米国関税180億円の影響を吸収|ダイキンの2026年Q2決算から学ぶ、厳しい事業環境でも成長する企業の条件 - 勝手にマーケティング分析
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米国関税180億円の影響を吸収|ダイキンの2026年Q2決算から学ぶ、厳しい事業環境でも成長する企業の条件

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はじめに

「売上は減っているのに、なぜ利益は過去最高なのか?」ダイキン工業の2026年3月期第2四半期決算を見て、こんな疑問を持った方も多いのではないでしょうか。

米国住宅市場の低迷、中国不動産不況の長期化、さらには米国関税措置による約180億円のマイナス影響。これほど厳しい事業環境にもかかわらず、ダイキンは営業利益2,466億円(営業利益率9.9%)という過去最高水準の収益を達成しています。

この決算で注目すべきポイントは3つあります。まず、為替を除く実質ベースでは売上高102%、営業利益105%と確実に成長している点。次に、販売力・営業力の強化と戦略的売価施策により、価格競争に巻き込まれずに収益性を維持している点。そして、経営トップ直轄の全社横断6テーマという具体的な施策で、厳しい環境を乗り越えようとしている点です。

この記事では、「ダイキンの成長は本物なのか、一時的なものなのか」という問いに答える形で、決算数字から読み取れるマーケティング戦略の本質を解き明かしていきます。


会社概要

Screenshot

ダイキン工業は、空調事業を主力とするグローバル企業です。空調事業は売上高の約95%を占め、住宅用エアコン、業務用空調機器、アプライド製品(大型空調システム)を展開しています。残りの約5%が化学事業で、フッ素化学製品を製造・販売しています。

海外売上高比率は85%と高く、日本、米州、中国、欧州、アジア・オセアニアなど、グローバルに事業を展開しているのが特徴です。2024年11月時点の時価総額は約13.38兆円で、日本企業の中でも有数の規模を誇ります。


業績の事実

2025年度上期(2024年4月~9月)の業績を、前年同期および前四半期と比較して見ていきます。

連結業績サマリー

指標2024年度上期2025年度上期前年度比為替除く実質
売上高24,931億円24,788億円99%102%
営業利益2,466億円2,466億円100%105%
営業利益率9.9%9.9%--
経常利益2,242億円2,419億円108%-
純利益1,517億円1,609億円106%-

為替影響:売上高▲715億円、営業利益▲135億円(対前年度)

セグメント別業績

セグメント売上高(億円)前年度比営業利益(億円)前年度比利益率
空調事業23,069100%2,323106%10.1%
化学事業1,26898%13752%10.8%
その他45296%647%1.4%

重要な発見:為替の影響を除くと、空調事業は売上高103%、営業利益112%と確実に成長しています。化学事業は半導体市況の影響で減収減益となっていますが、全社としては実質的な成長を達成しています。

地域別売上高(空調事業)

地域2024年度上期2025年度上期前年度比
日本3,238億円3,406億円105%
米州9,632億円9,789億円102%
中国2,604億円2,304億円88%
欧州3,506億円3,614億円103%
アジア2,732億円2,367億円87%

通期見通し(2026年3月期)

指標2024年度実績2025年度計画前年度比
売上高47,523億円48,400億円102%
営業利益4,017億円4,350億円108%
営業利益率8.5%9.0%-
純利益2,648億円2,800億円106%

注目ポイント:下期の営業利益率は8.0%と上期(9.9%)より低い計画です。これは季節性や投資の影響によるものと考えられます。


成長の質を見極める

①この成長は続くのか?一時的な要因と実力ベースの分析

一時的な要因の影響を定量化する

ダイキンの上期業績には、為替というわかりやすい一時的要因がありました。為替のマイナス影響は売上高で▲715億円、営業利益で▲135億円です。これを除くと、実質的な成長率は売上高102%、営業利益105%となります。

さらに重要なのは、米国関税措置による直接影響です。決算資料によれば、営業利益で約180億円(上期)、年間で約420億円のマイナス影響を見込んでいます。この影響を価格転嫁とコストダウンで吸収しているということは、実力ベースではさらに高い成長を達成していることを意味します。

前四半期比での成長加速・減速の確認

決算資料からは四半期ごとの詳細な数字は開示されていませんが、会社が「好調」と述べている事業について検証してみます。

空調事業全体では、営業利益が前年度比106%(為替除く112%)と確実に伸びています。特に注目すべきは、営業利益率が9.5%から10.1%へと0.6ポイント改善している点です。これは単なる売上拡大ではなく、収益性の向上を伴った成長であることを示しています。

地域別に見ると、日本(105%)、米州(102%)、欧州(103%)は安定成長。中国(88%)とアジア(87%)が減速していますが、これは不動産不況や景気低迷という外部環境の影響です。

会社が主張する「好調」事業は本当に伸びているか?

会社が好調と主張している事業を検証します。

  • 米州アプライド事業:現地通貨ベースで114%と大きく伸びています。データセンター向けの需要を捉え、販売を拡大しました。
  • 日本の高付加価値商品:住宅用で前年度比100%、業務用で104%と着実に販売を伸ばしています。特に「うるさらX」や「FIVE STAR ZEAS」などの高付加価値商品の販売強化が功を奏しています。
  • 中国の住宅用マルチエアコン:全体の売上高は88%と減少していますが、これは不動産不況の影響です。会社は住宅用マルチエアコンに資源を集中し、為替を除く実質ベースでは増収増益を達成しています。

結論:一時的な要因(為替、関税、中国不動産不況)を除けば、ダイキンの成長は実力ベースで継続しています。特に、厳しい環境下でも営業利益率を維持・向上させている点は、価格決定力と事業構造の強さを示しています。

②どのセグメント・地域に依存しているか?

事業セグメントの依存度

ダイキンの事業ポートフォリオを見ると、空調事業が売上高の約93%、営業利益の約94%を占めています。一見すると空調への依存度が高いように見えますが、空調事業の中身を見ると、住宅用、業務用、アプライドと多様化されています。

化学事業は売上高の約5%ですが、営業利益率が10.8%(上期実績)と高収益です。ただし、半導体市況の影響を受けやすく、今期は減益となっています。

地域別の依存度とリスク

地域別の売上構成比(空調事業)を見ると:

  • 米州:42%(9,789億円)
  • 日本:15%(3,406億円)
  • 欧州:16%(3,614億円)
  • 中国:10%(2,304億円)
  • アジア:10%(2,367億円)

米州への依存度が最も高いですが、これは市場規模が大きいためです。重要なのは、どの地域も前年度比で大きく減速していない(中国・アジアを除く)という点です。

各セグメントの成長ドライバーの持続可能性

  • 日本:省エネ・高付加価値商品への需要は継続的に伸びると予想されます。電気料金の上昇や猛暑の常態化により、省エネ性能の高いエアコンへの買い替え需要が見込まれます。
  • 米州:住宅用ユニタリーでのシェア挽回が進行中です。R32冷媒への切り替えという規制変更を追い風に、環境プレミアム商品「Fit」の販売が伸びています。アプライド事業では、データセンター需要という長期的な成長ドライバーがあります。
  • 中国:不動産不況は短期的には厳しいですが、ダイキンは住宅用マルチエアコンという差別化商品に資源を集中し、PROSHOPやライブコマースなどユーザー直販の強化で収益性を維持しています。
  • 欧州:ヒートポンプ暖房の需要回復は緩やかですが、環境意識の高さを背景にR32機などの環境対応商品の販売が伸びています。
  • アジア:米国関税措置の影響で一時的に減速していますが、中長期的には人口増加と経済成長により空調需要は拡大します。

結論:米州への依存度は高いものの、各地域で異なる成長ドライバーを持っており、リスク分散は一定程度できています。また、どの地域でも「高付加価値商品」「ソリューション事業」という共通の戦略で収益性を確保している点が重要です。

③短期と長期でどう違うのか?

向こう1~2四半期の見通し

下期(2025年10月~2026年3月)の計画を見ると、売上高23,612億円(上期比▲4.7%)、営業利益1,884億円(上期比▲23.6%)と、上期より厳しい数字になっています。

これは以下の要因が考えられます:

  1. 季節性:空調事業は夏場に需要が集中するため、下期の売上が減少するのは通常のパターンです。
  2. 関税措置の影響の本格化:米国関税措置の影響は年間で約420億円を見込んでおり、下期にも影響が継続します。
  3. 中国・アジアの景気低迷の継続:不動産不況や景気減速の影響は短期的には継続すると見られます。
  4. 投資の継続:研究開発費や販売力強化のための投資を継続するため、短期的には利益を圧迫します。

1~3年の中長期トレンド

中長期的には、ダイキンには以下のような成長機会があります:

  1. 環境規制の追い風:R32冷媒への切り替えや、ヒートポンプ暖房の普及など、環境規制がダイキンの差別化商品を後押しします。
  2. データセンター需要の拡大:AI需要の拡大に伴い、データセンター向けの空調需要は中長期的に伸びます。ダイキンはアプライド事業でこの市場に強みを持っています。
  3. ソリューション事業の拡大:単なる機器販売から、保守・メンテナンス、エネルギーマネジメントなどのソリューション事業への転換が進んでいます。これは高収益で安定的な収益源となります。
  4. 新興国での空調普及:アジアなどの新興国では、経済成長に伴い空調の普及率が上がります。長期的には大きな成長機会です。
  5. 経営トップ直轄の6テーマの成果:販売力強化、差別化商品の投入加速、コストダウンの極大化など、全社横断の取り組みが成果を出し始めています。

結論:短期的(1~2四半期)は、季節性や関税措置の影響で厳しい環境が続きますが、中長期的(1~3年)には、環境規制の追い風、データセンター需要、ソリューション事業の拡大など、複数の成長ドライバーがあります。ダイキンの成長は短期的な逆風を乗り越えて継続すると考えられます。


マーケティングの学び

ダイキンの決算から読み取れる、マーケティング戦略の核心を3つピックアップします。

学び①:「売価戦略」による収益性の維持-価格競争に巻き込まれない構造を作る

何が起きたか

ダイキンは厳しい事業環境下でも、営業利益率9.9%という高水準を維持しました。これは「戦略的売価施策」と呼ばれる価格戦略によるものです。

具体的な数字を見ると、営業利益増減分析(P.7)で、売価効果が+560億円(上期)、年間計画では+1,200億円のプラス影響をもたらしています。これは、単に価格を上げたのではなく、付加価値の高い商品の販売構成比を高めることで実現しています。

なぜそうなったか

顧客視点では、以下の要因が価格受容性を高めています:

  • 省エネ性能の価値:電気料金の上昇により、初期コストが高くても省エネ性能の高い商品のトータルコストは低くなります。日本での「うるさらX」の販売好調はこれを示しています。
  • 環境規制への対応:米国でのR32機への切り替えは規制によるもので、顧客は環境対応商品を選ばざるを得ません。ダイキンは早期にR32機を投入し、「Fit」という差別化商品でプレミアム価格を実現しました。
  • ソリューション価値:単なる機器販売ではなく、省エネ提案、保守・メンテナンス、エネルギーマネジメントなどを組み合わせたソリューション提案により、価格競争を回避しています。

商品面では:

  • 高付加価値商品のラインアップ強化:「うるさらX」「FIVE STAR ZEAS」「VRV 7」など、技術的に差別化された商品を投入しています。
  • R32冷媒の早期採用:環境規制の変化を先取りし、競合より早くR32機を市場投入したことで、先行者利益を享受しています。

チャネル面では:

  • ユーザー直販の強化:中国でのPROSHOP支援、カスタマーセンター、ライブコマースの活用により、流通マージンを減らしつつ顧客接点を強化しています。
  • 販売店の開発・支援:米州での新規販売店開発や、既存販売店への技術支援により、販売網を拡充し、競合との差別化を図っています。

どんな打ち手があったか

決算資料から読み取れる具体的な施策は:

  1. 経営トップ直轄の全社横断6テーマ(P.9)
    • 販売力・営業力の強化
    • 差別化商品投入の加速
    • 売価アップとシェア拡大の両立
    • コストダウンの極大化
    • サービス・ソリューション事業の拡大
    • デジタル投資・プロセスイノベーション
  2. 地域別の具体的施策
    • 日本:高付加価値商品のユーザー提案、ハウスメーカーへのスペックイン活動
    • 米州:R32機の優位性訴求、「Fit」の販売店開発・支援
    • 中国:ユーザーダイレクト販売、ライフスタイルに合わせた住宅用ソリューション
    • 欧州:ミドル・ハイエンドゾーンでの販売店開発
  3. 米国関税措置への対応
    • 価格転嫁とコストダウンで約420億円の影響を吸収
    • 銅からアルミ、ステンレスへの材料置換
    • ベースモデルのコストダウン

自社に活かせることは何か

この戦略から学べる再現性のある原則は:

  1. 「価格競争の回避」は商品の差別化だけでは不十分
    ダイキンは商品力だけでなく、顧客ニーズ(省エネ、環境対応)、規制変化(R32への切り替え)、販売チャネル(ユーザー直販)を統合的に設計することで、価格決定力を獲得しています。
  2. 外部環境の変化をチャンスに変える
    米国関税措置は一見するとマイナス要因ですが、ダイキンはこれを機に、価格転嫁、コストダウン、サプライチェーンの見直しを加速させています。危機を変革の機会と捉える姿勢が重要です。
  3. 全社横断の取り組みで成果を最大化
    経営トップ直轄の6テーマは、部門の壁を越えて、販売、商品開発、コスト、サービスを統合的に改善する取り組みです。マーケティング部門だけでなく、全社を巻き込むことで、大きな成果を生み出しています。

学び②:「経済的な堀」を活かした長期的な競争優位-複数の堀を組み合わせる

何が起きたか

ダイキンは厳しい事業環境にもかかわらず、営業利益率9.9%という高水準を維持し、過去最高益を更新しました。これは一時的な成功ではなく、「経済的な堀」と呼ばれる構造的な競争優位性によるものです。

なぜそうなったか

ダイキンが持つ「経済的な堀」を整理すると、以下の5つが確認できます:

  1. 技術力・ブランド力(無形資産)
    • R32冷媒の先行開発と市場投入
    • 「うるさらX」「FIVE STAR ZEAS」など技術的に差別化された商品
    • 「ダイキンなら安心」というブランド評価
  2. 乗り換えコスト
    • 業務用空調は建物の設計段階で組み込まれ、変更が困難
    • 保守・メンテナンスの顧客データベース蓄積により、長期的な関係構築
    • VRV-Q(既設配管を利用した更新システム)により、乗り換えコストをさらに高める
  3. ネットワーク効果(限定的)
    • 販売店ネットワークの拡充:米州での新規販売店開発、既存販売店の支援
    • 中国でのPROSHOP展開:8,000店以上のネットワーク
  4. コスト優位性
    • トヨタ生産方式を応用した効率的な生産
    • グローバルでの部品調達によるスケールメリット
    • メキシコ新工場や米国工場での生産能力増強
  5. 効率的な規模(ニッチ市場での独占)
    • アプライド市場でのポジション確立
    • ヒートポンプ暖房(欧州)でのシェア
    • 住宅用マルチエアコン(中国)での差別化

どんな打ち手があったか

ダイキンは、これらの堀を意識的に深める施策を実行しています:

  1. 技術開発への継続投資
    • 研究開発費:年間1,500億円規模(売上高比3.1%)
    • R32冷媒、ヒートポンプ暖房、IoT・AIを活用した空調制御システムなど
  2. 顧客との長期的関係の構築
    • ソリューション事業の強化:保守・メンテナンス、エネルギーマネジメント
    • サービスメニューの拡充:故障予知、最適運転提案など
  3. 販売網の拡充と支援
    • 米州:新規販売店の開発、既存販売店への技術支援・マーケティング支援
    • 中国:PROSHOP支援、ライブコマース、カスタマーセンターの強化
  4. 差別化商品の投入加速
    • 商品開発の前倒し:R290小容量機(ヒートポンプ暖房)、VRV 7(R32機)など
    • 地域ニーズに即した商品開発

自社に活かせることは何か

この戦略から学べる原則は:

  1. 複数の堀を組み合わせることで、より強固な競争優位性を築ける
    ダイキンは、技術力だけでなく、乗り換えコスト、販売網、コスト優位性など、複数の堀を組み合わせています。1つの堀だけでは模倣されやすいですが、複数の堀を組み合わせることで、競合が追いつくのが困難になります。
  2. 堀を深めるための投資を継続する
    研究開発費、設備投資、販売網への投資など、短期的には利益を圧迫しますが、長期的には競争優位性を強化します。ダイキンは厳しい環境下でも投資を継続しています。
  3. 外部環境の変化に合わせて堀を再構築する
    環境規制の変化(R32への切り替え)、顧客ニーズの変化(省エネ、IoT)に合わせて、技術開発や商品ラインアップを柔軟に変更しています。堀は一度作れば終わりではなく、常に進化させる必要があります。

学び③:「全社横断の取り組み」による変革スピードの加速-部門の壁を越える

何が起きたか

ダイキンは2025年度から、「経営トップ直轄の全社横断6テーマ」という取り組みを開始しました。これは、部門の壁を越えて、販売、商品開発、サプライチェーン、コスト、サービス、デジタルの6つのテーマで成果創出を加速する取り組みです。

上期の段階で、すでに一定の成果が出ています。例えば、営業利益増減分析を見ると、コストダウンが+370億円(上期)、年間計画では+810億円のプラス効果を見込んでいます。また、米国関税措置の影響約180億円(上期)を吸収できたのも、この取り組みによるものです。

なぜそうなったか

なぜ全社横断の取り組みが必要だったのか。それは、事業環境の変化スピードが速く、部門ごとの最適化では対応が遅れるからです。

  • 米国関税措置:価格転嫁(営業)、コストダウン(調達・生産)、サプライチェーンの見直し(物流)を同時に実行する必要がありました。
  • 環境規制の変化:R32機の開発(R&D)、生産体制の整備(生産)、販売店への技術支援(営業)、マーケティング(広告宣伝)を統合的に進める必要がありました。
  • 顧客ニーズの変化:省エネ、IoT、ソリューションなど、顧客ニーズが多様化・高度化しており、単一部門では対応できなくなっています。

どんな打ち手があったか

経営トップ直轄の全社横断6テーマの内容は:

  1. 販売力・営業力の強化
    • 利益率重視の販売施策
    • 差別化商品の投入加速
    • 販売店の開発・支援
  2. 新商品・差別化商品投入の加速
    • 商品開発の前倒し
    • 地域ニーズに即した商品開発
  3. 米国関税措置の対応を含むサプライチェーンの強化
    • 価格転嫁の徹底
    • 銅からアルミ、ステンレスへの材料置換
    • 生産拠点の最適化
  4. コストダウンの極大化
    • ベースモデルのコストダウン
    • 材料置換によるコストダウン
    • 生産性改善
  5. グローバルでのサービス・ソリューション事業
    • 市場・用途別のソリューション展開
    • 保守・修理サービス・部品販売の収益化
  6. デジタル投資、プロセスイノベーションの成果創出
    • IoT、AIを活用した空調制御システム
    • 業務プロセスのデジタル化

自社に活かせることは何か

この戦略から学べる原則は:

  1. 変革は経営トップ主導で、全社横断で進める
    部門ごとの取り組みでは、部門間の調整に時間がかかり、スピードが遅れます。経営トップが直轄で、部門の壁を越えて意思決定することで、変革スピードが加速します。
  2. 6つのテーマは相互に関連している
    例えば、「差別化商品の投入」は「販売力強化」と連動し、「コストダウン」は「サプライチェーン強化」と連動しています。部門ごとに最適化するのではなく、テーマ間の相乗効果を狙うことが重要です。
  3. 短期的な成果と長期的な投資のバランス
    コストダウンや価格転嫁は短期的な成果ですが、差別化商品開発やデジタル投資は長期的な競争力強化です。両方をバランスよく進めることが、持続的な成長につながります。

結論:成長は本物か?

判定:本物の成長

ダイキンの成長は「本物の成長」と判断できます。その理由は以下の5つです。

1. 実質ベースで確実に成長している

為替の影響を除くと、売上高102%、営業利益105%と確実に成長しています。さらに、米国関税措置の影響約180億円(上期)を吸収しているため、実力ベースではさらに高い成長率です。

2. 収益性を伴った成長である

単に売上を増やすのではなく、営業利益率9.9%という高水準を維持しています。これは、価格決定力と事業構造の強さを示しています。

3. 複数の地域・事業でバランスよく成長している

日本、米州、欧州で安定成長し、中国・アジアも厳しい環境下で善戦しています。また、住宅用、業務用、アプライドという異なる事業でそれぞれ成長ドライバーを持っています。

4. 長期的な成長ドライバーがある

環境規制の追い風、データセンター需要、ソリューション事業の拡大など、中長期的な成長機会が複数あります。

5. 構造的な競争優位性(経済的な堀)を持っている

技術力、ブランド力、乗り換えコスト、販売網、コスト優位性など、複数の経済的な堀を組み合わせており、競合が簡単には模倣できない構造になっています。

ダイキンの経済的な堀

ダイキンが持つ経済的な堀を整理すると:

  1. 技術力(無形資産)
    R32冷媒、ヒートポンプ暖房、VRVシステムなど、長年の研究開発で蓄積された技術力。これは特許や営業秘密として保護されており、競合が簡単には模倣できません。
  2. ブランド力(無形資産)
    「ダイキンなら安心」というブランド評価。特に業務用市場では、信頼性が重視されるため、ブランド力が価格プレミアムにつながっています。
  3. 乗り換えコスト
    業務用空調は建物の設計段階で組み込まれ、一度設置されると変更が困難です。また、保守・メンテナンスの顧客データベース蓄積により、長期的な関係が構築されています。
  4. 販売網(ネットワーク)
    グローバルで構築された販売網は、新規参入者が簡単には模倣できません。特に、販売店への技術支援やマーケティング支援により、強固な関係を築いています。
  5. コスト優位性(規模の経済)
    グローバルでの生産・調達によるスケールメリット。メキシコ新工場や米国工場での生産能力増強により、さらにコスト競争力を高めています。

これらの堀は相互に関連しており、1つの堀だけでは模倣されやすいですが、複数の堀を組み合わせることで、競合が追いつくのが困難になっています。


リスクと懸念

リスク項目インパクト発生確率対策
米国関税政策の変更営業利益▲420億円/年(現状)価格転嫁、コストダウン、サプライチェーン見直し
中国不動産不況の長期化中国売上高の減少継続ユーザー直販強化、高付加価値商品への資源集中
米国住宅市場の低迷住宅用ユニタリーの販売減少R32機でのシェア挽回、「Fit」の販売強化、アプライド事業での補完
半導体市況の回復遅れ化学事業の減益継続他分野(自動車、通信)での用途開発、コストダウン
原材料価格の上昇原価率の上昇材料置換(銅→アルミ、ステンレス)、価格転嫁
為替の変動売上・利益の変動現地生産・調達の拡大、為替ヘッジ
競合の追い上げシェア低下、価格競争激化差別化商品の投入加速、ソリューション事業の強化

最も警戒すべきリスク

短期的には、米国関税政策のさらなる変更と、中国不動産不況の長期化です。これらは外部環境の変化であり、ダイキン単独ではコントロールできません。

中長期的には、技術革新による既存商品の陳腐化や、競合の追い上げによるシェア低下です。ただし、ダイキンは研究開発への継続投資や、全社横断の取り組みにより、これらのリスクに対応しています。


まとめ

ダイキンの2026年3月期第2四半期決算から、マーケターが学べる実践的なヒントをまとめます。

実践的なヒント(5~7個)

  1. 価格競争を回避するには、商品の差別化だけでは不十分。顧客ニーズ、規制変化、販売チャネルを統合的に設計せよ。
    ダイキンは、省エネ性能という顧客ニーズ、R32への規制変更、ユーザー直販という販売チャネルを組み合わせることで、価格決定力を獲得しました。
  2. 外部環境の変化を嘆くのではなく、変革のチャンスと捉えよ。
    米国関税措置は一見するとマイナス要因ですが、ダイキンはこれを機に、価格転嫁、コストダウン、サプライチェーンの見直しを加速させました。
  3. 複数の「経済的な堀」を組み合わせることで、競合が模倣できない競争優位性を築け。
    技術力、ブランド力、乗り換えコスト、販売網、コスト優位性。1つだけでは弱いが、複数を組み合わせることで強固な堀になります。
  4. 変革は経営トップ主導で、部門の壁を越えて、全社横断で進めよ。
    経営トップ直轄の全社横断6テーマは、部門ごとの最適化では実現できないスピードと成果を生み出しています。
  5. 短期的な成果(コストダウン、価格転嫁)と長期的な投資(研究開発、販売網)のバランスを取れ。
    厳しい環境下でも、研究開発費1,500億円、設備投資2,900億円という投資を継続しています。
  6. 地域・事業ごとに異なる成長ドライバーを持つことで、リスクを分散せよ。
    日本では高付加価値商品、米州ではアプライド、中国では住宅用マルチと、それぞれ異なる強みを持っています。
  7. 収益性を伴わない成長は意味がない。営業利益率を常に意識せよ。
    ダイキンは厳しい環境下でも、営業利益率9.9%という高水準を維持しています。単に売上を増やすのではなく、収益性を重視する姿勢が重要です。

経済的な堀

ダイキンが持つ経済的な堀は、以下の5つです:

  1. 技術力・ブランド力(無形資産):R32冷媒、VRVシステム、ブランド評価
  2. 乗り換えコスト:業務用空調の組み込み、保守・メンテナンスの顧客データベース
  3. 販売網(ネットワーク):グローバルな販売店ネットワーク
  4. コスト優位性(規模の経済):グローバル生産・調達によるスケールメリット
  5. 効率的な規模(ニッチ市場での独占):アプライド、ヒートポンプ暖房、住宅用マルチ

これらの堀は相互に関連しており、複数を組み合わせることで、競合が簡単には追いつけない構造を作っています。

最後に

ダイキンの決算が示すのは、「厳しい事業環境でも、戦略次第で成長できる」という希望です。米国住宅市場の低迷、中国不動産不況、米国関税措置。これらの逆風は、多くの企業にとって減益の言い訳になるかもしれません。しかしダイキンは、これらを乗り越えて過去最高益を達成しました。

その秘訣は、「価格競争に巻き込まれない構造」「複数の経済的な堀」「全社横断の変革スピード」の3つです。これらは特別な企業だけができることではなく、どの企業でも実践できる原則です。

あなたのブランドは、顧客から「多少高くても買いたい」と思われていますか?競合が簡単には真似できない強みを持っていますか?部門の壁を越えて、全社で変革に取り組んでいますか?

ダイキンの決算は、これらの問いに答えるヒントを与えてくれています。厳しい環境だからこそ、「本質的な強み」が問われる。そう考えると、今の逆風は、むしろチャンスなのかもしれません。


出典ダイキン工業株式会社「2026年3月期 第2四半期決算説明資料」

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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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