人はなぜ非日常体験にお金を払うのか?本能から読み解く体験消費の真実とマーケティング戦略 - 勝手にマーケティング分析
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人はなぜ非日常体験にお金を払うのか?本能から読み解く体験消費の真実とマーケティング戦略

人はなぜ非日常体験に お金を払うのか? マーケの応用を学ぶ
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はじめに

あなたは最近、いくら払って非日常を体験したでしょうか。イマーシブシアターの入場料1万円超、グランピング施設の1泊3万円、サウナ施設の会員費月1万円——。博報堂生活総合研究所の調査によると、2025年に「お金をかけたいこと」の1位は「旅行」で、旅行関係費が増加しています。一方で日用品は節約志向が高まっており、まさに「ミニマムな日常、プレミアムな体験」へのシフトが起きているのです。

博報堂生活総合研究所、生活者にきいた“2025年 生活気分”を発表より

なぜ人は、日常を切り詰めてまで非日常体験にお金を払うのでしょうか。この問いに答えるには、表面的な「モノからコトへ」という説明では不十分です。本記事では、人間の本能に根ざした8つの欲望理論と最新の消費者データから、非日常体験への支出が止まらない真の理由を解き明かします。そして、この消費行動からマーケターが学ぶべき実践的な戦略を提示していきます。


非日常体験への消費が加速する背景データ

まず、非日常体験消費の市場規模と成長性を数字で確認しておきましょう。この現象は一時的なブームではなく、構造的な消費トレンドの変化を示しているのです。

体験消費市場の拡大を示す3つのデータ

指標数値出典
旅行関係費の伸び率対前年14.6%増(2025年5月)総務省統計局「家計消費状況調査
チケット支出の伸び率対前年32.1%増(2025年5月)同上
消費者態度指数35.2(前月差+1.7)で2ヶ月連続上昇内閣府「消費動向調査」(2025年6月)

これらのデータが示しているのは、消費者心理が前向きになり、「今を楽しむ」ことに価値を見出す傾向が強まっているということです。東芝テックの分析によると、これは消費者が「所有」から「利用」へ、そして「モノ」から「体験」へとシフトしている証拠なのです。

非日常体験の具体例:イマーシブフォート東京の成功

2024年3月に東京・お台場にオープンしたイマーシブフォート東京は、この体験消費トレンドを象徴する施設です。旧ヴィーナスフォートを活用した約3万平米の空間で、参加者が物語の登場人物として「完全没入」する体験を提供しています。

料金体系を見ると、基本入場料6,800円に加え、有料アトラクション「江戸花魁奇譚」は+9,000円で合計15,800円です。それでも満足度95%、完売率97%を記録し、1作品を複数回体験するリピーターが続出しています。ある利用者は「楽しすぎて全てのシーンを観たくて何度も足を運んでいる」と口コミで語っています。

この事例が示しているのは、高額でも「他では得られない体験」には喜んでお金を払う消費者の存在です。では、なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。その答えは人間の本能に隠されているのです。

※2025年12月にイマーシブ・フォート東京は閉園を発表しています。理由は複合的ですが、主には需要に対して箱が大きすぎてビジネスとして成り立たないと言われています。ただし、上記であるように高額なチケット代を払ってでも非日常体験をしたいという人は一定数存在していることから、やはり需要があることは読み取れます。

イマーシブ・フォート東京の閉園の理由についてはこちらでも詳しく解説していますのでご覧ください。


本能から読み解く:人が非日常体験を求める8つの理由

さて、人間が非日常体験を求める背景を探る際に、人間の本能についても理解することが重要です。人間の購買行動の根底には、生殖本能と生存本能という2つの根源的な本能があるためです。さらに2つの本能から派生する8つの欲望——「安らぐ」「進める」「決する」「有する」「属する」「高める」「伝える」「物語る」——が、非日常体験への消費を駆動しているのです。

欲望1:安らぐ(Rest)— 日常からの解放

非日常体験の最も基本的な価値は、日常のストレスからの解放です。この欲望は生存本能に直結しており、心身の機能を回復させることで生存を支えています。

サウナブームがこれを象徴しています。週末に「整う」体験を求めて通うサラリーマンたちは、単なる入浴以上の価値——完全な思考停止と深いリラクゼーション——を求めているのです。グランピング施設が人気なのも、自然の中での「何もしない贅沢」が日常からの完全な切断を提供するからです。

KPMGの調査では、顧客体験評価トップ10に「非日常や高級感を演出するエンターテインメントリゾート」が複数ランクインしており、「日常を忘れて没入できる独自の世界観」が高く評価されています。

欲望2:進める(Advance)— 成長と変容の実感

非日常体験は、日常では得られない成長機会を提供します。旅行で「新しい自分を発見したい」と語る消費者の声は、この欲望を如実に表しています。

イマーシブフォート東京の口コミで「物語の世界に入ってみたい」「好奇心旺盛でイマジネーションを持って楽しめる方なら超おすすめ」という評価が目立つのは、参加者が能動的に探索し、自分の選択で物語を進めることで成長感を得られるからです。

観光庁の調査でも、「イマーシブ体験は当事者性、体験の個別性、リアル感が特徴」とされており、従来のテーマパークとの違いはまさにこの「主体的な関与による変容」にあるのです。

欲望3:決する(Decide)— 自己決定と主導権

非日常体験では、日常の制約から解放され、「自分で決める」自由が得られます。これは心理的健康に不可欠な欲望です。

マルチエンディング形式のイマーシブシアターがまさにこれを体現しています。イマーシブフォート東京の「江戸花魁奇譚」では、参加者の選択によって異なる結末が用意されており、「100回訪れても足りない」と評される理由がここにあります。同時進行で様々な出来事が起こり、どこを見るか、誰を追うかを自分で決める体験は、日常の受動的な時間の過ごし方とは全く異なるのです。

欲望4:物語る(Narrate)— 語れる体験の価値

非日常体験は「語るに値する物語」を生み出します。これは人間の根源的な欲求であり、自己のアイデンティティ形成にも関わっています。

SNS時代において、体験の価値は「語れるかどうか」「共有できるかどうか」に大きく依存しています。イマーシブフォート東京の利用者が「終わった後の答え合わせや考察が楽しい」「同行者と別行動をおすすめ」と語るのは、体験後に語り合う楽しみが価値の一部だからです。

ミンテルジャパンの調査「ミニマムな日常、プレミアムな体験:生活費を切り詰めて、旅と娯楽の『非日常』への支出を優先する消費者」は、まさにこの「語れる体験」への投資を示しています。

欲望5:属する(Belong)— コミュニティとの一体感

非日常体験は、同じ価値観を持つ人々とのつながりを生みます。イマーシブフォート東京の口コミで「少人数の観客で一緒になって体験するので不思議な一体感も感じられた」という声は、見知らぬ他者との共同体験が生む帰属感を示しています。

この欲望は特に「推し活」や音楽フェスなどで顕著です。チケット支出の32.1%増加は、まさに同じアーティストやコンテンツを愛する人々が集まる「場」への投資を表しています。

欲望6:高める(Elevate)— ステータスと自己価値

高額な非日常体験は、それ自体が社会的ステータスのシグナルになります。1泊10万円超のグランピング施設や、完売続出の限定イベントへの参加は、「選ばれた体験をしている自分」という自尊心を満たします。

しかし現代の「高める」欲望は、単なる顕示的消費ではありません。イマーシブフォート東京で「体験型演劇というコンセプトに関心のある人がそれなりの金額を払い、下調べなどをして楽しみに向かう」という利用者の姿勢は、知的好奇心や審美眼を示すステータスへと変化しているのです。

欲望7:伝える(Communicate)— 感情の共有

非日常体験は、言葉では伝えきれない感情を生み出し、それを共有したい欲求を強烈に刺激します。イマーシブフォート東京の利用者が「感じたことのない興奮、葛藤、絶望、胸キュン、歓喜」と表現するような強い感情は、それを誰かと分かち合いたいという欲求につながります。

この欲望が、体験後のSNS投稿や口コミ、友人への推奨を生むのです。インフルエンサーマーケティング市場が2024年に約860億円(前年比16%増)と拡大しているのも、体験を「伝える」欲求が市場を形成している証拠です。

欲望8:有する(Possess)— 記憶という所有

「モノの所有から利用へ」のシフトは、所有欲の消失ではありません。それは「記憶の所有」への転換なのです。非日常体験は、物理的なモノより劣化しない、心に刻まれる記憶という形で「所有」されます。

イマーシブフォート東京のリピーターが「全てのシーンを観たい」と何度も訪れるのは、完全な記憶のコレクションを作りたいという欲求の表れです。旅行の思い出、ライブの感動、非日常空間での体験——これらは削除できない個人の財産として蓄積されていくのです。


非日常体験消費を駆動するメカニズム:オルタネイトモデルで分析

8つの欲望が「なぜ」非日常体験を求めるかを説明しましたが、実際の購買行動がどう起こるかを理解するには、「きっかけ→欲求→抑圧→行動→報酬」のオルタネイトモデルが有効です。

イマーシブフォート東京訪問を例にした消費者の合理

要素内容具体例
きっかけ(Trigger)何が行動を引き起こすかSNSで友人の投稿を見た週末、「何か特別なことをしたい」と感じた時
欲求(Desire)根底にある願望物語る:語れる特別な体験がしたい
安らぐ:日常のストレスから解放されたい
高める:他の人がしていない体験をしたい
抑圧(Suppression)行動を妨げる要因物理的:価格が高い(15,800円)
心理的:「理解できないかも」という不安
社会的:「無駄遣い」と思われるかも
行動(Action)実際の購買公式サイトでチケット予約、当日訪問
報酬(Reward)得られる価値圧倒的な没入感、選択による物語の変化、語れるストーリー、SNS映えする写真、仲間との一体感

この分析から見えるのは、非日常体験の成功には「抑圧」をいかに下げ、「報酬」をいかに高めるかが鍵だということです。イマーシブフォート東京が「イマーシブ体験が初めての方でも安心して楽しめる」と訴求するのは、心理的抑圧(理解できないかもという不安)を下げる戦略なのです。


データで見る非日常体験のトレンド変化

「モノ」から「コト」、そして「トキ」へ

博報堂の調査が示す消費の進化は、非日常体験の価値を理解する上で重要です。

消費タイプ重視する価値具体例時代
モノ消費所有すること家電、ブランド品、高級車〜2000年代
コト消費体験すること旅行、習い事、レストラン体験2000年代〜
トキ消費その時だけの非再現性限定イベント、ライブ、一期一会の体験2010年代〜
イマーシブ消費完全没入と当事者性イマーシブシアター、VR体験、参加型演劇2020年代〜

イマーシブ消費の特徴は、「観客」ではなく「登場人物」として体験する当事者性にあります。観光庁の調査で「従来のテーマパークとイマーシブ体験の比較」が示されており、最大の違いは「物語への関与度」と「体験の個別性」なのです。

メリハリ消費の加速

デロイト トーマツ調査によると、2024年度の消費者意識調査で3割弱が「節約と贅沢のメリハリをつけるようになった」と回答しています。興味深いのは、高所得層においても節約傾向が見られる点です。

これは物価高への対応というより、「本当に価値があるもの」を見極める目が厳しくなったことを意味しています。日用品は低価格・高品質なサービスで済ませ、「推し活」などこだわりを持つ分野には惜しみなく支出する——この傾向が非日常体験市場を押し上げているのです。


マーケターが非日常体験から学ぶべき5つの戦略

非日常体験が消費者を惹きつける理由を理解したところで、この知見をマーケティング戦略にどう活かすかを考えていきましょう。

戦略1:複数の欲望に同時訴求する設計

成功している非日常体験は、決して単一の欲望に訴えていません。イマーシブフォート東京を分析すると、少なくとも5つの欲望に同時訴求しています。

欲望訴求要素具体的施策
物語る語れるストーリーマルチエンディング、選択による展開変化
決する自己決定権自由に探索できる空間、追うキャラクターの選択
安らぐ日常からの解放非日常空間への完全没入
属する共同体験少人数での一体感、演者との1対1会話
高めるステータス完売率97%の限定性、「選ばれた体験」

あなたの商品・サービスは何個の欲望に訴求しているでしょうか。欲望マッピングを作成し、現状の訴求度(1-5)と潜在的可能性(1-5)を評価してみましょう。競合が対応していない欲望領域があれば、そこが差別化のチャンスです。

戦略2:抑圧を下げる具体的施策

どんなに魅力的な体験でも、購買を妨げる「抑圧」が強ければ売れません。非日常体験の成功事例から学べる抑圧低減策があります。

まず物理的抑圧への対処として、価格の抑圧に対しては段階的な料金設定が有効です。イマーシブフォート東京は基本6,800円から選択制にしており、アクセスの抑圧に対しては都市部での展開やオンライン予約の簡便化で対応しています。

次に心理的抑圧への対処として、理解不足の抑圧に対しては「初めての方でも安心」という明確なメッセージを打ち出し、失敗への不安に対しては体験時間や内容の事前情報提供、口コミでの安心感醸成が効果的です。

そして社会的抑圧への対処として、無駄遣い批判への懸念には「自己投資」「一生の思い出」というフレーミングを行い、周囲の目への懸念には一人でも楽しめる設計、または逆に「仲間と体験」を推奨するアプローチがあります。

イマーシブフォート東京が「下調べなどをして楽しみに向かう」層をターゲットにしているのは、心理的抑圧が低い顧客を選んでいるとも言えます。あなたの商品は誰の、どの抑圧を下げる必要があるでしょうか。

戦略3:報酬の多層化と可視化

非日常体験の報酬は、体験中だけでなく、体験前と体験後にも存在します。

タイミング報酬タイプ具体例マーケティング施策
体験前期待と準備の楽しみ公式サイトでの世界観体験、友人との計画ティザー動画、世界観の事前公開
体験中没入と感動圧倒的な臨場感、予測不可能な展開五感を刺激する演出、高品質な空間
体験直後余韻と興奮「例えようもない余韻」、感情の高ぶりフォトスポット、購買しやすい物販
体験後語りと記憶SNS投稿、友人への推奨、思い出の反芻ハッシュタグ戦略、UGC促進

イマーシブフォート東京の口コミで「終わった後の答え合わせや考察が楽しい」という声が多いのは、体験後の報酬設計が優れているからです。あなたの商品は「買った後」「使った後」にどんな報酬を提供しているでしょうか。

戦略4:「当事者性」の設計

観光庁の調査が示す「イマーシブ体験の特徴」——当事者性、体験の個別性、リアル感——は、全ての非日常体験に応用できる原則です。

まず、受動的な「観客」ではなく能動的な「参加者」にする設計を考えましょう。イマーシブフォート東京では「自由に探索できる空間」「追うキャラクターの選択」「1対1での会話」により、観客は物語の登場人物になります。あなたの商品・サービスで、顧客を「参加者」にできる要素はないでしょうか。

次に、選択による結果の変化を取り入れることです。マルチエンディング形式のように、顧客の選択が結果に影響する仕組みは強力です。ECサイトならカスタマイズ機能、サービスならパーソナライズ設計がこれに当たります。

最後に、一人一人に異なる体験を提供することです。「同時進行で色々な事が起こるので1回で全てを観ることはできない」というイマーシブフォート東京の設計は、リピート訪問を生みます。あなたの商品は「2回目は違う体験」を提供できているでしょうか。

戦略5:「語れる体験」の設計と拡散支援

現代の体験価値は、「体験そのもの」と「それを語る価値」の合算です。

語れる体験を作る4要素として、まずユニーク性があります。他では得られない独自性として、世界初、日本唯一、限定〇名といった訴求が有効です。次に意外性として、「まさか〇〇が起こるとは」という驚きを提供します。そして感情の振れ幅として、「感じたことのない興奮、葛藤、絶望」といった強い感情体験を生み出します。最後に共感可能性として、「あなたも絶対体験すべき」と言える要素を盛り込むのです。

そして重要なのは、語ることを支援する仕組みです。イマーシブフォート東京がフォトスポットを設置し、SNSでのハッシュタグキャンペーンを展開するのは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)による拡散を促すためです。

あなたの商品は「顧客が友人に語りたくなる要素」を持っているでしょうか。そして「語ることを簡単にする仕組み」があるでしょうか。


業界別:非日常体験の知見を活かす実践アイデア

ここまでの戦略を、具体的な業界にどう適用するかを考えてみましょう。

小売業:店舗を「体験空間」に

店舗も単なる販売場所から体験空間へ進化できます。

蔦屋書店が成功しているのは、「本を買う場所」ではなく「知的好奇心を満たす空間での滞在体験」を提供しているからです。カフェ併設、イベント開催、セレクトされた商品構成——これらは全て「安らぐ」「進める」「高める」欲望に訴求しています。

あなたの店舗は「買う」以外にどんな体験を提供できるでしょうか。イベントスペース、ワークショップ、専門スタッフとの対話——これらは全て非日常体験の要素になります。

サービス業:プロセスそのものを物語に

サービス提供プロセス自体を体験価値に変えられます。

美容室が単なるカットではなく、カウンセリングから仕上がりまでの「変身ストーリー」として設計したらどうでしょうか。フィットネスジムが「理想の身体への冒険」として、段階的な達成感とストーリーを提供したらどうでしょうか。

顧客は「結果」だけでなく「そこに至るプロセス」も含めて体験として記憶します。プロセス設計に物語性を持たせることで、「語れる体験」になるのです。

BtoB:商談・提案を「没入体験」に

BtoBだから非日常体験は無関係——そう考えるのは早計です。

あなたの提案資料は、顧客に「未来の成功を先取りする体験」を提供しているでしょうか。VRでの施設見学、インタラクティブなデモ、体感できるプロトタイプ——BtoBでも「当事者として未来を体験する」設計は有効なのです。


失敗事例から学ぶ:非日常体験が失敗する3つのパターン

成功事例だけでなく、失敗から学ぶことも重要です。イマーシブフォート東京の口コミには批判的な声もあり、そこに普遍的な教訓があります。

失敗パターン1:ターゲットの不明確さ

「テーマパークと言っていいのか?と思うほどつまらなかった」「子供連れでは絶対行かない方がいい」——この批判は、ターゲット設定の曖昧さから生じています。

イマーシブフォート東京は本質的に「能動的に探索し、物語に没入できる大人」向けの施設です。しかし「テーマパーク」という言葉が、ファミリー層の期待を誤って形成した可能性があります。

ここから得られる教訓は、非日常体験は万人向けではないということです。「誰のための体験か」を明確にし、その層に絞ったメッセージングが必要です。曖昧なターゲット設定は、不満足な顧客を生んでしまいます。

失敗パターン2:期待と体験のギャップ

「金額と内容が見合ってない」という批判は、価格に対する期待値設定の失敗を示しています。

非日常体験の価格設定は難しいものです。なぜなら「体験の価値」は主観的で、事前には判断しにくいからです。しかしだからこそ、体験前の情報提供と期待値調整が重要になります。

ここから得られる教訓は、「何が体験できるか」を具体的に示し、「どんな人に向いているか/向いていないか」を正直に伝えることです。ミスマッチを減らすことが、結果的に満足度を上げるのです。

失敗パターン3:リピート設計の欠如

「1回で全部観られない」は肯定的にも否定的にも作用します。イマーシブフォート東京では「何度も足を運ぶ」リピーターを生みましたが、一方で「1回で満足できなかった」という不満も生んでいます。

ここから得られる教訓は、リピート前提の設計なら、それを明示することです。「1回では全て観られません。だから何度でも楽しめます」と事前に伝えることで、期待値を調整できます。または、1回で完結する満足と、リピートで深まる満足の両方を設計する必要があるのです。


2025年以降の非日常体験トレンド予測

最後に、今後の非日常体験市場がどう進化するかを予測してみましょう。

予測1:AIとリアルの融合による「超個別化体験」

Shopifyの調査によると、2025年に「AIに投資する予定のないEC事業者はわずか11.11%」であり、AIエージェントの世界市場は2030年に471億ドルに達すると予想されています。

非日常体験においても、AIによる個別最適化が進むでしょう。イマーシブフォート東京で「誰を追うか」を自分で決める体験が、AI分析により「あなたが最も楽しめるルート」を事前提案する未来が来ると考えられます。ただし重要なのは、AIはあくまで「選択肢の提示」までで、最終決定は人間が行う設計です。「決する」欲望を奪ってはならないのです。

予測2:五感全てを使う「フル・イマーシブ」

観光庁の調査で紹介されているイマーシブフォート東京の新作「真夜中の晩餐会」では、コースディナーが提供され「味覚や嗅覚を含む五感を駆使した体験」を謳っています。

今後、視覚・聴覚だけでなく、触覚・味覚・嗅覚までを統合した体験設計が増えるでしょう。VR/AR技術の進化により、デジタル空間でも触覚フィードバックが実現しつつあります。非日常体験は「より深く、より本物に近い没入」へ進化していくのです。

予測3:「持続可能な非日常」への需要

ミンテルジャパンの調査で言及される「サステナブルな商品購入の障壁は値段」という課題は、非日常体験にも当てはまります。

今後、環境負荷の低い非日常体験——例えば地域の自然を活かしたエコツーリズム、廃墟や既存建物を再利用した体験施設——への需要が高まるでしょう。「罪悪感なく楽しめる非日常」が価値になっていくのです。


まとめ:マーケターへの5つの重要示唆

本記事で解析した非日常体験消費から、マーケターが明日から実践すべき知見をまとめましょう。

重要示唆実践アクション期待される成果
1. 複数欲望への同時訴求自社商品・サービスの欲望マッピング作成。現在訴求している欲望と、潜在的に訴求できる欲望を特定差別化ポイントの発見、訴求メッセージの強化
2. 抑圧の体系的削減物理的・心理的・社会的抑圧を特定し、各々への対処施策を設計コンバージョン率向上、購買障壁の低減
3. 報酬の多層化体験前・中・後の全タイミングで提供する報酬を設計。特に「体験後の語る価値」を強化リピート率向上、UGC増加による拡散
4. 当事者性の組み込み顧客を「観客」から「参加者」にする要素の追加。選択・カスタマイズ・個別化の導入エンゲージメント向上、ブランドロイヤルティ強化
5. ターゲットの明確化「誰のための体験か」を絞り込み、その層への最適化。ミスマッチ削減のための正直なコミュニケーション満足度向上、口コミ評価の改善

人が非日常体験にお金を払う理由は、単なる「モノからコトへ」のトレンドではありません。それは、生殖本能と生存本能に根ざした8つの欲望——安らぐ、進める、決する、有する、属する、高める、伝える、物語る——を満たす、人間の本質的な行動なのです。

2024-2025年のデータが示すように、消費者は日常を切り詰めてでも「プレミアムな体験」に投資しています。旅行関係費14.6%増、チケット支出32.1%増という数字は、この傾向が一時的なブームではなく構造的変化であることを物語っています。

マーケターに求められるのは、この本能レベルの理解を踏まえた体験設計です。あなたの商品・サービスは、どの欲望に訴えているでしょうか。どの抑圧を下げ、どの報酬を提供しているでしょうか。顧客は「観客」でしょうか、それとも「参加者」でしょうか。

これらの問いに答えることが、非日常体験時代のマーケティング戦略の第一歩です。明日から、あなたの商品を「人間の本能に響く体験」として再設計してみましょう。


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この記事を書いた人
tomihey

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マーケティング領域で14年間約200ブランド以上に関わってきました。

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