新規店舗出店で失敗しないために考えるべき7つのポイント:データドリブンな立地戦略の完全ガイド - 勝手にマーケティング分析
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新規店舗出店で失敗しないために考えるべき7つのポイント:データドリブンな立地戦略の完全ガイド

新規店舗出店 7つのポイント マーケの応用を学ぶ
この記事は約23分で読めます。

はじめに

「新しい店舗を出すんだけど、どこに出せばいいか分からない」「立地選定で失敗したくないけど、何を基準に判断すればいいの?」——店舗ビジネスに携わるマーケターなら、一度は直面する悩みではないでしょうか。

よく「立地7割」と言われるように、店舗ビジネスにおいて出店場所の選定は経営の成否を左右する最重要要素です。しかし、感覚や経験則だけで立地を選んでしまい、開店後に「思ったより客が来ない」「競合に負けてしまった」という失敗例は後を絶ちません。

本記事では、新規店舗出店を検討する若手マーケターに向けて、データドリブンな出店戦略の立て方を体系的に解説します。森岡毅氏の確率思考やWho/What/Howフレームワーク、商圏分析の具体的手法、さらには成功企業の事例まで、実務で即活用できる知識を網羅的にお届けします。

この記事を読むことで、あなたは以下を手に入れることができます:

  • 店舗出店の全体プロセスと各ステップで考えるべきこと
  • データに基づいた科学的な立地選定方法
  • 競合分析と差別化戦略の立て方
  • 失敗を避けるための具体的なチェックリスト

それでは、店舗出店で成功するためのマーケティング思考を深めていきましょう。


店舗出店戦略とは何か:基本的な考え方

出店戦略の定義と重要性

店舗出店戦略とは、事業の成功確率を最大化するために「どこに(Where)」「どのような店舗を(What)」「いつ(When)」「どのように(How)」出店するかを体系的に計画し、意思決定するプロセス全体を指します。

単に「良さそうな場所」を探すという行為ではありません。市場環境、競合状況、自社の強みを多角的に分析し、データに基づいて最適解を導き出す、経営戦略そのものなのです。

なぜ店舗出店に戦略が必要なのか

店舗出店には多額の初期投資が必要です。物件取得費、内装工事費、設備投資、初期在庫など、業種にもよりますが数百万円から数千万円規模の資金が動きます。

そして何より、立地は一度決めたら簡単には変えられません。賃貸契約の縛りもあれば、移転にはまた莫大なコストがかかります。つまり、出店の意思決定は「後戻りできない重要な選択」なのです。

だからこそ、感覚や直感ではなく、データと論理に基づいた戦略的アプローチが不可欠になります。

出店戦略を構成する5つの要素

出店戦略は以下の5つの要素から構成されます:

要素内容重要度
事業コンセプトの定義誰に、どのような価値を提供するのか★★★★★
市場・エリア分析ターゲット顧客はどこにいるのか、市場のポテンシャルはどの程度か★★★★★
立地選定具体的な出店場所の評価と決定★★★★★
売上・投資計画収益性の予測と資金計画★★★★☆
マーケティング計画開店前後の集客施策★★★★☆

これらを統合し、一貫性のある計画として練り上げるのが出店戦略の本質です。


ステップ1:店舗コンセプトを明確化する(Who/What/How)

Who/What/Howフレームワークの重要性

店舗出店で最初に固めるべきは「店舗コンセプト」です。これがブレていると、後続の全ての意思決定がブレてしまいます。

コンセプトを明確化するには、Who/What/Howフレームワークが非常に有効です。このフレームワークは以下の3つの問いから構成されます:

Who(誰に):ターゲット顧客の明確化

「誰に」を定義する際は、できるだけ具体的にペルソナを描きましょう。年齢、性別、職業、年収、ライフスタイル、価値観まで細かく設定します。

良い例: 「30代前半の都市部で働く独身女性。年収400〜600万円。健康志向が高く、Instagram で情報収集をする。平日は忙しく自炊の時間がないが、週末は友人とカフェ巡りを楽しむ」

悪い例: 「20〜40代の女性」

ターゲットが曖昧だと、立地選定も商品構成も中途半端になってしまいます。

What(何を):提供価値と独自性

「何を」では、顧客にどんな価値を提供するのかを定義します。ここで重要なのは「便益(ベネフィット)」の視点です。

商品やサービスそのものではなく、それによって顧客が得られる「良いこと」を考えます。

商品・サービス便益
オーガニック食材のカフェ健康的な食事で罪悪感なく美味しいものが食べられる安心感
24時間営業のジム仕事が不規則でも自分のペースで通える自由さ
子連れOKの美容室子育て中でも美容を諦めない自分らしさの維持

さらに、競合との差別化要素(独自性)も明確にします。「なぜ他店ではなくあなたの店を選ぶべきなのか」を一言で説明できるようにしましょう。

How(どのように):提供方法の具体化

「どのように」では、価値をどう届けるかを4つの視点で設計します:

視点検討事項
プロダクト商品・サービスの具体的な内容、品質、品揃え
価格価格帯、価格戦略(高級路線 or 低価格路線)
場所出店立地、店舗デザイン、雰囲気
プロモーション認知獲得方法、コミュニケーション戦略

この4P(Product, Price, Place, Promotion)を、Whoで定義したターゲット顧客とWhatで定義した提供価値に合わせて設計することが重要です。

コンセプト設計の実例:スターバックス

スターバックスのコンセプトをWho/What/Howで分解してみましょう:

要素内容
Who都市部で働く20〜40代のビジネスパーソン、学生
What(便益)自宅でも職場でもない「第三の場所」での心地よい時間
What(独自性)高品質なコーヒーと洗練された空間の組み合わせ
How(プロダクト)エスプレッソベースのドリンク、カスタマイズ可能なメニュー
How(価格)やや高め(400〜600円)だが納得感のある価格設定
How(場所)オフィス街、駅前、商業施設などアクセスの良い立地
How(プロモーション)店舗体験重視、口コミとSNSを活用

このように、全ての要素が一貫してターゲット顧客に「第三の場所」という価値を届けることに最適化されています。


ステップ2:市場環境を分析する(PEST分析・3C分析)

コンセプトが固まったら、次は市場環境の分析です。ここでは2つのフレームワークを使います。

PEST分析:マクロ環境を理解する

PEST分析は、自社でコントロールできない外部環境要因を整理するフレームワークです。

要因分析内容店舗出店への影響例
Political(政治的)法規制、政策、税制建築基準法、食品衛生法、酒類販売免許の取得要件
Economic(経済的)景気動向、物価、為替地域経済の成長性、消費者の購買力、家賃相場
Social(社会的)人口動態、ライフスタイル少子高齢化、健康志向の高まり、働き方改革
Technological(技術的)テクノロジーの進化キャッシュレス決済の普及、配達アプリの台頭

例えば飲食店を出店する場合、社会的要因として「リモートワーク普及によるオフィス街の昼食需要減少」、技術的要因として「Uber Eatsなどデリバリーサービスの普及」といった変化を考慮する必要があります。

3C分析:競争環境を理解する

3C分析は、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から市場を分析します。

Customer(顧客)分析のポイント

分析項目確認内容
市場規模そのエリアにターゲット顧客は何人いるか
顧客ニーズ何に困っているか、何を求めているか
購買行動いつ、どこで、どのように購買するか
購買決定要因何を基準に店を選ぶか(価格?品質?利便性?)

Competitor(競合)分析のポイント

競合分析では、直接競合(同じカテゴリーの店舗)だけでなく、間接競合(顧客の時間や予算を奪い合う他業種)も見る必要があります。

例えばカフェの競合は:

  • 直接競合:他のカフェチェーン、個人経営の喫茶店
  • 間接競合:コンビニコーヒー、職場の休憩室、自宅

それぞれについて以下を分析します:

分析項目確認内容
店舗数・配置エリア内に何店舗あるか、どこに集中しているか
強み・弱み価格、品質、サービス、立地などの優劣
顧客層どんな客層を獲得しているか
売上規模推定売上、市場シェア

Company(自社)分析のポイント

自社の強みと弱みを客観的に評価します。ここでは正直であることが重要です。

評価軸強み弱み
ブランド力全国展開で高い認知度地域密着型ではない
商品力独自のレシピ、高品質品揃えが限定的
価格競争力スケールメリットで低コスト高級路線では劣る
立地獲得力資金力があり好立地を抑えられる小規模物件は苦手
オペレーションマニュアル化され効率的柔軟性に欠ける

ステップ3:商圏分析で出店エリアを絞り込む

商圏分析とは何か

商圏分析とは、出店を予定しているエリアの人口、市場のボリューム、地域特性、競合の数などを調べ、ターゲットとなる潜在顧客がいるかどうかを確認することです。

商圏とは「その店舗が集客できる地理的範囲」を指します。業種によって商圏の広さは大きく異なります。

業種商圏の目安来店頻度
コンビニ徒歩5分圏内(約300m)高頻度(週数回)
スーパーマーケット徒歩10〜15分圏内(約1km)中頻度(週1〜2回)
カフェ・飲食店徒歩5〜10分圏内(約500m)中頻度
専門店・アパレル電車で30分圏内(約5〜10km)低頻度(月1回以下)
家具・家電量販店車で30分圏内(約10〜20km)低頻度

商圏分析の具体的手順

商圏分析は以下の6ステップで進めます:

Step1:商圏を設定する

候補地を中心に、業種に応じた適切な範囲で商圏を設定します。徒歩圏、自転車圏、車圏など、ターゲット顧客の移動手段を考慮しましょう。

GIS(地理情報システム)ツールを使えば、距離だけでなく「実際の移動時間」を考慮した商圏設定ができます。大きな道路や線路で分断されるエリアは、距離は近くても来店しにくいため商圏から除外する必要があります。

Step2:人口・世帯数を調べる

商圏内の人口と世帯数を調べます。これが市場規模の基礎データになります。

データ入手先:

  • 政府統計ポータルサイト「e-Stat
  • 地域経済分析システム「RESAS
  • 住民基本台帳(各自治体)
  • 民間の統計データサービス

さらに、年齢別・性別人口構成も確認します。ターゲット層の人口が少なければ、その立地は不適格です。

Step3:人口動態を予測する

現在の人口だけでなく、将来の人口動態も重要です。

確認すべきポイント:

  • 過去5年間の人口推移(増加傾向?減少傾向?)
  • 将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所のデータ)
  • 再開発計画の有無(大規模マンション建設、商業施設開発など)

人口が減少傾向のエリアに出店すると、将来的に売上減少リスクが高まります。

Step4:世帯構成・所得水準を調べる

同じ人口でも、世帯構成や所得水準によって消費パターンは大きく異なります。

分析項目確認内容ビジネスへの影響
世帯構成単身世帯、夫婦のみ、子育て世帯、高齢者世帯の割合ターゲット世帯の多さ
平均世帯人員1世帯あたりの平均人数購買量の推定
持ち家率持ち家と賃貸の割合定住率、流動性
平均所得世帯所得の平均値価格戦略、購買力

例えば高級レストランを出店するなら高所得世帯が多いエリア、ファミリーレストランなら子育て世帯が多いエリアが適しています。

Step5:ライフスタイル・消費傾向を分析する

統計データだけでは見えない、地域の「空気感」も重要です。

確認方法:

  • 実地調査(平日・休日、朝昼晩の人の流れを観察)
  • 周辺店舗の顔ぶれ(どんな店が繁盛しているか)
  • SNSでのエリアの評判
  • 地域住民へのヒアリング

例えば同じ「30代単身者が多いエリア」でも、オフィス街なのか、住宅街なのか、学生街なのかで消費傾向は全く異なります。

Step6:購買力を推計する

最後に、商圏内の「購買力」を推計します。

購買力 = 商圏内人口 × ターゲット比率 × 年間支出額 × 自店の獲得シェア予測

計算例:カフェの場合

商圏内人口:10,000人
ターゲット比率(20〜40代):40%(4,000人)
カフェへの年間支出額:50,000円/人
自店の獲得シェア:10%

購買力 = 4,000人 × 50,000円 × 10% = 2,000万円

この金額が、家賃や人件費などの固定費を賄えるかどうかを検証します。


ステップ4:立地条件を評価する(立地の7大要素)

商圏分析でエリアを絞り込んだら、次は具体的な物件の立地評価です。

立地評価の7大要素

要素評価ポイント重要度(業種により変動)
視認性遠くからでも店が見えるか、看板は目立つか★★★★★
アクセス性駅から近いか、駐車場はあるか、入りやすいか★★★★★
通行量歩行者・車両の交通量は十分か★★★★★
周辺環境集客施設(駅、商業施設)や補完店舗が近くにあるか★★★★☆
競合状況近隣の競合店舗数、配置★★★★☆
物件条件面積、形状、階数、設備、契約条件★★★★☆
法的制約用途地域、建築基準法、営業許可の取得可能性★★★★☆

視認性の評価

「店があることに気づかない」のは致命的です。以下を確認しましょう:

  • 主要道路から店舗が見えるか
  • 看板を設置できるスペースはあるか
  • 建物の奥まった場所ではないか
  • 夜間の視認性は確保できるか

特に飲食店や小売店では、視認性が売上に直結します。角地物件や交差点近くが高く評価されるのはこのためです。

アクセス性の評価

顧客が「行きたい」と思っても、「行きにくい」店は選ばれません。

チェック項目:

  • 駅からの距離(徒歩何分か)
  • 駐車場の有無と台数
  • 店舗前の道路幅(車の出入りのしやすさ)
  • 歩道の有無
  • バリアフリー対応

郊外のロードサイド店舗なら駐車場が必須ですし、都心の駅前店舗なら駅からの近さが最優先です。

通行量の調査

通行量が多いほど、店舗への入店機会が増えます。

調査方法:

  • 平日・休日、時間帯別の通行量カウント
  • 人流データの活用(携帯電話の位置情報など)
  • 交通量調査データ(自治体が公開している場合も)

注意点として、「通行量が多い=良い」とは限りません。通行人の属性がターゲットと合っているかも重要です。学生が多いエリアで高級店を出しても成功しにくいでしょう。

周辺環境の評価

「アンカーテナント効果」を活用しましょう。大型商業施設、駅、オフィスビルなど、人を集める施設の近くは集客しやすくなります。

また、補完店舗の存在も重要です:

自店の業種相乗効果のある補完店舗
カフェ書店、雑貨店、美容室
居酒屋オフィスビル、駅
子供服店ベビー用品店、小児科、公園
スポーツジムドラッグストア、整骨院

逆に、マイナス要因となる周辺環境もチェックします(風俗店街、墓地、騒音源など)。


ステップ5:競合分析と差別化戦略(POP/POD/POF分析)

POP/POD/POF分析とは

競合との関係性を整理するには、POP/POD/POF分析が有効です。

分析要素意味戦略上の意味
POP(Points of Parity)業界標準、必須要件これがないと土俵に上がれない
POD(Points of Difference)差別化ポイント、独自の強みこれがあるから選ばれる
POF(Points of Failure)失敗要因、弱点これがあると選ばれない

POPの特定:最低限必要な要素

まず、その業界で「当たり前」とされる要素を洗い出します。

カフェの場合のPOP:

  • Wi-Fi完備
  • 長時間滞在OK
  • 清潔なトイレ
  • 居心地の良い空間
  • 一定水準以上のコーヒー品質

POPは差別化にはなりませんが、これが欠けていると顧客は離れます。まずはPOPを確実に満たすことが大前提です。

PODの設計:なぜ選ばれるか

次に、競合にはない自店の強みを明確にします。

差別化の方向性:

差別化軸具体例
品質最高級の豆を使用、職人の技術
価格業界最安値、コスパの良さ
利便性24時間営業、駅直結、デリバリー対応
専門性オーガニック専門、ヴィーガン対応
体験ユニークな内装、イベント開催
ターゲット特化子連れ歓迎、ペット同伴OK、作業特化

重要なのは、PODがターゲット顧客にとって「価値がある」ものであることです。どんなにユニークでも、顧客が求めていなければ意味がありません。

POFの回避:失敗要因を潰す

最後に、顧客満足を損なう可能性のある弱点を洗い出し、対策を打ちます。

よくあるPOF:

POF顧客への影響対策
スタッフ不足待ち時間が長い、サービス低下採用強化、オペレーション効率化
駐車場なし車利用者が来店できない近隣駐車場と提携、割引サービス
狭い店内混雑時に入店をあきらめる予約システム導入、テイクアウト強化
価格が高い日常使いしにくいランチセットなど低価格メニュー追加

POFを完全にゼロにすることは難しいですが、致命的な弱点は必ず対策しましょう。


ステップ6:売上予測と損益シミュレーション

立地が決まったら、事業計画を数字で検証します。

売上予測の方法

店舗の売上予測には、下記の「売上の方程式」を活用してみましょう:

売上 = 商圏内人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率
× エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入金額
× 年間購入頻度 × 購入単価

簡易版の売上予測式:

年間売上 = 商圏内ターゲット人口 × 来店率 × 年間来店回数 × 客単価

計算例:カフェの売上予測

項目数値根拠
商圏内ターゲット人口5,000人半径500m圏内の20〜40代
来店率20%競合状況から推定
年間来店回数24回月2回程度
客単価800円メニュー構成から

年間売上 = 5,000人 × 20% × 24回 × 800円 = 1,920万円

この数字を、固定費(家賃、人件費など)と変動費(原材料費など)と照らし合わせて、利益が出るかを検証します。

損益分岐点の計算

最低限どれだけ売上があれば赤字にならないかを計算します。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 - 変動費率)

計算例:

項目月額年額
家賃30万円360万円
人件費50万円600万円
光熱費5万円60万円
その他固定費5万円60万円
固定費合計90万円1,080万円
変動費率(原価率など)-40%

損益分岐点売上高 = 1,080万円 ÷ (1 - 0.4) = 1,800万円

先ほどの売上予測1,920万円 > 損益分岐点1,800万円なので、ギリギリ黒字化できる見込みです。

ただし、予測には不確実性があるため、余裕を持った計画が重要です。一般的には「損益分岐点の1.3〜1.5倍」の売上予測ができる立地が望ましいとされています。

初期投資と回収期間

出店には初期投資が必要です。これをどれくらいの期間で回収できるかも重要な判断基準です。

初期投資項目金額例
物件取得費(保証金、礼金など)300万円
内装工事費500万円
設備・什器200万円
初期在庫50万円
開業費(許認可、広告など)50万円
合計1,100万円

月間利益が20万円なら、回収期間は約55ヶ月(4年半)です。一般的に、回収期間が5年以内なら許容範囲とされます。


ステップ7:開店前後のマーケティング計画

立地と事業計画が固まったら、最後は集客戦略です。

開店前の認知獲得施策

開店前から認知を高めておくことで、オープン初日から集客できます。

施策内容タイミング
SNSアカウント開設Instagram、X(Twitter)で情報発信3ヶ月前〜
Googleビジネスプロフィール登録地図検索で表示されるように2ヶ月前
プレスリリース配信地域メディアへの情報提供1ヶ月前
ポスティング周辺住宅へのチラシ配布2週間前
内覧会・プレオープン関係者や地域住民を招待1週間前
オープニングキャンペーン企画初回割引、ノベルティ配布などオープン日

開店後の定着施策

オープン直後は物珍しさで来店がありますが、大事なのはリピーター化です。

施策目的実施内容
ポイントカードリピート促進来店回数に応じた特典
会員制度顧客データ取得LINEやアプリでの会員登録
限定メニュー来店動機づけ季節限定、曜日限定メニュー
イベント開催コミュニティ形成ワークショップ、ライブなど
口コミ促進認知拡大SNS投稿キャンペーン、レビュー特典

エリアマーケティングの活用

店舗ビジネスでは、商圏内での認知度とシェアを高める「エリアマーケティング」が重要です。

効果的なエリアマーケティング手法:

具体的には:

  • 商圏内の住宅・オフィスへの折込チラシ・ポスティング
  • 地域情報誌への広告掲載
  • 地域イベントへの協賛・出店
  • 近隣店舗とのコラボレーション

全国的な認知ではなく、「商圏内でNo.1の認知度」を目指すのがポイントです。


出店戦略の成功事例と失敗事例

成功事例1:スターバックスのドミナント戦略

スターバックスは「ドミナント戦略」で成功しています。これは特定のエリアに集中的に出店することで、ブランド認知度を高め、物流効率を上げ、競合の参入を防ぐ戦略です。

渋谷や新宿など主要エリアでは、数百メートルおきにスターバックスがあります。一見すると「自社店舗同士で客を奪い合う」カニバリゼーションが起きそうですが、各店舗で微妙に品揃えや雰囲気を変えることで、異なるニーズを吸収しています。

成功のポイント:

  • オフィス向け(テイクアウト重視)と滞在型(座席多め)で店舗を使い分け
  • エリア全体でのブランド支配により、競合が入りにくい
  • 物流・管理コストの最適化

成功事例2:マツモトキヨシの都市型戦略

マツモトキヨシは、都市部の駅前や繁華街を中心に展開する「都市型戦略」で成功しています。

戦略要素内容
Who都市部で働く20〜50代、訪日観光客
What医薬品・化粧品の豊富な品揃えと専門性
How(立地)駅前一等地、視認性の高い角地
How(商品)PB商品の充実、化粧品カテゴリーの強化

郊外ではなく都市部に集中することで、高い坪効率(売場面積あたりの売上)を実現しています。

失敗事例1:商圏分析の甘さによる失敗

あるラーメンチェーンが、「人口が多い」という理由だけで郊外の新興住宅地に出店しました。しかし、以下の見落としがありました:

見落とし項目実態影響
世帯構成子育て世帯が中心夜遅い時間の来店が少ない
競合状況近隣にファミレスが多数家族連れは競合に流れる
交通手段車移動が中心駐車場不足で来店断念

結果、想定の半分以下の売上で1年で撤退となりました。

失敗の原因:

  • 人口データだけで判断し、属性やライフスタイルを考慮しなかった
  • ターゲット(夜遅くまで働くビジネスパーソン)と商圏の住民が不一致
  • 競合分析が不十分

失敗事例2:固定費過多による失敗

あるカフェが、「絶好の立地」として駅前の路面店を高額な家賃で借りました。しかし:

項目計画実態問題
月間売上300万円200万円予測過大
家賃60万円(売上の20%)60万円(売上の30%)比率高すぎ
損益分岐点売上250万円250万円余裕なし

売上が計画を下回ったため、赤字が続き半年で閉店しました。

失敗の原因:

  • 売上予測が楽観的すぎた
  • 固定費(特に家賃)の比率が高すぎた
  • 撤退ラインを決めておらず、ズルズルと続けてしまった

一般的に、家賃は売上の10〜15%が適正とされています。良い立地でも、固定費が高すぎると収益化が困難になります。


出店戦略で使える分析ツールとデータソース

実際の出店戦略では、様々なツールとデータソースを活用します。

無料で使えるデータソース

データソース取得できる情報URL
e-Stat(政府統計ポータル)人口、世帯、産業構造などhttps://www.e-stat.go.jp/
RESAS(地域経済分析システム)人口動態、産業、観光などhttps://resas.go.jp/
国土数値情報土地利用、都市計画、交通などhttps://nlftp.mlit.go.jp/
Googleマップ店舗配置、口コミ、交通量目安https://maps.google.com/

有料のGISツール・商圏分析サービス

より高度な分析には、専門ツールの導入も検討しましょう。

サービス名提供会社特徴
MarketAnalyzer技研商事商圏分析、出店計画支援
TerraMapマップマーケティング地図ベースの商圏分析
GISMAPESRI高度なGIS分析機能

人流データの活用

近年注目されているのが、スマートフォンの位置情報から得られる「人流データ」です。

人流データで分かること:

  • いつ、どこに、何人の人が集まるか
  • どこから来て、どこへ向かうか(移動パターン)
  • 滞在時間の分布
  • 年齢・性別などの属性(推定)

これにより、「平日昼間はオフィスワーカーが多いが、休日は家族連れが多い」といった、より詳細な人の動きを把握できます。


出店戦略チェックリスト:失敗を防ぐ20項目

出店を決定する前に、以下のチェックリストで抜け漏れがないか確認しましょう。

コンセプト設計(Who/What/How)

No.チェック項目
1ターゲット顧客が具体的に定義されているか
2提供する便益(ベネフィット)が明確か
3競合との差別化ポイント(POD)が明確か
4価格戦略はターゲットと整合しているか

市場・商圏分析

No.チェック項目
5商圏内のターゲット人口は十分か
6人口は増加傾向にあるか(または安定しているか)
7世帯構成・所得水準はターゲットと合致するか
8競合店舗の数と配置を把握しているか
9市場の成長性・将来性を検証したか

立地評価

No.チェック項目
10店舗の視認性は十分か
11ターゲット顧客のアクセスは良好か
12平日・休日・時間帯別の通行量を確認したか
13集客施設(駅、商業施設など)が近くにあるか
14物件の広さ・形状は事業に適しているか
15法的制約(用途地域、営業許可など)をクリアできるか

事業計画

No.チェック項目
16現実的な売上予測を立てているか
17損益分岐点を計算し、達成可能か
18初期投資の回収期間は妥当か(5年以内)
19家賃比率は適正か(売上の10〜15%)
20撤退ラインを決めているか

全ての項目で✓が入ったら、出店を決定しましょう。1つでも✓が入らない項目があれば、再検討が必要です。


まとめ:データと戦略で勝率を上げる店舗出店

ここまで、新規店舗出店で考えるべき7つのステップを詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめます。

Key Takeaways:5つの重要ポイント

ポイント内容なぜ重要か
1. Who/What/Howの明確化店舗コンセプトを徹底的に固める全ての意思決定の基準になるから
2. データドリブンな商圏分析感覚ではなく客観的データで判断失敗リスクを大幅に減らせるから
3. 立地は7割立地選定に最も時間とリソースを割く後から変更できない最重要要素だから
4. 競合分析と差別化POD(独自の強み)を明確にする「選ばれる理由」がないと埋もれるから
5. 現実的な事業計画楽観的すぎる予測は禁物資金ショートを防ぐため

Next Action:明日からできる3つのステップ

この記事を読んだら、すぐに以下のアクションを起こしましょう:

Step1(今日): 自社のWho/What/Howを紙に書き出す

  • ターゲット顧客のペルソナを詳細に描く
  • 提供する便益と独自性を一言でまとめる
  • 4P(Product/Price/Place/Promotion)の方向性を決める

Step2(今週中): 候補エリアの商圏分析を始める

  • e-StatやRESASで人口データを取得
  • Googleマップで競合店舗をマッピング
  • 実地調査で人の流れを観察

Step3(今月中): 売上予測と事業計画を作成する

  • 簡易版の売上予測式で数字を出す
  • 損益分岐点を計算
  • 初期投資額と回収期間を試算

最後に:完璧な立地は存在しない

ここまで読んで、「条件を全て満たす完璧な立地なんて見つからない」と思った方もいるでしょう。その通りです。完璧な立地は存在しません。

重要なのは、自社のコンセプトに最も合った立地を、データに基づいて選ぶことです。そして、立地の弱点(POF)を理解した上で、それを補う施策を打つことです。

例えば、視認性が低い立地なら、SNSマーケティングで認知を補う。駐車場がないなら、駅近であることを強調する。といった具合です。

店舗出店は大きな挑戦ですが、正しいプロセスを踏めば成功確率は確実に上がります。この記事で学んだフレームワークとチェックリストを活用し、あなたのビジネスを成功へと導いてください。


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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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