- はじめに:マーケターが直面する「成長の壁」をどう突破するか
- 企業概要:サーティワンアイスクリームとは
- 2025年第3四半期業績サマリー:過去最高を更新し続ける成長エンジン
- 市場環境の逆風の中での成長:なぜサーティワンは選ばれ続けるのか
- マーケティング観点での注目点①:ブランドパワー強化とコラボ戦略の巧みさ
- マーケティング観点での注目点②:デジタル化による顧客接点の最大化
- マーケティング観点での注目点③:スマート31によるコスト最適化と利益率向上
- 販売拠点拡大戦略:「どこでも買える」を実現する多様なチャネル展開
- 学べる良い点:マーケターが自分の業務に活かせる5つのポイント
- 考えられる改善点:成長を持続させるための課題
- 今後も継続的に成長する余地はあるのか?その理由
- まとめ:サーティワンから学ぶ、持続可能な成長のための7つのKey Takeaways
はじめに:マーケターが直面する「成長の壁」をどう突破するか
「既存ブランドで、どうやって二桁成長を続けるのか?」
多くのマーケターが抱えるこの悩み。市場が成熟し、競合が増え、消費者の財布の紐が固くなる中で、持続的な成長を実現するのは容易ではありません。特に実店舗ビジネスにおいては、デジタル化の波にどう対応するか、ブランド力をいかに維持・強化するかが常に課題となっています。
そんな中、サーティワンアイスクリーム(B-R サーティワン アイスクリーム株式会社)が2025年12月期第3四半期決算で発表した数字は、我々マーケターにとって大きなヒントに満ちています。売上高258億円で前年同期比11.7%増、しかも4年連続で過去最高売上を更新しているのです。
本記事では、サーティワンの決算資料を徹底分析し、「なぜこの成果が出たのか」「どんなマーケティング戦略があったのか」をマーケター視点で深掘りします。数字の羅列ではなく、明日から自分の業務に活かせる戦略の本質をお伝えします。
企業概要:サーティワンアイスクリームとは

サーティワンアイスクリームは、1945年にアメリカで創業した世界的なアイスクリームチェーンの日本法人です。「31種類のフレーバーから選べる楽しさ」というコンセプトで、日本では1974年から展開を開始しました。
企業理念は「We make people happy. ~アイスクリームを通じて、人々に幸せをお届けします。~」。単なるアイスクリーム販売ではなく、「FUN(楽しいこと、嬉しいこと、感動すること)」に満ちたひとときを提供することをミッションとしています。
2025年第3四半期時点での主要指標は以下の通りです。
| 指標 | 数値 | 前年比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 258.53億円 | +11.7% |
| 営業利益 | 30.52億円 | +13.4% |
| 国内店舗数 | 1,063店舗 | +40店舗 |
| 総販売拠点数 | 1,540ヶ所 | +100ヶ所 |
| 31Clubアプリ会員数 | 1,000万人超 | - |

現在は長期経営計画「31 in '31」を推進中で、2031年に税引前利益31億円を目指しています。
2025年第3四半期業績サマリー:過去最高を更新し続ける成長エンジン
サーティワンの第3四半期(2025年1月~9月累計)の業績は、全ての指標で前年を大きく上回る好調な結果となりました。
特に注目すべきは、売上高の伸び(+11.7%)を上回るペースで利益が成長している点です。営業利益は+13.4%、税引前利益に至っては+17.0%と、トップラインの成長がしっかりとボトムラインに繋がっていることも重要です。
さらに印象的なのは、国内総小売売上高が522億円を達成し、1店舗あたりの平均小売売上高も49.3百万円に到達したこと。これは第3四半期累計実績として過去最高の記録です。つまり、店舗数を増やしただけでなく、既存店の売上も伸びているということ。これは真の成長と言えるでしょう。

この成長を支えているのが、後述する4つの戦略の柱です。数字だけ見ると順調に見えますが、実は市場環境は決して楽観できるものではありませんでした。
市場環境の逆風の中での成長:なぜサーティワンは選ばれ続けるのか
2025年第3四半期の日本経済は、特に小売業にとって厳しい環境でした。決算資料にも記載されている通り、以下のような課題がありました。
厳しい市場環境
| 要因 | 詳細 |
|---|---|
| 物価高騰 | 消費者物価指数が高止まり |
| 実質賃金 | プラス転換の見通し立たず |
| 為替 | 動向が不透明で原材料コストに影響 |
| 消費者心理 | 選別購入の傾向が強まる |
こうした中でも、サーティワンはインバウンド需要(訪日外国人数が前年同期比20%超の伸長)という追い風を活かしつつ、日本の消費者に対しても着実にアプローチを続けました。
なぜサーティワンは選ばれるのか?
サーティワンが厳しい環境下でも成長できる理由は、以下の3つの要素が絡み合っているからだと考えられます。
1. 「選ぶ楽しさ」という体験価値
31種類のフレーバーから選べるという体験そのものが、単なる商品購入を超えた「楽しみ」を提供しています。これは価格競争に巻き込まれにくい、強固なブランド価値です。



2. デジタルとリアルの融合
31Clubアプリという強力なCRMツールを持ち、会員が売上の42.5%を占めるまでに成長。デジタルで顧客との接点を増やしながら、リアル店舗での体験価値を最大化しています。

3. 多様なタッチポイント
通常店舗だけでなく、ポーションカップ販売拠点(大学、会社食堂、行楽地、サービスエリア、空港・駅など)を432ヶ所展開。購入機会を最大化することで、顧客の生活動線に入り込んでいます。
マーケティング観点での注目点①:ブランドパワー強化とコラボ戦略の巧みさ
サーティワンの決算資料で最も目を引くのが、キャラクターコラボレーション戦略の充実度です。第3四半期では以下のようなコラボを展開しました。

| コラボ先 | 施策内容 | 戦略的意図 |
|---|---|---|
| マインクラフト | 初コラボで四角だけのアイスクリームケーキ | 新規顧客層(ゲーマー、子供)の獲得 |
| スーパーマリオ | 継続的な人気キャラとのコラボ | 安定した集客基盤の確保 |
| ポケモン | 親子で楽しめるコラボ商品 | ファミリー層へのアプローチ |
| 不二家ペコちゃん | 初コラボで話題性創出 | 幅広い年齢層への訴求 |
なぜこのコラボ戦略が成功しているのか?
1. ターゲットの多層化
マインクラフトで若年層、ペコちゃんでノスタルジー層、ポケモンでファミリー層と、一つのブランドでありながら複数のセグメントに同時アプローチしています。これにより、来店客層が偏らず、安定した売上を確保できています。
2. SNS時代の「映える」商品開発
特にマインクラフトの「四角だけのアイスクリームケーキ」は、ビジュアルインパクトが強く、SNSでの拡散を狙った設計になっています。実際、こうした商品は購入者自身がインフルエンサーとなり、広告費をかけずに認知を広げる効果があります。
3. 継続と新規のバランス
スーパーマリオやポケモンという「定番」を継続しつつ、マインクラフトやペコちゃんという「新規」を投入。このバランスが、既存顧客の飽きを防ぎながら新規顧客を取り込むことに成功しています。
マーケティング観点での注目点②:デジタル化による顧客接点の最大化
サーティワンのデジタル戦略は、単なる「オンライン販売」ではなく、顧客体験の向上と店舗オペレーションの効率化を両立させている点が秀逸です。
31Clubアプリの戦略的活用

主要指標
| 指標 | 数値 | 意味 |
|---|---|---|
| アプリ会員数 | 1,000万人突破 | 日本の人口の約8%が会員 |
| 会員購入比率 | 42.5% | 売上の約半分が会員からの購入 |
| モバイルオーダー | 推進中 | 予約受付も可能 |
この数字が示すのは、デジタルがメインチャネルの一つになっているという事実です。特に会員購入比率42.5%という数字は驚異的で、これは会員とのエンゲージメントが非常に高いことを意味します。
なぜデジタル化が成功しているのか?
1. 会員施策の充実
決算資料には「31Clubアプリ会員1000万人突破を記念した魅力的な会員施策」という記述があります。単にアプリをダウンロードさせるだけでなく、継続的に使い続けたくなる仕組みを作っています。
2. オムニチャネル体験の設計
モバイルオーダーで予約してから店舗で受け取るという動線は、「待ち時間ゼロ」という顧客メリットと「オペレーション効率化」という店舗メリットを両立させています。
3. データドリブンなマーケティング
1,000万人の会員データは、どのフレーバーが人気か、どの時間帯に需要があるか、どのキャンペーンが効果的かを測定する強力なツールになっています。
マーケティング観点での注目点③:スマート31によるコスト最適化と利益率向上
成長企業の多くが陥る罠が「売上は伸びたけど利益が出ない」という状況です。しかしサーティワンは、売上の伸び(+11.7%)を上回るペースで営業利益(+13.4%)と税引前利益(+17.0%)を成長させています。
これを可能にしているのが「スマート31」という効率化戦略です。
コスト管理の実態
決算資料によれば、以下のような取り組みが行われています。
原材料コストの抑制
「原料費の高騰並びに円安の影響に伴う売上原価の増加がありましたが、サプライヤーと協働して品質を保ちつつ原料調達コストを抑制した」
つまり、値上げに頼るのではなく、サプライチェーン全体での最適化によってコストを吸収しています。これはマーケターにとって重要な視点です。価格を上げれば一時的に利益は増えますが、顧客離れのリスクがあります。サーティワンはその道を選ばず、バックエンドの効率化で対応しました。
製造管理の最適化
「工場での製造管理の最適化や生産スピード向上による製造原価低減を進めた」
これにより、売上原価率を抑制することに成功しています。
働き方改革による組織最適化
「リモートによる就業、従業員福利厚生の拡充など働き方改革による最適化を推進」
コスト削減だけでなく、従業員満足度を高めることで、長期的な生産性向上を狙っています。
販売拠点拡大戦略:「どこでも買える」を実現する多様なチャネル展開
サーティワンの成長を支えるもう一つの柱が、販売拠点の戦略的拡大です。
拠点数の推移
| 拠点タイプ | 拠点数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 国内店舗 | 1,063店舗 | +40店舗 |
| ポーションカップ販売拠点 | 432ヶ所 | - |
| 海外店舗(台湾・ハワイ) | 45店舗 | - |
| 総販売拠点数 | 1,540ヶ所 | +100ヶ所 |
この数字から読み取れるのは、単なる店舗数増加ではなく、購入機会の最大化という戦略です。
なぜ多様なチャネルが重要なのか?
1. 顧客の生活動線に入り込む
大学や会社の食堂、行楽地、サービスエリア、空港・駅など、「ちょっと食べたいな」と思う場所にポーションカップ販売拠点を配置。これにより、計画購買だけでなく衝動買いも誘発します。
2. ブランドの視認性向上
接触頻度が高まれば、それだけブランド想起も高まります。「アイスクリームと言えばサーティワン」という想起を強化する効果があります。
3. リスク分散
通常店舗だけに依存せず、複数のチャネルを持つことで、特定チャネルの不調時にも売上を維持できます。
学べる良い点:マーケターが自分の業務に活かせる5つのポイント
サーティワンの戦略から、マーケターが学べる実践的なポイントを整理します。
1. ブランドと顧客データの相互強化サイクル
サーティワンは、強いブランド力で顧客を集め、デジタル(31Clubアプリ)でデータを取得し、そのデータを基に最適なマーケティング施策を打つというサイクルを回しています。
あなたの業務への応用
自社のブランド力とデータ活用は連動していますか?アプリやWebサイトでの顧客行動データを、次のキャンペーン設計に活かせていますか?
2. コラボレーションの戦略的設計
単発のコラボではなく、継続(スーパーマリオ、ポケモン)と新規(マインクラフト、ペコちゃん)を組み合わせることで、既存顧客の満足と新規顧客の獲得を両立させています。
あなたの業務への応用
パートナーシップやコラボ企画を考える際、「誰に」「何を」届けるのかが明確になっていますか?また、一度きりではなく継続的な関係を築けていますか?
3. デジタルとリアルの融合による体験価値向上
モバイルオーダーで予約してから店舗で受け取るという動線設計は、デジタルの利便性とリアル店舗の体験価値を両立させています。
あなたの業務への応用
オンラインとオフラインをバラバラに考えていませんか?顧客視点でシームレスな体験を設計できていますか?
4. コスト効率化と顧客価値のバランス
値上げに頼らず、サプライチェーン最適化や製造効率化でコストを吸収。顧客に負担をかけずに利益率を改善しています。
あなたの業務への応用
利益改善を考える際、すぐに値上げを検討していませんか?バックエンドの効率化で対応できる余地はありませんか?
5. 多様なタッチポイントによる購入機会の最大化
通常店舗だけでなく、ポーションカップ販売拠点を432ヶ所展開することで、「買いたい時に買える」環境を整備。
あなたの業務への応用
自社の商品・サービスは、顧客が「欲しい」と思った瞬間に購入できる状態になっていますか?購入までの障壁を取り除けていますか?
考えられる改善点:成長を持続させるための課題
好調な業績の裏で、今後の成長を考えると以下のような課題も見えてきます。
1. 物価高騰と消費者の選別購買への対応
決算資料にも記載されている通り、消費者物価指数の高止まりと実質賃金のプラス転換が見通せない中、消費者の選別購買傾向は今後も続くと予想されます。
改善の方向性
価格帯の多様化(例えば、ミニサイズやお試しサイズの充実)や、価値訴求(健康志向、プレミアム感)を強化することで、「高いけど買いたい」と思わせる戦略が必要です。
2. 海外事業の伸びしろ
現在、海外店舗は台湾とハワイの45店舗のみ。長期経営計画では「海外事業の積極展開」を掲げていますが、具体的な数値目標や地域戦略が見えにくい状況です。
改善の方向性
アジア市場(特に東南アジア)への本格進出や、既存の台湾・ハワイでの店舗数倍増など、明確なロードマップの提示が投資家や従業員のモチベーション向上につながるでしょう。
3. サステナビリティへの取り組みの可視化
決算資料では「2工場における食品残渣の削減、電気使用量の削減」という記述はありますが、具体的な数値目標や達成状況が不明です。
改善の方向性
ESG投資が注目される中、サステナビリティへの取り組みを定量的に示すことで、企業価値向上とブランドイメージ強化につながります。特に若年層は環境配慮を購買判断の重要要素としているため、マーケティング面でも効果が期待できます。
今後も継続的に成長する余地はあるのか?その理由
結論から言えば、サーティワンには継続的な成長余地が十分にあります。その理由を3つの観点から説明します。
理由1:デジタル資産の蓄積による競争優位性
31Clubアプリの会員数1,000万人というのは、単なる数字ではなく、1,000万人分の購買データと嗜好データが蓄積されていることを意味します。
このデータ資産を活用すれば、パーソナライズされたマーケティング(例えば、「あなたが好きそうな新フレーバー」のレコメンド)や、需要予測に基づく在庫最適化など、競合が簡単に真似できない強みを築けます。
理由2:長期経営計画「31 in '31」の実現可能性

現在の税引前利益が30.73億円(第3四半期時点)で、目標の31億円にほぼ到達しています。つまり、2031年の目標は決して無理な数字ではなく、むしろ保守的とも言えます。
これは、経営陣が確実に達成できる目標を設定し、それを着実に実行している証拠です。こうした堅実な経営姿勢は、長期的な成長の基盤となります。
理由3:未開拓市場の存在
国内市場
1店舗あたり小売売上高49.3百万円という数字は素晴らしいですが、まだ伸びしろがあると考えられます。特に地方都市への出店余地や、ポーションカップ販売拠点のさらなる拡大(例えば、オフィスビルやコワーキングスペースなど)が考えられます。
海外市場
現在45店舗しかない海外事業は、大きな成長ポテンシャルを秘めています。特にアジア市場は中間所得層が拡大しており、プレミアムアイスクリームへの需要が高まっています。
新カテゴリー
アイスクリームケーキやGRAND SHAKEなど、コア商品以外のカテゴリーも成長余地があります。特にギフト需要や、テイクアウト需要の取り込みが期待できます。
まとめ:サーティワンから学ぶ、持続可能な成長のための7つのKey Takeaways
最後に、今回の分析から得られた重要なポイントを整理します。以下の表に、マーケターが明日から実践できる学びをまとめました。
| Key Takeaway | 具体的なアクション | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 1. ブランド×デジタルの相互強化 | 自社のブランド力を活かして顧客データを取得し、そのデータで次の施策を最適化するサイクルを回す | 顧客エンゲージメント向上、マーケティングROI改善 |
| 2. コラボの戦略的設計 | 継続施策(安定集客)と新規施策(話題性)をバランスよく組み合わせる | 既存顧客の飽き防止と新規顧客獲得の両立 |
| 3. オムニチャネル体験 | デジタルとリアルをシームレスに繋ぎ、顧客視点での最適な体験を設計する | 利便性向上、顧客満足度向上、LTV向上 |
| 4. コスト効率化優先 | 値上げではなく、バックエンドの効率化で利益率を改善する | 顧客離れを防ぎつつ利益確保 |
| 5. 多様なタッチポイント | 顧客の生活動線に合わせて、購入機会を最大化する | 売上機会の拡大、ブランド想起の強化 |
| 6. データドリブン経営 | 1,000万人の会員データを活用し、需要予測や施策最適化を行う | 在庫ロス削減、マーケティング精度向上 |
| 7. 長期視点の経営計画 | 2031年までの明確なビジョン「31 in '31」を掲げ、4つの柱で着実に実行 | 社内外の信頼獲得、ブレない戦略実行 |
サーティワンの成功は、一つの施策が当たったからではなく、複数の戦略を同時並行で実行し、それらが相乗効果を生んでいるからこそ実現しています。
特に印象的なのは、「顧客にとっての価値」を常に中心に置きながら、デジタル化やコスト効率化といったビジネス側の都合もしっかり両立させている点です。これこそが、持続可能な成長の秘訣と言えるでしょう。
あなたのビジネスでも、サーティワンの戦略から学べる要素はきっとあるはずです。まずは自社の強みを再確認し、それをどうデジタルやデータと組み合わせるか、顧客接点をどう増やすかを考えてみてはいかがでしょうか。
最後に一つ。サーティワンの企業理念「We Make People Happy.」は、単なるスローガンではなく、全ての戦略の根底に流れています。マーケティングの本質は、顧客を幸せにすること。その原点を忘れずに、日々の施策を磨いていきましょう。
