はじめに
現代のマーケティング担当者は、日々変化する市場環境と消費者の価値観の中で、効果的な戦略を立案・実行することが求められています。従来の広告手法だけでは、もはや顧客の心を掴むことは困難になってきました。そこで注目されているのが、「戦略PR」という新しいアプローチです。
本記事では、PRの第一人者である本田哲也氏が提唱する「6ルールズ」について詳しく解説します。この6つの法則を理解し、自社のビジネスに適用することで、より効果的なマーケティング戦略を構築し、世の中を動かす力を手に入れることができるでしょう。
戦略PRとは
戦略PRとは、単なる情報発信にとどまらず、社会の文脈や価値観を踏まえた上で、企業や製品の価値を効果的に伝える手法です。従来の広告やPRと異なり、戦略PRは社会全体を舞台とした情報戦略として位置づけられます。
本田氏は、この戦略PRを実践するための6つの法則を提唱しています。これらの法則は、社会常識に挑戦し、顧客に「買う理由」を提供するための指針となります。
6ルールズの詳細解説
1. おおやけ：「社会性」の担保
「おおやけ」の法則は、企業活動や製品が社会課題の解決に貢献することを重視します。近年、「ソーシャルグッド」の潮流が強まっており、企業の社会的責任（CSR）や持続可能な開発目標（SDGs）への取り組みが注目されています。
具体例：
- パタゴニア社の環境保護活動
- ユニリーバの持続可能な生活プラン
実践のポイント：
- 自社の事業と関連する社会課題を特定する
- 課題解決に向けた具体的な取り組みを計画・実行する
- その取り組みを効果的に発信し、社会からの共感を得る
2. ばったり：「偶然性」の演出
「ばったり」の法則は、顧客との偶然の出会いを演出することで、商品やサービスへの興味を喚起する手法です。この「セレンディピティ」と呼ばれる偶発的な発見は、顧客の心に強く印象づけられます。
具体例：
- ポケモンGOの位置情報ゲーム
- Netflixのレコメンデーションシステム
実践のポイント：
- 顧客の日常生活や行動パターンを分析する
- 予期せぬ場所や方法で商品・サービスと接点を作る
- デジタル技術を活用し、パーソナライズされた偶然の出会いを演出する
3. おすみつき：「信頼性」の確保
「おすみつき」の法則は、信頼できる第三者からの推奨や認証を活用することで、商品やサービスの信頼性を高める手法です。近年では、インフルエンサーマーケティングの台頭により、その重要性がさらに増しています。
具体例：
- ミシュランガイドの星獲得レストラン
- YouTuberによる商品レビュー動画
実践のポイント：
- 自社の商品・サービスに適したインフルエンサーや認証機関を選定する
- 透明性のある協力関係を構築し、信頼性を損なわないよう注意する
- インフルエンサーの影響力を測定し、効果を検証する
4. そもそも：「普遍性」の視座
「そもそも」の法則は、商品やサービスの本質的な価値を再定義し、顧客に「よくぞ言ってくれた」と思わせる視点を提供する手法です。既存の常識や価値観を覆すことで、新たな市場を創造することができます。
具体例：
- Airbnbの「旅をする新しい方法」の提案
- テスラの電気自動車による自動車産業の再定義
実践のポイント：
- 自社の商品・サービスの本質的な価値を見直す
- 顧客の潜在的なニーズや課題を深く理解する
- 新しい視点や価値観を提示し、市場にインパクトを与える
5. しみじみ：「当事者性」の醸成
「しみじみ」の法則は、顧客に商品やサービスを「自分ゴト」として捉えてもらうための手法です。感情に訴えかけるストーリーテリングを通じて、顧客の共感を得ることができます。
具体例：
- ナイキの「Just Do It」キャンペーン
- P&Gの「Thank You, Mom」オリンピックキャンペーン
実践のポイント：
- 顧客の感情や価値観に寄り添ったストーリーを構築する
- 実際の顧客体験や証言を活用し、リアリティを高める
- 複数のメディアやタッチポイントを通じて、一貫したストーリーを展開する
6. かけてとく：「機知性」の発揮
「かけてとく」の法則は、PRクリエイティビティの真髄である「とんち」を活用する手法です。ユーモアや意外性を取り入れることで、顧客の注目を集め、記憶に残る広告やキャンペーンを展開できます。
具体例：
- オールドスパイスの「The Man Your Man Could Smell Like」キャンペーン
- バーガーキングの「Whopper Detour」キャンペーン
実践のポイント：
- 自社のブランドイメージに合った機知的な表現を考案する
- タイミングや文脈を考慮し、適切な「とんち」を選択する
- ソーシャルメディアなどを活用し、話題性を高める
6ルールズの活用方法
6ルールズを効果的に活用するためには、以下のステップを踏むことをおすすめします：
- 現状分析：自社の商品・サービスの強みと弱みを把握する
- 目標設定：達成したい具体的な目標を明確にする
- ルールの選択：6つのルールの中から、自社の状況に最適なものを選ぶ
- 戦略立案：選んだルールに基づいて、具体的な施策を計画する
- 実行：計画した施策を実行に移す
- 効果測定：施策の効果を測定し、必要に応じて改善を行う
以下の表は、各ルールの特徴と適用例をまとめたものです：
| ルール | 特徴 | 適用例 |
|---|---|---|
| おおやけ | 社会課題解決への貢献 | 環境配慮型商品の開発と販促 |
| ばったり | 偶然の出会いの演出 | 位置情報を活用したO2Oマーケティング |
| おすみつき | 第三者からの信頼獲得 | インフルエンサーとのコラボレーション |
| そもそも | 本質的価値の再定義 | 業界の常識を覆す新サービスの提案 |
| しみじみ | 感情に訴えるストーリー | 顧客の実体験を基にしたコンテンツ制作 |
| かけてとく | ユーモアや意外性の活用 | SNSで話題を呼ぶウィットに富んだ広告 |
事例研究：6ルールズの成功例
以下に、6ルールズを効果的に活用した成功事例をいくつか紹介します：
- おおやけ：パタゴニア「Don't Buy This Jacket」キャンペーン
- 概要：ブラックフライデーに「この jacket を買わないで」という広告を出稿
- 効果：環境保護への取り組みをアピールし、ブランドイメージを向上
- ばったり：ポケモンGO
- 概要：位置情報を活用した AR ゲーム
- 効果：現実世界とバーチャル世界を融合させ、新たなゲーム体験を提供
- おすみつき：アマゾンのカスタマーレビュー
- 概要：実際の購入者による商品レビューシステム
- 効果：第三者の意見を通じて商品の信頼性を高める
- そもそも：Uber
- 概要：「移動」の概念を再定義したライドシェアサービス
- 効果：タクシー業界に革命を起こし、新たな市場を創造
- しみじみ：ダヴの「リアルビューティ」キャンペーン
- 概要：多様な体型の女性をモデルに起用した広告
- 効果：美の多様性を訴え、多くの女性の共感を獲得
- かけてとく：KFC「FCK」キャンペーン
- 概要：鶏肉不足による店舗閉鎖時に、ロゴを「FCK」に変更した広告
- 効果：ユーモアで危機を乗り越え、ブランドイメージを向上
これらの事例から、6ルールズを適切に活用することで、従来の広告手法では得られなかった効果を生み出せることがわかります。
今日から使えるチェックリスト
6ルールのチェックリスト表を作成しました。各ルールの要点と、それを実践するためのチェック項目を含めています。
| ルール | 要点 | チェック項目 |
|---|---|---|
| 1. 公の要素（社会性） | 社会課題の解決や公共性のある取り組みと自社の製品・サービスを結びつける | □ 関連する社会課題を特定したか □ 自社の製品・サービスとの関連性を明確にしたか □ グローバルとローカルの視点を考慮したか |
| 2. ばったりの要素（偶然性） | 偶然性を演出し、消費者が自然に情報に出会う仕掛けを作る | □ 顧客の日常生活や行動パターンを分析したか □ 予期せぬ場所や方法での接点を設計したか □ デジタル技術を活用した偶然の演出を考えたか |
| 3. お墨付きの要素（信頼性） | 第三者からの評価や推奨を活用して信頼性を高める | □ 適切なインフルエンサーや認証機関を選定したか □ 透明性のある協力関係を構築したか □ 信頼性を損なわないよう注意を払ったか |
| 4. そもそもの要素（普遍性） | 商品やサービスの本質的な価値を再定義し、普遍的なテーマに結びつける | □ 自社の商品・サービスの本質的価値を見直したか □ 顧客の潜在的なニーズや課題を深く理解したか □ 新しい視点や価値観を提示できているか |
| 5. しみじみの要素（当事者性） | 消費者の感情に訴えかけ、自分事として捉えてもらう | □ 顧客の感情や価値観に寄り添ったストーリーを構築したか □ 実際の顧客体験や証言を活用しているか □ 複数のメディアで一貫したストーリーを展開しているか |
| 6. かけて解く要素（機知性） | ユーモアや意外性を取り入れ、記憶に残るメッセージを作る | □ 自社のブランドイメージに合った機知的な表現を考案したか □ タイミングや文脈を考慮して適切に使用しているか □ ソーシャルメディアなどで話題性を高める工夫をしたか |
このチェックリストを使用することで、6ルールに基づいた戦略PRの計画と実行を体系的に進めることができます。各項目をチェックしながら、自社の状況に合わせて具体的な施策を検討してください。
まとめ
6ルールズは、現代のマーケティング環境において非常に有効な戦略PRの手法です。以下に、本記事のkey takeawaysをまとめます：
- 戦略PRは、社会全体を舞台とした情報戦略である
- 6ルールズ（おおやけ、ばったり、おすみつき、そもそも、しみじみ、かけてとく）は、効果的な戦略PRを実現するための指針となる
- 各ルールには特徴があり、自社の状況や目標に応じて適切に選択・組み合わせることが重要
- 成功事例を参考にしつつ、自社独自の戦略を立案・実行することが求められる
- 効果測定と継続的な改善が、戦略PRの成功には不可欠である
6ルールズを理解し、自社のマーケティング戦略に取り入れることで、より効果的なコミュニケーションを実現し、ビジネスの成長につなげることができるでしょう。常に変化する市場環境に柔軟に対応しながら、戦略PRの実践を重ねていくことが、今後のマーケティング担当者には求められています。
