この記事では、大手牛丼チェーンである「すき家」と「吉野家」のマーケティング戦略を比較分析します。両社の年商、販売数、カテゴリーのPLESTE分析、POD/POP/POF分析、SWOT分析、オルタネイトモデル、そしてWho/What/Howの整理を行います。これらの分析を通じて、両社の独自性やマーケティング戦略について触れ、マーケターが学べる示唆をまとめています。
はじめに:各商品の推定年商、販売数
まず、すき家と吉野家の推定年商と販売数をまとめます。
項目 | すき家 | 吉野家 |
---|---|---|
推定年商 | 2,991億4000万円(2023年3月期) | 1,137億67百万円(2023年2月期) |
店舗数 | 1,953店舗(2024年6月時点) | 2,625店舗(2023年2月期、国内1,955店舗、海外670店舗) |
平均単価 | 約600円(推定) | 約650円(推定) |
すき家の年商は、ゼンショーホールディングスの2023年3月期決算短信から「グローバルすき家」セグメントの売上高を参照しました。吉野家の年商は、吉野家ホールディングスの2023年2月期決算短信から「吉野家」セグメントの売上高を参照しました。
平均単価は両社の公式発表がないため、メニュー価格や報道などを参考に推定しています。
カテゴリーのPLESTE分析
牛丼チェーン業界のPLESTE分析を行い、機会と脅威に分けてまとめます。
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的(Political) | ・インバウンド需要の回復 | ・食品安全規制の強化 |
法的(Legal) | ・テイクアウト・デリバリーの規制緩和 | ・労働法改正による人件費増加 |
経済的(Economical) | ・景気回復による外食需要の増加 | ・原材料価格の高騰 |
社会的(Social) | ・健康志向の高まり | ・少子高齢化による市場縮小 |
技術的(Technological) | ・キャッシュレス決済の普及 | ・新技術導入によるコスト増加 |
環境的(Environmental) | ・サステナビリティへの取り組み | ・環境規制の強化 |
この分析から、牛丼チェーン業界は経済回復やテクノロジーの進歩による機会がある一方で、原材料価格の高騰や労働コストの増加、環境規制の強化などの脅威に直面していることがわかります。
カテゴリーのPOD/POP/POF分析
牛丼チェーン業界のPOD/POP/POF分析をまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
POD(Point Of Difference) | ・独自のメニュー開発 ・効率的な店舗運営システム ・ブランドイメージ |
POP(Point of Parity) | ・低価格 ・迅速なサービス ・全国展開 ・24時間営業(一部店舗) |
POF(Point of Failure) | ・食の安全性への不安 ・品質の低下 ・従業員の接客態度の悪さ |
この分析から、牛丼チェーン業界では独自性と効率性が競争優位性を生み出す一方で、低価格と迅速なサービスが最低限必要な要素であることがわかります。また、食の安全性や品質、接客態度が顧客離れの原因となる可能性があります。
SWOT分析
すき家のSWOT分析
強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) |
---|---|
・国内最大の店舗数(1,953店舗) | ・ブランドイメージの低さ |
・多様なメニュー展開 | ・労働環境の改善が必要 |
・24時間営業(一部店舗) | ・品質の安定性に課題 |
・効率的な店舗運営システム | ・海外展開の遅れ |
・低価格戦略 | ・顧客ロイヤリティの低さ |
・テイクアウト・デリバリーの強化 | ・店舗の老朽化 |
・独自の食材調達システム | ・従業員の定着率の低さ |
機会(Opportunities) | 脅威(Threats) |
---|---|
・健康志向メニューの需要増加 | ・競合他社との価格競争 |
・デジタル技術の活用 | ・原材料価格の高騰 |
・海外市場への展開 | ・食の安全性への不安 |
・新たな顧客層の開拓 | ・少子高齢化による市場縮小 |
・サステナビリティへの取り組み | ・労働力不足 |
・テイクアウト・デリバリー需要の拡大 | ・環境規制の強化 |
・キャッシュレス決済の普及 | ・新型感染症などの健康危機 |
すき家の戦略提案
- SO戦略:
- 多様なメニューと健康志向の組み合わせによる新商品開発
- デジタル技術を活用した効率的な店舗運営の更なる強化
- 低価格戦略を活かした海外市場への積極展開
- WO戦略:
- ブランドイメージ向上のためのサステナビリティ施策の実施
- デジタル技術を活用した労働環境の改善
- 新たな顧客層開拓のためのマーケティング強化
- ST戦略:
- 独自の食材調達システムを活用した原材料価格高騰への対応
- 多様なメニュー展開による競合他社との差別化
- 24時間営業を活かした新たな顧客層の獲得
- WT戦略:
- 品質管理体制の強化による食の安全性への不安解消
- 従業員教育の充実による労働環境と顧客サービスの改善
- 店舗のリニューアルと効率化による競争力強化
吉野家のSWOT分析
強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) |
---|---|
・強いブランド力 | ・メニューの多様性不足 |
・品質へのこだわり | ・店舗数の伸び悩み |
・効率的な店舗運営 | ・価格競争力の低下 |
・海外展開の実績(670店舗)[4] | ・デジタル化の遅れ |
・安定した顧客基盤 | ・若年層への訴求力不足 |
・独自の牛肉調達システム | ・店舗の老朽化 |
・従業員教育の充実 | ・新規出店の困難さ |
機会(Opportunities) | 脅威(Threats) |
---|---|
・健康志向メニューの需要増加 | ・競合他社との価格競争 |
・デジタル技術の活用 | ・原材料価格の高騰 |
・海外市場での更なる成長 | ・食の安全性への不安 |
・新たな顧客層の開拓 | ・少子高齢化による市場縮小 |
・サステナビリティへの取り組み | ・労働力不足 |
・テイクアウト・デリバリー需要の拡大 | ・環境規制の強化 |
・キャッシュレス決済の普及 | ・新型感染症などの健康危機 |
吉野家の戦略提案
- SO戦略:
- ブランド力を活かした健康志向メニューの開発
- 海外市場での更なる店舗展開
- 独自の牛肉調達システムを活用したサステナビリティ施策の実施
- WO戦略:
- メニューの多様化による新たな顧客層の開拓
- デジタル技術を活用した店舗運営の効率化
- テイクアウト・デリバリーサービスの強化
- ST戦略:
- 品質へのこだわりを強調した差別化戦略
- 効率的な店舗運営による価格競争力の維持
- 従業員教育の充実による労働力不足への対応
- WT戦略:
- 店舗のリニューアルと新規出店戦略の見直し
- デジタルマーケティングの強化による若年層への訴求
- メニューの多様化と価格戦略の再検討
これらのSWOT分析から、すき家と吉野家はそれぞれ異なる強みと課題を持っていることがわかります。すき家は店舗数と多様なメニューが強みである一方、ブランドイメージと労働環境に課題があります。吉野家はブランド力と品質へのこだわりが強みですが、メニューの多様性と価格競争力に課題があります。両社とも、デジタル技術の活用や健康志向への対応、海外展開などが今後の成長機会となる可能性があります。
オルタネイトモデル
すき家と吉野家の顧客の購買行動の背景をオルタネイトモデルを使ってまとめます。
すき家
項目 | 内容 |
---|---|
きっかけ | ・仕事や学校帰りに空腹を感じる ・深夜や早朝に食事をする必要がある ・手軽に食事を済ませたい |
行動 | すき家に入店し、牛丼やその他のメニューを注文する |
欲求 | ・空腹を満たしたい ・低価格で満足できる食事がしたい ・時間をかけずに食事を済ませたい |
抑圧 | ・健康への配慮 ・外食への罪悪感 ・ファストフードのイメージへの抵抗 |
報酬 | ・空腹が満たされる ・低価格で満足感が得られる ・時間を節約できる |
吉野家
項目 | 内容 |
---|---|
きっかけ | ・仕事や学校帰りに空腹を感じる ・牛丼が食べたくなる ・信頼できる店で食事をしたい |
行動 | 吉野家に入店し、主に牛丼を注文する |
欲求 | ・空腹を満たしたい ・品質の良い牛丼を食べたい ・馴染みのある味を楽しみたい |
抑圧 | ・健康への配慮 ・外食への罪悪感 ・価格の高さへの抵抗 |
報酬 | ・空腹が満たされる ・品質の良い牛丼を楽しめる ・安心感と満足感が得られる |
この分析から、すき家と吉野家の顧客は共通して空腹を満たしたいという基本的な欲求を持っていますが、すき家の顧客はより低価格と時間の節約を重視し、吉野家の顧客は品質と信頼感を重視していることがわかります。両社とも、健康への配慮や外食への罪悪感という抑圧要因に対処する必要があります。
Who/What/Howの整理
すき家と吉野家のWho/What/Howを複数パターンで整理します。
すき家
パターン1:コスパ重視の若年層
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 20代前半の大学生・社会人 |
Who(JOB) | 低価格で満足度の高い食事を素早く済ませたい |
What(便益) | 安くて腹持ちの良い食事ができる |
What(独自性) | 多様なメニューと低価格の組み合わせ |
What(RTB) | 大量仕入れによる低コスト調達 |
How(プロダクト) | 牛丼を中心とした豊富なメニュー |
How(コミュニケーション) | コスパの良さを強調したマーケティング |
How(場所) | 全国に展開する店舗網 |
How(価格) | 牛丼(並)400円など低価格帯 |
このターゲットは、「コスパ重視の若年層」と一言で表現できます。
パターン2:時間に追われる若手社会人
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 20代後半〜30代前半の若手社会人 |
Who(JOB) | 忙しい仕事の合間に手早く栄養を摂りたい |
What(便益) | 24時間営業で迅速に食事ができる |
What(独自性) | 豊富なメニューと深夜営業の組み合わせ |
What(RTB) | 全国展開の店舗網と効率的な店舗運営システム |
How(プロダクト) | 牛丼を中心とした多様な丼物メニュー |
How(コミュニケーション) | 「うまい、やすい、はやい」のブランディング |
How(場所) | 駅前や繁華街など、アクセスの良い立地 |
How(価格) | 牛丼(並)400円を中心とした低価格帯 |
このターゲットは、「時間に追われる若手社会人」と一言で表現できます。
パターン3:健康志向の女性客
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 20代〜40代の健康を意識する女性 |
Who(JOB) | カロリーを抑えつつ満足度の高い食事をしたい |
What(便益) | 低カロリーでバランスの取れた食事ができる |
What(独自性) | サラダや野菜を取り入れたヘルシーメニュー |
What(RTB) | 栄養バランスを考慮したメニュー開発力 |
How(プロダクト) | サラダ牛丼やベジ牛などのヘルシーメニュー |
How(コミュニケーション) | 健康的なイメージのマーケティング |
How(場所) | オフィス街や住宅地近くの店舗 |
How(価格) | 通常メニューより若干高めの価格設定 |
このターゲットは、「健康志向の女性客」と一言で表現できます。
吉野家
パターン1:品質にこだわる中年男性
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 40代〜50代の会社員男性 |
Who(JOB) | 安定した品質の食事を手頃な価格で楽しみたい |
What(便益) | 一定の品質が保証された牛丼を食べられる |
What(独自性) | 北米産牛肉にこだわった本格的な味 |
What(RTB) | 長年の歴史と独自の牛肉調達システム |
How(プロダクト) | 伝統的な味を守る牛丼 |
How(コミュニケーション) | 「うまい、やすい、はやい」の伝統的ブランディング |
How(場所) | オフィス街や駅前など、ビジネスマンの動線上 |
How(価格) | 牛丼(並)426円を中心とした中価格帯 |
このターゲットは、「品質にこだわる中年男性」と一言で表現できます。
パターン2:新しい体験を求める若年層
項目 | 内容 |
---|---|
Who(誰) | 10代後半〜20代前半の学生や若手社会人 |
Who(JOB) | 従来の牛丼チェーンのイメージを超えた新しい体験をしたい |
What(便益) | 牛丼以外の多様なメニューを楽しめる |
What(独自性) | 定食メニューや季節限定商品の充実 |
What(RTB) | 新メニュー開発力と柔軟な店舗運営 |
How(プロダクト) | 牛丼に加え、定食や丼物の多様なメニュー |
How(コミュニケーション) | SNSを活用した若者向けマーケティング |
How(場所) | 学校や若者の集まる繁華街近く |
How(価格) | 通常メニューに加え、少し高めの付加価値商品も |
このターゲットは、「新しい体験を求める若年層」と一言で表現できます。
各社の独自性とマーケティング戦略についての示唆
すき家と吉野家の分析から、マーケターが学べる示唆をまとめます:
- ターゲットの明確化と多様化:
すき家は従来の男性客に加え、女性や健康志向の顧客など、新たなターゲット層を開拓しています。一方、吉野家は伝統的な顧客層を大切にしつつ、若年層にも訴求しようとしています。マーケターは、既存顧客を維持しながら新規顧客を獲得する戦略を考える必要があります。 - 独自性の確立:
すき家は多様なメニューと24時間営業、吉野家は品質へのこだわりと伝統的な味を独自性としています。自社の強みを明確にし、それを中心にブランディングすることが重要です。 - 価格戦略の柔軟性:
両社とも基本的には低価格戦略ですが、付加価値のある商品では若干高めの価格設定も行っています。顧客ニーズに合わせた柔軟な価格戦略が求められます。 - デジタル化への対応:
特にすき家のDX戦略に見られるように、デジタル技術を活用した顧客体験の向上や業務効率化が重要になっています。 - 社会的課題への対応:
労働環境の改善や健康志向への対応など、社会的な課題に取り組むことが企業イメージの向上につながります。 - 継続的なイノベーション:
両社とも新メニューの開発や店舗形態の変更など、常に新しい取り組みを行っています。市場の変化に対応し続けることが重要です。
これらの示唆を自社のマーケティング戦略に取り入れることで、競争力の強化と持続的な成長が期待できるでしょう。