- はじめに:なぜサンリオの決算をマーケターが読むべきなのか?
- 企業概要:キャラクタービジネスのグローバルリーダー
- 全体の業績サマリー:2期連続で過去最高益を更新した背景
- マーケティング観点での注目点①:複数キャラクター戦略でハローキティ依存度を30%台に低減
- マーケティング観点での注目点②:インバウンド需要を最大化する多角的アプローチ
- マーケティング観点での注目点③:デジタルチャネルを活用したグローバル認知度向上
- マーケティング観点での注目点④:ターゲットクライアント戦略で利益率向上
- セグメント別の戦略分析:地域ごとの特性を活かしたマーケティング
- 販管費戦略:成長投資と利益率のバランス
- まとめ:マーケターが学べる5つのポイント
はじめに:なぜサンリオの決算をマーケターが読むべきなのか?
「単一商品への依存度が高すぎて、売上が不安定...」「インバウンド需要をうまく取り込めていない...」「ブランド価値をどう高めればいいかわからない...」
こんな悩みを抱えているマーケターの方、多いのではないでしょうか?
サンリオの2025年3月期決算と2026年3月期第1四半期決算は、まさにこれらの課題を解決するヒントが詰まっています。売上高は前年比44.9%増の1,449億円、営業利益は92.2%増の518億円と、驚異的な成長を遂げました。さらに直近のQ1決算でも売上高49.1%増、営業利益88.0%増と好調が継続しています。
この記事では、サンリオがどのようなマーケティング戦略で、ハローキティ一本足打法から脱却し、複数キャラクター戦略で過去最高益を更新したのか、マーケターの視点から徹底解説します。
企業概要:キャラクタービジネスのグローバルリーダー
株式会社サンリオは、ハローキティをはじめとする450以上のキャラクターを保有し、グローバルに展開するキャラクタービジネスのリーディングカンパニーです。
項目 | 内容 |
---|---|
創業 | 1960年 |
本社 | 東京都品川区 |
代表取締役社長 | 辻 朋邦 |
連結売上高 | 1,449億円(2025年3月期) |
連結営業利益 | 518億円(2025年3月期) |
従業員数 | 連結ベース約2,000名 |
グローバル展開 | 日本、欧州、米州(北米・南米)、アジアの4地域 |
事業モデル:圧倒的な利益率を誇るビジネス構造
サンリオのビジネスモデルの最大の特徴は、売上総利益率75.8%、営業利益率35.8%(2025年3月期)という圧倒的な収益性です。
事業セグメントは大きく4つに分かれています:

全体の業績サマリー:2期連続で過去最高益を更新した背景
2025年3月期通期実績:驚異的な成長率を記録

まず、全体の数字を見てみましょう。2025年3月期の業績は、まさに「爆発的成長」という言葉がふさわしい内容でした。
指標 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 前年比増減率 |
---|---|---|---|
売上高 | 999億円 | 1,449億円 | +44.9% |
営業利益 | 269億円 | 518億円 | +92.2% |
営業利益率 | 27.0% | 35.8% | +8.8pt |
ROE | 29.2% | 48.6% | +19.4pt |
特筆すべきは、売上高の成長率よりも営業利益の成長率が高い点です。売上が44.9%増に対して営業利益が92.2%増ということは、単に売上が伸びただけでなく、利益率の高いビジネスモデルへの転換が進んでいることを示しています。
実際、売上総利益率は75.8%(前年比+3.7pt)まで向上しており、ロイヤリティ比率の高いライセンス事業が好調だったことがわかります。
2026年3月期Q1:四半期として過去最高を達成
好調は続いています。2026年3月期の第1四半期(2025年4月〜6月)の実績も見てみましょう。
指標 | 2025年3月期Q1 | 2026年3月期Q1 | 前年同期比増減率 |
---|---|---|---|
売上高 | 289億円 | 430億円 | +49.1% |
営業利益 | 107億円 | 201億円 | +88.0% |
営業利益率 | 37.2% | 46.9% | +9.7pt |
四半期ベースでも営業利益率が46.9%に達しており、非常に収益性の高いビジネスが展開できていることがわかります。この数字、普通のメーカーではなかなか実現できない水準です。
通期見通しを上方修正:期初予想を大幅に上回る
好調なQ1実績を受けて、サンリオは通期業績予想を上方修正しました。
指標 | 期初予想(5月13日) | 修正予想(8月8日) | 増加額 |
---|---|---|---|
売上高 | 1,622億円 | 1,688億円 | +66億円 |
営業利益 | 600億円 | 673億円 | +73億円 |
この上方修正、実は保守的な見通しとも言えます。というのも、下期の米国関税政策の影響が不透明なため、下期分は期初想定を据え置き、上期の上方修正分のみを反映したからです。つまり、リスクを織り込んだ上でも、これだけの成長が見込めるということですね。
マーケティング観点での注目点①:複数キャラクター戦略でハローキティ依存度を30%台に低減
ハローキティ一本足打法からの脱却
サンリオといえば「ハローキティ」。これは今でも変わりません。ただし、マーケティング戦略として大きく転換したのが、ハローキティへの依存度を意図的に下げたことです。
過去10年間のキャラクターポートフォリオの変化を見てみましょう。

期間 | ハローキティ | 複数キャラクター | その他 |
---|---|---|---|
2015年3月期 | 69.9% | 1.8% | 28.3% |
2020年3月期 | 42.5% | 8.1% | 49.4% |
2025年3月期 | 35.3% | 18.1% | 46.6% |
ハローキティの比率が10年で69.9%から35.3%まで低下していますが、これは決してハローキティの売上が減ったわけではありません。むしろ、ハローキティ50周年施策により売上は大幅に増加しています。
重要なのは、クロミ、マイメロディ、シナモロール、ポムポムプリンなど、他のキャラクターの人気を意図的に高めることで、全体のポートフォリオを分散させたということです。
なぜ複数キャラクター戦略が重要なのか?
マーケターとして注目すべきは、この戦略が単なるリスク分散ではなく、市場拡大戦略でもあるという点です。
ハローキティだけだと、どうしてもターゲット層が限定されます。しかし、クロミのようなダークでクールなキャラクターを展開することで、これまでサンリオ商品を購入しなかった層にもリーチできるようになりました。
実際、決算資料によれば、ハローキティ50周年施策をフックに、「当社の様々なキャラクターの認知度がグローバルで向上」したとあります。つまり、ハローキティの話題性を入り口に、他のキャラクターにも興味を持ってもらうというクロスセル戦略が功を奏したわけです。
周年施策を活用したブランド価値向上
2025年3月期は「ハローキティ50周年」、2026年3月期は「マイメロディ50周年」「クロミ20周年」と、周年施策を連続的に展開しています。
周年施策のマーケティング効果は以下の通りです:
効果項目 | 具体的な成果 |
---|---|
話題性の創出 | 2025年サンリオキャラクター大賞の総投票数が史上最多の6,316万票(前年比10.7%増) |
メディア露出 | ドジャースタジアムでの「ハローキティ・ナイト」など、グローバルでのイベント展開 |
ライセンス展開 | 大阪・関西万博のスペシャルサポーター就任など、ブランド価値の高いパートナーとのコラボ |
限定商品展開 | 周年記念の限定商品が客単価向上に寄与 |
特に注目したいのが、「2025年サンリオキャラクター大賞」の投票数です。海外からの投票数が増加したことで、前年比10.7%増の6,316万票を記録しました。これは、グローバルでのファンエンゲージメントが高まっている証拠です。
マーケティング観点での注目点②:インバウンド需要を最大化する多角的アプローチ
インバウンド比率37.6%:高単価顧客の取り込みに成功
サンリオの国内物販事業において、インバウンド需要は非常に重要な位置を占めています。2026年3月期Q1のインバウンド売上高比率は37.6%に達しました。
国内店舗におけるインバウンドの状況を見てみましょう。
指標 | 2024年3月期Q1 | 2025年3月期Q1 | 2026年3月期Q1 |
---|---|---|---|
インバウンド比率 | 30.6% | 37.9% | 37.6% |
購入客数(千人) | 1,889 | 2,051 | 2,299 |
購入客単価(円) | 2,082 | 2,479 | 2,661 |
客数が前年同期比12.1%増、客単価が7.3%増と、どちらも伸びています。特に客単価の上昇は、インバウンド顧客の購買力の高さを示しています。
なぜサンリオはインバウンドで成功できたのか?
多くの企業がインバウンド需要を取り込もうとしていますが、サンリオほど成功している例は少ないでしょう。その理由は以下の3点にあります。
1. グローバルでのブランド認知向上
決算資料によれば、「海外におけるファン層の拡大を受け、アジアを中心にインバウンド需要は高水準で推移」とあります。つまり、海外でのマーケティング活動が、日本でのインバウンド需要に直結しているのです。
例えば、北米でのSNS総フォロワー数は46百万人以上に達しており、YouTubeチャンネル『HELLO KITTY AND FRIENDS』のチャンネル登録者数は450万人を突破しています。この海外での認知度の高さが、訪日時の購買意欲につながっているわけです。

2. 限定商品・日本限定デザインの展開
決算資料には、「テーマパーク内限定商品や食事メニューが人気を博し」とあります。「日本でしか買えない」という限定性が、インバウンド顧客の購買意欲を刺激しているのです。
3. 幅広いキャラクター展開
ハローキティだけでなく、クロミ、マイメロディ、シナモロールなど、複数のキャラクター商品を展開することで、様々な嗜好を持つインバウンド顧客のニーズに応えられているのです。
サンリオピューロランド:客単価が過去最高を達成
テーマパーク事業も好調です。特に注目したいのが、サンリオピューロランドの客単価の推移です。
四半期 | 2024年3月期Q1 | 2025年3月期Q1 | 2026年3月期Q1 |
---|---|---|---|
来園客数(千人) | 296 | 317 | 357 |
客単価(円) | 7,178 | 7,957 | 8,578 |
客単価が8,578円と過去最高を達成しました。これは、チケット販売やパーク内限定商品が好調だったことに加え、周年キャラクターに関する様々な施策が奏功した結果です。
マーケターとして学ぶべきは、単に集客数を増やすだけでなく、客単価を高める施策の重要性です。サンリオは、限定商品やイベントを通じて、顧客一人当たりの購買額を着実に引き上げています。
マーケティング観点での注目点③:デジタルチャネルを活用したグローバル認知度向上
北米:SNS総フォロワー数46百万人超え
サンリオのグローバル戦略で特に成功しているのが、デジタルチャネルを活用した認知度向上です。
北米におけるデジタルマーケティングの成果を見てみましょう。
指標 | 実績 |
---|---|
SNS総フォロワー数 | 46百万人以上 |
YouTubeチャンネル登録者数 | 320万人突破 |
CAGR(年平均成長率) | 103%(2021年4月〜2025年3月) |
特に注目したいのが、YouTubeチャンネル『HELLO KITTY AND FRIENDS』のCAGR103%という数字です。これは、年間で約2倍のペースで登録者が増えていることを意味します。
デジタルマーケティングがライセンス事業に直結
このデジタルでの認知度向上が、実際のビジネスにどう影響しているのでしょうか?
決算資料によれば、「デジタル接点を通じた複数キャラクターの認知度向上が、アパレルや玩具などにおけるキャラクター起用を促進」とあります。
つまり、SNSやYouTubeでキャラクターを知った人が、実際にアパレルや玩具を購入するという流れができているのです。デジタルマーケティングが単なる認知獲得ではなく、実際の売上に貢献している好例です。
中国:リアル×デジタルの融合戦略
中国市場では、デジタルとリアルを融合させた戦略が功を奏しています。
2025年3月期の取り組みとして、「中国初のSanrio Festival(Hi!Sanrio)を上海で開催し、当初の想定以上となる約2万人にお越しいただく」という成果がありました。
このイベントの成功要因は、以下のような多角的なアプローチにあります。
アプローチ | 具体的施策 |
---|---|
実店舗展開 | 上海南京東路など中心部における店舗展開で認知度向上 |
デジタル接点 | SNSやオンラインプラットフォームでの情報発信 |
リアルイベント | Sanrio Festival開催で直接的なファンエンゲージメント創出 |
ライセンス展開 | 中国最大級のIPライセンスプラットフォーム"Alifish"との提携 |
特に「Alifish」との提携は、中国市場でのライセンス展開を加速させる重要な施策です。Alifishは中国最大級のIPライセンスプラットフォームであり、ここと提携することで、様々なカテゴリーでのキャラクター展開が可能になりました。
マーケティング観点での注目点④:ターゲットクライアント戦略で利益率向上
ブランド価値の高いパートナーとのコラボレーション
サンリオのライセンス事業で注目すべきは、ターゲットクライアント戦略です。これは、単にライセンス先を増やすのではなく、ブランド価値の高いパートナーを厳選してコラボレーションする戦略です。
具体的な事例を見てみましょう。
コラボレーション事例 | マーケティング効果 |
---|---|
大阪・関西万博スペシャルサポーター | 国内外への大規模露出、ブランド価値向上 |
大阪・関西万博公式キャラクター『ミャクミャク』とのコラボ | 話題性創出、若年層へのリーチ拡大 |
ドジャースタジアム「ハローキティ・ナイト」 | 北米での認知度向上、スポーツファン層への新規リーチ |
SNS発人気キャラクター『ちいかわ』とのコラボ | 若年層への訴求、SNSでの拡散効果 |
これらのコラボレーションに共通しているのは、相手のブランド価値やファン層を活用して、サンリオキャラクターのリーチを広げるという点です。
なぜターゲットクライアント戦略が重要なのか?
決算資料には、「ブランド価値の高いパートナーをターゲットとしたコラボレーション戦略や、複数キャラクター戦略が引き続き好調に推移」とあります。
この戦略の重要性は、以下の3点にあります。
1. 利益率の向上
ブランド価値の高いパートナーとのコラボレーションは、一般的にロイヤリティ率が高く設定できます。実際、売上総利益率は75.8%まで向上しており、利益率の高いビジネスモデルが構築できています。
2. ブランドイメージの向上
大阪・関西万博のような国家的イベントのスペシャルサポーターになることで、サンリオキャラクター自体のブランド価値も向上します。これは、将来的なライセンス展開にもプラスに働きます。
3. 新規顧客層の開拓
『ちいかわ』とのコラボレーションは、SNS世代の若年層へのリーチを広げる効果があります。従来のサンリオファンとは異なる層にアプローチできるため、市場拡大につながります。
北米:スペシャリティ×マス市場の両面展開
北米市場では、スペシャリティストア(専門店)とマス市場(量販店など)の両面展開が功を奏しています。
決算資料によれば、「北米はスペシャリティストア(専門店)との取り組み強化によるブランディングが奏功し、50周年の『ハローキティ』だけでなく、その他のキャラクター人気も上昇。マス(量販店)での取り扱いも拡大し、様々なカテゴリーが大幅増収」とあります。
これは非常に巧みな戦略です。スペシャリティストアでブランド価値を高め、そのブランド価値を背景にマス市場に展開することで、量と質の両方を追求しているのです。
チャネル | 役割 | 効果 |
---|---|---|
スペシャリティストア(専門店) | ブランド価値の向上、コアファンの獲得 | 高単価商品の販売、ブランドイメージ向上 |
マス市場(量販店など) | 認知度の拡大、新規顧客の獲得 | 販売数量の拡大、市場シェアの向上 |
北米のライセンス事業における売上高は、2025年3月期で267億円(前年比138.4%増)と大幅に伸長しました。この成長の背景には、この両面展開戦略があるのです。
セグメント別の戦略分析:地域ごとの特性を活かしたマーケティング
日本:国内客×インバウンド需要の相乗効果
日本セグメントの売上高は1,130億円(前年比36.0%増)、営業利益は366億円(同85.4%増)と大幅に成長しました。
成長の要因を整理すると、以下の通りです。
要因 | 具体的内容 |
---|---|
物販事業 | 周年施策が奏功、インバウンド需要好調、客単価・客数ともに増加 |
ライセンス事業 | ターゲットクライアント戦略、複数キャラクター戦略が好調 |
海外事業 | 特に中国からのロイヤリティ収入増加が寄与 |
テーマパーク事業 | 新アトラクション、周年施策、限定商品が集客に貢献 |
特に注目したいのが、ライセンス事業の営業利益169億円(前年比55.0%増)という数字です。これは、ブランド価値の高いパートナーとのコラボレーションにより、高い利益率を実現できていることを示しています。
北米:4つのカテゴリーでバランスの取れた成長
北米の売上高は275億円(前年比120.4%増)、営業利益は88億円(同212.7%増)と驚異的な成長を遂げました。
北米のライセンス事業におけるカテゴリー別売上ランキングは以下の通りです。
順位 | カテゴリー | 特徴 |
---|---|---|
1位 | アパレル・アクセサリー | スペシャリティストアでのブランディングが奏功 |
2位 | 玩具・スポーツ | マス市場での取り扱い拡大が寄与 |
3位 | 家庭用品 | 生活雑貨カテゴリーでの展開拡大 |
アパレルと玩具がトップ2を占めているのは、北米市場の特性をよく捉えた結果です。特にアパレルは、ファッションアイテムとしてサンリオキャラクターを展開することで、幅広い年齢層にアピールできています。
中国:ライセンス×物販の両輪で成長
中国市場は、サンリオの成長戦略において極めて重要な位置を占めています。
中国の売上高構成を見てみましょう。
セグメント | 比率 | 戦略 |
---|---|---|
ライセンス事業 | 55.5% | 中国最大級のIPライセンスプラットフォーム"Alifish"との提携強化 |
現地物販事業 | 14.7% | 上海南京東路など中心部における店舗展開 |
世界向け(主に日本)オリジナル商品製造事業 | 24.9% | 日本向けのOEM生産 |
ライセンス事業が半分以上を占めており、利益率の高いビジネスモデルが構築できています。
中国市場の特徴的な取り組みとして、以下が挙げられます。
1. Sanrio Festival(Hi!Sanrio)の開催
2025年3月期に上海で初開催し、約2万人が来場しました。これにより、サンリオキャラクター全体の認知度が大幅に向上しました。
2. 実店舗の戦略的展開
フランチャイズ24店舗、直営4店舗の計28店舗を展開しています。上海南京東路や西安万象城など、主要都市の中心部に出店することで、ブランドの認知度向上に貢献しています。
3. 複数キャラクター戦略の成功
中国のキャラクターポートフォリオを見ると、2015年3月期にはハローキティが97.4%を占めていましたが、2025年3月期には24.3%まで低下しました。その代わりに、クロミなどの複数キャラクターが62.4%まで拡大しています。
これは、中国市場においても複数キャラクター戦略が成功していることを示しています。特に若年層を中心に、クロミやマイメロディの人気が高まっています。
販管費戦略:成長投資と利益率のバランス
販管費率33.8%:効率的なコスト管理
サンリオの2026年3月期Q1の販管費は145億円で、売上高販管費率は33.8%でした。前年同期の39.5%から5.7pt改善しており、効率的なコスト管理ができていることがわかります。
販管費の内訳を見てみましょう。
費目 | 2025年3月期Q1 | 2026年3月期Q1 | 増減額 | 増減率 |
---|---|---|---|---|
人件費 | 47億円 | 54億円 | +7億円 | +14.8% |
宣伝費 | 9億円 | 16億円 | +7億円 | +77.8% |
販売費 | 13億円 | 12億円 | △1億円 | △7.7% |
諸経費他 | 45億円 | 63億円 | +18億円 | +40.0% |
注目すべきは、売上高が49.1%増加する中で、販管費の増加率は27.7%に抑えられている点です。これは、規模の経済が働いていることを示しています。
成長のための戦略的投資
販管費の中身を見ると、マーケティング費と諸経費他が大きく増加しています。これは、将来の成長のための戦略的投資と言えます。
投資項目 | 投資内容 | 期待効果 |
---|---|---|
マーケティング費+4億円 | マイメロディ50周年・クロミ20周年の宣伝広告費 | ブランド認知度向上、商品売上拡大 |
人件費+5億円 | 人員体制の強化 | 事業拡大への対応力向上 |
諸経費他+9億円 | 本社増床、各種プロジェクト費用など | 中長期的な成長基盤の構築 |
特に注目したいのが、マーケティング費の使い方です。周年施策に重点的に投資することで、短期的な売上拡大だけでなく、長期的なブランド価値向上を図っています。
マーケターが学ぶべきコスト管理のポイント
サンリオの販管費戦略から、マーケターが学ぶべきポイントは以下の3点です。
1. 規模の経済を活かす
売上の増加率よりも販管費の増加率を抑えることで、利益率を向上させています。これは、固定費の比率を下げることで実現できます。
2. 戦略的な投資を怠らない
利益率を高めながらも、将来の成長のための投資(マーケティング費、人件費)は削減していません。短期的な利益だけでなく、中長期的な成長を見据えた投資が重要です。
3. 高利益率ビジネスへのシフト
ライセンス事業の比率を高めることで、売上総利益率を75.8%から80.7%(2026年3月期Q1)まで向上させています。ビジネスモデル自体を高利益率に転換することが、持続的な成長の鍵です。
まとめ:マーケターが学べる5つのポイント
サンリオの決算から、マーケターが自分の業務に活かせるポイントを整理します。
Key Takeaways
ポイント | 具体的な学び | 実践へのヒント |
---|---|---|
①複数ブランド戦略でリスク分散と市場拡大 | ハローキティ依存度を69.9%→35.3%に低減しながら、全体売上を44.9%増加させた | 主力商品への依存度を下げ、複数の柱を育てることで、市場拡大とリスク分散を同時に実現 |
②周年施策を活用したブランド価値向上 | ハローキティ50周年、マイメロディ50周年など、周年施策を連続的に展開してブランド価値を向上 | 記念日マーケティングを計画的に実施し、話題性とエンゲージメントを継続的に創出 |
③デジタルチャネルでグローバル認知度向上 | YouTubeチャンネルのCAGR103%、SNS総フォロワー46百万人超えで、デジタルからリアル購買への流れを創出 | SNS・YouTube等のデジタルチャネルを活用し、認知度向上から購買行動につなげる導線設計 |
④ターゲットクライアント戦略で利益率向上 | ブランド価値の高いパートナーを厳選してコラボレーションし、売上総利益率80.7%を達成 | 取引先を量ではなく質で選び、ブランド価値を相互に高め合える関係を構築 |
⑤インバウンド需要を多角的に取り込む | グローバルでの認知度向上→訪日時の購買というストーリーを設計し、インバウンド比率37.6%を達成 | 海外マーケティングと国内インバウンド施策を連動させ、グローバル×ローカルの相乗効果を創出 |
最後に:数字の裏にある「戦略」を読み解く力
決算資料は、単なる数字の羅列ではありません。その裏には、経営陣が意図的に設計した「戦略」が隠されています。
サンリオの決算から学べる最も重要なことは、ハローキティという圧倒的なブランド資産を持ちながらも、それに依存せず、複数のキャラクターを育てることで、市場を拡大し続けているという点です。
これは、多くの企業が直面する「主力商品への依存」という課題を解決する、まさにお手本と言えるでしょう。
あなたの会社やサービスでも、「主力商品に依存しすぎていないか?」「新しい柱を育てるための投資をしているか?」「デジタルチャネルを活用して認知度を高められているか?」と自問してみてください。
サンリオの決算が教えてくれるのは、短期的な売上だけを追うのではなく、中長期的なブランド価値の向上と市場拡大を両立させることの重要性です。
決算資料を「マーケティング戦略の教科書」として読み解くことで、あなたのマーケティング施策にも必ず活かせるヒントが見つかるはずです。
【出典】
- サンリオ2025年3月期決算説明資料、2026年3月期第1四半期決算説明資料:https://corporate.sanrio.co.jp/ir/library/
- サンリオ統合報告書2024:https://corporate.sanrio.co.jp/ir/library/integrated-report/