はじめに:なぜ今MonotaROに注目すべきなのか
「うちの会社のECサイト、なかなか売上が伸びない…」そんな悩みを抱えているマーケターの方は多いのではないでしょうか。特にBtoBビジネスにおいては、顧客獲得も定着化も難しく、成長の壁にぶつかりやすいものです。
そんな中、工場や建設現場向けの間接資材を扱うMonotaROは、2025年第3四半期累計で前年比14.1%の売上成長を実現し、営業利益率も13.8%と高い収益性を維持しています。この記事では、同社の決算資料から「なぜMonotaROは成長し続けられるのか」という視点で、マーケターが実務に活かせる戦略のヒントを深掘りしていきます。
MonotaROとは:圧倒的な商品数で「利便性」を武器にする企業
事業の特徴

MonotaROは、事業者向けの工場・工事用品や自動車整備用品などの間接資材をインターネット経由で販売する通販企業です。2025年9月末時点で2,830万点超という膨大な商品を扱い、そのうち約74.7万点が当日出荷対象、在庫点数は約68.4万点に上ります。
この事業の最大の特徴は、「価格よりも利便性が重要」という顧客ニーズに徹底的に応えている点です。製造業や建設業の現場では、「今すぐ必要な部品が手に入るか」「探している商品が確実に見つかるか」といった利便性が購買の決め手になります。MonotaROはこの点を深く理解し、品揃えとスピードで圧倒的な優位性を築いています。
ビジネスモデルの構造
| 事業区分 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 事業者向けネット通販事業 | 中小企業を中心とした一般的なネット通販 | 新規顧客獲得と既存顧客のLTV向上を重視 |
| 購買管理システム事業 | 大企業向けの購買システム連携サービス | 企業の購買システムと接続し、発注業務を効率化 |
| ロイヤリティ事業 | Grainger社(米国)へのノウハウ提供 | ビジネスモデルのライセンス収入 |
特に注目すべきは購買管理システム事業で、2025年Q3累計では売上構成比33.3%を占め、前年比23.9%と高成長を続けています。この事業は大企業の購買システムに自社のカタログを組み込むことで、企業内の多数のユーザーに継続的にリーチできる仕組みです。
2025年Q3決算ハイライト:計画を上回る好調な業績
全体業績サマリー
2025年第3四半期累計(1月〜9月)の連結業績は以下の通りです。
| 指標 | 2024年Q3実績 | 2025年Q3実績 | 前年比 | 計画比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,115億円 | 2,414億円 | +14.1% | -0.5% |
| 売上総利益 | 620億円(29.3%) | 718億円(29.8%) | +15.9% | +0.6% |
| 営業利益 | 270億円(12.8%) | 333億円(13.8%) | +23.1% | +6.8% |
| 当期純利益 | 189億円(8.9%) | 235億円(9.7%) | +24.4% | +8.1% |
売上は計画比でわずかに届かなかったものの、営業利益は計画を6.8%上回る好調な結果となりました。特に注目すべきは、売上総利益率が29.8%に改善し、販売管理費率も16.0%に低下したことで、営業利益率が前年の12.8%から13.8%へと1.0ポイント改善している点です。
成長のエンジンはどこにあるのか
単体ベースで見ると、事業者向けネット通販事業は注文件数・単価ともに上昇し、購買管理システム事業は注文顧客数の増加を主因に前年比23.9%成長しました。また、Grainger社からのロイヤリティ収入も前年比増となり、複数の収益源がバランスよく成長していることがわかります。
マーケティング観点での注目点①:顧客セグメント別の緻密な戦略設計
MonotaROの強みの一つは、顧客を事業規模別に4つのセグメントに分け、それぞれに最適化されたマーケティング戦略を実行している点です。
顧客セグメントの全体像
| セグメント | 対象 | 特徴 | 2025年の主な施策 |
|---|---|---|---|
| Micro | 個人事業主・一般消費者など | 売上構成比10%、成長率1% | 期待LTVに基づいたダイレクトマーケティング最適化 |
| Small | 売上20億円未満の法人(約450万社) | 売上構成比39%、成長率10% | 新規獲得強化、カタログによる初購入カテゴリー拡大 |
| Mid | 売上300億円未満の法人(約6万社) | 売上構成比22%、成長率15% | 購買システム連携、インサイドセールス型営業の確立 |
| Large | 売上300億円以上の法人(約6,500社) | 売上構成比29%、成長率25% | 拠点浸透による利用者拡大、大企業向けサービス開発 |
ここで重要なのは、それぞれのセグメントで課題と対策が明確に定義されていることです。たとえばSmallセグメントでは「既存顧客の初購入カテゴリー増」が課題とされ、対策として2022年以来となるカタログ「物流/保管/梱包用品/テープ」を7月に発刊しました。結果として既存顧客の初購入カテゴリー数増加が確認され、10月以降に増刷されています。
一方、Largeセグメントでは購買システム経由売上比が約90%と高いものの、拠点浸透率(企業内の各事業所での利用率)は約10%にとどまっています。そこで「高ポテンシャル拠点をターゲットに現場営業活動を強化」という具体的な戦略を展開しています。
マーケターが学べるポイント:LTV視点での顧客育成
MonotaROは期待LTV(顧客生涯価値)を軸に、新規獲得コストと顧客育成投資のバランスを取っています。Micro〜Midセグメントでは「新規顧客の獲得→定着化→LTV拡大」という段階的な育成プロセスを明確に設計し、各段階で最適なチャネル(インターネット広告、チラシ、架電、販促基盤)を組み合わせています。
たとえば、ユーザーが商品ページを閲覧したタイミングで、その閲覧時刻に応じてEメールやアプリPushを自動送信する「販促基盤システム」を構築しています。これにより、顧客の行動に合わせたパーソナライズされた推薦を実現しているのです。
マーケティング観点での注目点②:利便性向上施策の徹底
MonotaROの成長を支えるもう一つの柱が、顧客の購買体験を継続的に改善する利便性向上施策です。
当日出荷の締切時間延長(15時→17時)
2025年に実施された施策の中で特に注目すべきは、当日出荷の締切時間を15時から17時に延長したことです。これにより、15〜17時における注文行動が増加傾向にあり、特定商品モールでは売上増効果も確認されています。
配送段ボールへの記載やECサイトのトップページバナーで積極的に認知拡大を図った結果、「今日必要なものが夕方でも間に合う」という顧客体験の向上につながっています。この施策は、現場で急な部品交換が発生することの多いBtoBならではのニーズに応えるものです。
大企業向けお届け日表示の拡大
購買管理システム事業においては、PCサイト(monotaro.com)とONE SOURCE Liteで行っていたお届け日表示を、スマホサイト/スマホアプリ、パンチアウト連携にも展開しました。これにより、「いつ届くのか」が事前にわかることで、発注計画が立てやすくなり、顧客満足度の向上につながっています。
クイックオーダー機能の導入
大量発注を行う担当者向けに、Excelから商品番号や数量をコピー&ペーストして一括注文できる「クイックオーダー機能」を提供しています。これは「同じ商品セットを繰り返し購入したい」「一覧を取り込んで一括で購入したい」という現場ニーズに応えるもので、発注業務の大幅な効率化を実現しています。
マーケターが学べるポイント:UX改善の積み重ねが差別化になる
MonotaROの利便性向上施策は、一つひとつは小さな改善に見えるかもしれません。しかし、こうした施策を継続的に積み重ねることで、競合との体験価値の差が大きく開いていくのです。特にBtoBでは、一度定着した購買ルートを変更するハードルが高いため、日々の使いやすさの改善が長期的なロイヤルティ形成につながります。
マーケティング観点での注目点③:データドリブンな販促施策の高度化
MonotaROは、単なるネット通販企業ではなく、データとアルゴリズムを駆使して顧客体験を最適化する「テクノロジー企業」としての側面を強めています。
販促基盤とインドIT開発拠点の設置
2025年9月、MonotaROはインドに「MonotaRO Technologies India Private Limited」というIT開発拠点を設立しました。この狙いは、自社システムの開発体制を強化し、エンジニアを確保することで、効果的なダイレクトマーケティングを実現することです。
具体的には、ユーザーが商品ページを閲覧したタイミングをトリガーとして、その閲覧時刻に応じてEメールやアプリPushを送信する仕組みを構築しています。これにより、期待LTVに基づいて新規カテゴリー商品を推薦したいユーザーの行動を起点に、複数チャネルで横断的なプロモーションを展開し、購買行動へとつなげているのです。
カタログのパーソナライズ化
購買管理システム事業では、ONE SOURCE Lite利用企業への定常送付チラシを6月から開始しました。このチラシの特徴は、エンドユーザー単位でのパーソナライズ推薦商品を掲載している点です。キャンペーンと連動したチラシにより、掲載商品の売上が増加する効果が確認されています。
マーケターが学べるポイント:マルチチャネルでの一貫した顧客体験設計
MonotaROの販促施策で注目すべきは、オンライン(Eメール、アプリPush)とオフライン(カタログ、チラシ)を組み合わせたマルチチャネル戦略です。しかもそれぞれのチャネルがバラバラに動くのではなく、顧客の行動データに基づいて一貫性のあるメッセージを届けることで、購買につなげています。
特にBtoBでは、意思決定に複数の担当者が関わることが多いため、オンラインだけでなくオフラインでの接点も重要です。MonotaROはこのバランスを理解し、データドリブンなアプローチとアナログな接点を巧みに組み合わせています。
考えられる課題と改善の余地
好調な業績を続けるMonotaROですが、決算資料からはいくつかの課題も浮かび上がってきます。
購買管理システム事業の計画未達
2025年Q3累計の購買管理システム事業は、前年比23.9%成長と高い伸びを示したものの、計画比では-2.0%と未達でした。決算資料では以下の要因が挙げられています。
まず、大企業連携事業の拡大に伴い、一部の大口顧客の売上変動が全社売上に与える影響が大きくなっていることです。これは事業成長の過程で避けられない課題ですが、特定顧客への依存度が高まるリスクも意味します。
次に、企業内エンドユーザー数の稼働成長率が鈍化していることです。エンドユーザー新規獲得・稼働向上に関する営業活動の効果が想定に届いていないとされています。対策として、高ポテンシャル拠点のターゲティング精度向上、営業の育成・KPI管理体制の整備、フィールドセールスの型化とエリア体制強化などが進められています。
さらに、規模1,000億円以上の企業において、新規連携後の売上実績が計画から乖離しているという課題もあります。2024年から本格開始した能動営業施策で獲得した企業の拠点浸透スピードが想定を下回っているためで、オンボードチーム体制強化による拠点浸透加速が図られています。
海外子会社の苦戦
海外展開においては、韓国のNAVIMROは営業黒字化を達成したものの、インドネシアのMONOTARO INDONESIAとインドのIB MonotaROは依然として営業赤字が続いています。
特にIB MonotaROは、売上高が前年同期比で34.1%減少し、計画比でも30.8%減と大幅に未達となりました。これは、注力セグメントである中小企業への事業シフトを進めた結果、流通総額(GMV)と売上が減少したためです。ただし、サービス品質改善により返品率が低下し、利益率のコントロールにより貢献利益率は前年比で改善しているとのことです。
マーケターが考えるべき視点:成長痛をどう乗り越えるか
これらの課題は、ある意味で成長企業が直面する「成長痛」と言えます。事業が拡大する中で、新しい顧客層へのアプローチ方法を確立したり、海外市場での最適解を見つけたりするには、試行錯誤が必要です。
重要なのは、MonotaROがこれらの課題を明確に認識し、具体的な対策を打ち出している点です。営業体制の強化、KPI管理の整備、オンボード体制の強化など、課題に対して真正面から取り組む姿勢がうかがえます。
MonotaROに今後も成長余地はあるのか?その理由
では、MonotaROは今後も継続的に成長できる企業なのでしょうか。筆者は「イエス」と考えます。その理由を3つの視点から解説します。
理由①:市場浸透率がまだ低く、伸びしろが大きい
MonotaROが扱う間接資材の市場規模は8〜10兆円とされています。2024年の単体売上高は約2,761億円ですから、市場シェアは3%程度にとどまります。つまり、まだまだ成長の余地が大きいのです。
特に注目すべきは、顧客セグメント別の登録率と拠点浸透率です。Smallセグメント(売上20億円未満の法人)の法人企業登録率は約25%、Midセグメント(売上300億円未満の法人)は約85%と高いものの拠点浸透率は約20%、Largeセグメント(売上300億円以上の法人)は法人企業登録率が約90%以上ですが拠点浸透率は約10%にとどまっています。
つまり、大企業では本社レベルでは登録されていても、各事業所や工場レベルでの利用はまだ進んでいないということです。この「拠点浸透」を進めることで、既存顧客からの売上を大きく伸ばす余地があるのです。
理由②:差別化要素が明確で、競合優位性が持続可能
MonotaROの競争優位性は、決算資料に明記されている通り、品揃え・マーケティング/セールス・サプライチェーン・オペレーション・ソフトウェア・データ/アルゴリズムの高度化にあります。
特に重要なのは、これらの要素が相互に補完し合って強固なエコシステムを形成している点です。たとえば、豊富な品揃えがあるからこそ顧客データが蓄積され、そのデータをアルゴリズムで分析することで最適な商品推薦やマーケティング施策が可能になります。また、効率的なサプライチェーンがあるからこそ当日出荷が実現でき、それが顧客満足度を高めて更なるデータ蓄積につながります。
こうしたフライホイール効果(好循環)が働いているため、競合が簡単に追いつけない構造になっているのです。
理由③:新たな成長ドライバーへの投資を継続
MonotaROは、現在の事業基盤を強化しながらも、将来の成長に向けた投資を積極的に行っています。
最も象徴的なのが、2025年5月に着工した水戸DCです。延床面積約74,000㎡、在庫点数50万SKU、出荷能力30万行/日という大規模な物流拠点で、投資額は504億円に上ります。2028年5月の稼働予定ですが、これにより物流キャパシティが大幅に拡大し、更なる売上成長を支える基盤が整います。
また、インドIT開発拠点の設立も、長期的な競争力強化につながる投資です。自社でエンジニアを確保し、販促基盤をはじめとするシステム開発を内製化することで、顧客ニーズへの対応スピードを高め、データ活用の高度化を進めることができます。
さらに、価値あるプライベートブランド商品の開発にも注力しています。ナショナルブランドに対して2割程度のコストダウンを実現しながら、「超濃縮 油汚れ洗剤 洗浄力リッチ」や「ブレーキ&パーツクリーナー ウルトラストロング 2Way」など、独自の価値提案を持つ商品を展開しています。プライベートブランドは約2万点の品揃えがあり、9割以上が当日出荷対象となっているため、顧客定着に大きく貢献しています。
まとめ:マーケターが学ぶべき5つのKey Takeaways
MonotaROの2025年Q3決算から、マーケターが実務に活かせる重要なポイントをまとめます。
顧客セグメント別の緻密な戦略設計が成長の鍵である点は特に重要です。Micro、Small、Mid、Largeという4つのセグメントごとに課題を明確化し、それぞれに最適化された施策を実行することで、効率的な成長を実現しています。顧客を一括りにせず、セグメントごとのニーズを深く理解することが、BtoBマーケティングの基本と言えるでしょう。
期待LTVに基づいた顧客育成投資も見逃せません。新規獲得コストだけでなく、顧客の生涯価値を見据えて育成投資を行うことで、長期的な収益最大化を図っています。短期的なROIだけでなく、LTV視点での意思決定が重要です。
利便性向上施策の継続的な積み重ねが差別化につながっている点も学びになります。当日出荷の締切時間延長、お届け日表示の拡大、クイックオーダー機能など、一つひとつは小さな改善ですが、これらを積み重ねることで競合との体験価値の差が大きく開いていきます。UX改善は一度やって終わりではなく、継続的に取り組むべき活動なのです。
データとアルゴリズムを活用した販促施策の高度化も今後ますます重要になるでしょう。MonotaROは販促基盤システムを構築し、顧客の行動データに基づいてパーソナライズされた推薦を複数チャネルで展開しています。オンラインとオフラインを組み合わせたマルチチャネル戦略で、一貫性のある顧客体験を提供することがポイントです。
最後に、成長のための先行投資を惜しまない姿勢です。水戸DCの建設やインドIT開発拠点の設立など、将来の成長に向けた大規模投資を継続しています。目先の利益率だけでなく、長期的な競争力強化に資する投資を行うことが、持続的成長の源泉となります。
MonotaROの事例は、BtoBマーケティングにおいて「利便性」「データ活用」「顧客理解」「継続的改善」「先行投資」という5つの要素をバランスよく組み合わせることで、高い成長と収益性を両立できることを示しています。自社のマーケティング戦略を見直す際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

