 平日夜のゴールデンタイムに放送されており、多くの視聴者にリーチできる
- 継続的な視聴者獲得
- 毎回異なる生活に密着するテーマを取り上げることで、幅広い視聴者の興味を引き付けている
これらの要因は、マーケティングの基本原則とも合致しています。例えば、コンテンツマーケティングの専門家であるジョー・プリッツィ氏は、「最も効果的なコンテンツは、顧客の問題を解決し、彼らの生活をより良くするものだ」と述べています。『トリセツショー』は、まさにこの原則を実践しているのです。
Pulizzi, J. (2014). Epic Content Marketing: How to Tell a Different Story, Break through the Clutter, and Win More Customers by Marketing Less. McGraw-Hill Education.
トリセツショーのWho/What/How分析
『あしたが変わるトリセツショー』のマーケティング戦略を、Who(誰の、どんなJOB)、What(便益、独自性、RTB)、How(プロダクトの機能、顧客とのコミュニケーション、価格、場所など)の観点から分析してみましょう。
Who(誰の、どんなJOB)
- ターゲット視聴者:
- 性別:男女問わず
- 年齢:20代〜60代
- 職業:会社員、主婦、学生など幅広い層
- 特徴:日常生活の中で「もっと便利に」「もっと効率的に」と考えている人々
- 視聴者のJOB(解決したい課題や満たしたい欲求):
- 日常生活の小さな悩みを解決したい
- 最新の科学的知見を取り入れて生活を改善したい
- 楽しみながら役立つ情報を得たい
- 世の中に出回るあらゆる情報で正解がわからないので正解を知りたい
What(便益、独自性、RTB)
- 便益:
- 日常生活の質の向上
- 最新の科学的知見の習得
- エンターテインメントとしての楽しみ
- 独自性:
- NHKの信頼性と科学的アプローチの融合
- 大規模な実験や調査による裏付け
- 人気タレントと専門家のコラボレーション
- RTB(Reason To Believe):
- NHKという公共放送局の信頼性
- 科学的な実験や調査結果の提示
- 視聴者の実体験や testimonial の紹介
How(プロダクトの機能、顧客とのコミュニケーション、価格、場所など)
- プロダクト(番組)の機能:
- 45分間の情報エンターテインメント番組
- 毎回異なるテーマの「トリセツ(取扱説明書)」を提供
- 大規模な実験や調査による情報の裏付け
- 顧客とのコミュニケーション:
- テレビ放送を通じた一方向のコミュニケーション
- 番組公式サイトにて情報のダウンロードができたり、SNSを通じた双方向のコミュニケーション
- 視聴者参加型の企画や調査の実施
この分析から、『あしたが変わるトリセツショー』は、視聴者の日常的な悩みや興味に焦点を当て、科学的アプローチと娯楽性を巧みに融合させることで、幅広い層に支持される番組となっていることがわかります。
NHKコンテンツの強み
NHKのコンテンツ、特に『あしたが変わるトリセツショー』のような情報番組には、以下のような強みがあります:
- 信頼性
- 公共放送局としての高い信頼性
- 中立的な立場からの情報提供
- 豊富な制作リソース
- 大規模な実験や調査を実施できる予算と人材
- 高度な映像制作技術
- 幅広いネットワーク
- 専門家や研究機関とのつながり
- 全国各地の情報を収集できる体制
- 長年の経験とノウハウ
- 視聴者のニーズを把握する能力
- 効果的な情報伝達手法の蓄積
- 多様なプラットフォーム
- テレビ放送だけでなく、オンラインプラットフォームも活用
- 幅広い年齢層にリーチ可能
これらの強みは、NHKの経営計画(2024-2026年度)にも反映されています。例えば、「⑤ 未来を見つめ 人生を豊かにする教養・エンターテインメント」という方針は、日々の生活が豊かになるすぐできることを根拠を用いて紹介する点と重なっているかと思います。
出典元:https://www.nhk.or.jp/faq-corner/1nhk/01/01-01-20.html
まとめ
『あしたが変わるトリセツショー』の成功から、マーケターが学べるポイントは以下の通りです:
- ターゲット顧客の日常的な悩みや興味に焦点を当てる
- 信頼性の高い情報源と科学的アプローチを活用する
- 目の前の課題を解決する実用的な情報とエンターテインメント性を融合させる
- 継続的に新しいテーマを提供し、顧客の興味を維持する
- 複数のプラットフォームを活用して、幅広い顧客層にリーチする
これらの要素を自社のマーケティング戦略に取り入れることで、顧客満足度の向上と長期的な関係構築につながる可能性があります。
最後に、NHKの経営計画(2024-2026年度)におけるコンテンツ戦略の6つの柱を参考に、自社のコンテンツ戦略を見直してみるのも良いでしょう。これらの柱は、現代社会のニーズに応える形で設定されており、多くの業界で応用可能な要素を含んでいます。
- デジタルと放送が連携して災害時になくてはならない命綱に
- "フェイク"の時代だからこそ顔の見える信頼のジャーナリズム
- 民主主義の一翼を担い平和で持続可能な世界の構築に貢献
- 世界で輝く良質な教育・幼児子どもコンテンツ
- 未来を見つめ 人生を豊かにする教養・エンターテインメント
- 幅広いジャンルと地域情報で多様性・多元性の実現
これらの要素を参考に、自社のマーケティング戦略を見直し、顧客にとってより価値のある製品やサービスを提供することができるでしょう